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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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拡がる異変 — 異様なもの再び —

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

マリンは、焚き火のそばで一人、見張りについていた。


見上げれば、満天の星空。

昼間とは違う、静かすぎるほどの世界。


「……きれい」


小さく呟く。


だが同時に——

一人でいる心細さもあった。


マリンはマグカップを両手で包み、お茶を一口飲む。


「……がんばろ」


自分に言い聞かせるように、視線を周囲へ向けた。



やがて、交代の時間がやってくる。

マリンは立ち上がり、テントへ向かった。

中に入り、エリスの肩を軽く揺らす。


「エリス、交代の時間だよ」


「……ん……」


少し寝ぼけた声。

エリスはゆっくりと目を開ける。


「……もう?」


「うん、時間」


エリスは身体を起こし、軽く目をこする。


「……何もなかった?」


マリンは頷いた。


「うん、特に異常はなし

 静かだったよ」


「そっか……」


エリスは一度深く息を吐き、意識をはっきりさせる。

そして立ち上がった。


「ありがとう、マリン

 おつかれさま」


「うん、おやすみ」


短い言葉を交わし、入れ替わるようにテントを出る。



エリスは焚き火のそばに座り、周囲へ意識を向ける。

夜は静かだった。


だが——

その静けさが、逆にどこか不気味に感じられた。


エリスは焚き火にあたりながら、静かに見張りについていた。


揺れる炎。

夜の静寂。


その中で——


『ねえエリス』


セラの声が念話で響く。


『さっきのゴブリンさ、普通よりちょっと強いくらいだったよ』


軽い調子。


『でもまあ、僕からしたら誤差の範囲かな』


くすくすと笑う気配。

エリスは小さく苦笑する。


「……調子いいね」


『でしょ?』


どこか得意げな声。


その時——


「……!」


『……!』


エリスとセラが、同時に異変を感じ取った。

次の瞬間。

目の前の空間に、黒い靄が滲む。


「なに——」


言い終える前に。

靄が一気に広がり——


“現れた”。


巨大な異形。


中央にはライオンの頭。

左右にワシと虎。

そして、蛇のようにうねる尾。


「キメラ……!」


考える間もなく——


“来る”。


キメラが前脚を振り下ろした。

エリスは反射的に剣を抜き——


「っ!」


鋭い衝撃を受け流す。

地面が抉れる。


『エリス、出る?』


セラの声。


「……まだ」


短く答える。


「もう少し待って」


仲間を起こす時間が必要だった。


距離を取りながら、エリスは大きく息を吸う。


「ルシアン!カイル!マリン!」


エリスの叫び声が、夜を切り裂いた。


「敵襲!!」


その声に反応し——

テントの布が跳ね上がる。

ルシアンとカイルが飛び出してきた。


「何だ——!?」


視線の先に、異形の姿。


「……キメラか!」


カイルは即座に弓を構えた。


「動くなよ……!」


弦を引き絞り——放つ。


ヒュンッ——!


矢は正確にキメラを捉えた。


だが——


「……っ、硬い!」


表皮に弾かれ、深く刺さらない。


「効いてねぇ!」


その間に、ルシアンが動く。


「エリス!」


短く呼びかけると同時に、魔法を展開。

淡い光がエリスを包み込む。


「強化だ。前に出ろ!」


身体が軽くなる感覚。

力が、わずかに底上げされる。

同時に、ルシアンは詠唱を重ねる。


「——ファイヤーボール!」


炎の塊がキメラへと飛ぶ。

直撃。

だが——


「……浅いな」


表面を焼くだけで、大きなダメージにはなっていない。

その時——


「はあっ!」


マリンがテントから飛び出す。

状況を一瞬で把握し、すぐに魔法を放つ。


「ウィンドカッター!」


鋭い風の刃が、キメラへと走る。

狙いは——尻尾。

蛇の頭を持つそれが——

ズバッ、と切断された。


「やった!」


だが——

次の瞬間。


「……っ!?」


切断面が蠢く。

肉が盛り上がり、形を取り戻す。


そして——

再び、蛇の頭が生えた。


「……また再生!?」


マリンの声が震える。

ルシアンの表情が険しくなる。


「さっきの個体と同じ……いや

 それ以上だ」


カイルも歯を食いしばる。


「面倒な相手だな……!」


目の前のキメラは、明らかに一段上の脅威だった。


そして——

キメラが、再び動き出す。


その時——


『エリス』


セラの声が、少しだけ真剣な調子で響いた。


『このキメラ……おかしい』


「……何が?」


短く問い返す。


『コアがね、二つある』


「……!」


一瞬、思考が止まる。


(二つ……?)


「……それって」


「同時に壊さないとダメってこと?」


『たぶんね』


軽く言うが、内容は重い。


『しかも——離れてる』


「どこにあるの?」


『一つは真ん中のライオンの頭の中

 もう一つは……ヘソのあたり』


エリスは一瞬でキメラの動きを見据える。


(……距離がある)


頭部と胴体。

同時に狙うには——


「一人じゃ無理……」


自然と口に出る。


『僕が出れば一瞬だけど?』


セラが少し楽しそうに言う。


だが——

エリスは首を振る。


「……まだダメ」


(魔力の消耗は抑えたい)


この先、何があるかわからない。

ここで切るのは早い。


(じゃあ……どうする)


一瞬で思考を巡らせる。


ルシアンとカイルでは火力が足りない。

位置的にも同時攻撃は難しい。


(なら——)


視線が、マリンへ向く。


(あの子なら、合わせられる)


風魔法の精度と速さ。


「……決めた」


考えている時間はない。

エリスは一歩踏み出す。


「マリン!」


戦闘の中で声を張る。


「一緒にやる!

 コアが二つある!」


マリンの目が見開かれる。


「えっ!?」


「頭と——お腹!

 同時に壊さないと倒せない!」


一瞬の沈黙。


だが次の瞬間——

マリンは強く頷いた。


「……わかった!」


迷いはなかった。

エリスは剣を握り直す。


(これでいく)


目の前のキメラを見据える。

次で——決める。


「マリン!」


戦闘の中、エリスは叫ぶ。


「ライオンの頭をお願い!見えてる分、狙いやすい!」


「私は下に潜る!」


一瞬の判断。

本来ならルシアンが指示を出す場面。


だが——時間がない。

マリンはすぐに理解した。


「……わかった!」


エリスは地面を蹴る。

キメラの懐へ、一気に踏み込む。


牙を避け、前脚の隙間をすり抜け——

そのまま、胴の下へ。


(ここだ——!)


視界に入る、腹部。


同時に——

マリンがエリスの動きを確認する。


「いくよ……!」


両手を前に突き出す。

魔力が収束する。


「ファイヤーボール!」


放たれたのは、先ほどよりも大きく、凝縮された炎。

一直線に——ライオンの頭へ。

その瞬間。

エリスは踏み込み、剣を構える。


「……はあああっ!」


狙いは——臍の下。


剣を振り上げ——

斬り上げた。


炎が頭部を貫き、

刃が腹部を裂く。


——同時。


「……っ!」


キメラの動きが止まる。

次の瞬間。


全身がひび割れるように崩れ——

霧となって、消えた。

静寂。


その場に残ったのは——

黒く濁った魔石だけだった。


キメラが霧散した直後——


「エリス!マリン!」


ルシアンとカイルが駆け寄ってきた。


「大丈夫か!?

 怪我はないか!」


二人はすぐに状況を確認する。

エリスは軽く息を整えながら頷いた。


「……大丈夫」


マリンも小さく手を振る。


「無事だよ」


それを確認して、ルシアンは小さく息を吐いた。


「……無茶をするな」


低く、だがどこか安堵の混じった声。

そしてすぐに続ける。


「だが——よくやった」


その言葉に、エリスは少しだけ表情を緩めた。

カイルも頷く。


「見事だったな

 だが……」


落ちている魔石に目を向ける。


「俺の矢じゃ通らねぇ」


自嘲気味に呟く。


「武器、見直す必要がありそうだな」


それぞれが課題を感じていた。


だが——

誰一人、怪我はない。


「……全員無事か」


ルシアンが確認する。

三人は頷いた。

それだけで、十分だった。



やがて落ち着きを取り戻すと、再び夜の時間が流れ出す。

見張りは続く。


エリスがそのまま残り、他の三人はテントへと戻っていった。

静かな夜。

焚き火の音だけが、ぱちぱちと響く。


その時——


『ねえ、エリス』


セラの声が、少し拗ねたように響く。


『たまには僕にも活躍させてよ』


エリスは小さく苦笑した。


「……ごめんね

 でも、まだ温存したいの」


『えー……』


不満げな気配。

エリスは優しく続ける。


「この先、絶対に必要になる

 その時はお願いするから」


少しの間。


そして——


『……しょうがないなあ』


納得したような、してないような声。

それでも、引き下がった。



やがて、見張りの交代の時間が来る。

エリスはテントへ入り、ルシアンの肩を軽く叩いた。


「ルシアン、交代の時間」


「ああ……」


すぐに目を覚ます。


「何かあったか?」


「ううん、大丈夫」


短く状況を伝える。

ルシアンは頷いた。


「ご苦労」


エリスは小さく微笑む。


「おやすみ」


「……ああ」


入れ替わるように、エリスはテントへ戻る。

横になると、すぐに眠気が押し寄せた。

戦いの疲れ。


そして——

どこか拭えない不安を抱えたまま。

エリスは、静かに眠りについた。






———— その頃、魔界の一角


異様な静けさに包まれた研究室。

淡く光る魔道具の中に、先ほどの戦闘の光景が映し出されていた。

それを見つめる影が一つ。


——グリムヴァル。


「……なるほど」


低く、愉しむような声が漏れる。

映像の中では、キメラが同時にコアを破壊され、霧散する瞬間が繰り返されていた。


「偶然ではないな」


指先で映像をなぞる。


「確実に“知っている”動きだ」


わずかに口元が歪む。


「コアの位置を把握する能力……」


視線が、エリスへと止まる。


「……あの娘か」


確信に近い推測。


「それに——」


別の場面へと切り替える。


マリンの魔法。

エリスの剣。


「このパーティで、コアを破壊できる火力を持つのは……二人」


淡々と分析していく。


「他は、足止めと補助」


すべて、見抜かれていた。


そして——

グリムヴァルは、ゆっくりと笑った。


「面白い」


その笑みは、不気味で、冷たい。


「これで——次の手が打てる」


静かな研究室に、その声だけが響く。

魔物を弄ぶ者の、愉悦の笑いが。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月15日18時を予定してます

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