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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

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初めてのスイーツ作り ― レシピ通りのはずなのに ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


アルフェリアでは、何度挑戦しても念願のスイーツを食べることができなかったエリスとマリン。

それならば、自分達で作ればいい。

どこからか手に入れたレシピを頼りに、二人は初めてのスイーツ作りに挑戦します。

果たして二人は、今度こそ念願のスイーツを口にすることができるのでしょうか。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

エリスとマリンは、キッチンの片隅で一枚の紙を真剣な表情で覗き込んでいた。

紙に書かれているのは、二人がどこからか手に入れてきたスイーツのレシピ。

アルフェリアでは、今度こそ念願のスイーツを食べられると思っていた。

ところが、長い列に並んだ店では自分達の直前で売り切れ。

マカロンだと思ったものは化粧品。

ケーキやパフェだと思ったものは石鹸。

甘い香りを追いかけて辿り着いた先はパン屋だった。

結局、アルフェリアでも二人はスイーツを食べることができなかった。

だからこそ、二人は一つの結論へ辿り着いたのである。


お店で食べられないのなら――

自分達で作ればいい。

必要な材料も揃えた。

作り方が書かれたレシピもある。

これなら失敗するはずがない。

少なくとも、二人はそう信じていた。


「それじゃあ、始めようか」


「ええ。今度こそスイーツを食べるのよ」


エリスとマリンは力強く頷き合った。

まずはレシピを確認する。


「えっと……最初は……」


エリスが紙に書かれた文字を指で追っていく。


「オーブンを温める、だって」


「最初にオーブンなのね」


マリンはキッチンに備え付けられたオーブンへ目を向けた。

メルキオラが作った異空間のキッチンには、料理に必要な設備が一通り揃っている。

もちろんオーブンもある。

二人はその前に立った。


「……どれくらい温めればいいのかな?」


「うーん……」


マリンも首を傾げる。

二人の視線が再びレシピへ戻った。

よく見れば、そこにはきちんと温度についても書かれている。

しかし二人が見ているのは、作り方が書かれた部分ばかり。

細かな数字まではほとんど気にしていなかった。


「ちゃんと温めないと焼けないよね?」


エリスが言う。


「そうね。温度が低くて生焼けになったら困るもの」


「じゃあ、しっかり温めた方がいいよね」


「その方が間違いないわ」


二人の意見はあっさり一致した。

焼くためには熱が必要。

ならば、しっかり熱くしておけばいい。

二人にとっては実に分かりやすい理屈だった。


「これくらいかな?」


「もう少し熱くしておいた方がいいんじゃない?」


「そう?」


「だって、焼けなかったら困るでしょう?」


「それもそうだね」


エリスはさらにオーブンの温度を上げる。


「これなら大丈夫!」


「ええ!」


二人は満足そうに頷いた。

少なくとも、この時点で二人は何一つ間違ったことをしているとは思っていない。


「次は何?」


「ちょっと待って」


エリスが再び紙を見る。


「オーブンを温めている間に、バターをボウルに入れる」


「バターね」


マリンが用意しておいたバターを手に取る。

二人でボウルを用意すると、その中へバターを入れた。


「それから?」


「砂糖を加えて……」


エリスが続きを読み上げる。


「白っぽくなるまで混ぜる、だって」


「白っぽくなるまで?」


マリンがボウルの中を見る。

バターは黄色い。

当然ながら、これをそのまま混ぜても白くはならない。

二人は考えた。


「白っぽく……」


「白っぽく……」


エリスとマリンの視線が、ほぼ同時に動いた。

そこには、先ほど用意した砂糖が置かれている。

白い砂糖。

二人は砂糖を見る。

次に黄色いバターを見る。

もう一度、砂糖を見る。


そして――

顔を見合わせた。


「もしかして……」


エリスが砂糖を指差す。


「これをたくさん入れれば白っぽくなるんじゃない?」


マリンの表情が明るくなる。


「そういうことね!」


どうやら二人の中では、それが正解になったらしい。


「それにスイーツなんだから、甘い方が美味しいよね」


「ええ。砂糖なら多くても問題ないわ」


「じゃあ、入れちゃおう」


エリスが砂糖をボウルへ入れる。


「このくらい?」


「まだ黄色いわ」


「じゃあ、もう少し」


さらに入れる。

マリンが混ぜる。


ぐるぐる。

ぐるぐる。


「どう?」


「うーん……まだ黄色っぽいわね」


「じゃあ、もっとかな?」


さらに砂糖が追加される。

もちろんレシピには、バターと砂糖の分量がきちんと書かれていた。


しかし――

二人はまったく見ていなかった。

作り方だけを追いかけ、材料の横に書かれている数字は完全に無視している。


「エリス、ちょっと白っぽくなってきたわ」


「本当?」


「ほら」


エリスがボウルを覗き込む。

確かに最初よりは白っぽく見える。


「本当だ!」


「これでいいんじゃない?」


「うん!」


二人は満足した。

すでに砂糖がどれほど入ったのか、誰にも分からない。

それでも二人にとっては、レシピに書かれている通り「白っぽく」なったのだから成功である。


「次は卵だね」


エリスが続きを確認する。


「卵を加えて、よく混ぜる」


「それなら簡単ね」


マリンが卵を一つ手に取った。


コンッ

ボウルの縁で殻を割り、中へ落とす。


「じゃあ混ぜるよ」


「お願い」


今度はエリスがボウルを押さえ、マリンが混ぜていく。


ぐるぐる。

ぐるぐる。


「よく混ぜるって書いてあるわよね?」


「うん」


「じゃあ、もっとね」


さらに混ぜる。


ぐるぐる。

ぐるぐる。


「もういいかな?」


「たぶん」


「じゃあ次ね」


二人は順調に進んでいるつもりだった。

実際、ここまでの工程だけを見れば、それらしいものにはなっている。

砂糖の量を除けば。


「次は……小麦粉にベーキングパウダーをふるい入れる」


エリスが読み上げる。


「ふるい入れる?」


「ふるいを使うってことじゃない?」


「ああ、これね」


マリンが近くにあったふるいを手に取る。


「小麦粉とベーキングパウダーを入れて……」


「それをボウルに入れればいいんだね」


「そうみたい」


二人は小麦粉とベーキングパウダーをふるいに入れた。

そして、さらさらとボウルの中へ落としていく。

白い粉が均等に落ちていく様子を、エリスが楽しそうに眺める。


「なんか、本当にお菓子作りしてる感じがするね」


「最初からお菓子作りしてるんだけど」


「そうだけど」


エリスが笑う。


「ここまで順調じゃない?」


「当然よ。ちゃんとレシピを見ながら作ってるんだから」


「だよね!」


二人は自信満々だった。

そのレシピに書かれている分量をまともに確認していないことなど、すでに頭から消えている。

粉を入れ終えると、二人は生地を混ぜ合わせた。

少しずつ、それらしい生地へと変わっていく。


「おお……」


エリスの目が輝く。


「ちゃんと生地になった!」


「成功じゃない!」


「まだ焼いてないよ」


「でも、ここまでできたら大丈夫でしょう?」


「そうだよね」


二人の自信はさらに大きくなっていた。

エリスがレシピの続きを見る。


「次は、生地をスプーンで丸く取って、オーブン皿に並べる」


「これなら簡単ね」


二人はオーブン皿を用意した。

エリスがスプーンで生地をすくう。


「丸く……丸く……」


ぽとっ。

生地を一つ落とす。

少しいびつではあるものの、それなりに丸い。


「どう?」


「いいんじゃない?」


「よし!」


二つ目。

ぽとっ。

三つ目。

ぽとっ。


二人は次々と生地を並べていった。

しばらくして、マリンがボウルの中を見る。


「まだいっぱい残ってるわね」


「本当だ」


エリスもオーブン皿を見る。

すでに半分近くまで生地が並んでいる。


「全部焼けるかな?」


「一度に焼いた方がいいんじゃない?」


「そうだよね。何回も焼くの面倒だし」


「それに……」


マリンが残っている生地を見る。


「たくさん並べれば、たくさん食べられるわ」


エリスの目が輝いた。


「それだ!」


どうやら、またしても二人の意見は一致した。


「じゃあ、できるだけいっぱい並べよう」


「ええ!」


二人は生地と生地の隙間を詰め始めた。


ぽとっ。

ぽとっ。


「ここにも置けるよ」


「こっちも空いてるわ」


「じゃあ、ここにも」


「もう少し詰めれば、あと一つ置けるんじゃない?」


「本当だ!」


どんどん生地が並んでいく。


やがて――

オーブン皿の上は、丸い生地でびっしりと埋め尽くされた。

隣同士の生地の間隔はほとんどない。

場所によっては、焼く前から触れそうなほど近い。

レシピには当然、生地が焼いている間に広がるため、間隔を空けて並べるように書かれていた。

しかし二人は、そこまで細かく読んでいなかった。

二人にとって大切なのは一つ。

たくさん焼けば、たくさん食べられる。

それだけだった。


「できた!」


エリスが満足そうに言う。


「いっぱい並んだわね」


マリンも嬉しそうにオーブン皿を見る。


「これならみんなの分もあるよ」


「もちろん私達もいっぱい食べられるわ」


二人は顔を見合わせて笑った。

いよいよ最後の工程。

焼くだけである。

エリスがオーブンを確認する。

十分に温まっている。


いや――

十分どころではない。


二人が「焼けないと困る」という理由で、かなり高い温度まで上げてしまったオーブンは、すでにしっかりと熱を持っていた。


しかし、そんなことを知らない二人は満足そうだった。


「ちゃんと温まってるね」


「これならすぐ焼けそう」


二人で慎重にオーブンの扉を開く。

熱気が一気に吹き出してきた。


「わっ、熱い!」


エリスが思わず身体を引く。


「それだけちゃんと温まってるってことよ」


「そっか」


むしろ二人にとっては安心材料だった。

マリンがオーブン皿を持つ。

エリスが扉を押さえる。


「入れるよ?」


「うん」


オーブン皿を中へ入れていく。

隙間なく生地が並べられた皿が、熱くなったオーブンの中へ収まった。

扉を閉める。


「…………」


「…………」


二人はしばらくオーブンを見つめた。


そして。


「できた!」


エリスが嬉しそうに言った。


「まだ焼いてる途中よ」


「分かってるよ。でも、あとは待つだけでしょ?」


「そうね」


マリンも笑顔になる。

二人にとって初めてのスイーツ作り。

温度は適当。

砂糖の量も適当。

材料の分量はほとんど確認していない。

生地はオーブン皿いっぱいに隙間なく並べた。


それでも――

二人は自分達が何かを間違えたとは、これっぽっちも思っていなかった。


「どんな感じになるかな?」


「絶対美味しいわよ」


「甘いかな?」


「砂糖をいっぱい入れたもの。絶対甘いわ」


「楽しみ!」


二人は期待に満ちた顔で、オーブンの前に並んだ。

これまで何度も食べ損ねてきたスイーツ。


今度こそ

今度こそ、間違いなく食べられる。


店が売り切れることもない。

化粧品と間違えることもない。

石鹸をスイーツだと思うこともない。

パン屋へ辿り着くこともない。

自分達で作っているのだから、もう誰にも邪魔されることはない。

エリスとマリンは、これから焼き上がるスイーツを想像しながら嬉しそうに待ち続ける。


その先に何が待っているのかなど――

二人は、まだ知る由もなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、エリスとマリンが初めてのスイーツ作りに挑戦しました。

レシピを手に、二人とも真剣そのもの。

オーブンをしっかり温め、バターと砂糖を白っぽくなるまで混ぜ、卵や小麦粉を加えて生地を作り、最後はたくさん食べられるようにオーブン皿いっぱいに並べました。

二人としては、ここまで順調そのもの。

あとは焼き上がるのを待つだけです。

もっとも、オーブンの温度も、砂糖の量も、生地を並べる間隔も、何やら怪しいところがあるようですが……。

自分達のスイーツが焼き上がるのを楽しみに待つエリスとマリン。

果たしてオーブンの中から出てくるものは、二人が思い描いているスイーツなのでしょうか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月24日18時を予定してます

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