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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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偽りの平原 ― 森に擬態する魔物 ―

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

翌朝——


エリスはゆっくりと目を覚ました。

隣に目を向けるが、マリンの姿はない。


「……あれ?」


耳を澄ますと、外から話し声が聞こえてくる。


「それ、いい感じに育ってるな」


「ほんと?これで合ってる?」


カイルとマリンの声だった。

エリスは軽く身支度を整え、テントの外へ出る。

朝の空気はひんやりとしていて心地よい。


「おはよう」


声をかけると、二人が振り返る。


「おはよう、エリス」


「おう、おはよう」


自然なやり取り。

その少し後——


「……ん……朝か」


ルシアンがテントから出てくる。

カイルがすかさず口を開いた。


「相変わらず最後だな」


「昨日の見張りの順番考えろ」


ルシアンは少し不機嫌そうに返す。

軽いやり取りに、場の空気が少し和らぐ。



やがて、朝食の準備を始める。


「昨日と同じでいくか」


ルシアンの一言で、それぞれが動き出した。

エリスは水を汲みに向かう。

カイルとマリンは山菜や木の実を探しに森へ。

ルシアンは火の番をする。


昨日と同じ流れ。


だが——

誰もが、昨日とは違う警戒心を持っていた。


エリスは桶を手に、水場へ向かう。

朝の光が差し込み、森は静かだった。


その時——


『ねえ、エリス』


セラの声が念話で響く。


「どうしたの?」


『今日は街に着くんだよね?』


少し弾んだ声。


『リンデンって、どんな街なの?』


エリスは少しだけ考えてから答えた。


「……私も初めてだから、わからない」


『なんだ、同じか』


少し残念そうな声。

エリスは小さく笑う。


「でも、ちょっと楽しみだよ」


『うん、それは僕も』


そんな他愛のない会話をしながら、水を汲む。

桶に水が満ちると、そのまま野営地へと戻った。



戻ると、カイルとマリンはすでに帰ってきていた。


「おかえり」


「水、ありがとな」


軽く声をかけられる。

昨日と同じように、簡単な朝食の準備が進む。

干し肉と、採ってきた山菜や木の実のスープ。

内容はほとんど変わらない。


それでも——


「……なんか、昨日より美味しく感じる」


エリスがぽつりと呟く。

マリンも頷いた。


「うん、ちょっと慣れてきたかも」


カイルが軽く笑う。


「そういうもんだ」


ルシアンも静かに言った。


「環境に順応してきている証拠だ」


四人は、穏やかな空気の中で食事を終える。



やがて後片付けを済ませ、

エリスとマリンでお茶を淹れる。


湯気の立つカップを手に、それぞれ一息つく。


束の間の、静かな時間。


だが——


その裏には、確かに昨日の戦いの記憶が残っていた。

湯気の立つお茶を手に、四人は焚き火を囲んでいた。


束の間の休息——

だが、話題は自然と昨日の戦闘へと移る。


「……昨日のキメラだけど」


最初に口を開いたのはエリスだった。


「あれ、コアが二つあった」


その言葉に、三人の表情が引き締まる。


カイルが続く。


「表皮も異常に硬かったな

 矢がほとんど通らなかった」


マリンも思い出すように言う。


「それに……再生もしてた

 尻尾、切ったのにすぐ戻ったよね」


ルシアンは腕を組み、静かに頷く。


「最初に遭遇した個体と同じく再生能力持ち

 だが、今回はそれに加えて——コアが複数」


低く整理していく。


「単純に上位個体と見ていいだろう」


短い沈黙。


それぞれが、昨日の戦いを思い返す。

ルシアンは視線を地図へ落とした。


「今後も、同様……あるいはそれ以上の個体が出る可能性がある

 警戒はさらに上げる」


冷静な判断。

三人は頷いた。



キメラの整理が終わると、ルシアンは地図を広げた。


「次に、今日の行動だ」


指で現在地を示し、その先をなぞる。


「このルートで進む

 見通しはいいが、逆に隠れる場所が少ない」


カイルが補足する。


「つまり、出たら正面から来るってことだな」


「ああ」


ルシアンは頷く。


「魔物の出現ポイントはこの辺りと——ここ」


いくつかの地点を指し示す。


「このあたりは特に注意しろ」


マリンが少し緊張した様子で頷く。


「……わかった」


エリスも地図を見つめながら言った。


「気をつけて進もう」


全員の意識が、次へと向く。


休息は終わり。

四人は荷物をまとめると、リンデンへ向けて歩き出した。


見晴らしの良い平原。

本来なら、視界を遮るものはほとんどないはずだった。


だが——


「……あれ?」


マリンが足を止める。


「なんか、あっち……森じゃない?」


進行方向の先。

確かに、木々が密集しているように見える。

カイルも眉をひそめた。


「おかしいな……

 この辺りに森なんてあったか?」


ルシアンも地図を確認する。


「……ないな」


その一言で、空気が変わる。

エリスもその“違和感”を感じていた。


(……変だ)


その時——


『エリス、気をつけて』


セラの声が、緊張を帯びて響く。


「どうしたの?」


『あれ、森じゃない』


一拍。


『トレントだよ』


「……!」


エリスの目が見開かれる。


『魔物が森に擬態してる

 普通のトレントなら、こっちから手を出さなければ襲ってこないけど——』


少しだけ声が低くなる。


『改造されてるなら、話は別』


その言葉に、背筋が冷える。

エリスはすぐに振り返った。


「みんな、あれ森じゃない!」


三人が一斉に反応する。


「何だって?」


「トレントだと思う

 魔物が擬態してる」


ルシアンの表情が一気に引き締まる。


「……なるほどな」


「なら、正面突破は避ける」


すぐに判断する。


「回り込むぞ」


四人は進路を変え、距離を取ろうと動く。


だが——


「……っ?」


カイルが足を止める。


「おい、見ろ」


その視線の先。


“森”が——

わずかに、動いていた。


木々が、軋むように揺れ、

じりじりとこちらに向かってくる。


「……追ってきてる?」


マリンの声が震える。

ルシアンが低く言う。


「……包囲する気か」


静かな平原のはずが——

いつの間にか、逃げ場を奪われつつあった。


森のように広がるトレントが、じわじわと距離を詰めてくる。

ルシアンは一瞬で状況を見極めた。


「……回避は無理だ」


進路を変えても、同じように動いてくる。


「戦闘に切り替える!」


その一言で、空気が変わる。


「陣形を整えろ!」


三人が即座に構える。

ルシアンは続けて指示を出す。


「トレントの弱点は火だ!

 マリン、焼き払え!」


マリンは頷く。


「任せて!」


両手を前に突き出し、魔力を集中させる。

周囲の空気が熱を帯びる。


「ファイヤーストーム!」


次の瞬間——

渦を巻く炎が生まれ、森のように広がるトレントへと叩きつけられる。

轟音。

炎が一気に広がり、木々を包み込む。


「ギィィ……ッ!」


不気味な軋むような音。

燃え上がる“森”。

だが、それはただの木ではない。


「……効いてる!」


カイルが叫ぶ。

炎に包まれたトレントの動きが鈍る。

枝のような腕がもがくように揺れ、形を保てなくなっていく。


「そのまま焼き切れ!」


ルシアンの声が飛ぶ。

炎は勢いを増し、次々と“木”を焼き崩していく。


やがて——

森の形が崩れ、黒く焼け落ちていった。

静寂が戻る。

そこにあったはずの“森”は、跡形もなく焼き払われていた。


炎は収まり、焼け焦げた地面だけが残った。


「……終わったか?」


カイルが周囲を見渡す。


確かに——

森は完全に焼き払われていた。

だが。


「……魔石がない」


ルシアンが低く呟く。

その違和感に、全員の動きが止まる。


(おかしい……)


その時——


『エリス、気をつけて』


セラの声が鋭く響いた。


『まだ生きてる』


「……っ!」


エリスの目が見開かれる。


「どこに!?」


『地中だよ』


一瞬の間。


『トレントの本体は、まだ下にいる』


その言葉に、エリスは背筋が冷える。


ちょうどその時——

ルシアンとカイルが焼け跡へ踏み出そうとしていた。


「待って!」


エリスが叫ぶ。

二人が足を止める。


「まだ終わってない!

 トレント、本体は地中にいる!」


ルシアンの表情が一変する。


「……なるほど」


すぐに理解する。


「なら、引きずり出す」


ルシアンは地面に手をかざす。


「アースディグ!」


土がうねり、地中を抉るように掘り進む。

その時——


「待って!」


エリスが再び声を上げる。


『コア、見えるよ』


セラの声。


『少し右、深さは……そこ!』


エリスは即座に位置を把握する。


「ルシアン、右に少し!

 そこにコアがある!」


ルシアンは迷わない。

詠唱を微調整し——


「……そこか!」


アースディグが一点へと集中する。

次の瞬間。


地面が弾け——

黒く濁ったコアが露出した。


「今!」


エリスが地面を蹴る。

一瞬で間合いを詰め——


「はあっ!」


剣を振り下ろす。

刃がコアを捉えた。

砕ける音。


その瞬間——

地面の下から、不気味な振動が走る。


そして。

すべてが、静かになった。


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月18日18時を予定してます

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