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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第二章:運命の導き ― 新たな歩みの始まり ―

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魔界 ― 失われた駒

————魔界のとある場所にて


重い扉が閉ざされる。

魔界王城、ディアゼルの執務室。

その場に並ぶ影。


だが——


一つ、欠けている。


「……報告しろ」


ディアゼルの低い声が響く。

シャドウウォーカーは一歩前へ出た。


「任務は失敗

 標的の捕縛には至らず」


淡々とした報告。


しかし——


「幻惑担当、リシアは戦死」


空気が、凍りつく。


「……リシアが?」


ディアゼルの眉が、わずかに寄る。


「あの女は、幻覚の使い手だ

 存在そのものを認識させぬことすら可能なはず

 それが、なぜ討たれる?」


当然の疑問。

シャドウウォーカーは、即座に答える。


「原因は標的の一人

 剣士の少女——エリス」


その名が、初めて明確に出た。


「あの個体は

 リシアの幻覚を——

 “無効化”しました」


一瞬の沈黙。


「……どういう意味だ」


「魔法として打ち消したのではありません

 存在そのものを……なかったことにした」


ディアゼルの目が細くなる。


(概念干渉……か?)


さらにシャドウウォーカーは続ける。


「そして、リシアが動揺した瞬間——

 もう一人の標的が行動

 炎・風属性の魔法を扱う少女マリン

 その攻撃により、リシアは討たれました」


完全な連携。


「……ほう」


ディアゼルが、わずかに興味を示す。


「つまり

 幻覚を破る存在と、それを仕留める戦力がいる、ということか」


「はい

 加えて報告します」


シャドウウォーカーの声が、さらに低くなる。


「注意すべき敵は、一人ではありません

 少なくとも——二名

 エリスと、マリン」


ディアゼルは、しばし沈黙した。


そして——


「……いいだろう」


ゆっくりと、口を開く。


「標的を更新する

 最優先はエリス

 次点でマリン

 両名とも、生け捕りが望ましい」


その目に、確かな興味が宿る。


「……面白い

 人界に、ここまでの個体が現れるとはな」


静かに、そして確実に。

戦の規模が——拡大していく。


シャドウウォーカー達は報告を終えると

重い扉を開けて部屋を出て行った。

そして

重い扉が閉じる音が、静かに響いた。


シャドウウォーカーたちは、すでに退室している。


残されたのは——


ディアゼル、一人。


静寂。

机の上には、広げられたままの報告書。

だが、その視線はどこにも向いていなかった。


(……失態)


ただの失敗ではない。

今回、自らの判断で——

精鋭を五名、投入した。

影刃、幻惑、狙撃、追跡、指揮。

どれもが、選び抜かれた人材。


あの五人が揃えば——


人界の騎士団、一個中隊すら凌駕する。

それだけの戦力だった。


それが——


「たった二人、か……」


小さく呟く。

エリス。

マリン。

想定外の存在。


(見誤った)


敵戦力の評価。

そして、投入戦力の配分。

どちらも——

完璧ではなかった。


ディアゼルは、ゆっくりと椅子に背を預けた。


「……報告、か」


ゼルヴァーク。

魔族の王。

この件を、どう伝えるか。


「……隠すか?」


一瞬、考える。

エリスとマリンの存在を伏せる。

単なる失敗として処理する。


だが——


「無理だな」


即座に否定する。

精鋭を投入しての失敗。

その理由が説明できなければ——

それ自体が、より大きな失態になる。


(事実を歪めるのは、愚策)


ディアゼルは立ち上がった。


「……ならば」


選択は一つ。


「すべてを報告する」


その声には、迷いはなかった。


そして——


扉へと向かう。

重厚な廊下を進み、

王の間へ。


「……さて」


小さく呟く。


「どう出るか」


その答えは——

間もなく明らかになる。


ディアゼルは、ゼルヴァークに報告するため王室へと向かった

やがて王室の前に着くと

重厚な扉が、ゆっくりと開く。


魔界王城、最奥——王室。


その中心に、一人の男が玉座に座していた。

ゼルヴァーク。

魔族の頂点に立つ存在。


ディアゼルは静かに膝をつく。


「報告がございます」


その声に、王はわずかに視線を向けた。


「……聞こう」


短い言葉。

だが、それだけで場の空気が引き締まる。

ディアゼルは、近衛兵に視線を送る。

無言の合図。

それを受け、兵たちは静かに退室した。


——二人きり。


ディアゼルは、ゆっくりと口を開いた。


「先の偵察任務について、報告いたします」


シャドウウォーカーからの報告。

精鋭部隊の投入。


そして——失敗。


淡々と、だが一切の省略なく語る。

リシアの戦死。

エリスの異常な力。

マリンの魔法による連携。

ゼルヴァークは、何も言わずに聞いていた。


だが——


ある一点で、その視線がわずかに鋭くなる。


「……幻覚を消し去った、だと?」


「はい」


ディアゼルは頷く。


「魔法による干渉ではありません

 存在そのものを否定したような……」


言葉を選びながら、続ける。


「さらに報告があります」


ゼルヴァークの視線が、ディアゼルを捉える。


「シャドウウォーカーは、アビスステルスを使用していました」


「……ほう」


わずかな反応。


「ですが

 その状態で……標的に“感知”されています」


空気が、わずかに変わる。

完全な隠蔽。

それを——見破られた。

ゼルヴァークは、ゆっくりと背もたれに身を預けた。


「……なるほど」


低く、静かな声。


「面白い」


その口元が、わずかに歪む。


「魔法ではない

 隠蔽も通じない

 存在そのものに干渉する力……か」


ゼルヴァークの目が、鋭く光る。


(まさか……)


脳裏に浮かぶ、一つの記述。

魔族に伝わる、古き伝承。


「……一致するな」


小さく呟く。

ディアゼルは、顔を上げた。


「……陛下?」


ゼルヴァークは、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「その少女——

 エリスと言ったか

 ……興味が湧いた」


その言葉は、静かだった。

だが——

それが意味するものは、決して軽くない。


「ディアゼル」


「はっ」


「あれは……」


一瞬、間を置く。


「“境界に立つ者”かもしれんな」


その一言で——

すべてが繋がった。


世界の均衡。

伝説の存在。


そして——


エリス。

ゼルヴァークの瞳は、すでに次を見据えていた。

そして、ゼルヴァークは、静かに目を閉じた。

頭の中で、すべてが繋がっていく。

幻覚の無効化。

完全隠蔽の看破。


そして——


存在そのものへの干渉。


「……なるほどな」


小さく、呟く。

古より語られてきた伝承。


——境界の子。


『それが現れし時

 世界を乱すものは、すべて消え去る』


その意味を、これまで誰も正しく理解していなかった。


「……“消える”か」


ただの比喩ではない。

消滅でもない。


——存在の否定。


「最初から……いなかったことになる」


ゼルヴァークの瞳が、ゆっくりと開く。


「ふ……」


わずかな笑み。


「これは……放置できんな」


エリス。


その存在は——


魔界にとって、明確な脅威。


いや。


「世界そのものに対する、調整装置……か」


低く呟く。

そして、視線をディアゼルへ向けた。


「ディアゼル」


「はっ」


「準備を進めろ」


その一言に、すべてが込められていた。


「あれに対抗するには

 これまでの戦力では足りん」


静かに、だが確実に。


「戦力の再編成を行え

 選別しろ

 “消されても困らぬ者”ではなく——

 “消されない可能性を持つ者”を」


ディアゼルの目が鋭くなる。


「承知いたしました」


ゼルヴァークは、さらに言葉を重ねる。


「捕獲は二の次だ

 まずは——

 その力の“限界”を見極める」


その声は、冷静だった。

だがその奥には——

明確な興味と、わずかな高揚があった。


「……境界の子」


その名を、静かに口にする。


「どこまで“消せる”のか」


その問いは——

すでに戦いの始まりを告げていた




ディアゼルは王室を後にすると、足早に自室へ戻った。

扉を閉めた瞬間、ようやく一人になる。


「……さて」


小さく呟き、机に手をつく。

ゼルヴァークの命令。

境界の子——エリスへの対処。


(現戦力では足りない)


それは、すでに明らかだった。


「……いるには、いるが」


思い浮かぶ顔。

二人。

1人は女騎士のレオネリア。

もう1人は女魔法使いのメルキオラ。

どちらも、突出した実力を持つ者。


だが——


「前女王派……か」


低く呟く。

忠誠の向きが、違う。

現体制に完全には従っていない。


(従う保証はない)


それでも——


「……背に腹は代えられん」


決断は早かった。

ディアゼルはすぐに部屋を出る。


——そして。


二人の元へ。

重厚な訓練場。

一人は剣を振るっていた。

鋭く、無駄のない動き。

レオネリア。


もう一人は、静かに魔力を練っている。

周囲の空気が歪むほどの密度。

メルキオラ。


「……珍しい組み合わせだな」


レオネリアが剣を止める。


「何の用だ、ディアゼル」


メルキオラも、ゆっくりと視線を向けた。


「命令かしら?」


その声音には、わずかな棘があった。

ディアゼルは、はっきりと告げる。


「任務だ」


そして——

エリスの存在。

境界の子の可能性。

すべてを伝える。


二人は、黙って聞いていた。

やがて——


「……断る」


レオネリアが、短く言い放つ。


「今の王に忠誠を誓った覚えはない」


メルキオラも、静かに続ける。


「同じく

 興味はあるけど……従う理由はないわね」


想定通りの反応。

ディアゼルは、わずかに目を細めた。


「……ならば、こう言い換えよう」


一歩、踏み込む。


「これは命令ではない

 ——警告だ」


二人の視線が、わずかに変わる。


「境界の子が現れた

 その意味は……分かるだろう?」


沈黙。


メルキオラの指先が、わずかに止まる。

レオネリアの表情が、ほんの少しだけ硬くなる。


「……世界が動く」


メルキオラが呟く。


「魔族も例外ではない」


ディアゼルは、静かに頷いた。


「これは——

 魔族の存亡に関わる問題だ」


その一言で。

空気が変わった。

レオネリアが、ゆっくりと剣を肩に担ぐ。


「……面倒な話だな」


メルキオラが、ため息をつく。


「ほんとにね」


そして——

二人は顔を見合わせた。


「……仕方ない

 今回は、協力してあげるわ」


渋々。

だが確かに——

了承だった。

ディアゼルは、小さく息を吐く。


「感謝する」


だがその内心では、理解していた。


(……この二人)


完全には従わない。

だが——

それでも今は、十分だった。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月17日18時を予定してます

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