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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第四章:新たな旅立ち ー 守るという覚悟 ー

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森 ― 白き影の解放

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

四人の戦闘が終わった、その少し離れた場所——


誰もいないはずの空間に、

“それ”はいた。

気配はない。

音もない。


ただ——そこにいる。

シャドウウォーカー。

アビスステルスによって、完全に姿を消していた。

その視線は、四人を捉えている。


(……なるほど)


改造したゴブリンを差し向けたのは、彼だった。

ただの確認のつもりだった。


だが——

結果は、想定以上。


(あの二人……)


エリス。

剣技だけでも、十分に脅威。

それに加えて、正体不明の力。


(あれは……危険だ)


そして——

マリン。

魔法の威力が、明らかに通常の域を超えている。


(成長している……?)


想定よりも、早い。

ルシアンとカイルも含めれば——

このパーティは、すでに無視できる存在ではなかった。


(……もう一段、試すか)


新たな“駒”を使うか。

そう考えた、その時——

彼の視線が、わずかに動いた。


(……ん?)


森の奥。

別の“気配”。


それは——

彼が用意したものではない。


(これは……)


一瞬の沈黙。

そして——

シャドウウォーカーは、わずかに口元を歪めた。


(面白い)


「……少し予定を変えるか」


誰にも聞こえない声が、森に溶ける。

その瞬間——

森の奥で、何かが動いた。




———— 一方、エリスは


戦いを終え——

静けさが戻ったはずの森。

だが、エリスは足を止めた。


(……何かいる)


背筋をなぞるような、不気味な気配。

その瞬間——


『……変なのがいる』


セラの声が響いた。


「やっぱり……?」


『うん。さっきのとは違う』


ほんの少しだけ、声の調子が変わる。

そして——


『ねえ、たまには僕にも遊ばせてよ』


軽い。

冗談のような声音。


だが——

その裏にある力は、軽くない。


エリスは、周囲を見渡す。

ルシアンたちがいる。

ここで出すわけにはいかない。


「……ちょっと様子見てくるね」


自然を装って、そう言う。

マリンが少し心配そうに見る。


「大丈夫?」


「すぐ戻る」


ルシアンも軽く頷く。


「無理はするな」


エリスは、静かに森の奥へと入っていった。

木陰に身を隠す。

人の視線が届かない場所。

エリスは、腕輪にそっと触れた。


「……セラ」


次の瞬間——

白い光が、ふわりと溢れる。

そこから現れたのは——

白きフェンリルの子。

セラフィス。

セラは、楽しそうに目を細めた。


「やっと出番だね」


イタズラっぽく笑う。

そして——


「ちょっと行ってくる」


軽く言うと同時に。

風が走った。


いや——

セラ自身が、風になったようだった。

一瞬で姿が消える。


「……っ」


その速度に、エリスですら目を見張る。

森の奥へ——

白き影が、疾風の如く駆け抜けていった。

風を裂き、木々の間をすり抜ける。


その視線の先——

捉えていた気配が、ふっと薄れる。


「……あれ?」


一瞬、消えたように見える。

だが——

セラは、くすっと笑った。


「隠れたつもり?

 ……意味ないよ、それ」


アビスステルス。

気配を極限まで薄める技。

だが、完全に消えるわけではない。


セラにとっては——

“見えている”のと同じだった。


「そこだよ」


次の瞬間——

セラの姿が、さらに加速する。


——一瞬。

そして。

シャドウウォーカーの目前に、現れた。


「……っ!?」


その存在に気づいた時には——

もう、遅かった。


「……なんだと」


目の前にいるのは——

白きフェンリル。


「なぜ……フェンリルがここに……」


しかも——

明確な敵意を向けている。


(……まずい)


一瞬で判断する。

聖獣。

それも、この距離。

一対一で勝てる相手ではない。


(撤退——)


そう決断した、その時。


「えー、もう帰るの?」


軽い声。


「せっかく出てきたんだから、もう少し遊ぼうよ」


——喋った。

シャドウウォーカーの思考が、一瞬止まる。


「……!?」


その“隙”を——

セラは見逃さなかった。


「遅いよ」


白い軌跡が、走る。

——衝撃。


「ぐっ……!」


完全には避けられない。

体をかすめた一撃だけで——

内部にまで衝撃が走る。


(……一撃でこの威力か)


迷いはなかった。

シャドウウォーカーは、懐から護符を取り出す。


「——転移」


光が弾ける。

次の瞬間——

その姿は消えていた。

森に、再び静けさが戻る。

セラは、その場に立ち止まり——

小さくため息をついた。


「……逃げられたか」


だが、その表情はどこか楽しそうだった。


「まあいいや

 次は、もっと遊べるよね」


森の奥から、

白い影が、ふっと戻ってきた。

セラだった。


エリスの前に現れたかと思うと——

そのまま腕輪へと溶けるように消えていく。


『……ただいま』


「おかえり」


エリスは小さく微笑む。


『つまらなかった』


ぶすっとした声。


「え?」


『あんまり遊んでくれなかった』


どこか拗ねたような、イタズラっぽい声。

エリスは思わず苦笑した。


「……それで、何がいたの?」


一瞬、セラの声の調子が変わる。


『……魔族』


「……!」


エリスの表情が引き締まる。


『隠れてた

 さっきのゴブリン、多分あいつがやったやつだね』


「やっぱり……」


セラの言葉で、確信に変わる。


『逃げられたけど

 また来るよ、ああいうの』


軽く言う。

だが——

その意味は軽くない。

エリスは、ゆっくりと息を吐いた。


「……ありがとう、セラ」


『うん

 今度はちゃんと遊ばせてね』


どこか楽しそうな声。

それを最後に、気配が静かに消える。

エリスは、腕輪に一度だけ触れた。


(……魔族が、もう動いてる)


それは——

確実な脅威。

そして、避けられない現実。

エリスは顔を上げる。

仲間たちの元へ戻るために、歩き出した。

森の空気は、もう——

出発した時とは違っていた。


エリスは、仲間の元へ戻りながら考えていた。


(……全部は話せない)


セラのこと。

そして、さっきの出来事。

だが——

何も言わないわけにもいかない。

エリスは、静かに口を開いた。


「……さっき、妙な気配を感じたの」


三人の視線が集まる。


「魔物とも違うし……もちろん人でもない

 気になって近づいてみたんだけど——

 途中で、消えちゃった」


マリンがすぐに反応する。


「えっ、一人で行ったの!?」


心配そうな声。

エリスは、少しだけ笑って答える。


「うん。でも大丈夫

 大勢で動くと気づかれると思って……

 気配を消しながら近づいたの

 でも、ある程度の距離で逃げられちゃった」


ルシアンが腕を組み、考え込む。


「……なるほどな」


その時、エリスが続けた。


「それと……

 あの気配、前に戦った魔族の一人に似てたかも」


「……!」


ルシアンの目が見開かれる。


「そうか……

 なら、さっきのゴブリンは——

 そいつの仕業だな」


カイルも静かに頷く。


「筋は通る」


エリスは内心で、ほっと息をついた。


(……よかった)


自分からすべてを言わなくても——

仲間が繋げてくれた。

カイルが低く言う。


「……魔族が、本格的に動き出した可能性がある」


森の空気が、さらに重くなる。

ルシアンが頷いた。


「ああ……そうかもしれないな」


そして、エリスとマリンを見る。


「この先は、もっと厳しくなる

 だから——

 無理はするな

 休憩は多めに取る

 確実に進むぞ」


その言葉に、三人はしっかり頷いた。


「「はい」」


ルシアンは周囲を見渡す。


「今日は、もう少し進む

 それから、早めに野営だ」


カイルも短く同意する。


「警戒は維持」


四人は、再び歩き出した。

だが——

その足取りは、先ほどまでとは違う。

森はもう——

安全な場所ではなかった。





—————— 魔界、魔族領。


歪んだ空と、濁った大地。

その中を——

一つの影が、静かに進んでいた。

シャドウウォーカー。

その足取りは、普段よりわずかに重い。


(……フェンリル)


脳裏に焼き付いている。

白き聖獣。


(なぜ、あんな場所にいる……)


ただの偶然か?

——否。


(……エリスか)


むしろ、無関係と考える方が不自然だった。


(あの娘だけでも厄介だ)


それに加えて——

聖獣。


(対抗できる戦力が……あるか?)


一つの答えに辿り着く。


(……魔物の強化)


だが——


その手段には、問題があった。


(……あいつか)


名を思い浮かべるだけで、わずかに顔をしかめる。

グリムヴァル。

“マッド博士”と呼ばれる魔族。

腕は確か。

だが——


性格は最悪。


(……気は進まないが)


「……仕方がない」


小さく呟く。

まずは報告だ。

シャドウウォーカーは、そのまま城へと向かった。


———


執務室の前。

軽くノックをする。


「……入れ」


中に入ると——

ディアゼルが書類から顔を上げた。

その視線が、すぐにシャドウウォーカーを捉える。


「……珍しいな

 お前が傷を負っているとは」


わずかに目を細める。


「また、あの娘か?」


シャドウウォーカーは、首を横に振った。


「……違う」


その一言に、ディアゼルの眉がわずかに動く。


「ほう……?」


「あの娘以外に、お前を追い込める存在がいると?」


シャドウウォーカーは、淡々と告げる。


「……聖獣だ

 フェンリル」


一瞬——


空気が止まる。

ディアゼルの表情が、僅かに変わった。


「……詳しく話せ」


シャドウウォーカーは、簡潔に報告する。

エリスたちの動き。

改造ゴブリン。

そして——

セラの存在。

話を聞き終えたディアゼルは、静かに目を閉じた。


(……聖獣、だと)


想定外。

だが、無視できる存在ではない。

ゆっくりと目を開く。


「……厄介だな」


低く、重い声。

そして——


「グリムヴァルを動かせ」


即断だった。


「魔物の強化を、さらに進めろ

 今までのレベルでは足りん」


シャドウウォーカーは、わずかに眉をひそめる。


だが、異論はない。


「……了解した」


ディアゼルは、静かに呟く。


「境界の子……

 そして、聖獣

 放置はできんな」


その目には——


明確な警戒が宿っていた。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は、5月5日18時を予定してます

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