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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第二章:運命の導き ― 新たな歩みの始まり ―

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最初の一歩 ― 力を確かめるために

翌朝。


エリスは、いつも通りに目を覚ました。

窓から差し込む柔らかな光。

聞き慣れた朝の音。


まるで昨日の出来事が、すべて夢だったかのような静けさ。


「……よし」


小さく呟く。

だが、その心はもう違っていた。

クラリスと共に朝食の準備をし、

いつも通りに食卓を囲む。


何気ない会話。

温かい時間。


そして——


食事を終えたあと。

片付けをしながら、エリスは静かに考えていた。


(まずは……)


自分の力。

それを知らなければ、何も始まらない。

すべての片付けが終わる頃には、

もう決意は固まっていた。


「ちょっと出かけてくるね」


何気ない口調で言う。

クラリスは振り向き、優しく微笑んだ。


「気をつけてね」


その一言が、背中を押した。

エリスは家の奥へと向かう。


普段はあまり使わない物置。

そこに、ひっそりと保管されていたものがある。


——クラリスの刀。


かつて冒険者だった頃に使っていたもの。

鞘に収められたままでも、

ただならぬ気配を感じさせる。

エリスはそっと手を伸ばした。


「……借りるね」


誰に言うでもなく、小さく呟く。

そして——

家を出て、森へと向かった。


木々に囲まれた静かな場所。

人の気配はない。

深く息を吸う。


「……ここなら」


ゆっくりと刀を抜く。

その瞬間。

空気が、わずかに変わった。


(……やっぱり)


手に馴染む感覚。

初めて触るはずなのに、違和感がない。


まるで——


ずっと使っていたかのように。


「……来てる」


小さく呟く。

自分の中にある何かが、

確かに呼応している。


一歩、踏み出す。

軽く刀を振る。


その動きは——


思っていたよりも、ずっと鋭かった。


「……っ」


自分でも驚く。

力だけではない。

技。

感覚。


すべてが、自然と動く。


(これが……)


前世の力。

エリスは、ゆっくりと構えを取る。


その瞳には——

かつての女王の面影が、わずかに宿っていた。


さらに次の段階に入るため、

エリスはゆっくりと呼吸を整えた。


そして——


剣先へと、意識を集中させる。


「……っ」


一歩踏み込み、振り抜く。

次の瞬間——

刀身が、淡く白い光を帯びた。


——ズンッ


重い音が響く。

目の前の岩が、まるで豆腐のように滑らかに断ち切られていた。


「……え」


エリスは思わず目を見開く。


(今の……私?)


信じられない切れ味。

だが同時に——


(……分かる)


どこか懐かしい感覚。

体が覚えている。

剣の振り方も。

力の流し方も。

まるで、失っていたものが戻ってくるように。

その時だった。


ガサッ——


森の奥から、複数の気配。


「……っ」


エリスの表情が引き締まる。

現れたのは——

オークの群れ。

醜悪な姿。

だが、その目には知性が宿っている。

集団で狩る魔物。

初心者では到底相手にならない存在。


だが——


「……来るなら」


エリスは、一歩前に出た。

迷いはない。


「……やる」


次の瞬間、地を蹴った。

一体目。

振り抜いた剣が、正確に急所を捉える。

二体目。

間合いを詰める前に、横薙ぎで切り払う。

無駄のない動き。

まるで、長年戦ってきたかのような剣。


(……いける!)


だが——


「……っ」


ふらりと、足元が揺れた。

呼吸が乱れる。


(……体がついてこない)


力は戻っている。

だが、今の体はまだ未熟だ。

その隙を、オークは見逃さない。

咆哮と共に、一直線に突進してくる。


「——っ!」


剣では、間に合わない。

瞬時に判断する。

エリスは左手を前に突き出した。


「……消えろ」


その言葉と共に——

空間が、歪んだ。

オークの体が、輪郭から崩れていく。


肉体ではなく——


存在そのものが削り取られるように。

そして。


——消えた。


静寂が訪れる。

残っていたオークたちも、すでに倒れている。

エリスはその場に立ち尽くした。


「……はぁ……」


大きく息を吐く。

体は重い。

手も震えている。


だが——


「……なんとか、勝った」


小さく呟いた。

その瞳には、達成感と——

わずかな恐れが混じっていた。


(今の力……)


強すぎる。


そして——

まだ、自分で制御しきれていない。


森の中に、静けさが戻っていた。

倒れたオークたちは、すでに形を保っていない。

この世界の魔物は、倒されると肉体を残さない。


代わりに残るのは——魔石。

エリスはしゃがみ込み、一つずつ拾い上げていく。

小さく輝く結晶。

それが、確かに倒した証だった。


だが——


「……」


一瞬、手が止まる。

さっき自分の力で消したオーク。

そこには、何も残っていなかった。

魔石すらも。


(……やっぱり)


“消した”のではない。


——存在そのものを消滅させた。


その事実に、わずかな寒気を覚える。

その時だった。


——気配。


背後ではない。

右手側の木々の奥。


「……っ!」


エリスは一瞬で反応した。

地を蹴り、一直線に駆ける。


そして——


剣を抜いた。


木の陰へと踏み込む。

だが、そこにいたのは——


「……マリン?」


見慣れた少女の姿だった。

エリスはすぐに剣を下ろし、鞘に収める。


「どうして……」


マリンは少し気まずそうに視線を逸らした。


「……エリスが森に向かってるの見えて

 何してるのかなって……」


つまり——


ずっと見ていた。

あの戦いを。

マリンの視線が、エリスへと向く。


「……すごいね」


その声は、小さく震えていた。


「すごすぎるよ……」


本音だった。

圧倒的な強さ。

人とは思えない動き。


そして——


“消した”あの力。

胸の奥に、かすかな感情が生まれる。


——怖い。


今まで感じたことのない種類の感覚。

だが。

目の前にいるのは——


「エリス……だよね?」


いつも一緒にいた友達。

笑って、話して、遊んできた存在。

その姿は、何も変わっていない。

エリスは少しだけ困ったように笑った。


「……うん

 エリスだよ」


その一言で。

マリンの中の何かが、少しだけほどけた。

完全には消えない違和感。


でも——


「……そっか」


小さく頷く。

恐怖は、ゆっくりと薄れていく。

長い時間を共にした記憶が、

それを上書きしていくように。


しばらくの間、

森の中には静かな空気が流れていた。


マリンは、少しだけ視線を落としたまま口を開く。


「……ねえ、エリス」


その声は、いつもより少しだけ弱かった。


「……本当のこと、言ってもいい?」


エリスは黙って頷く。

マリンは一度、小さく息を吸った。


そして——


「……ちょっとだけ

 怖かった」


その言葉は、とても正直だった。

無理に取り繕うこともなく、

逃げることもなく。

ただ、そのままの気持ち。


「すごいって思ったし……

 悪いことにその力を使わないと分かってるけど……」


少しだけ、声が震える。


「でも、さっきのは……

 今までのエリスじゃないみたいで」


言い終えたあと、

マリンは不安そうに顔を上げた。

嫌われたかもしれない。

そう思ったからだ。


だが——

エリスは、怒らなかった。

むしろ、少しだけ安心したように笑った。


「……そっか」


その一言には、受け止める優しさがあった。


(……言ってくれた)


嘘じゃない言葉。

逃げない気持ち。

エリスの中で、何かが決まる。


(私も……)


もう、隠したくない。

親友には。


「……マリン」


真剣な声で呼ぶ。

マリンも、その空気を感じ取る。


「私も……本当のこと言うね」


一瞬だけ、言葉を止める。

逃げることもできた。


でも——


「私……転生者なの」


まっすぐに、伝えた。

マリンの目が大きく開かれる。


「え……?」


驚きは当然だった。

だが、エリスは続ける。


「この世界の人間じゃなくて……

 女神に……ここに転生させたって言われた」


すべては言っていない。

だが、それでも十分に重い真実。

森の中で、二人の間に沈黙が落ちる。


マリンは何も言わなかった。

ただ——

エリスを見つめていた。


目の前にいるのは、

親友。

でも、普通じゃない存在。


「……そっか」


やがて、マリンは小さく呟いた。


「だから、あんな力……」


すべてが繋がる。

そして——


「でもさ」


少しだけ、笑った。


「それでもエリスはエリスでしょ?」


その言葉に。

エリスは、ほんの少しだけ目を見開いた。


——昨日、クラリスが言った言葉と同じだった。




その頃——


人界から遠く離れた場所。

闇に覆われた大地で、

一つの流れが、ようやく決着を迎えようとしていた。

長きに渡る内乱。

反乱軍と、かつての女王を慕う者たちの争い。

その均衡は、ついに崩れた。


「……終わりだ」


低く、冷たい声が響く。

玉座の前に立つ男——

ゼルヴァーク。


その足元には、敗れた者たちの影。


「これで、邪魔者はいなくなった」


かつて魔族の女王に忠誠を誓っていた者たちも、

今やほとんどが討たれ、あるいは屈した。

魔界は、彼の手に落ちつつあった。


「いよいよ、か」


その瞳が、遠くを見据える。

次に向けるべきは——

人間界。


「ディアゼル」


呼びかけに応じ、一人の男が前に出る。

魔族の将軍。

ディアゼル。


「はっ」


片膝をつき、頭を垂れる。


「人間界への侵攻準備を開始しろ」


淡々とした命令。

だが、その内容は世界を揺るがすものだった。


「はっ……すでに準備は整いつつあります」


ディアゼルは顔を上げる。


「まずは情報収集を優先いたします」


ゼルヴァークは、満足げに頷いた。


「よい判断だ

 無駄な損耗は避けろ」


ディアゼルはすぐに指示を出す。


「——シャドウウォーカーを使え」


影に潜み、気配を消す者たち。

偵察に特化した存在。


「目的地は——」


一枚の地図を指でなぞる。


「ノクスヴェール山脈を越えた先

 人界の辺境の町……リンドル」


その名が、静かに告げられる。


「そこを探れ」


命令を受けた影が、一つ。

静かに頷いた。


——シャドウウォーカー。


その存在は、すでに気配すらない。

次の瞬間。

影は、闇に溶けた。


そして——


ノクスヴェール山脈を越え、

人界へと向かう。

その先にあるのが、


——リンドル。


静かで穏やかな町。

だがその平穏に、

確実に影が差し始めていた

最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月10日18時を予定してます

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