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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第二章:運命の導き ― 新たな歩みの始まり ―

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魔族との遭遇

森は、かつてと何も変わらない静けさを保っていた。

だがその奥に潜む気配は、明らかに“獲物”のものだった。


「……いたな」


低く呟いたのはルシアン。

その視線の先、木々の隙間に――鈍い緑の肌をしたオークの群れが蠢いている。


クラリスは一歩前に出る。

胸の奥に、懐かしい感覚が蘇っていた。


(……この感じ、やっぱり)


隣に立つ仲間たち。

背中を預けられる存在がいるという確信。


「行くよ」


その一言で、全員の空気が揃った。


――次の瞬間。


ヒュンッ、と風を裂く音。

カイルの放った矢が、先頭のオークの喉元を正確に貫く。


「ギャッ――!?」


混乱が広がる前に、ルシアンが詠唱を終えていた。


「――焼き払え、《ファイアボール》」


轟音と共に、炎の塊が群れの中央で炸裂する。

爆炎、悲鳴、焦げる臭い。


オークたちの陣形は、一瞬で崩れた。


「今だ!」


誰が言うでもない。


クラリスは地を蹴る。

腰の剣を抜き放つ動作は、もはや思考すら介していなかった。


(遅い――)


振り下ろされた刃が、一体を両断する。


その横から、もう一つの影――エノクが滑り込んだ。

無駄のない動きで、背後から喉を裂く。


「左、三体!」


「任せろ」


短い言葉だけで通じる。

視線すら交わさない連携。


カイルの追撃の矢が逃げ道を塞ぎ、

ルシアンの炎が後衛を焼き、

前に出たクラリスとエノクが確実に仕留める。


数はいた。だが――


「……終わりだ」


最後の一体が崩れ落ち、森に再び静寂が戻る。

しばしの沈黙。

やがてカイルが肩をすくめて笑った。


「なあ、これ……確認必要だったか?」


「一応、な」


ルシアンが苦笑する。

クラリスは剣についた血を払い、静かに息を吐いた。


「……やっぱりだな」


カイルが弓を下ろす。


「体が覚えてる」


「ええ」


クラリスも軽く息を整えながら頷く。


「まだ、やれるわね」


五人の間に、かつてと変わらない空気が流れる。


——だが。


「……待って」


ミリアが、ふと呟いた。

その表情が、わずかに強張る。


「何か……おかしい」


風が止んでいる。

音が、消えている。


「……囲まれてるな」


ルシアンが低く言う。

すでに気づいていた。


次の瞬間——


空気が、歪んだ。


「気づいたか」


声が、どこからともなく響く。

同時に。

五つの気配が、姿を現した。


前後左右、そして背後。

完全な包囲。


クラリスの目が鋭くなる。


「……何者?」


返答はない。


ただ——


殺気だけが、静かに満ちていく。

セレドが一歩前に出た。


「戦力確認完了」


感情のない声。


「予想以上だが、問題ない」


その一言で。

この戦いが——

“ただの戦闘ではない”ことが確定した。


「リシア」


セレドの短い指示。


「了解」


くすり、と笑う声。


「ファントムフレーム」


次の瞬間——

空間が歪んだ。

視界が、揺らぐ。


「……っ!」


クラリスは一瞬、焦点を失う。

敵の位置が——定まらない。


(どこ……!?)


その“隙”を、ゼルは見逃さなかった。

——消える。

いや、最初からそこにいたかのように。


「……っ!」


クラリスの背後。

振り下ろされる刃。


——ギィンッ!


咄嗟に受け止める。


「速い……!」


だが、完全には見えていない。

感覚で受けた一撃。


「逃がさない」


ノクスが静かに呟く。

地面が隆起する。


「——アースウォール」


背後に巨大な土壁が立ち上がる。

退路、遮断。


「ちっ……!」


ルシアンが舌打ちする。

すぐに詠唱を省略する。


「グランドチェンジ!」


大地が反転するようにうねり、

土壁を内側から破壊した。


だが——


「遅い」


ヴァルクの声。


——ヒュンッ


放たれた矢が、正確に急所を狙う。


「っ!」


エノクが前に出る。


——ガンッ!


盾が衝撃を受け止める。


「ぐ……!」


重い一撃。

ただの矢ではない。


「連携が速すぎる……!」


カイルが周囲を見回す。

位置が掴めない。


幻覚。

奇襲。

射撃。

封鎖。


すべてが、噛み合っている。


「……押されてるな」


ルシアンが低く呟く。

事実だった。

対応はできている。

崩されてはいない。


だが——


「反撃の隙がない……!」


セレドは、少し離れた位置でそれを見ていた。


「……予想以上だが

 問題ない」


冷静な分析。


「このまま圧殺する」


その言葉通り——


戦場の主導権は、完全に敵側にあり

戦況は、確実に傾いていた。


クラリスたちは、踏みとどまっている。

だが——

押されている。


「くっ……!」


クラリスがゼルの連撃を受け止める。

見えていない。

それでも、経験で凌ぐ。

ミリアの補助魔法が、かろうじて命を繋いでいた。


「防御維持!」


その声は冷静だが、余裕はない。

小さな傷。

だが、それが確実に積み重なっていく。


「ルシアン、まだか!」


カイルが叫ぶ。

ルシアンは歯を食いしばる。


「……位置が読めん!」


幻覚。

上級魔法を放てば、この戦況を覆せる。


だが——


「外せば終わりだ……!」


無駄撃ちはできない。

MPも、限界がある。


その時——

ガサッ……

明らかに、別方向。

セレドたちとは違う位置から、音がした。


「……っ!」


クラリスの表情が強張る。


「まずい……!

 増援か……!」


すでに包囲されている。

そこにさらに敵が来れば——

終わる。

緊張が、一気に張り詰める。


——そして。


茂みをかき分けて現れた影。


「……え?」


クラリスの目が、わずかに見開かれる。

そこにいたのは——


「……エリス!?」


そして——


「マリンも……!」


予想外の存在。

敵ではない。

味方。

エリスは、状況を一目で理解した。

周囲の気配。

見えない敵。


そして——


追い詰められているクラリスたち。


「……なるほど」


小さく呟く。

その瞳が、鋭くなる。

マリンも、一歩前に出た。


「……これ、ただ事じゃないね」


セレドは、わずかに視線を向けた。


「……増援か」


だが、その表情は変わらない。


「問題ない」


冷静なまま、判断を下す。


——しかし。


シャドウウォーカーだけは、違った。


(……来たか)


あの時、アビスステルスを見破った少女。


「……標的確認」


その声には、わずかな緊張が混じっていた。



エリスは戦場に立った瞬間、すべてを理解していた。


(……視界が歪んでる)


見えている位置がズレている。

気配と一致しない。


「……幻覚」


一言で見抜く。

そして、迷いはなかった。


「——消えて」


ただ、そう念じる。

次の瞬間——

空間が、静かに“戻った”。


歪みが消える。

位置が一致する。

世界が、正しくなる。


「……え?」


リシアの声が漏れる。

信じられない。


(今の……何?)


自分の魔法は、絶対だった。

認識を操作し、戦場を支配する。


それが——


“なかったことにされた”。


「あり得ない……」


初めての感覚。

動揺。


——その一瞬。


マリンは見逃さなかった。


「そこ!」


右手を振り抜く。

挿絵(By みてみん)


「ウィンドカッター!」


空気が裂ける。

見えない刃が一直線に走る。


「っ——!」


リシアが反応するより早く。


——ザンッ


その体が、斬り裂かれた。

地面に崩れ落ちる。

動かない。

静寂。


「……一人」


マリンが小さく呟く。

ほんの一瞬。

それだけで——

戦況が、覆った。


セレドの目が、わずかに細められる。


「……想定外だな」


初めての誤差。


シャドウウォーカーは、確信する。


(やはり……)


あの少女は——

“例外”だ。



最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月14日18時を予定してます

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