表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/74

リンデン ⸻ 不穏な動き ⸻

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

翌朝。


四人は宿の一階に集まり、軽く朝食を済ませると、そのまま今日の動きを確認していた。


「昨日言った通り、今日は一日この街で準備だ」


ルシアンがそう切り出すと、テーブルの上に簡単なメモを置いた。


「俺とカイルは装備と情報を見てくる。お前たちは――」


その紙をエリスとマリンの方へ滑らせる。


「このリストの買い出しだ。難しいものは入れてない」


マリンが覗き込む。


「えっと……布、保存食、薬草……ほんとに簡単だね」


「街に慣れるのも大事だからな」


カイルが言うと、マリンは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、ついでに色々見て回っていいってこと?」


「目的を忘れなければな」


「はーい!」


そうして四人は宿の前で二手に分かれた。



エリスとマリンは人通りの多い通りへと足を踏み出す。

朝のリンデンは活気に満ち、荷車の音や商人の呼び声が響いていた。


「わぁ……昨日よりもっと賑やかだね」


「うん……」


エリスは周囲を見渡しながら、小さく頷く。

露店には見慣れない品が並び、香ばしい匂いや甘い香りが漂っている。


「ねえ、あれ見て!」


マリンが指差した先には、串に刺さった肉が焼かれている屋台。


「ちょっとだけならいいよね?」


「……買い出し、先じゃないの?」


「先に元気出さないと!」


エリスは思わず苦笑し、結局二人は串焼きを手に取ることになった。


「ん〜!美味しい!」


マリンが満面の笑みを浮かべる。

エリスも一口食べて、少し目を見開いた。


「……ほんとだ」


その後も二人はリストの品を揃えながら、合間に気になるものを見つけては足を止める。

菓子を買い、果実のジュースを飲み、笑い合いながら通りを進んでいく。


――楽しい時間だった。


ふとした違和感に、エリスは足を止めた。


「……?」


「どうしたの?」


マリンが振り返る。


「ううん、なんでも……」


そう言いながら、エリスはさりげなく周囲を見渡す。


(今……誰かに見られてるような……)


気のせいかもしれない。

人の多い場所だ、視線くらい珍しくもない。

そう思い直し、歩き出そうとしたその時――


『……ねえ、エリス』


頭の中に、セラの声が響いた。

その声音は、いつもの軽さを感じさせない。

エリスの足がわずかに止まる。


(セラ……?)


マリンには聞こえないように、意識の中で応える。


『どうしたの?』


『さっきから、妙な気配がある』


エリスの表情がほんのわずかに引き締まる。


『気配……?』


『うん。人間とも違うし、魔物とも少し違う』


一拍の間。


『……こっちを見てる』


その言葉で、空気が変わる。

エリスは無意識に歩みを緩めた。


「え?どうしたの?」


何も知らないマリンが、不思議そうに覗き込む。


「……なんでもないよ」


無理に笑って答える。

だが内心では、確かな緊張が広がっていた。


(見られてる……?誰に……)


再び周囲に視線を巡らせる。

だが、行き交う人々の中に、それらしい存在は見当たらない。


それでも――

セラが感じている以上、気のせいではない。


賑やかな街の喧騒の中に。

ほんのわずかに、“何か異質なもの”が紛れ込んでいるような感覚だけが、確かにそこにあった。


その時だった。


人混みの奥――ほんの一瞬だけ。


エリスの視界の端に、“何か”が引っかかった。


反射的に振り向く。


だが、そこにいるのは行き交う人々だけだった。


「……今の……」


無意識に呟く。


胸の奥が、ざわつく。


ただの違和感じゃない。


もっと、はっきりした――


(この感じ……)


『……エリス』


セラの声が静かに響く。


『さっき言ってた気配、今はっきりした』


エリスは息を飲む。


『どんな感じ?』


『普通じゃない。人間でも魔物でもない……でも確かに“何か”がいる』


その言葉を聞いた瞬間。


エリスの中で、記憶が蘇る。


あの時の戦い。


あの圧倒的な気配。


(……まさか)


指先がわずかに震える。


『エリス?』


『……この気配』


周囲を警戒しながら、小さく返す。


『知ってる……かもしれない』


『え?』


『前に……戦ったことがある』


セラの声がわずかに低くなる。


『それ、本気で言ってる?』


『……うん』


断言はできない。


だが、あの時の感覚に近すぎる。


忘れるはずがない。


その時――


「……あれ?」


マリンがふと足を止めた。


「どうしたの?」


「うーん……なんか……」


少し困ったように首を傾げる。


「今、一瞬……嫌な感じしなかった?」


エリスの心臓が跳ねる。


「……嫌な感じ?」


「うまく言えないけど……ちょっと前に似たようなの、なかったっけ?」


考え込むマリン。

だが、はっきりとは思い出せない。


「気のせいかなぁ……」


そう言って笑うが、その表情にはわずかな引っかかりが残っていた。

エリスは何も言えなかった。


(やっぱり……)


自分だけじゃない。

マリンも、何かを感じている。


『……エリス』


セラが静かに告げる。


『さっきより近い』


その一言で、空気が張り詰めた。


(いる……)


見えない。

けれど、確実に。

すぐ近くに“それ”がいる。



――その頃。


人の流れから外れた影の中。

“それ”は、静かに佇んでいた。

フードの奥で、わずかに口元が歪む。


「……やはりな」


低く、愉しむような声。


「二人とも、覚えているか」


視線の先には、エリスとマリン。

その微かな反応すら、見逃してはいない。


「面白い……」


一歩も動かず、ただ観察する。

獲物を急がず追う、捕食者のように。


「まだ、早いか」


その呟きと同時に――

気配が、ふっと消える。

まるで最初から存在していなかったかのように。



⸻⸻


買い物を終えたエリスとマリンは、リストの品を抱えながら宿へと戻った。

既に戻っていたルシアンとカイルと合流し、軽く成果を確認する。


「ちゃんと揃ってるな。上出来だ」


ルシアンが頷くと、マリンは少し誇らしげに胸を張った。


「でしょ?」


「ついでに色々食べてきたけどね」


カイルが呆れたようにため息をつく。


「……想定内だ」


そんなやり取りのあと、ルシアンが言った。


「夕食はどうする」


「昨日の店、美味しかったしもう一回行かない?」


マリンの提案に、特に異論は出なかった。



再び訪れた『菩提樹の杯』。

昨日と同じように賑わう店内で、四人は席に着く。

料理を待つ間、エリスは少しだけ迷ったあと口を開いた。


「……あの、今日のことなんですけど」


ルシアンが視線を向ける。


「何かあったか?」


エリスは一瞬だけ言葉を選び、ゆっくりと話し始める。


「人混みの中で……誰かに見られてる感じがして」


「見られてる?」


カイルが短く問い返す。


「はい……それで、その……」


言いかけて、ほんの一瞬だけ言葉に詰まる。


(セラのことは……)


「……普通じゃない、感じで」


曖昧な表現になる。

だが、マリンがすぐに口を挟んだ。


「うん、私も変な感じした!なんかこう……嫌な感じ?」


言葉を探しながらも、感覚は共有している。


「前にも似たようなのあった気がして……」


ルシアンは二人の様子を見て、少しだけ考え込む。


「……で、その気配は今もあるのか?」


エリスは首を横に振った。


「いえ……今はもう、分かりません」


それは嘘ではない。


だが、すべてを言っているわけでもない。


カイルが低く言う。


「ただの勘で片付けるには、二人とも同じことを言ってるのが気になるな」


ルシアンも頷いた。


「断定はできないが……可能性はある」


マリンが少し不安そうに言う。


「やっぱり、何かいるのかな……」


「この街は人の出入りも多い。紛れ込むこと自体は不思議じゃない」


ルシアンは落ち着いた声で続ける。


「だが、今の情報だけで結論は出せない」


カイルが補足するように言う。


「警戒はしておくべきだな」


その言葉に、エリスは小さく頷いた。


(……やっぱり、気のせいじゃない)



⸻⸻


――その頃。


宿から少し離れた場所。

灯りの届かない位置に、一つの影があった。

人の気配に紛れ、完全に存在を消している。


「……会話、確認」


低く、淡々とした声。

感情の揺れはない。


「対象、異常を感知」


フードの奥で、わずかに目が細まる。


「……想定内」


視線は店内へ。

正確に、エリスの位置を捉えている。


「進路、未確定」


ただそれだけを確認し――

音もなく、その場から消えた。

人の気配が完全に途絶えた頃。


街の外れ――誰の目にも触れない場所で、ノクスは静かに立ち止まった。

懐から一枚の呪符を取り出す。


「……転移、起動」


低く呟くと、呪符が淡い光を放ち始める。


次の瞬間――その姿は、跡形もなく消えた。



――魔界。


薄暗い空間の中、ノクスの姿がゆらりと現れる。

その先には、一人の影。

気配すら感じさせない、静かな存在。

シャドウウォーカー。


「報告か」


先に口を開いたのは、向こうだった。

ノクスは一切の無駄なく応じる。


「対象、リンデンにて確認

 現在、進路は未確定。王都方面、もしくはセントポル方面へ分岐の可能性あり」


淡々とした報告。


「引き続き監視を継続」


一拍置いて、言葉を続ける。


「……ただし」


シャドウウォーカーの視線がわずかに向く。


「察知能力が高い。監視に気づかれた可能性あり」


その言葉に、沈黙が落ちる。


だが――


「……だろうな」


あっさりとした返答だった。

ノクスの表情が、わずかに動く。


「やはり、か」


シャドウウォーカーはわずかに目を細めた。


「かつて、アビスステルスを用いたが……見破られたことがある」


その言葉には、僅かながら過去を思い出す気配が滲む。


「通常の感知ではない。あれは……“異質”だ」


エリスを指しているのは明らかだった。

ノクスは静かに頷く。


「……同様の印象を受けた」


だが、そこで一つ言葉を加える。


「ただし、今回はもう一名」


「同行している少女も、わずかに反応を示した」


その報告に――

初めて、シャドウウォーカーの空気が変わる。


「……ほう」


わずかに興味を示すような声。


「確定ではないが、違和感を覚えている様子

 完全な察知ではない

 だが、無視できる水準でもない」


短く、正確な評価。


再び、静寂。


「……面白い」


シャドウウォーカーは低く呟いた。


「境界の子だけではない、か」


その言葉には、わずかな思考の深まりがあった。


「監視は継続しろ

 進路確定後、指示を出す」


「了解」


ノクスは一言だけ返す。


余計な言葉はない。


「それと」


シャドウウォーカーが続ける。


「無理に近づくな

 観測を優先しろ」


「……承知している」


短く答えるノクス。

そのまま踵を返す。

再び呪符を取り出し――

次の瞬間、その姿は消えた。



静寂だけが残る。

シャドウウォーカーは、しばし動かない。

やがて、ぽつりと呟いた。


「……境界の子」


その存在を、静かに思考する。


「やはり、ただの存在ではないな」


そして――


「もう一人……か」


マリンの存在に、わずかな関心を向ける。

その目は、すでに次の一手を見据えていた。



最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月25日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://ncode.syosetu.com/n5658ly/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ