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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第八章 王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―

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救出への決意 ― 五人に託された希望 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


グラディウス侯爵邸の地下で、囚われた若者たちを発見したクラリスたち。

魔族の関与も疑われる中、仲間たちと情報を共有し、救出に向けた準備を進めていきます。

さらに、シリウス騎士団長への協力要請を巡り、アイリーナ王女とセレフィーナにも相談することに。

果たして、救出作戦は無事に進められるのでしょうか。


第八章の続きをお楽しみください。

クラリス、レオネリア、メルキオラの三人は、冒険者ギルドでの用事を終えると、馬車の異空間へ戻ってきた。

リビングでは、ルシアンやエリスたちが思い思いに過ごしていた。


「お母さん、お帰りなさい!」


クラリスの姿に気づいたエリスが声を掛ける。


「ただいま、エリス」


クラリスは微笑んで答えた。


「ランスさんとの話はどうだったの?」


「ええ。協力してもらえることになったわ。それと、失踪事件について大きな進展があったの」


その言葉に、ルシアンが顔を上げた。


「何か分かったのか?」


「ええ。みんなにも聞いてもらいたいから、一度集まってもらえるかしら?」


「分かった」


ルシアンが頷き、ほかの仲間たちにも声を掛けた。

やがて仲間たちがリビングに集まると、クラリスは侯爵邸への潜入について説明を始めた。


「実は、グラディウス侯爵の屋敷に潜入してきたの」


「侯爵邸に?」


ルシアンが驚いたように聞き返す。


「ええ。ランスから、あの屋敷には不審な馬車の出入りが多いと聞いていたでしょう? それで実際に調べてみたのよ」


クラリスは少し表情を引き締めた。


「屋敷の地下で、若い男女が鉄製のケージに閉じ込められているのを発見したわ」


「えっ!?」


エリスが思わず声を上げた。


「それって、行方不明になっていた人たちなの?」


「まだ本人たちに確認したわけじゃないから断定はできないけど、失踪事件と関係している可能性は高いと思うの」


「まさか、侯爵の屋敷にそんな場所があるとはな……」


ルシアンは険しい表情を浮かべた。


「それで、捕らわれている人たちは?」


「まだ侯爵邸の地下にいるわ。救出するだけなら、私たち三人でも十分に対応できると思うの」


クラリスが答えた。


「ただ、少し気になることが見つかったのよ」


「気になること?」


「ええ。メルキオラ、説明してもらえる?」


クラリスに促され、メルキオラが口を開いた。


「侯爵邸の地下室で、転移魔法が使われた痕跡を発見しました」


「転移魔法だと……?」


ルシアンの表情が険しくなる。


「はい。誰が使ったのかまでは分かりませんが、魔族が関わっている可能性があります」


「なるほど……。それで一度戻ってきたわけか」


ルシアンは腕を組んだ。


「そういうことよ」


クラリスが頷く。


「捕らわれている人たちを助け出すこと自体は難しくないと思うわ。でも、もし魔族が現れたり、予想外の事態が起きたりしたら、三人だけでは対応が難しくなるかもしれないでしょう?」


レオネリアも頷いた。


「特にメルキオラには、救出した人たちを転移魔法で運んでもらう必要があるわ。その間に敵が現れた場合も考えておきたいの」


「確かにな」


ルシアンは納得したように頷いた。


「相手が魔族なら、どんな手を使ってくるか分からない。救出する人たちの安全を考えても、もう少し戦力を増やした方がいいだろう」


「ええ。だから、みんなと相談してから動こうと思ったの」


クラリスは仲間たちを見回した。

すると、エリスが手を挙げた。


「それなら、私も行くよ」


「エリス?」


クラリスが娘を見る。


「魔族が関わっているなら、私もいた方がいいと思う。それに、捕まっている人たちの中に怪我をしている人がいるかもしれないでしょう?」


「そうね……」


クラリスは考え込んだ。


エリスなら、万が一強力な魔族が現れたとしても対応できる。

さらに、怪我人がいた場合には治療もできる。


「私も行きたいです!」


今度はマリンが声を上げた。


「エリスだけじゃなくて、私もいた方がいいと思います」


「マリンも?」


「はい。魔法で援護もできますし、救出する人たちを守ることもできますから」


ルシアンは二人を見た。


「エリスとマリンか……」


しばらく考えた後、頷いた。


「いいんじゃないか。二人とも十分な実力があるし、クラリスたちとの連携にも慣れている」


「そうね」


クラリスも同意した。


「それなら、今回は五人で行動しましょう」


「分かった!」


エリスが嬉しそうに頷く。


「頑張ります!」


マリンも笑顔を見せた。

そこで、エリスが腕輪へ視線を落とした。


「セラはどうする?」


腕輪から、セラの声が念話で返ってくる。


『僕も行こうか?』


エリスはクラリスを見た。

クラリスは少し考えてから答える。


「セラには、ここに残ってもらいたいの」


『ここに?』


「ええ。アイリーナ王女の護衛をお願いしたいのよ」


ルシアンも頷いた。


「王女の居場所はまだ知られていないはずだが、万が一ということもある。俺たちも残るが、セラがいてくれれば心強い」


『なるほどね。それなら任せて!』


セラが元気よく答えた。


「ありがとう、セラ」


エリスが微笑む。

こうして、侯爵邸へ向かうのはクラリス、レオネリア、メルキオラ、エリス、マリンの五人に決まった。


          ◇◇◇


「それと、もう一つ相談したいことがあるの」


クラリスが言った。


「何だ?」


ルシアンが尋ねる。


「ランスが、今回の件をシリウス騎士団長に直接相談すると言っていたのよ」


「シリウス騎士団長?」


ルシアンが聞き返した。


「ええ。私が騎士団にいた頃から知っている人よ」


「なるほど。クラリスの昔の知り合いか」


「そうよ。昔のシリウスなら、間違いなく信頼できる人物だったわ」


クラリスは頷いた。


「でも、私が騎士団を離れてから随分と経っているでしょう? 今も昔と変わらず信頼できる人物なのか、そこが少し気になるのよ」


「なるほどな」


ルシアンは腕を組んだ。


「長い年月が経てば、人の考え方や付き合う相手も変わることがあるからな」


「ええ。まして今回は有力貴族が関わっている可能性があるもの。慎重に判断したいの」


「だったら、アイリーナ王女とセレフィーナ夫人に確認してみたらどうだ?」


ルシアンが提案した。


「二人なら、今のシリウス騎士団長についても詳しいだろう」


「そうね。それがいいわ」


クラリスは頷いた。


「まずはアイリーナ王女に来ていただきましょう」


          ◇◇◇


しばらくして、アイリーナがリビングへやってきた。


「クラリスさん、お話があると聞きましたが……」


「はい。少しお伺いしたいことがありまして」


クラリスは丁寧に答えた。


「実は、セレフィーにも相談したいことがあるのですが、通信機で連絡を取ってもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


アイリーナが頷いた。

メルキオラが通信機を用意し、セレフィーナへ連絡を取った。

ほどなくして通信が繋がった。


『あら、クラリス! どうしたの?』


聞き慣れたセレフィーナの明るい声が響く。


「ごめんね、セレフィー。突然連絡しちゃって」


『いいのよ。それで、何かあったの?』


「ええ。ちょっと相談したいことがあるの」


『クラリスから相談なんて珍しいわね。もちろんいいわよ』


「ありがとう。それと、今はアイリーナ王女もご一緒なの」


『あら、アイルもいるの?』


「セレフィーナお姉様、お久しぶりです」


アイリーナが通信機へ声を掛けた。


『アイル! 元気にしている?』


「はい。皆さんのおかげで、不自由なく過ごしています」


『それなら良かったわ。心配していたのよ』


アイリーナは嬉しそうに微笑んだ。

二人の短いやり取りが終わると、クラリスが本題を切り出した。


「それでね、セレフィー。実は王都で起きている失踪事件について、少し分かったことがあるの」


クラリスは貧民街で起きている失踪事件について説明した。

三か月ほどで、およそ五十人もの若者が姿を消していること。

そして、グラディウス侯爵の屋敷の地下で、若い男女がケージに閉じ込められているのを発見したこと。


「そんなことが……」


アイリーナの表情が曇った。

通信機の向こうでも、セレフィーナが息を呑む気配がした。


『王都でそんな事件が起きているなんて……』


「それだけではないんです」


クラリスはアイリーナへ視線を向け、少し表情を引き締めた。


「侯爵邸の地下室で、魔族特有の魔法の痕跡が見つかりました」


「魔族……ですか?」


アイリーナが驚いたように聞き返した。

通信機の向こうからも、セレフィーナの驚く声が聞こえてきた。


『まさか、王都にまで魔族の手が伸びているというの?』


「まだ断定はできないわ。ただ、魔族が関わっている可能性は十分にあると思うの」


クラリスはセレフィーナに答えると、アイリーナへ視線を戻した。


「そのため、今回は私とレオネリア、メルキオラに加えて、エリスとマリンにも同行してもらうことにしました」


「エリスさんたちも?」


「はい。万が一、魔族が現れた場合にも対応できるよう、五人で行動する予定です」


アイリーナはエリスたちを見た。


「どうか、お気をつけください」


「はい。無理はしませんから」


エリスが丁寧に答えた。

マリンも頷く。


「必ずみんなで戻ってきます」


          ◇◇◇


「それで、ここからが相談なんだけど……」


クラリスは通信機へ向かって話を続けた。


「ランスが今回の件を、シリウス騎士団長に直接相談すると言っているの」


『シリウス騎士団長に?』


セレフィーナが聞き返す。


「ええ。私は昔からシリウスを知っているし、信頼できる人物だと思っているわ。でも、最近の事情までは分からないの」


クラリスはアイリーナを見る。


「王女殿下からご覧になって、シリウス騎士団長は信頼できる方でしょうか?」


アイリーナは迷うことなく頷いた。


「はい。シリウス騎士団長は、私も信頼している方です」


『私も同じ意見よ』


セレフィーナが続けた。


『シリウス騎士団長なら、今回のような事件でも真剣に対応してくれると思うわ』


「そう。それなら安心ね」


クラリスは小さく息を吐いた。


「もう一つ聞きたいんだけど、セレフィーはアルベルト・グラディウス侯爵について何か知っている?」


その名前を聞いた途端、セレフィーナの声が変わった。


『グラディウス侯爵? あの侯爵が関わっているの?』


「まだ確かな証拠があるわけではないけど、屋敷の地下に人が捕らわれていたのは事実よ」


クラリスが答える。


『グラディウス侯爵は、反王政派の貴族として知られているわ』


「反王政派……」


クラリスが呟く。

アイリーナも口を開いた。


「はい。グラディウス侯爵は、王家に対して批判的な立場を取っている貴族の一人です」


「そうなのね……」


クラリスは考え込んだ。

王都へ向かう途中で起きた、アイリーナ王女への襲撃事件。

多数の襲撃者が王女の馬車を襲い、その命を奪おうとした。

いまだに黒幕は分かっていない。

そして今回、反王政派の侯爵の屋敷で、魔族の関与を疑わせる痕跡が発見された。

もちろん、二つの事件が繋がっている証拠はない。

しかし、無関係だと決めつけることもできなかった。


「……ひょっとすると、王女襲撃にも関係している可能性があるわね」


クラリスが静かに言った。

アイリーナの表情が強張る。


「私を襲った者たちと、グラディウス侯爵が……?」


「まだ分かりません。あくまで可能性の話です」


クラリスはすぐに付け加えた。


『でも、調べる必要はありそうね』


セレフィーナが言った。


「ええ。それで、二人に確認しておきたいことがあるの」


クラリスは少し声を落とした。


「もし今回の事件を調べていく中で、王女襲撃との繋がりが見つかった場合、シリウス騎士団長にどこまで話していいか、確認しておきたいのよ」


アイリーナは真剣な表情でクラリスを見た。


「私が生きていることも、ということですか?」


「はい」


クラリスは頷いた。


「今のところ、王女殿下がご無事だということは秘密にしています。でも、捜査を進めるうえで、シリウス騎士団長に事情を説明する必要が出てくるかもしれません」


『そうね……』


通信機の向こうで、セレフィーナが少し考え込んだ。

やがて、静かに答えた。


『シリウス騎士団長なら、必要な場合は話しても構わないと思うわ』


アイリーナも頷いた。


「私も同じ考えです。シリウス騎士団長なら、事情を理解して協力してくださると思います」


「分かりました」


クラリスはアイリーナに頷くと、通信機へ視線を戻した。


「もちろん、最初からすべてを話すつもりはないわ。まずは失踪事件の対応を優先するつもりよ」


『ええ。それがいいと思うわ』


セレフィーナが答えた。


「王女襲撃との関係が明らかになって、どうしても必要になった時だけ、シリウスに事情を説明することにするわね」


「はい。お願いします」


アイリーナが頷いた。

こうして、シリウス騎士団長への情報共有についても方針が決まった。

クラリスは二人に礼を伝えると、セレフィーナとの通信を終えた。


          ◇◇◇


「さて、これで確認しておきたいことは全部済んだわね」


クラリスが仲間たちを見回した。

ルシアンが頷く。


「ああ。あとは救出を実行するだけだな」


「ええ」


「転移先の訓練所は確保できている。ランスも協力してくれる。それに、こちらにはメルキオラの転移魔法がある」


ルシアンは五人を見た。


「ただし、何が起こるか分からない。くれぐれも無理はするなよ」


「分かっているわ」


クラリスが答えた。

エリスとマリンも頷く。


「お母さん、私たちも頑張るから」


「はい。捕まっている人たちを助けましょう」


「頼りにしているわよ、二人とも」


クラリスは微笑んだ。

レオネリアが立ち上がる。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」


「そうね」


メルキオラも席を立った。


「まずは隠匿魔法を掛けます」


五人はリビングの少し広い場所へ集まった。

メルキオラが魔力を集中させる。


「――アビスシャドー」


五人の身体を薄い闇が包み込んだ。

一瞬後、その闇が消える。

魔法の対象になった五人は互いの姿を認識できるが、周囲の者からは見えない状態になった。

続けて、メルキオラがもう一つの魔法を発動する。


「――アビスサイレント」


これで足音や衣服の擦れる音も、周囲には聞こえなくなった。


「これで準備は整いました」


メルキオラが言う。

クラリスは五人を見回した。


「みんな、準備はいい?」


「うん!」


エリスが頷く。


「いつでも大丈夫です!」


マリンも答えた。


「問題ないわ」


レオネリアが続く。

メルキオラも静かに頷いた。

クラリスは改めてルシアンたちを見る。


「それじゃあ、行ってくるわね」


「ああ。気をつけてな」


ルシアンが答えた。


「こちらのことは任せてくれ」


カイルも頷く。


「王女殿下のことは、私たちが守るわ」


ミリアが微笑んだ。


『僕もいるから安心して!』


セラの声がエリスの頭に響いた。


「うん。お願いね、セラ」


エリスは腕輪にそっと触れた。

クラリスは一度深く息を吸うと、メルキオラへ視線を向けた。


「お願い」


「はい」


メルキオラは五人が揃っていることを確認すると、転移魔法を発動した。

淡い光が五人を包み込む。

そして、次の瞬間、

クラリス、レオネリア、メルキオラ、エリス、マリンの五人は、馬車の異空間から姿を消した。

向かった先は、グラディウス侯爵邸の地下。

鉄製のケージに閉じ込められた若者たちを救い出すため、いよいよ五人による救出作戦が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


仲間たちとの相談を終え、いよいよグラディウス侯爵邸へ向かったクラリス、レオネリア、メルキオラ、エリス、マリンの五人。

救出先となる冒険者ギルドの訓練所も確保し、準備は整いました。

しかし、侯爵邸には魔族が関わっている可能性もあり、何が待ち受けているのか分かりません。


次回、いよいよ囚われた若者たちの救出作戦が始まります。

果たして、五人は全員を無事に救い出すことができるのでしょうか?


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、10月16日18時を予定してます

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