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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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拡がる異変 ― 黒き魔石の拡散 ―

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

エリスたちは、日中ゴブリンの群れに何度か遭遇したものの、問題なく討伐を終えていた。

気がつけば、日も傾き始めている。


「……この辺りでいいな」


ルシアンが周囲を見渡し、野営に適した場所を見つける。


「今日はここにしよう」


その一言で、四人はすぐに動き出した。


テントを張り、簡単な拠点を作る。

手際は昨日よりも明らかに良くなっていた。


準備が一通り終わると、それぞれ役割を分担する。


「水、汲んでくるね」


エリスは桶を持って水場へ向かう。


「俺は薪だな」


カイルは森の方へ。


「じゃあ私も一緒に行く」


マリンはカイルについていき、山菜や木の実を探しに向かった。



一人、水場へ向かうエリス。

夕暮れの光が差し込み、辺りは静かだった。


その時——


『エリス』


セラの声が、念話で響く。


「どうしたの?」


『ちょっと遠くの森だけどさ

 ゴブリンみたいなのがいるんだよね』


軽い調子の声。

エリスは足を止める。


「……また?」


『うん

 ちょっと遊んでくる』


その言葉と同時に——

腕輪が淡く光る。


「ちょっ——」


止める間もなく。

セラは姿を現すと、楽しげに笑った。


「すぐ戻るよ」


次の瞬間。


風のように駆け出し——

一瞬で、遠くの森の中へと消えていった。


「……もう」


エリスは小さくため息をつく。

だが、どこか苦笑も混じっていた。


(……本当に自由なんだから)


そう思いながらも、水場へと歩みを再開する。

水面に映る夕焼けが、ゆらゆらと揺れていた。


エリスはしゃがみ込み、水を汲む。

桶に水が満ちていく、静かな音。


その時——


微かに、震える感触。


「……?」


エリスは手を止めた。


ポケットの中。

取り出してみると、メルキオラから渡された魔道具が淡く震えている。


「これ……」


よく見ると、表面の一部が光っていた。


「……ボタン?」


恐る恐る、指で押してみる。


——次の瞬間。


『……エルシア様』


声が響いた。


「……っ!」


思わず息を呑む。


「レオネリア……?」


『はい』


落ち着いた、しかしどこか緊張を含んだ声。


『お知らせしたいことがあり、ご連絡いたしました』


エリスは周囲を素早く確認する。

誰もいない。


「……何があったの?」


声を潜めて問いかける。

短い間のあと、レオネリアが続けた。


『グリムヴァルが——

 再び、不穏な動きを見せています』


その名前に、エリスの表情が引き締まる。


『どうやら

 本格的に仕掛けてくる動きがあるようです』


「……!」


胸の奥が、ざわつく。


『現時点では、詳細までは掴めておりません

 ですが、確実に何かを準備しています

 判明次第、すぐにご報告いたします』


静かな報告。

だが、その内容は重かった。


エリスは一瞬、言葉を失う。


そして——


「……ありがとう」


小さく、しかしはっきりと返した。


「無理はしないで」


その言葉に、わずかに間があった。


『……はい

 お気遣い、感謝いたします』


通信が途切れる。

再び、静寂。


だが——


先ほどまでとは違う静けさだった。

エリスは魔道具を見つめる。


(……本格的に、動く)


夕焼けに染まる水面が、揺れる。


その中に映る自分の顔は——

先ほどよりも、わずかに引き締まっていた。


エリスは小さく息を吐き、魔道具をポケットへしまった。


その時——


「……ただいま」


軽い声と共に、風が揺れる。

振り向くと、セラが戻ってきていた。


その口には——

いくつもの魔石が咥えられている。


「それ……」


エリスが目を向けると、セラは得意げにそれを地面へ落とした。


コロリ、と転がる魔石。


だが——


「……黒い」


どれも、濁った黒。


先ほどのキメラと同じ。


「うん」


セラが頷く。


「この辺にいたゴブリン、全部これだったよ」


軽い調子で言うが、その内容は重い。


「たぶん、この辺の魔物——

 もう全部、改造されてるね」


「……」


エリスは言葉を失う。


さっきのレオネリアの報告。

そして、目の前の“証拠”。


点と点が、繋がる。


「まあでも」


セラはくるりと回りながら言った。


「ちょっと遊べたし、満足」


無邪気な声。


そのまま——


「じゃ、戻るね」


腕輪が淡く光り、セラは中へと戻っていった。

再び、静寂。


エリスは、地面に転がる黒い魔石を見つめる。


(……本格的に来る)


胸の奥に、じわりと広がる不安。

だが、それは恐怖ではなかった。


「……急がないと」


小さく呟く。

桶に水を満たし、立ち上がる。


そして——

野営の場所へと、足を向けた。


エリスは野営地へ戻りながら、考えていた。


(……全部は話せない)


レオネリアのこと。

セラのこと。


どちらも、今は伏せておくべきだと判断する。


(でも——情報は必要)


どう伝えるか。


そして、出した答えは——

“自分が見てきたこととして話す”。



野営地に戻ると、すでにマリンとカイルが戻っていた。


「エリス、おかえり」


マリンが振り返る。


「随分遅かったね」


エリスは桶を置きながら答えた。


「ごめん

 ちょっと、気になることがあって」


「……何があった」


ルシアンが短く問いかける。

エリスは一瞬だけ間を置き、話し始めた。


「水を汲みに行った時に、少し先で気配を感じたの

 確認しに行ったら……ゴブリンだった」


カイルがすぐに反応する。


「数は?」


「多くはなかったよ

 見つかって、戦闘になったけど……すぐに倒せた」


そう言って、ポケットから取り出す。

黒く濁った魔石。


「……これ」


三人の視線が集まる。

マリンが息を呑む。


「また……黒い魔石」


カイルの表情が険しくなる。


「昼のキメラと同じか」


エリスは頷いた。


「うん」


「普通のゴブリンじゃなかった」


焚き火の火が、ぱち、と音を立てる。

ルシアンが低く呟く。


「……広がっているな」


カイルも腕を組む。


「この辺一帯、もう普通じゃねぇ」


マリンが不安そうに言う。


「これからも、出てくるのかな……」


ルシアンは短く言った。


「警戒を上げる

 今まで以上にだ」


その言葉に、三人は頷いた。

エリスもまた、小さく頷く。


(……これでいい)


必要なことは伝えた。


だが——

胸の奥の不安は、まだ消えていなかった。


四人は、どこか拭いきれない違和感を抱えたまま、食事の準備を始めた。


とはいえ、野営の食事は昨日と同じく簡素なものだ。

干し肉と採ってきた木の実や山菜を煮込んだだけの、素朴なスープ。


湯気の立つそれを口に運びながら、エリスはふと呟いた。


「……やっぱり、お母さんのご飯が恋しいかも」


マリンも苦笑する。


「わかる……

 なんかこう、物足りないよね」


そんなやり取りに、カイルが肩をすくめた。


「贅沢言うな

 野営なんてこんなもんだ」


ルシアンも小さく頷く。


「慣れれば気にならなくなる

 最初はそんなものだ」


軽い会話を交わしながら、食事を終える。



後片付けを済ませると、四人は焚き火を囲みながらお茶を飲んだ。

温かい飲み物が、張り詰めた空気を少しだけ和らげる。


「さて」


ルシアンが地図を広げる。


「今はこの辺りだ」


指で現在地を示し、少し先をなぞる。


「リンデンはここ」


「順調に進めば——明日の昼には着く」


エリスとマリンが顔を見合わせる。


「……街、か

 リンドル以外は初めてだよね」


自然と、表情が少し明るくなる。


「どんなところなんだろう

 楽しみだね」


不安の中に、確かな期待が混じる。

ルシアンはその様子を見て、小さく息を吐いた。


「油断はするな

 だが、補給と情報収集は必要だ

 リンデンに暫く滞在する」


その言葉に、三人は頷いた。



やがて、見張りの時間を決める。


「順番は昨日と同じでいいな」


ルシアンの提案に、異論はなかった。

最初はマリン。

マリンはその場に残り、周囲へ意識を向ける。

エリスは立ち上がりながら言った。


「無理しないでね

 おやすみ」


「あ、うん。大丈夫

 おやすみ」


マリンは小さく頷く。


「「おやすみ」」


続いてカイルとルシアンが挨拶をし

それぞれテントへ戻っていく。


「おやすみなさい」


マリンは挨拶を返す


エリスもテントに入り、横になる。

焚き火の明かりと、静かな夜。


その中で——

マリン一人が、見張りとして残っていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月14日18時を予定してます

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