↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第八章 王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
161/173

囚われし者たちの解放 ― 侯爵邸地下の救出作戦 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


囚われた若者たちを救出するため、グラディウス侯爵邸の地下へ転移したクラリスたち五人。

そこには、鉄製のケージに閉じ込められ、傷ついた七人の若者たちの姿がありました。

救出を開始しようとする五人でしたが、思わぬ出来事から傭兵たちに侵入を知られてしまいます。

果たして、七人全員を無事に救い出すことができるのでしょうか。


第八章の続きをお楽しみください。

転移魔法の淡い光が消えると、クラリス、レオネリア、メルキオラ、エリス、マリンの五人は、グラディウス侯爵邸の地下室に立っていた。

薄暗い地下室には、壁に取り付けられた魔法灯がいくつか灯されている。

湿った石壁と冷たい床。

そして、その奥には鉄製のケージが並んでいた。


「ここが……」


初めて訪れたエリスは、目の前の光景に言葉を失った。

ケージの中には、若い男女が閉じ込められている。

薄汚れた服を着た者や、床に座り込んでいる者。

中には、横になったまま動こうとしない者もいた。


「ひどい……」


隣にいたマリンも、思わず呟いた。


「本当に人が閉じ込められているなんて……」


クラリスは二人の様子を確認すると、小さく頷いた。


「私たちが調べた時と変わっていないわね」


レオネリアが周囲を見渡す。


「今のところ、近くに傭兵の気配はないわ。ただし、上の階には複数の反応がある」


「分かったわ。まずは七人の救出を優先しましょう」


クラリスの言葉に、エリスが頷いた。


「お母さん、その前に怪我をしている人がいないか確認してもいい?」


「ええ、お願い」


エリスはケージの前へ近づいた。

アビスシャドーによって姿を隠しているため、中にいる人々にはエリスの姿は見えていない。

彼女は一人ずつ、その身体の状態を確認していった。

腕に大きな痣がある青年。

足首が腫れ上がっている少女。

手首に擦り傷が残っている者もいた。

おそらく捕らえられた際に抵抗したのだろう。

さらに奥のケージには、胸を押さえながら苦しそうに呼吸している青年がいた。

エリスはその様子を注意深く観察した。


「……この人、肋骨が折れているみたい」


「本当?」


マリンが心配そうに尋ねる。


「うん。呼吸するたびに痛そうにしている」


ほかにも、足を痛めて立ち上がれない者がいた。

幸い、今すぐ命に関わるような状態の者はいないようだったが、このまま放置するわけにはいかない。


「お母さん、やっぱり怪我人が多いよ」


「そう……。それなら、救出と同時に治療もお願いできる?」


「うん。任せて」


クラリスはメルキオラへ視線を向けた。


「メルキオラ、準備はいい?」


「はい。七人全員を転移させることは可能です」


「それじゃあ、始めましょう」


五人はケージの前に集まった。


「まずは姿を見せて、私たちが助けに来たことを説明するわ」


クラリスの言葉に全員が頷いた。

メルキオラが隠匿魔法を解除する。

アビスシャドーとアビスサイレントの効果が消え、五人の姿が地下室に現れた。

その瞬間だった。


「うわああっ!」


「きゃあああっ!」


ケージの中にいた若者たちが、一斉に悲鳴を上げた。

先ほどまで誰もいなかった場所に、突然五人もの人間が現れたのだ。

驚くのも無理はない。


「ま、魔法!?」


「誰だ、お前たちは!」


「お願い! もう何もしないから!」


一人の少女は怯えたように身体を縮め、青年の一人は鉄格子に背中を押し付けた。

クラリスは慌てて声を掛けた。


「落ち着いて! 私たちはあなたたちを助けに来たの!」


しかし、突然の出来事に混乱した若者たちには、その言葉がすぐには届かなかった。


「助けに……?」


「本当に……?」


エリスも優しく声を掛ける。


「大丈夫です。皆さんをここから連れ出します。怪我も治しますから、安心してください」


その時だった。


「おい! 今の声は何だ!」


地下室へ続く通路から、荒々しい声が響いた。

続いて、金属製の鎧が擦れる音と足音が近づいてくる。


「誰か来るわ!」


レオネリアが振り返った。

現れたのは、剣を腰に下げた二人の傭兵だった。


「なっ……!?」


一人が目を見開く。


「お前ら、何者だ!」


もう一人も剣の柄に手を掛けた。


「どうやってここに入った!」


クラリスは二人の前に立った。


「ここに閉じ込められている人たちを助けに来たのよ」


「何だと!?」


傭兵たちは互いに顔を見合わせた。

そして、一人が胸元から小さな笛を取り出した。


「侵入者だ!」


鋭い笛の音が地下室に響き渡る。


ピィィィィィッ!


「しまった!」


マリンが声を上げた。

笛を吹いた傭兵は、さらに大声で叫んだ。


「地下室に賊が侵入したぞ! 応援を呼べ!」


その声に呼応するように、上の階から慌ただしい足音が響き始めた。


「何事だ!」


「地下だ! 地下室に侵入者がいる!」


「全員、武器を持て!」


複数の男たちが叫ぶ声が聞こえる。

レオネリアは通路の奥へ視線を向けた。


「かなりの人数が向かってくるわね」


クラリスはすぐに判断した。


「メルキオラ、七人を先に逃がして!」


「分かりました」


「エリス、怪我人の治療をお願い。マリンはケージを開けるのを手伝って!」


「うん!」


「はい!」


エリスはすぐに肋骨を折っている青年の前へ向かった。


「少しだけじっとしていてくださいね」


青年が不安そうにエリスを見上げる。


「な、何を……?」


「怪我を治しますから、安心してください」


エリスは青年の胸元へそっと手をかざした。


そして、小さく呟く。


「――元に戻って」


その瞬間、淡い光が青年の身体を包み込んだ。

境界の子の力が働き、折れていた肋骨が怪我をする前の状態へと戻っていく。

やがて光が消えると、青年は驚いたように目を見開いた。


「あ、あれ……?」


恐る恐る胸に触れる。


「痛く……ない?」


先ほどまで呼吸するだけで激痛が走っていた胸が、嘘のように軽くなっていた。


「すごい……。本当に治った……」


「もう大丈夫ですよ」


エリスは微笑むと、続いて足を痛めていた少女の前へ移動した。


「あなたの足も治しますね」


少女が小さく頷く。

エリスは腫れ上がった足首へ手をかざした。


「――治って」


再び淡い光が広がり、少女の足首は瞬く間に元の状態へ戻った。


「えっ……痛くない!」


少女は驚きながら、自分の足を動かしてみせた。


「ありがとうございます!」


「どういたしまして。もう大丈夫ですよ」


エリスは優しく微笑んだ。

その間に、レオネリアがケージの錠前を確認していた。


「こんなもの、わざわざ鍵を探す必要もないわね」


剣を抜くと、錠前を一閃する。

ガキンッ!

金属音とともに錠前が砕け落ちた。


「開いたわ。順番に出てきなさい」


マリンも別のケージの扉を開け、若者たちを誘導する。


「慌てなくて大丈夫です。こちらへ来てください!」


七人は戸惑いながらも、次々とケージから出てきた。

その頃、通路では最初の二人の傭兵が剣を抜いていた。


「貴様ら! 勝手な真似をするな!」


一人がクラリスへ斬りかかる。


しかし――

キィンッ!

クラリスは軽く剣を振り、相手の攻撃を弾いた。


「悪いけど、今はあなたたちに構っている暇はないの」


次の瞬間、剣の柄で傭兵の腹部を打つ。


「ぐはっ!」


傭兵はその場に崩れ落ちた。

もう一人もレオネリアへ向かおうとしたが、彼女の動きを捉えることすらできなかった。


「遅いわね」


一瞬で間合いを詰めたレオネリアが、傭兵の剣を弾き飛ばす。

続けて首筋へ手刀を叩き込み、男を気絶させた。

二人の傭兵が倒れるまで、ほんの数秒だった。


「お母さん、治療が終わったよ!」


エリスが声を上げた。


「こっちも全員、ケージから出られました!」


マリンも報告する。

七人は互いに寄り添うようにして、メルキオラの周囲に集まっていた。

クラリスは頷いた。


「メルキオラ、お願い!」


「はい。皆さん、私の近くから離れないでください」


メルキオラが七人へ声を掛ける。


「これから安全な場所へ移動します。少し驚くかもしれませんが、心配はいりません」


「ど、どこへ……?」


一人の青年が不安そうに尋ねた。


「冒険者ギルドの訓練所です。そこで皆さんを保護してもらいます」


「冒険者ギルド……?」


「はい。ギルドマスターにも話は通してあります」


その説明を聞き、若者たちの表情が少しだけ和らいだ。

メルキオラは全員が揃っていることを確認した。


「それでは、行きます」


足元に淡い光が広がる。


「――転移」


次の瞬間、

メルキオラと七人の若者たちは、地下室から姿を消した。


          ◇◇◇


「これで七人は無事に避難できたわね」


クラリスが安堵の息を吐いた。


「ええ。あとは私たちだけね」


レオネリアが剣を構え直す。

その時、通路の奥から再び足音が響いた。

今度は先ほどの二人とは比べものにならない人数だった。


「いたぞ!」


「侵入者だ!」


「囲め! 逃がすな!」


武装した傭兵たちが次々と地下室へなだれ込んできた。

剣や槍を構えた男たちは、四人の姿を確認すると、一斉に身構えた。


「女が四人だと?」


「たった四人でここへ侵入したのか?」


一人の傭兵が嘲るように笑った。


「ずいぶん舐められたものだな」


クラリスは静かに剣を構えた。


「レオネリア、エリス、マリン。なるべく殺さずに制圧しましょう」


「ええ。分かったわ」


「うん!」


「はい!」


四人はそれぞれ頷いた。

傭兵たちは、そんな彼女たちの態度に苛立ったようだった。


「ふざけるな!」


「やれ!」


数人の傭兵が一斉に襲いかかってきた。

しかし、その実力差はあまりにも大きかった。

最初に動いたのはクラリスだった。

正面から振り下ろされた剣を受け流し、そのまま相手の懐へ踏み込む。


「はっ!」


剣の柄で顎を打ち抜くと、傭兵は声も上げられずに倒れた。

続けて迫ってきた男の足を払い、床へ転がす。


「ぐあっ!」


一方、レオネリアは三人の傭兵を相手にしていた。


「このっ!」


左右から振り下ろされる剣。


しかし、彼女は軽く身体をひねるだけで攻撃をかわした。


「その程度なの?」


レオネリアの剣が閃く。

一人の剣が宙を舞い、もう一人は足を払われて転倒した。

最後の一人も、剣の柄で腹部を打たれてその場に崩れ落ちる。


「ば、馬鹿な……!」


後方にいた傭兵が後ずさった。

その隣では、エリスが襲いかかってきた男の剣を受け止めていた。


「くそっ! 何なんだ、この娘は!」


男は力任せに剣を押し込もうとする。

しかし、エリスの剣はびくともしない。


「もう抵抗しないでください!」


エリスは相手の剣を弾くと、素早く踏み込んだ。

そして、剣の柄で男のみぞおちを打つ。


「ぐっ……!」


男は膝から崩れ落ちた。

その横では、マリンが魔法を発動していた。


「――ウィンドバインド!」


風が渦を巻き、傭兵たちの手足を拘束する。


「な、何だこれは!」


「動けない!」


必死に身体を動かそうとする傭兵たちだったが、風の拘束から逃れることはできなかった。


「そのまま大人しくしていてください!」


マリンが声を掛ける。

しかし、後方にいた傭兵の一人が槍を構えた。


「魔法使いから倒せ!」


槍を突き出そうとした瞬間――


「させないわ!」


クラリスが横から踏み込み、槍を弾き飛ばした。


「ぐあっ!」


続く一撃で男は床に倒れ込む。

その後も傭兵たちは次々と襲いかかってきた。

しかし、クラリスとレオネリアの剣技を突破できる者はいない。

エリスも二人に劣らぬ動きで敵を制圧し、マリンは風魔法で逃げ道を塞ぎながら傭兵たちを拘束していった。


やがて――


「ま、待て!」


最後まで立っていた傭兵が、震える声を上げた。

周囲には、すでに仲間たちが倒れている。

剣を失った者。

風魔法で拘束された者。

気絶して動かない者。

地下室へ駆けつけた傭兵たちは、ほとんど抵抗らしい抵抗もできずに制圧されていた。


「こ、降参する!」


男は慌てて剣を床に落とした。

クラリスはその様子を確認すると、静かに剣を下ろした。


「最初からそうしてくれれば良かったのに」


レオネリアも剣を収める。


「思ったより早く終わったわね」


「うん。みんな無事で良かった」


エリスが答えた。

マリンは拘束した傭兵たちを確認しながら、ほっと息を吐いた。


「これで地下室は落ち着きましたね」


クラリスは周囲を見渡した。

鉄製のケージはすべて空になっている。

先ほどまで閉じ込められていた七人の若者たちは、メルキオラによって安全な場所へ運ばれた。

そして、地下室へ駆けつけた傭兵たちも制圧した。


「ええ。ひとまず、七人の救出は成功ね」


クラリスは静かに頷いた。

しかし、ここはまだグラディウス侯爵邸の地下。

失踪事件の全容も、侯爵が何を企んでいるのかも分かっていない。

さらに、メルキオラが発見した転移魔法の痕跡も気になるところだった。

クラリスは地下室の奥へ視線を向けた。


「さて……」


彼女の表情が引き締まる。


「ここから先、どう動くか考えないといけないわね」


レオネリア、エリス、マリンの三人も、静かに頷いた。

七人の救出には成功した。

しかし、グラディウス侯爵邸に隠された謎は、まだ何一つ解き明かされていなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


グラディウス侯爵邸の地下に囚われていた七人の若者たち。

エリスの力によって怪我人は治療され、メルキオラの転移魔法によって無事に救出することができました。

さらに、駆けつけた傭兵たちもクラリスたちによって制圧され、救出作戦はひとまず成功を収めました。

しかし、失踪事件の全容や、グラディウス侯爵と魔族との関係は、いまだ謎に包まれています。


次回は、救出した七人をシリウス騎士団長に引き合わせることに。

七人の証言から、失踪事件の真相に迫る手掛かりは得られるのでしょうか。

そして、シリウス騎士団長はこの事件にどう動くのか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、10月19日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[[魔族の女王が転生したら聖女になっていた>https://ncode.syosetu.com/n5658ly/]] [[作者のX>https://x.com/shirokamieru?s=11]]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。