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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第八章 王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―

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広がる情報の糸 ― 王都に伸びる二つの手掛かり ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


エレノアとの再会を果たしたアイリーナ。

長く互いを案じていた二人にとって、それは待ち望んでいた再会となりました。

そしてクラリスは、ランスとエレノアにこれまでの経緯と、自分たちが王都へやって来た本当の目的を明かします。

姿の見えない敵を追うため、クラリスたちは新たな一歩を踏み出します。


第八章の続きをお楽しみください。

「ばあや……心配をおかけしました」


アイリーナの言葉を聞いた瞬間、エレノアの瞳から再び涙が溢れた。


「アイル王女……本当に……本当にご無事だったのですね……」


「はい」


アイリーナも目に涙を浮かべながら頷く。

エレノアは震える手を伸ばし、アイリーナの手をそっと握った。

その温もりを確かめるように、両手で包み込む。


「よかった……」


それ以上、言葉が続かなかった。

王都では、アイリーナ王女が亡くなったという噂が流れている。

王城に問い合わせても、何も教えてもらえなかった。

生きているのか。

それとも、本当に亡くなってしまったのか?

分からないまま、エレノアはずっと心配し続けていた。

そのアイリーナが今、自分の目の前にいる。


「ばあや……」


「はい……」


「本当に、ご心配をおかけしました」


「いいのです……」


エレノアは涙を拭う。


「こうして、もう一度お顔を見ることができただけで……」


少し離れたところでは、ランスが二人の再会を黙って見守っていた。

クラリスも、レオネリアも、メルキオラも口を挟まない。

アランも静かに二人を見つめている。

しばらくして、エレノアが少し落ち着いたところで、クラリスが声を掛けた。


「エレノアさん」


「はい」


「少し、お話ししておきたいことがあります」


エレノアはアイリーナの手を握ったまま、クラリスを見る。


「今回、何があったのか。そして、どうしてアイリーナ様が今も王城へ戻らず、私たちと一緒にいるのか」


ランスも表情を引き締めた。


「俺も聞いていいんだな?」


「ええ。そのために、あなたとエレノアさんだけに話を留めてほしいとお願いしたの」


クラリスは二人を見回した。


「これから話すことも、すべて他言無用でお願い」


「ああ」


「もちろんです」


二人の返事を確認すると、クラリスはこれまでの経緯を話し始めた。

アイリーナたちが王都へ向かっていたこと。

その途中で突然、武装した集団から襲撃を受けたこと。


そして――


「襲撃者は、五十人以上いたわ」


「五十人以上!?」


ランスが思わず声を上げた。

エレノアも目を見開く。


「そんなに……」


「ええ」


クラリスが頷いた。

ランスの表情が険しくなる。

数人や十数人ではない。

五十人を超える人数を動員して王女を襲ったのだ。

それだけでも、単なる盗賊による偶発的な襲撃とは考えにくい。


「それで……よく無事だったな」


ランスはアイリーナを見る。


「護衛がいたとはいえ、五十人以上となると……」


「我々だけでは、どうなっていたか分かりません」


そう答えたのはアランだった。

ランスの視線がアランへ向く。

アランはクラリスたちを見る。


「殿下がこうして無事でいられるのは、クラリスさんたちのおかげです」


「クラリスたちの?」


「はい。襲撃者たちは、クラリスさんとその仲間たちが制圧してくださいました」


ランスはゆっくりとクラリスを見る。

そして、口元に笑みを浮かべた。


「なるほどな」


「何よ?」


「いや」


ランスは懐かしそうに笑う。


「やっぱり『白銀の剣姫』は健在ってことだな」


クラリスは僅かに眉を寄せた。


「だから、その呼び方はもう昔の話だって言ってるでしょう?」


「五十人以上の襲撃者を制圧しておいて、よく言う」


「私一人でやったわけじゃないわよ」


「それでも十分すごいだろ」


クラリスは小さく息を吐いた。


「それに、今は私よりエリスたちの方が強いわ」


「エリス?」


聞き慣れない名前に、ランスが首を傾げる。


「私の娘よ」


「娘?」


「あら、昨日話したでしょう? 今は娘も同じパーティにいるって」


「ああ、そうだったな」


ランスは思い出したように頷いた。


「お前の娘も襲撃者と戦ったのか?」


「ええ」


クラリスはレオネリアとメルキオラへ視線を向ける。


「ここにいる二人も含めて、今の仲間たちはかなり強いわ。今回だって、私だけの力でどうにかしたわけじゃない」


ランスの視線がレオネリアへ向き、続いてメルキオラへ移った。

昨日から気にはなっていた二人だった。

クラリスと共に王都へ入り、極秘の話にも同席している。

それだけでも、クラリスが二人を相当信頼していることは分かる。


「二人も相当な腕なのか?」


ランスが尋ねる。

レオネリアはクラリスを一度見た後、平然と答えた。


「少なくとも、足手まといになるつもりはないわ」


メルキオラも小さく微笑む。


「ですが、エリスさんの方が私たちより強いですよ」


「……クラリスの娘が?」


「ええ」


レオネリアも迷わず頷いた。


「エリスさんの方が強いわ」


二人にとっては、考えるまでもない答えだった。

エリスの本当の力を知っている二人からすれば、当然の評価でもある。

しかし、その事情を知らないランスにとっては違った。

かつて白銀の剣姫と呼ばれたクラリス。

そのクラリス自身が、自分より娘たちの方が強いと言う。

さらに、目の前の二人まで揃ってクラリスの娘の方が強いと言い切った。


「……随分すごい娘みたいだな」


「まあね」


クラリスは少しだけ誇らしそうに笑った。


「一度会ってみたいもんだ」


「そのうち機会があればね」


クラリスはそれ以上、エリスについて詳しく話そうとはしなかった。

ランスも無理には聞かない。

今、話すべきことは別にある。

クラリスの表情が再び真剣なものへ変わった。


「それで、ここからが私たちが王都へ来た本当の理由よ」


ランスとエレノアがクラリスを見る。


「本当の理由?」


「ええ」


クラリスはアイリーナを見る。


「アイリーナ様が生きているからといって、このまますぐ王城へ戻っていただくわけにはいかないの」


ランスの眉が動いた。


「襲撃した連中がいるからか?」


「そういうこと」


クラリスが頷く。


「五十人以上もの人間を使って、アイリーナ様を襲わせた者がいる」


その者が誰なのか。

何を目的としていたのか。

そして、王都の中にどれほど協力者がいるのか。

まだ何も分かっていない。


「もし今、アイリーナ様が王城へ戻ったら――」


クラリスは一度言葉を切る。


「生きていることが相手に知られる」


ランスの表情が険しくなる。


「また狙われる可能性があるってことか」


「ええ」


アランも頷いた。


「我々も同じ考えです」


アイリーナも静かに話を聞いている。


「だから、私たちはアイリーナ様を安全な場所で保護したまま、先に王都へ来たの」


クラリスはレオネリアとメルキオラを見る。


「私たち三人で王都の状況を調べるためにね」


「なるほど……」


ランスはしばらく考え込んだ。

これでクラリスたちが三人だけで先に王都へ来た理由も理解できた。

単なる冒険者としての滞在ではない。

アイリーナを襲った者の正体を探るための先行調査。

だからこそ、クラリスたちは自分たちの動きを極力目立たせたくなかったのだ。

クラリスはランスとエレノアを順番に見る。


「それで、二人にお願いがあるの」


「何だ?」


ランスがすぐに反応する。


「できれば、私たちに協力してほしい」


エレノアがクラリスを見る。


「アイル王女のために、ということですね?」


「はい」


エレノアの返事は早かった。


「もちろんです」


迷う様子すらなかった。


「私にできることなら、何でもお手伝いします」


「ありがとう、エレノアさん」


「礼を言われるようなことではありません」


エレノアはアイリーナを見る。


「アイル王女を再び危険な目に遭わせるわけにはいきませんから」


ランスも頷いた。


「俺も協力する」


「助かるわ」


クラリスにとって、ランスの協力は特に大きかった。

王都の冒険者ギルド。

そこには毎日、多くの冒険者が出入りする。


冒険者だけではない。

商人からの護衛依頼。

住民からの相談。

魔物の情報。

街道で起きた異変。


時には、貴族や騎士団から依頼が持ち込まれることもある。

様々な立場の人間から持ち込まれる情報が、冒険者ギルドには集まってくる。

しかも、ランスはそのギルドマスターだ。

単に多くの噂を耳にするだけではない。

長年冒険者として活動し、今は王都のギルドを預かる立場にある。

集まってきた情報の中から、何が単なる噂で、何に調べる価値があるのかを見極めることもできる。


「王都で最近何か変わったことがないか、ギルドに入ってくる情報を確認してほしいの」


「ああ」


ランスが頷く。


「ただ、露骨に調べ始めたら勘づかれる可能性もあるな」


「そうね。だから無理はしないで」


「分かってる。普段入ってくる情報の中から、気になるものを拾うようにする」


「それで十分よ」


クラリスは次にエレノアを見る。


「エレノアさんには、王城の様子を知りたいの」


「王城ですか?」


「ええ。今でも王城に知り合いはいる?」


「何人かはいます」


エレノアが頷く。

長く王城に仕えていただけあり、今でも昔からの知人が残っている。


「それなら、無理のない範囲で最近の王城の様子を聞いてもらえない?」


「分かりました」


「ただし――」


クラリスの表情が引き締まる。


「アイリーナ様のことは、絶対に話さないで」


エレノアは迷わず頷いた。


「もちろんです」


「生きていることも、私たちが保護していることも、何も知らないことにしてほしいの」


「分かりました」


クラリスはランスにも視線を向ける。


「ランスもよ」


「分かってる」


ランスは真剣な表情で答えた。


「王女殿下の安否については、誰にも言わない」


「お願い」


「約束する」


これで、王都で情報を集めるための手段が大きく増えた。

冒険者ギルドに集まる情報を確認できるランス。

王城に残る昔の知人から、無理のない範囲で話を聞けるエレノア。

そして、クラリス、レオネリア、メルキオラの三人。

少しずつではある。

それでも、これまでほとんど見えていなかった王都の内情へ手を伸ばせるようになった。


          ◇◇◇


一通りの話が終わった。

アイリーナは名残惜しそうにエレノアを見る。


「ばあや……」


「大丈夫ですよ、アイル王女」


エレノアは優しく微笑んだ。


「こうしてご無事だと分かっただけで、私は十分です」


「でも……」


「今は、ご自分の安全を一番に考えてください」


アイリーナはしばらくエレノアを見つめた後、静かに頷いた。


「……はい」


「また、きっとお会いできます」


「はい」


エレノアは最後にもう一度、アイリーナの手を握った。

メルキオラが二人の様子を見届けてから口を開く。


「そろそろ戻りましょう」


アランが頷いた。


「お願いします」


メルキオラは転移魔法陣の前へ移動した。

アイリーナとアランも、その傍へ立つ。

アイリーナは魔法陣へ足を踏み入れたところで、もう一度エレノアを振り返った。


「それでは、ばあや……また会いましょう」


「はい。アイル王女」


エレノアは微笑んだ。


「いつでもお待ちしております。どうか、お気をつけて」


「はい」


魔法陣が淡い光を放った。

光が三人を包み込む。


次の瞬間――

メルキオラ、アイリーナ、アランの姿が消えた。

エレノアは、三人が消えた場所をしばらく見つめていた。

今度の表情に、先ほどまでの不安はなかった。

アイリーナは生きている。

そして、もう一度会うことができた。

それだけでも、長く胸の中にあった重いものが少し軽くなったように感じていた。

少しすると魔法陣が再び光り、メルキオラだけが戻ってくる。


「お待たせしました」


「無事に戻れた?」


クラリスが尋ねる。


「ええ。問題ありません」


「それなら良かったわ」


クラリスは立ち上がった。


「私たちもそろそろ戻りましょうか」


ランスも立ち上がる。


「そうだな。俺もギルドに戻る」


四人は玄関へ向かった。

エレノアも見送りのためについてくる。

玄関を出る前、クラリスが振り返った。


「エレノアさん」


「はい」


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ」


エレノアは微笑んだ。


「クラリスさん。本当に……ありがとうございました」


その言葉には、様々な思いが込められていた。

アイリーナを助けてくれたこと。

生きていると教えてくれたこと。

そして、もう一度会わせてくれたこと。

クラリスは小さく首を横に振る。


「まだ終わっていませんよ」


エレノアは一瞬驚いた後、静かに頷いた。


「そうですね」


「何か分かったら、お願いします」


「ええ。任せてください」


クラリスたちはエレノアの家を後にした。


          ◇◇◇


住宅街を抜け、四人は王都の大通りへ戻ってきた。

行き交う人々。

荷物を運ぶ商人。

客を呼び込む店員。

馬車の車輪が石畳を進む音。

見た目だけなら、王都はいつもと変わらない日常を送っているように見える。

しかし、このどこかにアイリーナを狙った者へ繋がる何かがあるかもしれない。

やがて、道が分かれる場所でランスが足を止めた。


「俺はこっちだな」


その先は冒険者ギルドへ続いている。

クラリスも足を止める。


「じゃあ、何か分かったらお願い」


「ああ」


ランスが頷いた。


「俺の方でも少しずつ調べてみる。ただし、できるだけ普段通りにだな」


「その方がいいわ」


「クラリスたちも気をつけろよ」


「分かってるわよ」


「昔から無茶するからな、お前は」


クラリスが少し呆れたような顔をする。


「あなたにだけは言われたくないわ」


「それもそうか」


ランスが笑う。


「じゃあな」


「ええ。また」


ランスは片手を上げると、冒険者ギルドへ向かって歩いていった。

その背中を少し見送ってから、クラリスも前を向く。


「私たちも戻りましょう」


「ええ」


レオネリアが答える。

メルキオラも頷いた。

三人は白銀の月亭へ向かって歩き始める。

これまで三人だけで始めた、王都での調査。

そこに、新たに二人の協力者が加わった。

冒険者ギルドに集まる情報。

そして、王城から得られる情報。

王都の中に、新たな二つの糸が伸びた。

その糸の先に何があるのか。

まだ分からない。

アイリーナを襲った者は誰なのか。

何のために王女を狙ったのか。

そして、その者は今も王都のどこかで動いているのか。

答えはまだ、深い影の中に隠されている。


それでも――

姿なき敵へと続く手掛かりを探すため、クラリスたちは確かに動き始めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、アイリーナとエレノアの再会後、クラリスたちがこれまでの経緯を説明するお話でした。

五十人以上もの襲撃者に狙われながらも、無事に生き延びたアイリーナ。

そして、その襲撃を退けたクラリスたちの話を聞き、ランスは改めて「白銀の剣姫」の健在ぶりを知ることになります。

一方で、クラリスが自分以上の力を持つと語った娘、エリスにも興味を持ったランス。

そんなランスと、王城に繋がりを持つエレノア。

二人の協力を得たことで、クラリスたちが集められる情報の幅も大きく広がりました。

しかし、王都に潜む影の正体は、まだ見えていません。


次回も引き続き、クラリスたちの王都での調査が続きます。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、10月8日18時を予定してます

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