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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

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スイーツはどこですか? ― 甘いものを求めた二人の結末 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


長い行列に並んだものの、あと少しというところで念願のスイーツを食べ損ねてしまったエリスとマリン。

しかし、ここは多くの品々が集まる交易都市アルフェリア。

スイーツのお店なら、きっと他にもあるはず。

今度は行列に惑わされず、自分達の目を信じて探すことにした二人でしたが――。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

「…………」


「…………」


エリスとマリンは、しばらくその場から動くことができなかった。

つい先ほどまで長蛇の列ができていたスイーツ店。

その店先には、すでに本日の分が売り切れたことを知らせる札が出されている。

あと少しだった。

長い時間を並び続け、ようやく自分達の番が来る。

そう思った、その直前。

最後のスイーツは、二人の目の前にいた客が買っていってしまった。


「……マリン」


「何?」


「帰る?」


エリスが力なく尋ねる。マリンは答えなかった。

代わりに、ゆっくりと周囲を見回す。

大勢の人が行き交うアルフェリアの大通り。

道の両側には数え切れないほどの店が並び、その間にも細い通りがいくつも伸びている。

そして――マリンの目に、再び光が戻った。


「エリス」


「何?」


「ここ、アルフェリアよね?」


「うん」


「王国でも有数の交易都市なのよね?」


「……うん」


「だったら、おかしくない?」


「何が?」


マリンは通りに並ぶ店を指差した。


「こんなにお店があるのに、スイーツのお店があそこだけなわけないじゃない!」


「……あっ!」


エリスの表情も一気に明るくなった。言われてみれば、その通りだった。

アルフェリアには王国各地から様々な商品が集まってくる。

当然、食べ物だって同じである。

先ほどもスイーツらしき店をいくつも見かけていた。


「そうだよ! 他のお店を探せばいいんだ!」


「そうよ!」


「まだ諦めるのは早いよね!」


「当たり前じゃない!」


先ほどまでの落ち込みが嘘のように、二人は元気を取り戻した。

今日こそスイーツを食べる。

その決意は、目の前で売り切れた程度では消えていなかった。


ただし――


「でも、今度は行列だけで決めるのはやめよう」


エリスが真剣な表情で言う。


「賛成。行列が長いからって、それだけで選んだのが失敗だったわ」


「今度は自分達で探そう」


「ええ。私達の目で、本当に美味しそうなお店を見つけるのよ」


二人は力強く頷き合った。今度こそ他人の判断には頼らない。

自分達の目を信じる。

そう決意した二人は、再びアルフェリアの街を歩き始めた。

大通りから少し離れた道へ入る。

こちらにも様々な店が並んでいた。


衣服

雑貨

食料品

香辛料

見たこともない道具


さすが交易都市というだけあり、リンドルやセントポル、ベルハイムでは見かけなかった品物も多い。


「本当に色々あるね」


エリスが店先を眺めながら歩く。


「だからスイーツだって絶対にあるはずよ」


マリンも辺りを注意深く見回している。

二人の視線は真剣そのものだった。

しばらく歩いた、その時


「……あっ!」


エリスが突然足を止めた。


「どうしたの?」


「マリン、あれ見て!」


エリスが指差した先。

そこには、一軒の華やかな店があった。

店先には透明なガラスが嵌め込まれ、その向こうに色とりどりの商品が並べられている。


桃色

黄色

薄緑

水色

紫

丸く、小さく、色鮮やか


その見た目は――


「マカロン!」


エリスの目が輝いた。

マリンもすぐに店先へ近づく。


「本当だ! しかもいっぱいある!」


綺麗に並べられた色とりどりの商品。

どう見ても二人にはマカロンにしか見えなかった。


「ここよ!」


「今度こそ間違いない!」


先ほどの失敗など完全に忘れ、二人は勢いよく店の中へ入った。


「いらっしゃいませ」


女性店員が笑顔で二人を迎える。

店内にも色鮮やかな商品が所狭しと並んでいた。


「すごい……」


「どれにする?」


エリスとマリンは嬉しそうに商品へ近づいた。


ところが――


「……あれ?」


エリスの足が止まった。

近くで見ると、何かがおかしい。

マカロンだと思っていたものには、小さな容器が付いている。

隣に並んでいるものも、どう見ても食べ物ではない。

さらにその横には、小瓶や刷毛のようなものまで置かれていた。


「マリン……」


「……何?」


「これ、食べ物じゃないような気がする」


「え?」


マリンも商品へ顔を近づける。


「…………」


一つ手に取ってみる。

甘い香りはする。

しかし、どう考えてもマカロンの手触りではない。

そこへ店員が近づいてきた。


「そちらの商品が気になりますか?」


「えっと……」


エリスは手に持っていたものを見る。

そして恐る恐る尋ねた。


「あの……これは?」


「こちらは新しく入荷した化粧品です。最近、アルフェリアで人気の商品なんですよ」


「…………」


「…………」


二人が固まった。


「化粧品……?」


マリンが小さく聞き返す。


「はい」


店員は笑顔のまま頷く。


「見た目も可愛らしいので、若い女性の方にとても人気があるんです」


「そ、そうなんですね……」


エリスは静かに商品を元の場所へ戻した。

外から見た時には、どう見てもマカロンだった。

それが、まさか化粧品だったとは。

二人は顔を見合わせる。


「……行こうか」


「……そうね」


「ありがとうございました……」


二人は肩を落としながら店を出た。

外へ出ると、マリンが振り返る。


「紛らわしいわよ……」


「でも、お菓子のお店とはどこにも書いてなかったよ」


「それはそうだけど……」


「私達が勝手にマカロンだと思っただけだし」


「分かってるわよ……」


自分達の目を信じる。

そう決めてから最初に見つけた店が、まさかの化粧品店だった。


「まだよ」


マリンが気を取り直す。


「アルフェリアにはお店がいっぱいあるんだから」


「そうだね」


二人は再び歩き出した。

そして今度は、マリンが一軒の店を見つけた。


「エリス!」


「見つけた?」


「あそこ!」


店先には、先ほどとはまた違った商品が並んでいた。

透明な器に入った色鮮やかなもの。

白いクリームのようなものが盛られ、その上には果物のような飾りまで載っている。

隣には、小さなケーキにしか見えない商品もある。

エリスの目が再び輝いた。


「ケーキ!」


「それに、あっちはパフェみたいじゃない?」


「今度こそ!」


「ええ!」


二人は店へ入る。


「いらっしゃいませ」


再び店員に迎えられた二人は、先ほどの失敗を繰り返さないよう慎重に商品へ近づいた。


「美味しそう……」


エリスが呟く。


「こっちなんて果物まで載ってるわよ」


マリンも期待に満ちた表情を浮かべる。

しかし、エリスが商品をよく見る。


「……マリン」


「何?」


「これ……やっぱり違う」


「え?」


よく見れば、果物だと思っていたものは精巧に作られた飾りだった。

クリームに見えるものも、食べ物ではない。

店員が二人に声をかける。


「そちらは果物と花の香りを合わせた新商品ですよ」


「……香り?」


「はい。石鹸です」


「…………」


「…………」


またしても二人は固まった。

エリスがケーキのようなものを見る。

マリンがパフェのようなものを見る。

どう見ても美味しそうなのに、食べられない。


「石鹸……」


「石鹸ね……」


二人は何も買わず、静かに店を出た。

先ほどよりも足取りが重い。


「ねえ、マリン」


「何?」


「私達、自分の目を信じるって言ったよね」


「……言ったわね」


「全然当たらないね」


「言わないで……」


二人は途方に暮れながら歩き続けた。

アルフェリアには、本当に色々なものが集まっている。

それは分かった。

嫌というほど分かった。

しかし、二人が欲しいものは一つだけなのだ。

甘くて美味しいスイーツ。

それだけでいい。


「どうして見つからないの……」


「さっきまではいっぱいあるように見えたのに……」


「もしかして私達、本当にスイーツに嫌われてる?」


「そんなこと言わないでよ……」


二人の肩がどんどん落ちていく。

その時だった。


「……ん?」


エリスが足を止めた。


「どうしたの?」


「マリン。何か匂わない?」


「匂い?」


マリンも立ち止まる。

風に乗って、どこからか香りが漂ってきていた。


甘い。


先ほどの化粧品や石鹸の香りとは明らかに違う。

焼き上がった小麦の香ばしさ。

そこにバターの濃厚な香りと、ほんのりとした甘さが混ざっている。


「……美味しそうな匂い」


エリスの目に光が戻った。


「これは絶対食べ物よ!」


マリンの表情も変わる。

見た目に二度も騙された。

ならば今度は鼻を信じればいい。


「こっち!」


「行きましょう!」


二人は香りを頼りに歩き始めた。

通りを進む。


「匂いが強くなってる!」


「近いわ!」


角を曲がる。

さらに香りが強くなる。


「絶対スイーツだよ!」


「今度こそ間違いないわ!」


二人の歩く速度がどんどん速くなる。


そして――

ついに香りの元となる店を見つけた。


「ここ!」


二人は迷うことなく店へ入った。

途端に、さらに濃い焼きたての香りが二人を包み込む。


「やった!」


「ついに見つけた!」


二人は満面の笑みを浮かべて店内を見る。


そして――


「…………」


「…………」


二人の笑顔が止まった。

目の前に並んでいるのは、パン。


丸いパン

細長いパン

大きなパン

小さなパン


焼きたてのパンが、ずらりと棚に並んでいた。


「……パン?」


エリスが呟く。


「……パン屋ね」


マリンも呟いた。

確かに甘い匂いだった。

確かに食べ物だった。

そこまでは間違っていない。


しかし――スイーツではなかった。


「…………」


「…………」


二人はしばらく無言でパンを見つめていた。

やがて、エリスが力なく口を開く。


「マリン……」


「何?」


「もう、時間まずいよね?」


マリンも店の外を見る。

服を買い終えてから、かなりの時間が経っている。

これ以上スイーツ探しを続ければ、さすがにクラリス達を心配させてしまう。


「……そうね」


「帰ろうか」


「……ええ」


ついに二人はスイーツを諦めた。

目の前で売り切れ。

マカロンだと思ったら化粧品。

ケーキやパフェだと思ったら石鹸。

そして、最後に甘い香りを頼りに辿り着いたのはパン屋。

ここまで来れば、さすがに心も折れる。


そのまま店を出ようとした二人だったが――


「……ねえ」


マリンが立ち止まる。


「何?」


「あれ、美味しそうじゃない?」


指差した先には、焼きたての甘いパンが並んでいた。

表面には艶があり、まだ湯気が立っている。

エリスもじっと見る。


「……美味しそう」


「スイーツじゃないけど」


「うん」


「何も食べずに帰るよりは……」


「……そうだね」


結局、二人は焼きたてのパンをいくつか購入することにした。

店を出る頃には、二人の手にはアイリーナ達の服が入った袋と、パンの入った紙袋が握られていた。


「……帰ろう」


「そうね……」


二人は今度こそ馬車屋へ向かった。

来た時とは比べものにならないほど、足取りは重かった。

しばらくして馬車屋へ戻る。

そこには、すでにカイルとガルドも戻っていた。


異空間へ入ると――


「おかえりなさい」


クラリスが二人を出迎えた。

その隣にはミリアもいる。


「ただいま……」


「……ただいま」


二人の声には、まるで元気がなかった。

クラリスとミリアは、そんな二人を見る。

まず、手に持っている袋。

頼んでいた服は、きちんと買ってきているようだった。


そしてもう一つ。

甘い香りの漂う紙袋。


しかし、それはどう見てもスイーツの箱ではない。

クラリスとミリアは顔を見合わせた。

昨夜、二人が心配していたこと。

それが何だったのかを思い出す。


そして、二人の落ち込んだ表情を見れば――

何があったのかは、大体想像がついた。


「……ミリア」


「ええ」


二人は小さく頷き合った。

クラリスがエリスを見る。

ミリアがマリンを見る。

そしてクラリスが、そっと尋ねた。


「……スイーツは?」


「…………」


「…………」


エリスとマリンは足を止めた。

二人はゆっくりとクラリス達を見る。


そして――


「……聞かないで」


エリスが呟いた。


「お願いだから……」


マリンも力なく続ける。

クラリスとミリアは、もう何も聞かなかった。


ただ二人の様子を見て――

やっぱり…

そう思うのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、どうしてもスイーツを諦めきれないエリスとマリンが、アルフェリアの街でもう一度スイーツ探しに挑みました。

行列ではなく自分達の目を信じようとした二人。

ところが、マカロンだと思えば化粧品、ケーキやパフェだと思えば石鹸。

そして最後は、甘く美味しそうな香りを頼りに辿り着いた先がまさかのパン屋でした。

結局、今回も念願のスイーツには辿り着けず、美味しそうなパンを買って帰ることになった二人。

そんな二人を出迎えたクラリスとミリアには、何があったのか聞くまでもなかったようです。


さて、アルフェリアでの準備もいよいよ整いました。

翌日には、王都グランヴェイルへ向けて出発することになります。

しかし、その前に迎えるアルフェリア最後の夜。

冒険者として身分を隠す準備を整えたアイリーナは、クラリスとともにお忍びでアルフェリアの街へ出ることに――

これまで異空間の中から自由に外を見ることすらできなかったアイリーナ。

果たして、初めて歩く交易都市の夜をどのように感じるのでしょうか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月21日18時を予定してます

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