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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第三章:王都に向かって ― 旅立ちと覚悟 ―

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夕暮れ ― それぞれの帰り道

エリスは“境界の子”、別名――聖女。

そして同時に、元・魔族の女王。

誰も辿らなかった第三の道を、彼女は選ぶ。

必要なものは、すべて揃った。

ポーション。

解毒薬。

旅の装備一式。


そして——

二日後の夜。

両家族での壮行会を行うとクラリスとミリアに言われてたのを思い出した。


「……なんか、すごいことになってきたね」


マリンが少し照れたように笑う。


「うん……」


エリスは、小さく頷く。

そして——

ルシアンとカイルの方を見る。


「あの……

 よかったら、二人も来ませんか?」


少しだけ遠慮がちな言い方。

だが——

その気持ちは、はっきりしていた。


「これから、一緒に旅をするし……

 ちゃんと、みんなで……」


言葉を探しながらも、伝えようとする。

ルシアンは、すぐに笑った。


「いいねぇ

 そういうの、嫌いじゃない」


カイルも、短く頷く。


「行こう」


その返事に——


エリスの表情が、少し明るくなる。


「……ありがとう」


マリンも、嬉しそうに笑いながら


「じゃあ、エリスの家で!」


「いつやるんだ?」


ルシアンが聞いてきたことにエリスが答える


「二日後の夜に」


「二日後の夜、だな

 楽しみにしている」


軽いやり取り。

だが——

それもまた、これからの仲間としての距離感だった。

やがて四人は分かれ道で足を止める。


「じゃあ、またな」


「うん、また後で」


ルシアンとカイルは宿へ。

エリスとマリンは、それぞれの家へ向かう。

だが——


「荷物、重いね……」


マリンが苦笑する。


「一回置いてこようか」


エリスも頷いた。


「うん」


「そのあと、いつもの場所で」


「噴水の広場でね」


「了解」


二人は一度別れ、それぞれの家へと戻っていった。

エリスが家の扉を開ける。


「ただいま」


「おかえり」


クラリスが振り返る。

そして——

エリスの持つ大荷物を見て、少し目を細めた。


「……ちょっと

 それ、本当に必要なものだけ?」


母親らしい、鋭い一言。

エリスは、少しだけ苦笑した。


「大丈夫だよ

 冒険者ギルドに登録しに行ったときに

 ルシアンさんとカイルさんに会って

 一緒に選んでもらったから」


その言葉に、クラリスの表情が少し和らぐ。


「……そう

 あの二人が見てるなら、大丈夫ね」


信頼があるからこその言葉だった。

クラリスは、荷物を一瞥する。


「……でも

 重すぎると動きが鈍るわよ

 必要最低限が一番いい」


エリスは頷く。


「うん、気をつける」


その返事に、クラリスは満足そうに微笑んだ。


「ちゃんと考えてるみたいね」


そして——

ふっと、優しい目になる。


「……無理はしないこと」


その一言には、

母としての想いが込められていた。

エリスは、小さく頷く。


「うん」


クラリスがふと思い出した。


「そういえば

 冒険者登録はどうだったの?」


何気ない問い。

だが——

エリスの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。


「……うん」


少し間を置いてから答える。


「大丈夫だったよ」


それだけ。

だがクラリスは、じっとエリスを見ていた。


「……そう」


短い返事。

けれど、その目は優しく——

そして鋭かった。


「……何かあったわね?」


図星だった。

エリスは、小さく息を吐く。


「……やっぱり、分かる?」


クラリスは、少しだけ微笑んだ。


「母親だもの

 そのくらいはね」


エリスは、少しだけ視線を落とす。

隠す意味はない。


そう思って——

ゆっくりと話し始めた。


「……登録自体は、できたんだけど

 そのときに……水晶で

 ちょっと、反応があって」


クラリスは黙って聞いている。

エリスは、言いにくそうに続ける。


「……それで

 境界の子っていうのが……知られちゃって」


一瞬の静寂。

だがクラリスは、驚きはしたものの動じなかった。


「……そう」


静かに受け止める。


「それで?」


エリスは、さらに言いづらそうに口を開いた。


「……そのせいで

 新人なのに……Sランクに、なっちゃって……」


最後は、小さな声だった。


「……Sランク?」


さすがのクラリスも、目を見開いた。

それは当然だった。

Sランク。

それは、普通の冒険者が一生かけても辿り着けるか分からない領域。


「……本当に?」


「うん……」


エリスは、気まずそうに頷く。

しばし沈黙。

だが——

クラリスは、やがて小さく息を吐いた。


「……そういうことね」


すべてを理解したような表情。

そして——

エリスをまっすぐに見た。


「いい?」


少しだけ、声が強くなる。


「ランクが高いからって

 油断しちゃだめよ」


エリスは、はっとする。


「……うん」


クラリスは続ける。


「むしろ逆

 その力を持ってるからこそ、慎重に

 自分を過信しないこと」


その言葉には、重みがあった。

エリスは、しっかりと頷く。


「……分かった」


クラリスは、少しだけ柔らかく笑った。


「それでいいの」


短い会話。

だが——

そこには確かな信頼があった。


「……あ」


エリスが、ふと思い出す。


「マリン、待たせてるんだった」


クラリスは、くすっと笑った。


「行ってきなさい

 あの子、きっともう来てるわよ」


エリスは、軽く頷くと——


「行ってきます」


そう言って、家を飛び出した。

向かう先は——

いつもの噴水の広場。


エリスはマリンを待たせちゃ悪いと思い

早歩きで向かった。


少しすると

噴水の水音が、静かに響いていた。

夕暮れの光が、広場をやわらかく染めている。


エリスが広場に着くと——


「あ、エリス!」


マリンがすぐに気づき、手を振った。

ベンチに座りながら、こちらへ手招きする。

エリスは少し歩調を速め、その隣へ向かった。


「待たせた?」


「ううん、今来たところ」


いつものやり取り。

けれど——

どこか少しだけ、違っていた。

二人は並んでベンチに座る。

しばらくは、何気ない会話。

買い物のこと。

ルシアンとカイルのこと。


そして——

旅のこと。


「……いよいよだね」


マリンが、ぽつりと呟く。

エリスは、噴水を見つめながら頷いた。


「うん」


少しの沈黙。

水の音だけが、静かに流れる。

マリンは、ゆっくりと口を開いた。


「ね、エリス

 ……正直に言っていい?」


その声は、少しだけ弱かった。

エリスは、すぐに頷く。


「うん」


マリンは、視線を落としながら話し始めた。


「エリスと一緒に旅できるのは……すごく楽しみ

 ずっと一緒にいたし

 なんか……冒険って感じで」


少しだけ笑う。

でも——

すぐにその笑みは消えた。


「でもね……

 ちょっと、怖い」


正直な言葉だった。


「母さんと離れるのも……初めてだし

 森の外に出るのも初めてで

 魔物とか……

 考えると、やっぱり怖くて」


言葉にすることで、少しだけ震えが混ざる。

けれど——

それを隠さなかった。

エリスは、その言葉を静かに受け止める。

そして——

小さく笑った。


「……私も」


マリンが、驚いたように顔を上げる。


「え?」


エリスは、少し照れたように視線を逸らす。


「同じ

 楽しみだけど……

 ちょっと怖い

 お母さんと離れるのも、初めてだし

 何があるか、分からないし」


素直な言葉だった。

その瞬間——

マリンの表情が、ふっと緩む。


「……そっか」


そして——

なぜか、笑いがこみ上げてきた。


「なんだ……

 同じじゃん」


エリスも、つられて笑う。


「うん」


二人は顔を見合わせて——

くすっと笑い合った。

不安も。

恐れも。

一人じゃない。

それだけで、少し軽くなる。


「……大丈夫だよね」


マリンが、少しだけ安心したように言う。

エリスは、しっかりと頷いた。


「うん

 一緒なら」


噴水の水が、変わらず流れ続けている。

その音の中で——

二人は、静かに未来を見つめていた。


お互いの気持ちを確かめ合えたことで——

二人の間にあった小さな不安は、少しだけ軽くなっていた。


「……なんか、安心した」


マリンが、ぽつりと呟く。

エリスも頷いた。


「うん

 同じだったから」


不安も、期待も。

二人で分け合えば、怖くなかった。


「じゃあ……帰ろうか」


「うん」


そう言って、二人はそれぞれの家へと向かった。

まだ——

この町を離れる実感は、どこか遠い。

けれど。


「……しばらく、帰ってこないんだよね」


ふと、そんな考えがよぎる。

エリスは、少しだけ足を早めた。

家に着くと、すぐにクラリスの姿が目に入る。


「おかえり」


「ただいま」


エリスは、自然と台所へ向かった。


「手伝うね」


クラリスは、少しだけ驚いたように笑う。


「珍しいわね」


「……たまには」


少し照れたように答える。

それ以上は、言わなかった。

けれど——

“しばらくできなくなること”は、分かっていた。

包丁の音。

煮込みの香り。

いつも通りの、穏やかな時間。

やがて——

扉が開く音がした。


「ただいま」


エノクが帰ってきた。


「おかえりなさい」


クラリスが振り返る。

エリスも、軽く会釈した。

食卓につき、三人で夕食を囲む。

その中で——

エノクが口を開いた。


「そうだ、エリス

 一つ、伝えておくことがある」


エリスは顔を上げる。


「ミリアがな

 教会を通して、王都への紹介状を手配してくれた

 王族に謁見できるように、だ」


その言葉に、エリスの目が少し見開かれる。


「……本当に?」


エノクは頷いた。


「ああ

 ただし、直接王都で受け取るわけではない

 途中の街——セントポルで受け取ることになる

 教会の拠点があるからな」


エリスは、静かにその言葉を受け止める。


「……分かった」


それは——

旅の目的が、よりはっきりした瞬間だった。

食事は、穏やかに進む。

いつもと変わらないはずの時間。

けれど——

その一つ一つが、少しだけ特別に感じられた。

やがて食事を終え、片付けも済む。

エリスは立ち上がった。


「……おやすみなさい」


「おやすみ」


クラリスとエノクが、優しく返す。

エリスは、自室へと戻った。

扉を閉める。

静かな空間。

ベッドに腰を下ろし——

ふと、今日のことを思い返す。


冒険者登録。

仲間。

旅。


そして——

これからの未来。


「……やるしかない」


小さく呟く。

その声には、迷いはなかった。

エリスは、ゆっくりと横になる。


明日も——


その先も。

すべてが、繋がっている。

静かに目を閉じると——


やがて、深い眠りへと落ちていった。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月27日18時を予定してます

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