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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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リンドル — 母達の決断 —

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

その頃——

リンドルの街。


教会の一室で、ミリアは手続きを終えていた。

マリンたちの今後を支えるための手配。

教会としての後ろ盾。

できる準備は、すべて整えた。


だが——


「……これだけじゃ、足りない」


ミリアは小さく呟く。

これから先、何が起こるかはわからない。

それでも一つだけ、確かなことがある。


「……私一人じゃ、支えきれない」


だからこそ——


頼るべき相手がいた。

元王国騎士団の元冒険者

ミリアは、その者の元へと足を運ぶ。


見慣れた家の前で立ち止まり——

コンコン、と扉を叩いた。


「……はい」


中から聞こえてきた声。

扉が開く。


そこに立っていたのは——

クラリスだった。


「……やっぱり来たのね」


穏やかな、しかしどこか覚悟を含んだ声。

ミリアは、少しだけ驚いたように目を見開く。


「……わかってたの?」


クラリスは、静かに微笑んだ。


「あの子たちが旅立った時点でね

 あなたが動くことくらい、想像つくわ」


ミリアは一歩踏み出す。


そして——

真っ直ぐに頭を下げた。


「……お願い

 一緒に来てほしい

 あの子たちを……支えたいの」


短い言葉。

だが、その中にはすべてが込められていた。

クラリスは、少しだけ目を閉じる。


そして——

すぐに答えた。


「いいわよ」


あまりにもあっさりと。

ミリアが顔を上げる。


「……本当に?」


クラリスは肩をすくめる。


「むしろ、断る理由がないでしょ

 あの子は——私の娘よ」


その瞳に、強い意志が宿る。


「危険な道を行くなら

 親として、見て見ぬふりはできないわ」


ミリアの表情が、少しだけ緩む。


「……ありがとう」


クラリスは軽く手を振る。


「お礼を言うのは私の方よ

 それより——

 ちゃんと準備していくわよ

 中途半端な気持ちで行くつもりはないから」


その言葉に、ミリアは力強く頷いた。


母たちもまた——

動き出す。


クラリスとミリアは、旅立つ決意を固めると——

冒険者ギルドへと向かった。

失効している冒険者カードの更新のためだ。


扉を開けると、懐かしい空気が流れ込んでくる。

ざわめき、酒の匂い、武具の音。


クラリスは中へ足を踏み入れ――すぐに視線を止めた。


「……あら」


ギルドの奥。

一人の男と目が合う。


「……クラリスか」


ギルドマスター、バルガス。

かつて同じ王国騎士団で一緒に戦った仲間。


「ここに来るとは珍しいな」


「用があってね」


軽く返しながら、クラリスは本題に入る。


「冒険者カードの更新よ」


バルガスの眉がわずかに動く。


「……今さら、また冒険者か?」


クラリスは迷いなく答える。


「娘たちの旅を助けるためにね」


――その言葉に、バルガスの目が細まった。


「……娘?

 お前、そんな歳だったか?」


一歩、距離を詰める。


「名前は?」


短く、確かめるように問う。

クラリスは少しだけ不思議そうにしながらも答えた。


「エリスよ」


――その瞬間。


バルガスの表情がはっきりと変わった。


「……やっぱり、あの子か」


低く呟く。

クラリスはその反応に眉をひそめる。


「そう言えば、あなたに言いたいことがあった」


バルガスはなんの事かわからなかった。


「新人にいきなりSランクを与えるギルドがどこにあるの?

 知らない土地なら、余計に警戒されるわよ」


空気が一変する。

ミリアは少しだけ驚いたように目を瞬かせたが、すぐに小さく笑った。


バルガスは一瞬固まった。

そしてバルガスはゆっくりと息を吐いた。


「この前、水晶を吹き飛ばしそうになったんだぞ

 そんな逸材をSランクにして問題ないだろう

 それにしても、

 ……あれが、お前の娘か

 聞いてくれ、

 あれは普通の反応じゃない。

 強く、白く輝いた

 ……文献でしか見たことがない反応だった。

 初めて見た」


クラリスの表情がわずかに揺れる。


「……そんなに激しい反応だったのね」


本人の話しぶりから、そこまでとは思っていなかった。

だが同時に、どこか納得する感情もあった。

バルガスはその様子を見ながら言った。


「そしてその反応を示す者には、呼び名がある」


わずかに間を置いて——


「……境界の子だ」


クラリスは、バルガスの口から出た「境界の子」という言葉に目を見開いた。


「そう言えば、あなたにそう言われたって言ってたわ」


バルガスは周囲を一瞥した。

ざわめくギルド内。誰が聞いているかわからない。


「……ここじゃまずい」


低く言うと、顎で奥を示した。


「来い。俺の部屋で話す」


そのまま歩き出す。

クラリスとミリアは顔を見合わせ、小さく頷いて後に続いた。



ギルドマスターの執務室。

扉が閉まると、外の喧騒が遠のく。


バルガスは腕を組み、改めてクラリスを見る。


「……で、どこまで知ってる」


その問いに、クラリスは静かに答える。


「歴代の結末くらいは

 どちらかを救って、どちらかを滅ぼす。

 例外は一度もない

 でも――」


一旦、クラリスは間をおき

言葉を選びながら続ける。


「エリスが目指してるのは、今までの境界の子とは違う

 どちらか一方だけを救うのではない結末

 人と魔族が共に生きられる世界

 そのために、あの子は動いてる」


視線は揺れない。


「だから私は——支える

 どれだけ困難でもね」


短い沈黙が落ちる。

バルガスは、ゆっくりと息を吐いた。


「……相変わらずだな

 それで冒険者に戻りたいのか

 理由はわかった

 だがな

 娘の後を今追うのは危険だ」


表情が少しだけ引き締まる。


「今、町の外は異常だ

 魔物の動きが明らかにおかしい」


クラリスの表情も変わる。


「……やっぱり」


予感は当たっていた。

バルガスは続ける。


「正直に言う

 二人だけで行くのは危険だ」


その言葉に、ミリアも黙って頷いた。

クラリスは少し考え——


「……じゃあ、どうすればいい?」


バルガスは即答した。


「一人、付けろ

 お前も知ってる奴だ」


わずかに口元を上げる。


「ガルドだ」


その名前に、クラリスの表情がわずかに動く。


「……ガルド?

 まだこの町にいるの?」


「ああ」


バルガスは頷く。


「今は冒険者として単独で動いてる

 ヤドリギって宿にいるはずだ」


重戦士、ガルド。

前線で壁となる男。


クラリスは少しだけ考え、そして頷いた。


「……確かに

 二人で行くよりは、ずっといい」


ミリアも同意する。


「うん、お願いしてみよう」


結論は出た。

クラリスはバルガスに向き直る。


「ありがとう」


短く、それだけ言う。

バルガスは軽く手を振った。


「礼はいらん

 無事に戻ってきたらでいい」


その言葉を背に、二人は部屋を後にした。


ギルドマスターの部屋を出たクラリスとミリアは、

そのまま受付カウンターへ向かった。


「カードの更新をお願いするわ」


手続きを済ませ、しばらく待つ。

やがて、新しいギルドカードが二人の手に渡された。


「……変わらず、Aランクか」


クラリスはカードを軽く見て呟く。

ミリアも同じく頷いた。


ブランクがあっても落ちていない。

それだけで、今の自分たちの立ち位置は理解できた。


「行きましょう」


クラリスの一言で、二人はギルドを後にした。



向かったのは宿屋——ヤドリギ。

扉を開け、フロントへと進む。


「すみません

 ガルドという冒険者に会いに来たのだけど」


受付の男はすぐに頷いた。


「少々お待ちください」


奥へ引っ込む。

ほどなくして——

重い足音と共に、一人の男が姿を現した。


大柄な体躯。分厚い装備。

いかにも前線に立つ戦士。


その男——ガルドは、クラリスの姿を見た瞬間、目を見開いた。


「……おい

 珍しいな

 お前が俺を訪ねて来るなんてよ」


低く、驚きを含んだ声。

クラリスは軽く笑う。


「久しぶりね、ガルド

 元気にしてた?」


「ああ、まあな」


短く返しながらも、視線は外さない。


「で、何の用だ」


単刀直入だった。

クラリスは一歩前に出る。


「お願いがあるの」


「……ほう?」


ガルドの眉がわずかに動く。

クラリスはそのまま続けた。


「旅に同行してほしいの

 私たちと娘たちのね」


その言葉に、ガルドの表情が少しだけ変わる。


「……娘?

 お前、そんな歳だったか?」


半ば冗談のような口調。

だがクラリスは気にせず続ける。


「もう旅に出てるわ

 王都を目指してね

 ただ——今、外は危険すぎる

 だから、追いかける」


そこに迷いはなかった。

ガルドは腕を組み、しばらく黙る。


「……なるほどな」


一言、そう呟く。


そして——


「まあ、いい

 旧知の仲の頼みだ

 断る理由もねぇ」


あっさりと、だが重みのある返事だった。

ミリアの表情が少し緩む。

クラリスも小さく頷いた。


「助かるわ」


ガルドは軽く肩を回す。


「久しぶりの長旅か……

 腕が鳴るな」


その言葉に、かつての戦場の空気がわずかに戻る。


——こうして。


娘たちを追う、もう一つの旅が動き始めた。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月13日18時を予定してます

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