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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第三章:王都に向かって ― 旅立ちと覚悟 ―

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冒険者ギルド

エリスとマリンは、家を出ると、並んで歩いていた。


「……なんか、変な感じだね」


マリンが、少し照れたように笑う。


「うん……」


エリスも、小さく頷いた。

不安と——

期待。

初めての旅という現実が、

少しずつ形になっていく。


「本当に、行くんだね」


「……うん」


短い会話。

それでも、二人の気持ちは同じだった。

やがて——

視界の先に、大きな建物が見えてくる。


「……ここ?」


「たぶん」


冒険者ギルド。

二人は、入口の前で一瞬だけ立ち止まる。

そして——

扉を開けた。

中に入った瞬間——


「おおっ!」


思わず声が漏れる。

多くの冒険者たち。

笑い声。

武器の音。

酒の匂い。

今までいた世界とは、まるで違う空気だった。


「……すごいね」


マリンが、きょろきょろと辺りを見回す。

エリスも同じように、視線を巡らせた。


「受付……どこだろう」


そう言いながら探していると——


「……あ」


マリンが、小さく声を上げた。

視線の先。

そこには——

ルシアンとカイルの姿があった。

受付で何やら話している。


「助かった……」


エリスが、ほっと息をつく。

二人はそのまま、彼らの元へ向かった。


「あれ、二人とも?」


ルシアンが気づいて振り返る。


「ちょうどいいところに来たな」


カイルも軽く頷いた。


「登録か?」


「うん」


エリスが答える。


「やり方が分からなくて……」


ルシアンは苦笑した。


「最初はみんなそんなもんだ

 ほら、こっちだ」


受付へと案内される。


「いらっしゃいませ」


受付の職員が、にこやかに対応する。


「冒険者登録ですね?」


「はい」


エリスとマリンが頷くと、

すぐに書類が差し出された。


「こちらにご記入ください」


二人は、少し戸惑いながらも名前などを書き込んでいく。

書き終えると、受付に提出する。


「ありがとうございます」


職員は書類を確認し、

机の下から一つの水晶を取り出した。


「では、認証を行います

 こちらに手をかざしてください」


マリンが、先に手を伸ばす。

水晶の上に、そっとかざす。


——淡く光る。


それだけだった。


「はい、大丈夫です」


職員は手早く処理を進める。


次に——


「では、あなたも」


エリスに視線が向けられる。

エリスは、少しだけ息を整えてから——

手をかざした。


——その瞬間。


「っ……!?」


水晶が、激しく輝き出した。

まるで——

内側から爆発するかのように。

眩い光が、ギルド内を覆う。


「なっ——!?」


周囲の冒険者たちが、思わず目を覆う。

一瞬、視界が真っ白になる。

そして——

光は、ふっと消えた。

静寂。


「……え?」


受付の職員が、水晶を見つめる。

ギルド内に、ざわめきが広がっていた。


「……今の、なんだ?」


「見たか……?」


冒険者たちが、ひそひそと声を交わす。

受付の職員も、水晶を手にしたまま困惑していた。


「……故障、でしょうか」


小さく呟く。


「もう一度、お願いします」


エリスに向けて、水晶を差し出す。

エリスは戸惑いながらも——


再び手をかざした。

——次の瞬間。

先ほどと同じように。

いや、それ以上に——

水晶が激しく輝き出した。


「うわっ……!」


周囲の冒険者たちが思わず目を覆う。

光が、ギルド全体を包み込む。

そして——

また、ふっと消えた。

静寂。

今度は、誰も声を出さなかった。


「……故障、じゃないな」


低く、重い声が響いた。

その声に、空気が一変する。


「ギルドマスター……!」


受付の職員が、慌てて姿勢を正す。

人々の視線が、一斉に入口へ向く。

そこに立っていたのは——


一人の男。


大柄な体躯。

無駄のない筋肉。

そして、鋭い眼光。

ギルドマスター——バルガス。

ただそこに立っているだけで、

場の空気が引き締まる。

バルガスはゆっくりと歩み寄ると、

問題の水晶を一瞥した。


「……同じ反応か」


短く言う。

そして——

エリスに視線を向けた。

その目は、探るようでいて——

すでに“何か”を理解しているようでもあった。


「……名前は?」


低く、落ち着いた声。


「エリス、です」


エリスは、少し緊張しながら答える。

バルガスは、わずかに頷いた。


「そうか」


それ以上は、何も言わない。

だが——

その沈黙が、逆に重かった。

ルシアンが、小さく息を吐く。


「……面倒なことになりそうだな」


カイルも、静かに呟いた。


「ああ

 見つかったな」


バルガスは、二人の言葉を聞いていたのかいないのか——

再びエリスを見た。

そして、ゆっくりと口を開く。


「……少し、話をしようか」


ギルドマスター、バルガスの言葉に——

周囲の空気が一変した。


「……え?」


エリスは戸惑う。

だが、バルガスはすでに踵を返していた。


「ついてこい」


有無を言わせない口調。

エリスが一歩踏み出そうとした、その時——


「待て」


ルシアンが声をかけた。


「……その話、こいつ一人で行かせるわけにはいかない」


カイルも無言で一歩前に出る。

マリンも、エリスの隣に立った。


「私も行く」


バルガスは、一瞬だけ足を止める。

振り返らずに——

小さく息を吐いた。


「……好きにしろ」


それだけ言って、再び歩き出す。

四人は顔を見合わせ——

その後を追った。

ギルドの奥。


重厚な扉の前で、バルガスが立ち止まる。


「入れ」


扉が開かれる。

中は、外の喧騒とはまるで別世界だった。

静かな空間。

壁には地図や資料。

無駄のない、機能的な部屋。

バルガスは席に着くと、

四人を見渡した。


「座れ」


静まり返った執務室。

バルガスは、机の上に置かれた水晶を指で軽く叩いた。


「……もう一度、確認する」


低い声。


「さっきの反応

 白く、激しく発光したな?」


エリスは、少しだけ緊張しながら頷く。


「……はい」


マリンも、横で小さく頷いた。


「ギルドの中が真っ白になるくらい……」


バルガスは、ゆっくりと息を吐く。


「……やはりな」


その呟きに、ルシアンが眉をひそめた。


「やはり、ってのは?」


バルガスは、視線を水晶から外し——

四人へと向ける。


「……このギルドにはな

 古い文献が残っている

 創設当初のものだ」


カイルが、静かに反応する。


「……それが?」


バルガスは、短く答えた。


「似た記述がある

 水晶が、あのように反応する例だ」


空気が、わずかに張り詰める。

エリスの胸が、少しだけ強く鼓動する。

バルガスは続けた。


「その記録は、極めて少ない

 だが……共通している」


一度、言葉を区切る。

そして——

はっきりと告げた。


「その反応を示す者の呼び名がな」


エリスは、息を飲む。

バルガスの視線が、真っ直ぐに突き刺さる。


「——境界の子」


部屋の空気が、凍りついたように静まる。

マリンが、思わずエリスを見る。

ルシアンとカイルも、無言のまま動かない。

バルガスは、さらに言葉を重ねた。


「……そして、もう一つ

 別の呼び名がある」


少しだけ、声の調子が変わる。


「聖女、だ」


エリスの瞳が、わずかに揺れる。


「……聖女……?」


自分の中で、その言葉はしっくりこない。

バルガスは、淡々と続ける。


「記録ではそうなっている

 だが……実態は違う

 あれは、救う存在であると同時に——

 終わらせる存在でもある」


その言葉は、重かった。

ルシアンが、低く呟く。


「……やっぱり、そういう扱いか」


バルガスは否定しない。


「人はな

 理解できないものを、都合よく名付ける

 “聖女”も、その一つだ」


そして——

再びエリスを見る。


「お前が何者かは、もう分かっている

 問題は——」


少しだけ、間を置く。


「どう在るつもりか、だ」


バルガスの問いが、静かに響く。

エリスは、すぐには答えなかった。

視線を落とし——

ほんのわずか、考える。

だがそれは、迷いではなかった。

言葉を選んでいるだけ。

やがて、ゆっくりと顔を上げた。


「……私は」


まっすぐに、バルガスを見る。


「種族に関係なく

 みんなが一緒に暮らせる世界にしたい」


静かな言葉。

だが——

その奥にあるものは、揺るがない。


「それは……

 前から、決めていたことです」


魔族の女王だった頃から。

その想いは、変わっていない。

バルガスは、黙って聞いていた。

そして——

ゆっくりと口を開く。


「……それは、理想だ

 だが同時に——

 誰一人として成し得なかった道でもある」


重い現実。


「人と魔族は争ってきた

 歴史がそれを証明している

 それでもやる、と?」


試すような視線。

エリスは——

迷わなかった。


「はい」


即答だった。


「どんなに難しくても

 諦めません」


そして——


少しだけ、表情が柔らかくなる。


「……今は、一人じゃないから」


マリン。

ルシアン。

カイル。


「信頼できる仲間がいます

 だから……進めます」


その言葉に——


部屋の空気が、わずかに変わる。

ルシアンが、小さく笑った。


「……言うじゃねえか」


カイルも、静かに頷く。

バルガスは、目を細めた。


「……なるほどな」


小さく、息を吐く。


「信頼できる仲間がいる、か」


——一人ではない。

確かに信頼できる仲間は大切だ。


そして——

バルガスは、うっすらと笑った。


「面白い」


机の引き出しから、一枚のカードを取り出す。

ギルドカード。

それに、何かを書き込む。

そして——

エリスの前に差し出した。


「受け取れ」


エリスは、それを手に取る。

そして——

目を見開いた。


「……え?」


マリンも、覗き込んで固まる。


「ちょっと待って……これ」


ルシアンが、目を細めた。


「……おいおい」


カイルも、わずかに驚きを見せる。


「……本気か?」


バルガスは、平然と言った。


「Sランクだ

 文句あるか?」


沈黙。

Sランク。

それは——

国に匹敵する戦力を持つ者にのみ与えられる称号。

新人に与えられるものでは、決してない。


「……いや、普通はあり得ねえ」


ルシアンが苦笑する。

バルガスは、肩をすくめた。


「普通じゃないだろう、そいつは」


その一言で——

すべてが納得された。

エリスは、まだ戸惑っている。


「……いいんですか、こんな……」


バルガスは、真っ直ぐに言った。


「いいも何もない

 これは評価だ

 そして——責任でもある」


その言葉は、重かった。


「その力を、どう使うか

 ギルドは見ている」


それは——

信頼と、監視。

同時に与えられたものだった。


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月24日18時を予定してます

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