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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第二章:運命の導き ― 新たな歩みの始まり ―

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決意 ― 隠さない選択

クラリスの腕の中。

その温もりは、どこまでも優しかった。

エリスは、そっと目を閉じる。


(……あったかい)


胸の奥にあった不安が、ゆっくりと溶けていく。

どんな力でも。

どんな運命でも。

受け入れてくれる。


(だったら……)


ここで、止まる理由はない。

エリスは、ゆっくりと顔を上げた。


「……母さん」


クラリスが優しく頷く。


「なに?」


少しだけ、言葉が詰まる。

喉の奥で、何かが引っかかる。


——これを話せば。


すべてが変わるかもしれない。

前世。

魔族の女王。


そして——


境界の子。

それでも。


(もう、隠さない)


エリスは、ゆっくりと息を吸った。


「……私ね

 転生した時のこと……覚えてるの」


クラリスの表情が、わずかに動く。

だが、何も言わない。

ただ、受け止めるように見つめている。


「前は……人じゃなかった」


少しずつ。

言葉を選びながら。


「……魔族だったの」


空気が、静かに張り詰める。

エリスは、目を逸らさなかった。


「しかも……

 ただの魔族じゃなくて」


一瞬、間を置く。


「……女王だった」


すべてを、言った。

隠していた真実。

ずっと抱えてきたもの。

部屋は、静まり返る。

エリスは、わずかに拳を握る。


(……どう思われるだろう)


逃げない。

それでも、不安は消えない。


そして——


クラリスの反応を、待った。

エリスの言葉が、部屋に静かに残る。


——魔族の女王だった。


その事実を前にして。

クラリスは——

驚かなかった。


ただ、静かに微笑んだ。


「……やっぱりね」


その一言に、エリスは目を見開く。


「え……?」


クラリスは、ゆっくりと言葉を続けた。


「前にね

 ルシアンとカイルが来たとき……話してたでしょ?

 十五年前に、魔族の女王が殺されたって」


エリスは、小さく頷く。


「その話を聞いたときにね

 ふと思ったの

 ……あれ?

 エリスがこの家に来た時と、同じ頃じゃない?って」


静かに語られる事実。


「それに……あの力

 普通じゃないって、ずっと思ってた

 だから……もしかして、って」


クラリスは、少しだけ肩をすくめる。


「疑ってた……っていうより

 覚悟してたのかもしれないわね」


そして、エリスをまっすぐに見つめた。


「だから——

 あなたから話を聞いて

 ……納得しちゃった」


その言葉に。

エリスは、言葉を失った。


「ごめんね?」


クラリスが、少しだけ困ったように笑う。


「もしかしたら、もっと驚いてほしかった?」


「……ううん」


エリスは首を横に振る。

そして——

ふっと、力が抜けた。


「……よかった」


心の奥にあった重たいものが、

すっと消えていく。


「本当に……よかった」


クラリスは、そんなエリスを見て、優しく微笑む。


「何があっても変わらないわ

 あなたは、私の娘」


その言葉は、何度でもエリスを救う。




————遠い天界では

白き光に包まれた世界。

静寂の中で、二つの影が並んでいた。

その視線の先には——

地上の光景。


母に抱きしめられる、少女の姿。

アテナは、その様子を見つめながら、静かに呟いた。


「……いいわね」


その声には、ほんのわずかな感情が滲んでいた。


「あの子には……あるのね

 心から支えてくれる存在が」


目を細める。

どこか遠くを見るように。


「私には……なかったもの」


それは、過去の記憶。

勇者として戦い続けた日々。

守るべきものと対立し、

孤独の中で選択を重ねた時間。


「……少し、うらやましい」


素直な言葉だった。

だが同時に——

その瞳には、安堵もあった。


「でも……安心もできる

 あの子なら……折れない」


その言葉を聞いて。

セレネは、静かに微笑んだ。


「ええ

 あの子は、一人じゃないもの」


優しく、確信を込めて。


「だからこそ——」


セレネの視線が、わずかに鋭くなる。


「次に進めるわ」


アテナも、ゆっくりと頷いた。


「ええ

 もう、いい頃合いね」


二人の間で、結論は出ていた。


「境界の子としての役目——

 本格的に、担ってもらう時が来た」


世界の均衡。

人界、魔界、そして天界。

そのすべてを繋ぐ存在。


「あの子なら……受け止めるわ」


アテナの声は、確信に満ちていた。


「きっと、自分の意思で」


セレネは、静かに頷く。


「ええ

 あの子は——選べる子だから」


その言葉と共に。

天界の光が、わずかに揺らいだ。

それは——

新たな運命が、動き出す合図だった。



————一方、ミリアの方は

ミリアは家に戻ると、落ち着いた様子で言った。


「少し、用事があるの」


マリンにそう伝えると、すぐに家を出た。

向かう先は——教会。


(あの力……)


頭から離れない。

エリスの力。

あれは、ただの魔法ではない。


(確か、文献に……)


足早に教会の中へ入り、

そのまま図書室へ向かう。

扉を開けた瞬間——


「……やっぱり」


思わず、小さく呟いた。

そこにはすでに、一人の男がいた。

エノク。


彼もまた、古い文献を手にしていた。


「来ると思っていた」


エノクは顔を上げ、静かに言う。

ミリアも頷いた。


「同じことを考えていたのね」


言葉はそれだけで十分だった。

二人はすぐに、目的を共有する。


「……境界の子」


その単語が、静かに空間に落ちる。

石造りの部屋の中、静かな灯りだけが揺れていた。

重厚な木のテーブルの上には、いくつもの古書が無造作に積まれている。

その一冊を、エノクとミリアは並んで覗き込んでいた。

挿絵(By みてみん)


「……この文字、今の言語じゃないな」


エノクが低く呟く。

指先でなぞる文字列は、かすかに魔力の残滓を帯びていた。


「古代語ですね。しかも……かなり古い系統です」


ミリアはページをめくりながら答える。

その仕草は丁寧で、まるで壊れ物に触れるかのようだった。


ページの間から、かすかに光が漏れる。


「ただの記録じゃない……術式が組まれてる」


エノクの目がわずかに細まる。


「はい。読むというより、“解く”ものですね」


ミリアは静かに頷いた。


しばらく、二人の間に言葉はなかった。

聞こえるのは、紙をめくる音と、遠くで揺れる火の音だけ。


やがてミリアが小さく息を呑む。

やがて——


「……あった」


ミリアが小さく呟く。

二人は同じページを覗き込んだ。

そこに古代語で記されていたのは——


『境界の子

 それは、いずれの世界にも属さぬ存在

 人にあらず、魔にもあらず、神にもあらず

 三界の境に立つ者』


ページをめくる。


『世界の均衡が乱れし時——

 その存在は現れる』


二人の手が、止まる。


「……やはり」


エノクが低く呟く。

ミリアの表情も、硬くなる。


「偶然じゃないわね」


魔族の動き。

内乱の終結。

そして——

エリスの覚醒。

すべてが、繋がる。


「……世界が動いている」


エノクの言葉は、重かった。

ミリアは、静かに目を閉じる。


「あの子は……

 その中心にいる」


誰もが、理解していた。


これは——


ただの出来事ではない。

“始まり”なのだと。


ページをめくる音だけが、静かに響く。

ミリアとエノクは、無言で文献を読み進めていた。


そして——


ある一節で、二人の手が止まる。


「……これは……」


ミリアが、思わず息を呑む。

そこに記されていたのは——

過去の“境界の子”。


——アテナ。


「……やはり、記録が残っていたのね」


エノクが低く呟く。

そのまま、さらに読み進める。


そして——


二人の表情が、固まった。

『その力は、すべてを無に帰す』


『病も、傷も、物も——

 人でさえも』


ページをめくる指が、わずかに震える。


『さらには、起こりし事象すら

 最初から“なかったもの”として書き換える』


静寂。


「……そんな……」


ミリアの声が、かすかに震える。

あまりにも——

現実離れした力。


エノクは、ゆっくりと目を閉じた。


「だが……

 思い当たる節はある」


ミリアも、静かに頷く。

幻覚の消失。

傷の完全回復。

魔物の消滅。


「……一致しているわ」


あの少女が見せた力。

すべてが、この記述と重なる。


「つまり……」


エノクが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「エリスは——」


ミリアが、その続きを口にした。


「“境界の子”そのもの」


二人の間に、重い沈黙が落ちる。

それは、確信だった。

ページの最後には、こう記されていた。


『この力は、人の理を超える

 故に——

 それを持つ者は、人ではないと恐れられる』


ミリアは、その一文から目を逸らせなかった。


「……あの子は

 これを、背負うのね」


エノクは、静かに答える。


「いや……

 すでに背負っている」


それは——


力であり、同時に運命だった。

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月16日18時を予定してます

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