騎士団長との密かな協力 ― 二十七人の傭兵と新たな捜査の一歩 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
グラディウス侯爵の野望が明らかになり、王都の裏側では新たな陰謀が動き始めていた。
一方、クラリスとの再会を果たしたシリウス騎士団長も、事件の真相を明らかにするため、行動を開始する。
信頼できる部下を選び、再び冒険者ギルドを訪れるシリウス。
かつての上官であるクラリスとの協力によって、事件はどのように動き出すのだろうか。
第八章の続きをお楽しみください。
王都グランヴェイル、王国騎士団の宿舎。
冒険者ギルドでクラリスたちと別れたシリウスは、宿舎へ戻ると、すぐに信頼できる部下を呼び出すことにした。
今回の事件には、グラディウス侯爵が関わっている可能性がある。
しかも、魔族まで関与しているかもしれないというのだ。
不用意に情報を広めれば、侯爵側にこちらの動きを知られてしまう危険がある。
そのため、シリウスは騎士団の中でも特に信頼できる者だけを選ぶ必要があった。
「……さて、誰に任せるべきか」
シリウスは執務室の椅子に腰掛け、部下たちの顔を思い浮かべた。
実力があるだけでは不十分だ。
口が堅く、命令を忠実に守り、何よりも正義感を持って行動できる者でなければならない。
しばらく考えた後、シリウスは三人の名前を選んだ。
アル、マイク、ミド。
いずれもシリウスが信頼を寄せる騎士たちだった。
「この三人なら問題ないだろう」
シリウスは立ち上がると、部下を呼んで三人を執務室へ集めるよう指示した。
それからしばらくして。
執務室の扉が叩かれた。
「失礼します!」
入ってきたのは、三人の騎士だった。
「アル、マイク、ミド。よく来てくれた」
「騎士団長、何か緊急の任務でしょうか?」
アルが尋ねる。
「ああ。少し厄介な案件だ」
シリウスは三人を見渡した。
「まず、この部屋で聞いたことは、私の許可なく誰にも話してはならない」
三人の表情が引き締まる。
「承知しました」
「実は、ある事件に関わった者たちを引き取る必要がある」
「犯罪者の護送でしょうか?」
マイクが尋ねた。
「そうだ。ただし、普通の犯罪者ではない。ある貴族に雇われていた傭兵たちだ」
「貴族の傭兵……ですか?」
ミドが眉をひそめる。
「詳しい事情は後で説明する。今は私と一緒に冒険者ギルドへ来てほしい」
「冒険者ギルドですか?」
「ああ。そこで傭兵たちを預かっている人物と会う」
シリウスは立ち上がった。
「準備ができたら出発するぞ」
「はっ!」
三人は揃って返事をした。
◇◇◇
冒険者ギルドの訓練所。
ランスに案内され、シリウスたち四人が訓練所へ入ってきた。
そこには、クラリスたちが待っていた。
「クラリスさん、お待たせしました」
シリウスが声を掛ける。
「お帰りなさい、シリウス。思ったより早かったわね」
クラリスが微笑む。
「信頼できる部下を三人連れてきました」
そう言って、シリウスは後ろに控えていた三人を紹介した。
「アル、マイク、ミドです。いずれも私が信頼している部下です」
三人は姿勢を正した。
「アルと申します」
「マイクです」
「ミドと申します」
クラリスは三人へ視線を向けると、軽く微笑んだ。
「初めまして。クラリスよ。よろしくね」
「よろしくお願いいたします!」
三人は揃って頭を下げた。
しかし、その表情には驚きが浮かんでいた。
クラリス。
その名前には聞き覚えがあった。
かつて王国騎士団を率い、『白銀の剣姫』と呼ばれた伝説的な女騎士。
現在の騎士団でも、その名を知らない者はほとんどいない。
アルは思わずシリウスへ視線を向けた。
「騎士団長……もしかして、こちらの方は……」
シリウスは小さく頷いた。
「ああ。お前たちが想像している人物で間違いない」
「や、やはり……!」
マイクが驚きの声を漏らす。
「白銀の剣姫……クラリス様……!」
「まさか、お会いできるとは……」
ミドも感激したように呟いた。
クラリスは少し困ったように微笑んだ。
「そんなに畏まらなくてもいいのよ。もう騎士団を辞めて随分経つんだから」
「い、いえ! 我々にとっては伝説の方ですので!」
アルが慌てて答える。
その様子を見て、シリウスは苦笑した。
「気持ちは分かるが、今は仕事が先だ」
「はっ!」
三人は再び姿勢を正した。
クラリスは、その様子を見ながら小さく笑った。
「ふふっ。シリウス、良い部下たちね」
「ありがとうございます」
シリウスは少し嬉しそうに答えた。
◇◇◇
「それで、クラリスさん。例の傭兵たちの件ですが」
シリウスが本題を切り出した。
「ええ。引き渡す準備はできているわ」
「ありがとうございます。まずは数人ずつ、騎士団の宿舎へ連れていこうと考えています」
クラリスは頷いた。
「そうね。その方が安全だと思うわ」
そして、三人の騎士へ視線を向ける。
「その前に、一つお願いがあるの」
「何でしょうか?」
アルが尋ねた。
「これからあなたたちが見ることは、絶対に他言しないでほしいの」
三人は顔を見合わせた。
「……承知しました」
「騎士として、秘密は厳守いたします」
マイクとミドも頷く。
シリウスも真剣な表情で答えた。
「私からも厳命しておきます。ここで見たことは、誰にも話させません」
「ありがとう」
クラリスは微笑んだ。
「それじゃあ、まず人数を伝えておくわね」
「お願いします」
「捕らえた傭兵は、全部で二十七人よ」
「……二十七人!?」
シリウスが思わず声を上げた。
アル、マイク、ミドも驚きを隠せなかった。
「に、二十七人もですか!?」
「それを、皆さんだけで捕らえたのですか?」
クラリスは何でもないことのように頷いた。
「ええ。地下室へ駆けつけてきた傭兵たちを、全員制圧したの」
「……さすがですね」
シリウスは感心したように息を吐いた。
かつての上官が並外れた実力を持っていることは、誰よりもよく知っている。
それでも、二十七人もの傭兵を全員生け捕りにしたという話には驚かされた。
「ですが、その人数となると、一度に連れていくのは難しいですね」
「そうでしょうね」
クラリスは頷いた。
「まずは三人だけ引き渡すわ。残りは何度かに分けてお願いできるかしら?」
「もちろんです」
シリウスが答える。
「三人なら、私たち四人で十分に護送できます」
「それじゃあ、メルキオラ。お願いできる?」
クラリスが声を掛けた。
「承知しました」
メルキオラは静かに前へ進み出た。
「皆さん、少し驚かれるかもしれませんが、落ち着いて見ていてください」
「……?」
アルたちは不思議そうな顔をした。
メルキオラは片手を前へかざす。
次の瞬間、何もなかった空間に、黒い魔法陣が浮かび上がった。
「なっ……!?」
アルが驚きの声を漏らす。
魔法陣の中心がゆっくりと開き、その奥に暗い空間が広がった。
そして、そこから手足を拘束された三人の男が姿を現した。
「な、何だこれは!」
「ここはどこだ!?」
突然現れた傭兵たちは、状況が理解できずに騒ぎ始めた。
メルキオラは冷静に告げる。
「静かにしてください。これから騎士団へ引き渡します」
「騎士団だと!?」
傭兵たちは顔色を変えた。
一方、シリウスたち四人も、目の前の光景に言葉を失っていた。
「……い、今のは……」
マイクが呆然と呟く。
「何もないところから、人が……」
ミドも目を見開いている。
シリウスも驚きを隠せなかった。
「クラリスさん……これは、いったい……」
クラリスは穏やかに微笑んだ。
「詳しいことは秘密よ。だから、他言しないでほしいとお願いしたの」
「……なるほど」
シリウスは小さく息を吐いた。
そして、すぐに表情を引き締めた。
「アル、マイク、ミド!」
「はっ!」
三人も、その声で我に返った。
「まずは傭兵たちを確保する。驚くのは後だ!」
「承知しました!」
さすがは王国騎士団の騎士たちだった。
驚きこそしたものの、すぐに冷静さを取り戻し、目の前の任務へ意識を切り替えた。
アルが一人目を引き起こし、マイクとミドもそれぞれ傭兵を確保する。
三人の傭兵たちは抵抗しようとしたが、手足を拘束されているため、どうすることもできなかった。
「よし。これで三人だな」
シリウスが確認する。
「ええ。残り二十四人は、こちらで預かっておくわ」
クラリスが答えた。
「助かります。宿舎へ連れていき、厳重に監視させます」
「お願いね」
◇◇◇
傭兵たちの引き渡しを終えたところで、クラリスはメルキオラへ視線を向けた。
「メルキオラ、頼んでいたものは?」
「はい。こちらに用意してあります」
メルキオラは小さな魔道具を取り出した。
それは、離れた場所にいる相手と会話できる通信機だった。
クラリスはそれを受け取ると、シリウスへ差し出した。
「シリウス、これを持っていて」
「これは……?」
「通信機よ。離れた場所にいても、これを使えば連絡が取れるの」
「通信機……ですか?」
シリウスは興味深そうに魔道具を見つめた。
「ええ。メルキオラが作ったものよ」
「私たちが持っている通信機と繋がるようにしてあります」
メルキオラが説明する。
「使い方は簡単です。こちらの部分に魔力を流していただければ、通信ができます」
「なるほど……」
シリウスは通信機を手に取り、慎重に確認した。
「これほど小さな魔道具で、離れた相手と会話できるとは……」
「便利でしょう?」
クラリスが微笑む。
「ええ。騎士団でも、こうしたものがあれば助かりますね」
シリウスは感心したように頷いた。
「次の傭兵の引き渡しが必要になったら、それで連絡してちょうだい」
「分かりました。準備が整い次第、ご連絡します」
「お願いね」
クラリスは頷いた。
「それじゃあ、私たちはそろそろ行くわ」
「どちらへ向かわれるのですか?」
シリウスが尋ねる。
「貧民街を少し見回ってこようと思っているの」
「貧民街……ですか?」
「ええ。今回の事件で行方不明になった人たちは、あの辺りに住んでいたのでしょう?」
シリウスは頷いた。
「そうですね。これまでの失踪事件も、貧民街で多く発生しています」
「だから、何か新しい手掛かりがないか調べてみようと思うの」
「分かりました。ただ、十分にお気をつけください」
「大丈夫よ。私たちなら、そう簡単にやられたりしないわ」
クラリスは軽く微笑んだ。
シリウスも、その言葉に苦笑する。
「……確かに、クラリスさんにその心配は不要かもしれませんね」
「ふふっ。そういうことよ」
クラリスはそう言うと、エリスたちへ声を掛けた。
「それじゃあ、行きましょうか」
「うん!」
エリスが元気よく答える。
マリンも頷き、レオネリアとメルキオラも出発の準備を整えた。
シリウスは、そんなクラリスたちを見送りながら、改めて気を引き締めた。
侯爵邸の地下から救出された七人の若者たち。
そして、捕らえられた二十七人の傭兵たち。
この事件の背後には、まだ明らかになっていない大きな闇が潜んでいる。
「……必ず、真相を明らかにしてみせる」
シリウスは小さく呟いた。
そして、アル、マイク、ミドへ視線を向ける。
「よし。宿舎へ戻るぞ」
「はっ!」
三人は傭兵たちを連れ、シリウスの後に続いた。
一方、クラリスたちは冒険者ギルドを後にし、貧民街へ向かって歩き始めていた。
グラディウス侯爵が新たな行動を起こそうとしていることを、彼女たちはまだ知らない。
そして、その行動が、再び貧民街に危険をもたらそうとしていることも。
王都の裏側で、二つの動きが静かに交差しようとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、シリウス騎士団長が信頼できる部下のアル、マイク、ミドを連れ、クラリスたちとの協力を具体的に進める様子を描きました。
かつて『白銀の剣姫』と呼ばれたクラリスとの出会いに驚く三人の騎士たち。
さらに、二十七人もの傭兵が捕らえられていたことや、メルキオラの異空間魔法を目の当たりにし、驚きの連続となりました。
まずは三人の傭兵を騎士団へ引き渡し、残る二十四人についても通信機を使って連絡を取り合うことになりました。
そしてクラリスたちは、失踪事件の新たな手掛かりを求めて貧民街へ。
次回は、貧民街を見回るクラリスたちの前に現れる者たちに焦点を当てます。
グラディウス侯爵が新たに動かし始めた私兵たち。
貧民街を見回っていたクラリスたちの前に現れたのは、いったい何者なのでしょうか。
そして、その遭遇が事件をどのように動かしていくのでしょうか。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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