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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第八章 王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―

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王都への潜入 ― 白銀の剣姫、再びグランヴェイルへ ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


今回から、第八章「王都に潜む影 ― 姿なき敵を追って ―」が始まります。

アイリーナを狙った者たちの正体を探るため、一足先に王都へ向かうことになったクラリス、レオネリア、メルキオラ。

エリスたちがアイリーナを護衛しながら王都を目指す中、三人は別の方法で先行し、王都グランヴェイルへの潜入を試みます。

そして、久しぶりに王都へ戻ったクラリスを待っていたのは、懐かしい人物との思わぬ再会でした。


それでは、第八章の始まりをお楽しみください。

アルフェリアを出発した馬車は、王都グランヴェイルへと続く街道をゆっくりと進んでいた。

アルフェリアから王都までは、およそ三日。

これまでの旅と比べれば、それほど長い距離ではない。

しかし今回は、ただ王都を目指せばいいというわけではなかった。

アイリーナを襲撃した者たち。

その背後にいる者が王都に潜んでいる可能性がある以上、何も分からないまま王女本人を連れて王都へ入るのは危険だった。

そこで、クラリス、レオネリア、メルキオラの三人が先行して王都へ入り、内部の状況を探ることになった。

王都で長く騎士として活動していたクラリスなら、土地勘も人脈もある。

レオネリアとメルキオラなら、いざという時にも対応できる。

三人が斥候として先行することについては、すでに話がまとまっていた。

残る問題は一つ。

――どうやってエリスたちより先に王都へ向かうか。

馬車が街道を進む中、エリスとクラリスは異空間へと入り、メルキオラの部屋を訪れていた。

部屋にはメルキオラだけでなく、レオネリアの姿もあった。


「さて……」


クラリスが椅子へ腰を下ろす。


「王都へ先行するのは決まったけど、問題は移動手段ね」


「普通に馬車で行ったら、私たちとほとんど変わらないもんね」


エリスもクラリスの隣に座った。

アルフェリアから王都までは馬車で三日。

別の馬車を用意して三人だけで先行したとしても、多少早く着ける程度だろう。

それでは斥候として先行する意味が薄い。


「メルキオラの転移で王都まで行ければ一番簡単なんだけど……」


エリスがメルキオラを見る。

しかし、メルキオラは静かに首を横へ振った。


「それはできません、エルシア様」


「やっぱり?」


「はい。私の転移魔法は、一度も行ったことのない場所へ転移することはできません」


メルキオラの転移魔法は非常に便利だ。

それでも、どこへでも自由に移動できるわけではない。

転移先として指定できるのは、メルキオラ自身が一度訪れ、その場所を把握しているところに限られる。

王都グランヴェイルへ、メルキオラはまだ行ったことがない。

そのため、王都へ直接転移することは不可能だった。


「そうなると、別の方法を考える必要があるわね」


クラリスが腕を組む。

そこでレオネリアが口を開いた。


「そんなに難しく考えなくてもいいんじゃない?」


「何か方法があるの?」


クラリスが尋ねる。

レオネリアは当然のように答えた。


「飛んでいけばいいでしょう」


「……あ」


エリスが声を漏らした。

普段、人間の姿で一緒に行動しているため、つい忘れそうになる。

レオネリアとメルキオラは魔族だ。

本来の姿になれば、二人とも空を飛ぶことができる。


「でも……」


エリスがクラリスを見る。


「お母さんは飛べないよね?」


「当たり前でしょう」


クラリスが苦笑する。

するとレオネリアが何でもないことのように言った。


「私が運ぶわ」


「私を?」


「ええ」


「王都までよ?」


「問題ないわ。クラリス一人くらいなら抱えて飛べるから」


あまりにもあっさりと言われ、クラリスはレオネリアを見つめた。


「……本当に?」


「この程度で嘘を言ってどうするのよ」


「それもそうね」


クラリスも魔族の身体能力については、これまでの旅で十分に理解している。

人間の姿をしている時は分かりにくいものの、本来のレオネリアの身体能力は人間とは比較にならない。

クラリス一人を抱えて飛行する程度なら、大きな負担にはならないらしい。


「それなら決まりかな?」


エリスが言う。

しかし、クラリスはすぐには頷かなかった。


「問題はアイリーナ様ね」


その言葉で、全員の表情が少しだけ真剣になる。

現時点では、アイリーナたちにレオネリアとメルキオラが魔族であることを話していない。

二人がかつて魔族の女王エルシアに仕えていたことも同様だ。

アイリーナは命を狙われたばかり。

誰が味方で誰が敵なのかさえ、完全には分かっていない。

そんな状況で二人の正体まで明かせば、余計な混乱を招く可能性がある。


「アイリーナ様たちの前で二人が飛んでいくわけにはいかないわね」


「では、途中までは転移魔法を使いましょう」


メルキオラが提案した。


「途中まで?」


「はい。私が転移できるアルフェリア近郊の森があります。まず、そこへ三人で転移します」


エリスがすぐに理解する。


「アイリーナ様たちには、メルキオラの魔法を使って王都へ先行するとだけ説明するんだね?」


「はい。それなら嘘をつく必要もありません」


実際にメルキオラの魔法で移動する。

ただ、その後に魔族の姿となって空を飛ぶことまでは説明しない。


「森へ転移した後、私とレオネリアは本来の姿へ戻ります。そこから隠匿魔法を使って飛行すれば、人に見つかる可能性も低いでしょう」


「王都には直接降りない方がいいわね」


クラリスが続ける。


「当然です。王都上空へ侵入すれば、何が起こるか分かりませんから」


王都はサントス王国の中心。

警備も他の街とは比べものにならない。

いくら隠匿魔法を使うとはいえ、王都の中へ直接降りるような危険を冒す必要はなかった。


「王都近くの森まで飛ぶ。そこで二人は人間の姿に戻って、そこから歩いて王都へ入る」


クラリスが確認する。


「それが一番でしょうね」


レオネリアが頷いた。

移動方法も決まった。

エリスたちは予定通り、アイリーナを護衛しながら馬車で王都へ向かう。

ただし、クラリスたちが王都の状況を確認するまでは、中へ入らない。


「私たちから連絡するまでは、王都の少し手前で待っていて」


「うん」


エリスが頷く。


「アイリーナ様を襲った人たちが王都にいるかもしれないんだもんね」


「ええ。王都の中がどうなっているのか確認して、それから入るかどうかを決めた方がいいわ」


「分かった。こっちは任せて」


「お願いね」


方針は決まった。

四人は部屋を出ると、アイリーナたちのいる場所へ向かった。

クラリスから、三人が先に王都へ向かうこと。

そしてメルキオラの魔法を利用して先行することを説明する。

詳しい移動方法について、アイリーナが疑問を挟むことはなかった。

むしろ、自分のために危険を冒して王都へ先行する三人を心配していた。


「どうか、お気をつけください」


「ありがとうございます。王都の状況が分かり次第、こちらから連絡します」


クラリスが答える。

準備を整えた三人は、アイリーナたちから少し離れた場所へ立った。

メルキオラが魔法を発動する。

床に魔法陣が浮かび上がった。


「それじゃあエリス、行ってくるわね」


「うん。お母さんも気をつけて」


「ええ」


次の瞬間。

クラリス、レオネリア、メルキオラの姿が光に包まれた。

そして三人は、その場から消えた。


          ◇◇◇


三人が次に姿を現したのは、アルフェリアから少し離れた森の中だった。

周囲には木々が広がり、人の気配はない。

メルキオラは念のため周囲の気配を探った。


「……問題ありません。近くに人はいないようです」


「それじゃあ、ここからは私たちの出番ね」


レオネリアがそう言うと、その姿が変わっていく。

メルキオラも続いた。

人間として旅をしていた二人が、本来の魔族の姿へ戻る。

クラリスは二人を見上げた。


「こうして見ると、やっぱり人間とは違うのよね」


「今さら?」


レオネリアが笑う。


「普段ずっと人間の姿でいるから、時々忘れそうになるのよ」


「それは喜ぶべきなのかしら」


「少なくとも、街で一緒に歩く分には助かっているわ」


クラリスが答えると、メルキオラが小さく笑った。


「では、そろそろ出発しましょう」


メルキオラが隠匿魔法を発動する。

三人の姿が周囲の景色へ溶け込むように薄れていった。

完全に存在そのものが消えるわけではない。

しかし遠くから見つけるのは困難になる。

レオネリアがクラリスの前へ立った。


「それじゃあ、失礼するわね」


「お願い」


次の瞬間。

クラリスの身体がふわりと浮いた。

レオネリアが軽々と抱き上げたのだ。


「本当に大丈夫そうね」


「言ったでしょう? クラリス一人くらいなら問題ないって」


「落とさないでよ?」


「そんなことするわけないでしょう」


メルキオラが二人の横へ並ぶ。


「行きます」


二人の魔族が地面を蹴った。

一気に高度が上がる。

森の木々が急速に小さくなり、やがて広大な景色が眼下へ広がった。

クラリスは思わず下を見る。

街道が細い一本の線のように続いている。

そこを進む馬車が小さな点のように見えた。


「……すごいわね」


思わずクラリスが呟いた。


「怖い?」


レオネリアが尋ねる。


「それは少し。でも、それより速さに驚いているわ」


馬車なら三日かかる道のり。

それを三人は空から一直線に進んでいく。


森を越え。

丘を越え。


いくつもの街道を眼下に見ながら飛び続ける。


そして――

およそ一時間後。

遥か前方に、巨大な城壁が見えてきた。

その向こうには、数え切れないほどの建物。

さらに奥には大きな王城がそびえている。

サントス王国の中心。

王都グランヴェイルだった。


「見えてきたわ」


クラリスが呟く。

久しぶりに見る王都。

騎士だった頃は当たり前のように見ていた光景だ。

それでも今は、どこか違って見える。


「このまま近づき過ぎない方がいいでしょう」


メルキオラの言葉にクラリスが頷く。


「ええ。予定通り、近くの森へ降りましょう」


三人は進路を変え、王都から少し離れた森へ向かった。

木々の間に人がいないことを確認し、ゆっくりと降下する。

地面へ降りると、レオネリアはクラリスを下ろした。


「ありがとう」


「どういたしまして」


レオネリアとメルキオラは再び人間の姿へ戻った。

メルキオラも隠匿魔法を解除する。

そこに立っているのは、どう見ても旅をしている三人の女性冒険者だった。


「ここからは歩きね」


クラリスが王都の方角を見る。


「一時間くらいでしょうか」


「それくらいでしょうね」


三人は森を抜け、街道へ出た。

王都へ近づくにつれて、人の数は目に見えて増えていった。

荷物を満載した商人の馬車。

依頼を終えて帰ってきたらしい冒険者。

農作物を積んだ荷車。

地方から王都を訪れた旅人。

三人もその流れに混ざって歩く。

そして一時間ほどすると、巨大な王都の城壁が目の前に迫ってきた。


「相変わらず大きいわね」


クラリスが懐かしそうに見上げる。

正門前には長い列ができていた。


「随分並んでいるわね」


レオネリアが言う。


「王都だから、これくらいは普通よ」


クラリスはそう答えると、何事もなかったかのように列の最後尾へ並んだ。

ここで余計な目立ち方をする必要はない。

三人は周囲の旅人たちと同じように、少しずつ前へ進んでいった。

やがて、クラリスたちの番が来る。

門で対応していたのは、初老の騎士だった。

クラリスは身分証を出そうとする。


ところが――

初老の騎士がクラリスの顔を見るなり、動きを止めた。


「……おや?」


クラリスも騎士の顔を見る。

どこかで見たことがある。

そう思った直後だった。

騎士の表情が驚きから笑顔へ変わる。


「お久しぶりですね」


「……?」


「王都へお戻りになるのですか?」


そこまで言われて、クラリスも思い出した。


「もしかして……ジーク?」


「覚えていてくださいましたか」


初老の騎士――ジークは嬉しそうに笑った。

クラリスが王国騎士団に所属していた頃から、王都守備隊に所属していた騎士だ。

クラリスが騎士団長だった頃にも何度となく顔を合わせている。


「久しぶりね。まだ王都守備隊にいたのね」


「ええ。さすがに昔ほど身体は動きませんが、まだ若い者には負けられませんから」


ジークは笑いながら答えた。

そしてクラリスの後ろにいるレオネリアとメルキオラへ目を向ける。


「そちらのお二人は?」


クラリスは自然な口調で答える。


「今、一緒に旅をしている仲間よ」


「仲間?」


「ええ。騎士はもう辞めたから。今は冒険者として、この二人とパーティを組んで旅をしているの」


「なるほど」


ジークはクラリスを上から下まで眺める。

その腰には、今も剣がある。

すると彼は懐かしそうに笑った。


「では、白銀の剣姫はまだ健在というわけですね」


その言葉に、クラリスの眉がわずかに動いた。

しかもジークの声は、周囲にも聞こえていた。


「白銀の剣姫……?」


「今、白銀の剣姫って言ったか?」


「まさか、あの人が?」


列に並んでいた者だけではない。

近くにいた若い門兵たちまでクラリスを見ている。

小さなざわめきが広がった。


「ジーク……」


クラリスが呆れたように名前を呼ぶ。


「おっと。これは失礼しました」


そう言いながらも、ジークは笑っていた。

クラリスは小さく息を吐く。


「それは昔の話よ。今はただの普通の冒険者」


「普通の冒険者、ですか」


「何よ?」


「いえ、何も」


ジークは再び笑う。


「まあ、そういうことにしておきましょう」


「そういうことにしておいて」


クラリスは呆れながら答えた。

本来なら、ここで三人とも身分証明書を提示しなければならない。

クラリスもそのつもりで準備していた。

しかしジークは、身分証を求めようとはしなかった。

クラリスの身元については、長年王都守備隊に所属しているジーク自身が誰よりもよく知っている。

そして、そのクラリスが仲間だと紹介したレオネリアとメルキオラについても、特に疑う様子はなかった。


「どうぞ、お通りください」


ジークが門の中を示した。


「ありがとう」


クラリスが答える。

レオネリアとメルキオラも軽く頭を下げ、三人は王都の門をくぐった。

巨大な城門の下を抜ける。

そして、その先へ出た瞬間。

三人の視界いっぱいに、王都グランヴェイルの街並みが広がった。


広い大通り。

行き交う大勢の人々。

何台もの馬車。


通りの両側には、数え切れないほどの店や建物が並んでいる。

そして遥か奥には、この国の中心である王城が見えていた。

クラリスは歩きながら、その王城を静かに見つめた。

かつて自分が騎士として仕えていた場所。

何度も歩いた街。

懐かしい場所へ戻ってきた。

しかし、今回は昔を懐かしむために戻ってきたわけではない。

アイリーナを襲撃した者たち。

その背後にいる者が、この王都のどこかにいる可能性がある。

表面上は以前と変わらず、多くの人々で賑わっている王都。

そのどこかに、王女の命を狙った者が潜んでいる。

レオネリアが小さな声で言った。


「とりあえず、無事に入れたわね」


「ええ」


メルキオラも周囲を見ながら頷く。

クラリスは一度だけ振り返った。

先ほど通ってきた巨大な城門が見える。

エリスたちは今も、アイリーナを守りながらこの王都を目指している。

馬車なら、到着まであと三日。

それまでに自分たちは王都の状況を調べなければならない。

クラリスは再び前を向いた。


「行きましょう」


「どこから調べる?」


レオネリアが尋ねる。

クラリスは少しだけ考え、王都の街並みへ目を向けた。


「まずは、今の王都がどうなっているのかを知るところからね」


いきなり王城へ向かう必要はない。


王都の空気。

騎士たちの動き。


そして、アイリーナが襲撃された後、この街で何が起きているのか。

確認しなければならないことはいくらでもある。

三人は人々の流れへと紛れ込んでいく。


こうして――

エリスたちより一足早く。

クラリス、レオネリア、メルキオラの三人は、王都グランヴェイルへの潜入に成功した。


そしてここから、

王都に潜む、姿なき敵を追うための調査が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回から第八章が始まりました。

アイリーナを王都へ連れて行く前に安全を確認するため、先行して王都へ向かったクラリス、レオネリア、メルキオラ。

魔族であることを隠したまま空から王都近郊へ向かった三人は、冒険者を装って無事に王都グランヴェイルへ入ることができました。

そして王都の門では、クラリスが騎士団長だった頃から王都守備隊に所属していたジークとの再会も。

「白銀の剣姫」と呼ばれ、思わぬところで周囲の注目を集めてしまったクラリスですが、三人の王都での調査はここから始まります。


次回は視点を変え、王都の陰で暗躍する反王政派、そして彼らと手を組む魔族の動きへ。

アイリーナ襲撃の裏で何が動いていたのか。

そして、王女が生きていることを知らない彼らは、次に何を企むのか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月29日18時を予定してます

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