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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第八章 王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―

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極秘依頼への答え ― 繋がる過去と新たな決断 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


ランスから持ちかけられた極秘の依頼。

アイリーナ王女の消息を確認してほしいというその頼みに、クラリスはすぐに答えを出さず、仲間たちと相談してから返事をすると伝えます。

そして、ランスとの話の中で明らかになる、思いがけない人物との繋がり。

その事実を知ったクラリスは、一度仲間たちのもとへ戻ることにします。


第八章の続きをお楽しみください。

「アイリーナ王女殿下の消息を、極秘で確認してもらいたい」


ランスの言葉が、静かなギルドマスター室に響いた。

クラリスはすぐには答えなかった。

隣にいるレオネリアとメルキオラも同じだった。

三人にとって、その依頼はあまりにも意外なものだった。

ランスは知らない。

彼が消息を探しているアイリーナ本人を、クラリスたちがすでに保護していることを…

それでも、ここで軽々しく真実を話すわけにはいかなかった。

アイリーナを狙った者が王都の中にいる可能性がある。

その正体も、規模も、まだ分かっていない。

何より、アイリーナが生きているという事実を、本人の許可なく自分たちの判断だけで明かすわけにはいかない。

たとえ相手が、クラリスが信頼する旧友であってもだ。

クラリスは少し考えた後、ランスに尋ねた。


「ねえ、ランス」


「何だ?」


「あなたのお母様の名前を聞いてもいい?」


予想していなかった質問だったのか、ランスが僅かに首を傾げる。


「母の名前?」


「ええ」


クラリスは頷いた。


「アイリーナ様の乳母を務めていた方なのでしょう?」


「ああ」


「それなら、もしかしたら私も知っている人かもしれないと思って」


クラリス自身、かつて王国騎士団に所属し、騎士団長まで務めていた。

王城へ出入りする機会も多かった。

王族の乳母を任されるほど王家から信頼されていた人物なら、ランスの母親だとは知らなくても、面識がある可能性は十分にある。

ランスは納得したように頷いた。


「エレノアだ」


その名前を聞いた瞬間――

クラリスの目が僅かに見開かれた。


「……エレノアさん?」


「ああ」


「まさか……」


クラリスは驚いた顔でランスを見る。


「あなた、エレノアさんの息子だったの?」


今度はランスの方が意外そうな顔をした。


「やっぱり知ってたのか?」


「知ってるも何も、何度も会ったことがあるわよ」


クラリスが騎士団に所属していた頃、王城で何度も顔を合わせたことのある女性だった。

エレノアは以前、セレフィーナの乳母を務めていた。

乳母としてセレフィーナを支え、その後も王城に仕えていたため、騎士団に所属していたクラリスとも何度か言葉を交わす機会があった。

穏やかで人当たりの良い女性だったことを、クラリスは今でも覚えている。


「そうだったの……」


クラリスは改めてランスを見る。


「全然知らなかったわ。あなた、エレノアさんの息子だったのね」


「俺もわざわざ冒険者仲間に母親の話なんてしなかったからな」


「それはそうだけど……」


クラリスは少し驚いたようにランスを見る。

何度も共に依頼をこなし、時には生死を共にした相手。

それでも、互いの家族について知らないことはあった。

そしてクラリスは、先ほどランスから聞いた話を思い返した。


「でも、エレノアさんがアイリーナ様の乳母も務めていたなんて、それは知らなかったわ」


「ああ」


ランスが頷く。


「セレフィーナ様の乳母を務めた後、母はアイリーナ王女殿下の乳母も任されたんだ」


「そうだったのね……」


クラリスは納得したように頷いた。

セレフィーナの乳母を務め、その後はアイリーナの乳母も任された。

それだけ王家から厚い信頼を寄せられていた人物ということになる。

それならば、アイリーナが亡くなったという噂を聞いたエレノアが、その真偽を必死に確かめようとしたのも理解できた。


「エレノアさんからの頼みなら、私としては力になってあげたいわ」


ランスの表情が僅かに明るくなる。


「じゃあ――」


「でも」


クラリスが言葉を重ねた。


「今ここで、依頼を受けるとは言えないわ」


ランスの表情が止まる。


「さっきも言ったでしょう? 今の私は一人で行動しているわけじゃないの」


「ああ」


「この二人だけじゃない。今は十二人で行動している。場合によっては、みんなを巻き込むことになるかもしれない」


クラリスはレオネリアとメルキオラを見る。


「だから、仲間たちと相談してから答えたいの」


ランスは少し考えた後、頷いた。


「分かった」


「少し待ってもらえる?」


「ああ」


「遅くとも明日には返事をするわ」


「それなら十分だ」


クラリスは立ち上がる。


「明日、またここに来ればいい?」


「ああ。俺はここにいる」


ランスも立ち上がった。


「いい返事を待ってるよ」


「まだ期待しすぎないでよ」


「分かってるさ」


ランスはそう言って笑った。

クラリス、レオネリア、メルキオラはギルドマスター室を後にした。


          ◇◇◇


冒険者ギルドを出た三人は、そのまま白銀の月亭へ戻った。

部屋へ入ると、レオネリアが扉を閉める。

メルキオラも周囲に人の気配がないことを確認した。


「さて……」


クラリスが小さく息を吐く。


「どうする?」


レオネリアが尋ねた。


「ランス本人は信用できるの?」


「私は信用しているわ」


クラリスは迷わず答えた。


「昔、何度も一緒に依頼を受けた仲だもの。それに、エレノアさんの息子だと分かったのも大きいわね」


「でも、アイリーナのことを勝手に話すわけにはいかない」


「ええ」


クラリスが頷く。

そこが一番重要だった。

ランスが信用できるからといって、アイリーナの生存を勝手に教えることはできない。

アイリーナ自身がどうしたいのか。

まずは、それを確認する必要がある。

メルキオラが口を開いた。


「通信機で話しますか?」


クラリスは少し考え、首を横に振った。


「いえ。今回は直接話した方がいいと思う」


「私もその方がいいと思うわ」


レオネリアも同意した。

今回の話は簡単な報告ではない。

アイリーナ本人の安全にも関わる。

さらに、幼い頃にアイリーナの乳母を務めていたエレノアのこともある。

顔を合わせて相談した方がいい。


「それでは、馬車へ戻りましょう」


メルキオラが立ち上がる。


「お願い」


メルキオラが魔力を集中させる。

三人の足元に淡い光が広がった。


そして次の瞬間――

三人の姿が白銀の月亭から消えた。


          ◇◇◇


景色が切り替わる。

クラリスたちが姿を現したのは、エリスたちが王都へ向けて移動している馬車の異空間だった。

突然戻ってきた三人に気づき、エリスが振り返る。


「お母さん?」


「ただいま、エリス」


「何かあったの?」


「ええ。少し相談したいことがあるの」


クラリスの表情を見て、エリスもただの報告ではないことを察したようだった。


「みんなを呼ぶ?」


「お願い。それと、アイリーナ様とアランにも来てもらって」


「分かった」


ほどなくして、一行が集まった。

アイリーナとアランも席に着く。

全員が揃ったところで、クラリスは王都で起きたことを順番に説明した。

王都へ無事に潜入できたこと。

白銀の月亭を拠点として確保したこと。

そして、情報を集めるために王都の冒険者ギルドへ向かったこと。

そこで、かつて冒険者として活動していた頃の知人であるランスと再会したこと。


「そのランスが、今は王都の冒険者ギルドのギルドマスターをしていたの」


「お母さんの昔の知り合いなんだよね?」


エリスが尋ねる。


「ええ。何度も一緒に依頼を受けたことがあるわ」


クラリスはそこで、アイリーナを見る。


「そのランスから、極秘の依頼を持ちかけられました」


「極秘の依頼……ですか?」


「はい」


クラリスが頷く。


「アイリーナ様の消息を確認してほしい、と」


アイリーナの目が大きくなる。


「私の……?」


「はい」


アランの表情も変わった。

クラリスはランスから聞いたことを説明していく。

王都では、アイリーナが亡くなったという噂が流れていること。

王城には箝口令が敷かれているらしく、詳しい情報を得ることができないこと。

ランスがギルドマスターという立場を利用して独自に調べた結果、破壊された馬車から遺体が確認されていないことを知ったこと。

そこから、アイリーナがまだ生きている可能性を考えていること。

アイリーナは黙って聞いていた。

そしてクラリスは、もう一つの話を切り出した。


「それと、ランスがアイリーナ様のことを調べていたのには理由がありました」


「理由ですか?」


「ランスのお母様です」


「お母様?」


「名前は――エレノアさん」


アイリーナの表情が止まった。


「……エレノア?」


その名前を口にした声が僅かに震える。

クラリスは頷いた。


「はい」


「まさか……」


アイリーナの瞳が揺れる。


「ばあや……?」


「ランスは、エレノアさんの息子だったそうです」


「そんな……」


アイリーナは驚いたまま、しばらく言葉を失っていた。

クラリスは静かに続ける。


「私はエレノアさんを知っています。以前、セレフィーナ様の乳母を務めていた頃に、王城で何度かお会いしたことがありました」


アイリーナがクラリスを見る。


「クラリスさんも、ばあやを?」


「はい。ただ、後にアイリーナ様の乳母も務めていたことは、今日初めて知りました」


「そうだったのですね……」


アイリーナは懐かしむように目を伏せた。


「ばあやは、私が幼い頃、ずっとそばにいてくれました」


その表情が少しずつ曇っていく。


「私にとっては、ただの乳母ではありません」


アイリーナは胸元で両手を握った。


「家族と変わらない、大切な人です」


そして、クラリスを見る。


「ばあやは……今も私のことを心配しているのですね?」


「そう聞いています」


アイリーナは俯いた。

自分が生きていることを知らず、エレノアは今も心配し続けている。

王都では、自分が亡くなったという噂まで流れている。

幼い頃から自分を大切にしてくれた人が、それを聞いてどれほど心を痛めているのか。

しばらくして、アイリーナが顔を上げた。


「クラリスさん」


「はい」


「お願いがあります」


その声には強い思いが込められていた。


「ばあやに……会うことはできませんか?」


アランがアイリーナを見る。


「殿下……」


「分かっています」


アイリーナも、自分が置かれている状況は理解している。

今、王都の人前へ軽率に姿を現すことが危険なのは分かっていた。

それでも――


「ばあやに、これ以上心配を掛けたくありません」


アイリーナはクラリスを真っ直ぐ見る。


「幼い頃からずっと私の面倒を見てくれた人です。身内のような人に、私が死んだと思わせたままにはしたくありません」


クラリスはその言葉を静かに聞いていた。


そして――

やはり、そう言うと思った。

クラリス自身、エレノアを知っている。

さらにアイリーナにとって彼女がどれほど大切な存在なのかも、今の言葉で十分に伝わった。


「方法はあります」


クラリスが答えた。

アイリーナが顔を上げる。


「本当ですか?」


「はい。ただし、今すぐアイリーナ様を王都へお連れするわけにはいきません」


「……はい」


「まず、エレノアさんの家が安全かどうかを確認する必要があります」


クラリスはメルキオラを見る。


「明日ランスに依頼を受けると伝えた後、エレノアさんの家へ案内してもらいましょう」


メルキオラが頷く。


「私も同行します」


「お願い」


クラリスは続ける。


「私とメルキオラで一度エレノアさんの家を訪ねます。周囲に怪しい者がいないか、誰かに監視されていないか。それを確認します」


レオネリアも頷いた。


「家の中も確認した方がいいわね」


「ええ」


そしてクラリスは、もう一つの案を口にする。


「安全だと確認できたら――」


再びメルキオラを見る。


「エレノアさんの家の中に、転移魔法陣を設置してもらいます」


アイリーナが目を見開いた。


「転移魔法陣を?」


「はい」


クラリスが頷く。


「そうすれば、アイリーナ様が王都の街中を歩く必要はありません」


馬車からエレノアの家へ直接転移する。

そして面会が終われば、同じ方法で馬車へ戻る。

それなら、アイリーナが王都にいることを誰かに目撃される危険を大きく減らせる。

アランは腕を組み、しばらく考えていた。

アイリーナの護衛として、簡単に認められることではない。

しかし、クラリスたちが事前に現地へ向かい、安全を確認する。

そのうえで転移魔法を使い、街中を一切歩かずエレノアの家へ入る。


それならば――

やがてアランが頷いた。


「……その方法であれば、私も異論はありません」


アイリーナの表情が明るくなる。


「本当ですか?」


「はい。ただし、クラリス殿たちが安全だと判断した場合に限ります」


「もちろんです」


クラリスが答える。


「少しでも不審な点があれば、その時点で中止します」


アランは頷いた。

アイリーナも強く頷く。


「それで構いません」


そして、アイリーナはクラリスとメルキオラを見る。


「よろしくお願いします」


「分かりました」


クラリスが微笑む。

これで方針は決まった。


まずは明日、

もう一度ランスのもとを訪ねる。


そして、仲間たちと相談した結果として、依頼への回答を伝える。

その先に待っているのは、エレノアの家の安全確認。


そして――

すべてに問題がなければ、長い間アイリーナの身を案じ続けているエレノアとの再会へと繋がる。


「それじゃあ、明日」


クラリスが静かに言った。


「もう一度ランスのところへ行ってくるわ」


王都で偶然再会した旧友から持ちかけられた、一つの極秘依頼。


その依頼は思いがけない形で、アイリーナと、かつて彼女を育てた乳母エレノアを再び結びつけようとしていた。


そして翌日、

クラリスたちは、自分たちが出した答えを伝えるため、再びランスのもとを訪れることになる。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、ランスから極秘の依頼を受けたクラリスたちが、今後について話し合うお話でした。

ランスの母親の名前は、エレノア。

かつてセレフィーナの乳母を務めていたことから、クラリスとも面識のある人物でした。

そして後にアイリーナの乳母も務めていたことを知り、クラリスはランスからの依頼を一度仲間たちのもとへ持ち帰ります。

エレノアが今も自分の身を案じていることを知ったアイリーナ。

幼い頃から自分を育ててくれた「ばあや」にこれ以上心配を掛けたくないと、会いたいという思いをクラリスたちに伝えました。

そこでクラリスたちは、安全を確認した上で二人を会わせる方法を考えることに。


次回、クラリスたちは再び王都へ…


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、10月6日18時を予定してます

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