↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
137/171

魔術師メルキオラ ― 常識外れの異空間 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


アイリーナとの対面を終え、領主城へ戻るユリウスに同行するクラリス達。

その道中、ユリウスが尋ねたのは、先ほど自らが足を踏み入れた不思議な馬車のことでした。

馬車の中にあるようで、実際にはまったく別の場所――

メルキオラの口から語られる異空間の仕組みは、ユリウスの常識を大きく超えるものでした。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

領主城へ戻るユリウスを送り届けるため、クラリス達はアルフェリアの街を歩いていた。

同行しているのは、クラリス、アラン、リディア、そしてメルキオラ。

しばらく歩いたところで、ユリウスがクラリスへ声を掛けた。


「クラリスさん。一つ聞いてもいいだろうか?」


「はい。何でしょう?」


「先ほどの馬車なのだが……あれは一体どうなっているんだ?」


やはり気になっていたらしい。

ユリウスは困惑した表情を浮かべている。


「私は確かに馬車へ入ったはずだ。それなのに、あの中には廊下も部屋もあった。どう考えても馬車の大きさでは説明がつかない」


「そうですよね……」


クラリスも、どう説明したものかと少し考える。

自分達にとっては、すでに当たり前になりつつある。

しかし、初めてあの場所へ足を踏み入れたユリウスが理解できないのも当然だった。


「分かりやすく言えば、あの場所は馬車の中ではないんです」


「馬車の中ではない?」


「はい。別の場所と馬車を繋げている、と言えばいいでしょうか。馬車の扉から入るので、中にいるように感じますけど、実際には馬車とは別の空間にいるんです」


「……別の場所を、馬車と繋げている?」


「はい」


ユリウスは考え込んだ。理解しようとしているのは分かる。

しかし、その表情を見る限り、やはり完全には理解できていないようだった。


「つまり……馬車の中を魔法で広げているわけではないのか?」


「そういうわけでもないんです」


「では、あの場所はどこにあるんだ?」


「それは……」


クラリスは返答に困り、隣を歩いていたメルキオラを見る。


「メルキオラ。お願いしていい?」


「はい、クラリス様」


メルキオラがユリウスの隣へ並ぶ。


「先ほどユリウス様が入られた場所は、異空間と呼ばれるものです」


「異空間……?」


「簡単に申し上げますと、私達が普段生活している場所とは別に存在する空間です。馬車そのものを大きくしているわけではありません。馬車に設置した扉を、その異空間への出入口として繋げています」


「では、私が扉をくぐった瞬間、別の場所へ移動していたということか?」


「その認識で問題ありません」


「なるほど……」


ユリウスはしばらく黙って歩いていた。

説明を聞いて、仕組みそのものは何となく理解できたらしい。

それでも、常識では考えられないものには違いない。


「それにしても、とんでもないものだな……」


ユリウスが感心したように呟く。


「馬車の大きさに関係なく、あれほどの場所を使えるということなのだろう?」


「はい」


メルキオラが何でもないことのように答える。

その返事に、ユリウスは改めて驚いたようだった。

クラリスはそんなユリウスを見ながら、表情を少し引き締める。


「マルケッティ卿。一つお願いがあります」


「何でしょう?」


「今お話しした異空間のことですが、できるだけ他の方には広めないでいただけますか?」


「ああ。もちろんだ」


ユリウスはすぐに頷いた。


「これほどのものだ。知られれば利用しようと考える者も出てくるだろう。それに今は、殿下の安全にも関わっている」


「ありがとうございます」


「私から誰かに話すことはしない。安心してほしい」


「お願いします」


それ以上、クラリス達は異空間について話すことなく、領主城へ向かった。

やがて、大きな領主城が見えてくる。

ユリウスは人目を避けるため、護衛も従者も伴わずに城を抜けていた。

そのため、城へ戻ってきたユリウスを見つけた兵士が驚いた表情を見せる。


「マ、マルケッティ卿!?」


「ああ、戻った」


「いつの間に城の外へ……」


兵士は途中まで口にして、慌てて言葉を止めた。

さらに、ユリウスの後ろにいるクラリス達へ視線を向ける。

行きにはいなかった者達を連れて戻ってきたのだから、気になるのも当然だった。

しかし、ユリウスは詳しい事情には触れなかった。


「少し事情があって城を空けていた。それより、これから犯罪者の引き渡しを受ける」


「犯罪者……ですか?」


「ああ」


そこでクラリスがユリウスへ声を掛ける。


「マルケッティ卿。かなり広い場所を用意していただいた方がよろしいかと思います」


「広い場所?」


「はい。五十人以上いますので」


「五十人以上……?」


ユリウスが目を見開いた。

生き残った襲撃者を全員捕らえ、誰一人逃がしていないことは、アイリーナとの話し合いの際に聞いていた。

しかし、その具体的な人数までは聞いていなかった。


「それほどの人数だったのか……」


「はい。全員拘束してあります」


ユリウスは少し考えた。

五十人を超える者達を一度に引き渡すとなれば、城内の一室では狭すぎる。


「それなら、訓練場を使おう。あそこなら十分な広さがある」


ユリウスは兵士へ向き直った。


「訓練場を空けてくれ。それから、犯罪者を収容するための兵士を集めろ。人数は五十人以上だ」


「ご、五十人以上ですか!?」


「そうだ。急いでくれ」


「はっ!」


兵士が慌ただしく走っていく。

クラリス達はユリウスとともに訓練場へ向かった。

到着すると、まだ何人かの兵士達が訓練を続けていた。

ユリウスの姿に気づき、一斉に動きを止める。


「訓練は一旦中止だ。中央を広く空けてくれ」


「はっ!」


兵士達が武器を手にしたまま端へ移動していく。

間もなく、先ほどユリウスから指示を受けた兵士が、収容を担当する者達を連れて戻ってきた。

彼らに知らされているのは、五十人以上の犯罪者をこれから受け入れるということだけ。

当然、集まった兵士達は周囲を見回していた。


「五十人以上いると聞いたぞ」


「どこにいるんだ?」


「これから連れてくるんじゃないのか?」


訓練場にも、その周囲にも、それほどの人数がいる気配はない。

兵士達が不思議そうにしている中、クラリスがユリウスへ声を掛けた。


「マルケッティ卿。こちらでよろしいでしょうか?」


「ああ。これだけ広ければ問題ないだろう」


「メルキオラ」


「はい、クラリス様」


メルキオラが一歩前へ出る。

その姿を見たユリウスが、ふと先ほどの話を思い出した。


「待ってくれ。もしかして、襲撃者達は……」


「はい」


メルキオラが頷いた。


「先ほどご説明した異空間に、全員拘束した状態で収容しています」


「襲撃者達まで異空間に?」


「はい。ここで出して、そのまま兵士の方々へお引き渡しします」


「なるほど……」


そこでユリウスは、なぜメルキオラが領主城まで同行してきたのかを完全に理解した。

先ほどまでアイリーナ達がいた広大な異空間。

あのような場所があるのなら、五十人以上を収容していたとしても不思議ではない。


もっとも――

理解できるのは、あくまで話の上だけだった。


「では、あちらに出します」


メルキオラが訓練場の中央を示す。


「ああ。頼む」


ユリウスが頷く。

周囲の兵士達は、何の話をしているのか分からない。

異空間という言葉も、彼らには聞き慣れないものだった。

ただ領主が了承した以上、黙って見守るしかない。

メルキオラが訓練場の中央へ向けて片手を伸ばした。


次の瞬間――

何もなかった場所に、突然人影が現れた。


「なっ!?」


「なんだ!?」


兵士達が一斉に声を上げる。

一人ではない。

拘束された男達が、次々と姿を現していく。


「まだ出てくるぞ……!」


十人。

二十人。

三十人。


男達は全員拘束され、自由に動くことができない。

四十人を超えても、まだ終わらない。


そして――

最終的に訓練場へ現れたのは、五十人を超える襲撃者達だった。


「…………」


兵士達が言葉を失う。

つい先ほどまで、そこには誰もいなかった。

それが一瞬にして、五十人を超える男達で埋め尽くされたのだ。


「ど、どこから……」


「今までどこにいたんだ……?」


兵士達が困惑するのも無理はない。

そして、異空間について説明を受けたユリウスもまた、目の前の光景に圧倒されていた。


「これは……」


するとメルキオラが、そんなユリウスへ何でもないことのように告げる。


「先ほどの馬車と同じ原理です」


「……これもか」


「はい」


ユリウスは改めて五十人を超える襲撃者達を見渡した。

先ほど説明を聞き、異空間というものを理解したつもりでいた。

しかし、実際に五十人を超える人間が何もない場所から突然現れる光景は、想像していたものとはまるで違う。


「なるほど……。説明を聞いた時より、今の方が異空間というものがどれほど常識外れなのか分かった気がするよ」


ユリウスは苦笑する。

一方、事情を知らない兵士達は未だにざわめいていた。

ユリウスはすぐに領主としての表情へ戻る。


「静まれ!」


その声が訓練場に響き渡った。

兵士達が一斉にユリウスを見る。


「今見たことは後だ。まずは、この者達を引き取れ」


「は、はい!」


ユリウスは拘束された襲撃者達を指し示す。


「この者達は、先日発生した襲撃事件に関わった犯罪者だ」


兵士達の表情が一変した。


「全員を収容しろ。厳重に監視し、決して逃がすな」


「はっ!」


「それから、襲撃の目的を調べろ。誰の指示で動いていたのか、依頼を受けたのであれば依頼者は誰なのか。可能な限り情報を聞き出すんだ」


「承知いたしました!」


兵士達が一斉に動き始める。

拘束された襲撃者達を確認し、次々と引き取っていった。

その様子を見ながら、クラリスがユリウスへ声を掛ける。


「マルケッティ卿」


「何でしょう?」


「先ほどもお願いしましたが、何か分かりましたら連絡をお願いします」


「ああ。預かった通信機を使って、必ず知らせよう」


「お願いします」


クラリスはそれ以上口にしなかった。

アイリーナが生きていることを、襲撃者達に悟らせない。

そして、尋問に当たる者にもその事実を知らせない。

それについては、すでにユリウスとの間で話がついている。

ここで兵士達の前で改めて口にする必要はなかった。

やがて、最後の襲撃者が兵士達へ引き渡された。

メルキオラが人数を確認する。


「これで全員です」


ユリウスは頷くと、改めてクラリス達へ向き直った。


「確かに預かりました。あとは我々に任せてください」


「よろしくお願いします」


クラリスが頭を下げる。

ここから先はアルフェリア側の仕事になる。

クラリス達が優先すべきなのは、アイリーナを無事に王都まで送り届けることだ。


「それでは、私達は戻ります」


「ああ。襲撃者達はこちらで責任を持って預かろう。何か分かり次第、必ず連絡する」


「お願いします」


ユリウスに見送られ、クラリス達は訓練場を後にした。

領主城を出ると、クラリス、アラン、リディア、メルキオラの四人は再びアルフェリアの街を歩き始める。

目指すのは、アイリーナ達が待っている馬車。

襲撃者達の引き渡しは終わった。

あとは彼らが何を語るのか。

そして、その背後に誰がいるのか。

ユリウスから届く知らせを待つことになった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、これまでクラリス達が当たり前のように利用してきたメルキオラの異空間について、ユリウスの視点から改めてその規格外さが明らかになりました。

馬車の内部を広げているのではなく、まったく別の空間と馬車を繋げている――

説明を聞くだけでも驚いていたユリウスでしたが、領主城では五十人を超える襲撃者達が何もない場所から突然姿を現し、その常識外れの魔法を自らの目で見ることになります。

襲撃者達をユリウスへ引き渡し、ひとまずアルフェリアでやるべきことを終えたクラリス達。


次回は、アイリーナやアラン達が街を歩いても正体を悟られないよう、変装用の服を買いに行くことに

もちろん、買い物と聞いてエリスとマリンが大人しく服だけを見ているはずもなく……

二人のアルフェリアでの楽しみは、どうやら別のところにもあるようです。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、9月17日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[[魔族の女王が転生したら聖女になっていた>https://ncode.syosetu.com/n5658ly/]] [[作者のX>https://x.com/shirokamieru?s=11]]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。