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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

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白銀の剣姫への信頼 ― 王女のもとへ ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


アイリーナとの面会を望んだアルフェリア領主、ユリウス・マルケッティ。

その願いを受け入れることにしたクラリス達でしたが、王女の安全を守るためには厳しい条件が必要でした。

護衛を伴わず、一人で指定された場所まで来ること。

その条件に迷いを見せるユリウスの前で、クラリスはついにその素顔を明かします。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

アランが領主城から戻ってきたのは、それからしばらくしてのことだった。

馬車へ戻ったアランは、周囲に怪しい者がいないことを確認してから異空間へ入った。

リビングでは、アイリーナをはじめ、クラリスやルシアン達がアランの帰りを待っていた。


「殿下、ただいま戻りました」


アランがアイリーナの前で頭を下げる。


「ご苦労様でした、アラン。マルケッティ卿はいかがでしたか?」


「はい。お手紙は、マルケッティ卿御本人に直接お渡しいたしました」


アランは領主城での出来事を順番に説明していった。

ユリウスが手紙を読むと、すぐに人払いをしたこと。

アイリーナが無事であると知って安堵していたこと。


そして――


「マルケッティ卿は、殿下に直接お会いしたいと申しております」


「私に?」


アイリーナが僅かに目を見開いた。


「はい。お手紙を疑っているわけではないそうです。ただ、襲撃を受けた以上、殿下が負傷されていても周囲を心配させまいと無事だと書かれている可能性もあると……。そのため、ご自身の目で殿下のご無事を確認したいとのことでした」


「そうですか……」


アイリーナは少し考え込んだ。

ユリウス・マルケッティについては、セレフィーナから信用できる人物だと聞いている。

王族派であり、今回の手紙を読んだ際の反応を聞く限りでも、アイリーナを案じているのは間違いなさそうだった。


「私は、マルケッティ卿にお会いしたいと思います」


アイリーナはそう答えると、クラリスへ視線を向けた。


「クラリスさん、どうするのがよいでしょうか?」


「そうですね……」


クラリスは少し考える。

アイリーナを領主城へ連れていく。

それは避けるべきだろう。

現在、第二王女アイリーナ・サントスは表向き消息不明となっている。

領主城ともなれば、多くの衛兵や使用人がいる。

どこから情報が漏れるか分からない以上、アイリーナ自身をそこへ向かわせるのは危険だった。

やがてクラリスは答えを出した。


「マルケッティ卿に、こちらへお越しいただくのがよろしいかと思います」


「ここへ、ですか?」


「はい。ただし――」


クラリスは真剣な表情になる。


「お越しいただくのは、マルケッティ卿お一人だけにしていただく必要があります」


アランもすぐにその意味を理解した。


「護衛も連れずに、ということですか?」


「ええ」


クラリスは頷く。


「マルケッティ卿本人については、セレフィーナ様のお話や今回の反応から信用できると思う。でも、周囲にいる人達まで信用できるとは限らないわ」


ルシアンも頷いた。


「領主本人が王族派でも、城にいる全員がそうとは限らないからな」


「はい」


アランも同意する。


「殿下が生きておられることを知る者は、可能な限り増やさない方がよいでしょう」


クラリスはアイリーナへ向き直った。


「マルケッティ卿がお一人でお越しいただけるのであれば、こちらでお会いになるのが最も安全かと思います」


「分かりました」


アイリーナは頷いた。


「その条件でお願いしてください」


「承知しました」


その時、メルキオラが口を開いた。


「もっとも、この馬車の場所そのものが知られたからといって、殿下がすぐ危険に晒されるわけではありませんが」


「そうなの?」


エリスが尋ねる。


「はい、エルシア様」


メルキオラは頷いた。


「ここは馬車の荷台を広げて作った部屋ではありません。現実の空間とは直接的な繋がりを持たない異空間です」


メルキオラは周囲を見渡した。


「馬車にある扉は、あくまでこちらへ入るための入口に過ぎません。仮に馬車の場所を知られたとしても、入口を自由に使えなければ、この空間へ侵入することはできません」


「じゃあ、ここにいる限りはかなり安全なんだね」


「その通りです」


「それでも、知られない方がいいだろうな」


ルシアンが言った。


「もちろんです」


メルキオラも同意する。


「馬車そのものを狙われる可能性はありますし、秘密を知る者を増やす必要もありません」


結論は変わらなかった。

ユリウス・マルケッティをここへ招く。

ただし、一人で来てもらう。

そしてアイリーナが保護されている場所や、そこで目にしたものについては一切他言しない。


「では、私がもう一度マルケッティ卿のもとへ行って参ります」


アランが立ち上がった。


「私も行くわ」


クラリスも立ち上がる。


「クラリスさんも?」


「ええ。条件を伝えるだけならあなた一人でもいいけれど、マルケッティ卿をここまでお連れすることになれば、私も一緒にいた方がいいでしょう」


「でしたら、私も同行します」


今度はリディアが立ち上がった。

クラリスが彼女を見る。


「リディアも?」


「はい。アルフェリアの街中とはいえ、何が起こるか分かりません。何かあった時に三人の方が対応しやすいと思います」


クラリスは少し考えてから頷いた。


「分かったわ。お願い」


「はい、クラリスさん」


こうして、アラン、クラリス、リディアの三人が再び領主城へ向かうことになった。


◇◇◇


三人が領主城へ到着すると、昨日よりも話は早かった。

門を守っていた衛兵の一人が、アランの顔を覚えていたからだ。


「昨日の近衛兵の方ですね」


「ああ。マルケッティ卿にお会いしたい」


「少々お待ちください」


衛兵が城内へ確認に向かう。

しばらくすると戻ってきた。


「確認が取れました。マルケッティ卿がお会いになるそうです。こちらへどうぞ」


「感謝する」


アラン、クラリス、リディアの三人は衛兵の案内で城内へ入った。

昨日と同じ廊下を進み、やがて一つの部屋へ通される。

そこにはユリウス・マルケッティが待っていた。


「来てくれたか」


ユリウスはアランを見る。

そして、その後ろに立っている二人へ視線を移した。

クラリスは深くフードを被り、顔を隠している。

リディアも目立たない旅装をしていた。


「そちらの二人は?」


アランは詳しいことには触れず、短く答えた。


「昨日お渡しした手紙の件に関係する者です」


「……そうか」


それだけで、ユリウスは意味を察したようだった。

表情が僅かに変わる。

ユリウスは室内に控えている衛兵や使用人へ視線を向けた。


「全員、外してくれ」


「マルケッティ様?」


「私が呼ぶまで誰も入れるな」


「……承知いたしました」


衛兵達が一礼する。

使用人達もそれに続き、部屋から出ていった。

最後の一人が退出する。

扉が閉じられた。

ユリウスはそれを確認してから、改めてアラン達へ向き直った。


「これでいいだろう」


「ありがとうございます」


アランが頭を下げる。

ここで初めて、本題へ入った。


「昨日の件について、殿下を含め皆で話し合いました」


「それで?」


ユリウスの表情が引き締まる。


「殿下は、マルケッティ卿との面会を望んでおられます」


「そうか……!」


ユリウスの表情に安堵が浮かんだ。


「では、会わせていただけるのか?」


「はい。ただし、いくつか条件があります」


「聞こう」


「まず、殿下がおられる場所までお越しいただくのは、マルケッティ卿お一人だけです」


「私一人で?」


「はい。護衛も使用人も同行させることはできません」


ユリウスの眉が僅かに動く。

アランは続ける。


「そして、これから向かう場所については一切他言無用でお願いいたします。そこでご覧になったものについても同様です」


「……かなり厳しい条件だな」


「殿下の安全のためです。ご理解ください」


ユリウスは腕を組んだ。


「理由は分かる」


少し考えてから続ける。


「しかし、領主である私が護衛も付けず、行き先すら告げずに城を出るとなると、簡単に了承するわけにもいかない」


それは当然だった。

アイリーナに会いたいと申し出たのはユリウス自身だ。

しかし、これからどこへ連れて行かれるのか分からない。

しかも護衛すら認められない。

領主という立場を考えれば、躊躇するのも無理はなかった。


「せめて、護衛を一人だけでも連れていくことはできないか?」


「申し訳ありません」


アランは首を横に振る。


「それはお認めできません」


「そうか……」


ユリウスは難しい表情を浮かべた。


「私自身は殿下にお会いしたい。しかし、この条件では……」


その様子を見ていたクラリスが、静かに口を開いた。


「ご不安に思われるのも当然かと思います」


ユリウスの視線がクラリスへ向く。


「そういえば、まだあなた方について聞いていなかったな」


クラリスはアランを見る。

アランが小さく頷いた。

それを確認すると、クラリスは被っていたフードへ手を掛ける。

そして、ゆっくりと下ろした。

銀色の髪が露わになる。


その顔を見た瞬間――

ユリウスの目が大きく見開かれた。


「……まさか」


クラリスは何も言わず、ユリウスを見つめる。


「その銀髪……それに、その顔……」


ユリウスが思わず椅子から立ち上がった。


「白銀の剣姫……?」


クラリスは静かに頷いた。

そこでアランが紹介する。


「クラリスさんです。私が騎士団にいた頃の上官でもあります」


「やはり……!」


ユリウスは驚きを隠せなかった。


「白銀の剣姫クラリス……」


その名は、王国に仕える者ならば一度は耳にしたことがあるほど有名だった。

かつて王国騎士団で名を馳せた女性騎士。

さらに冒険者としても活躍した人物である。


「まさか、あなたが……」


ユリウスがクラリスを見る。

アランが続けた。


「現在、殿下はクラリスさん達と共におられます」


「そういうことだったのか……」


ユリウスは納得したように呟いた。

クラリスも口を開く。


「殿下は、私達が責任を持ってお守りしております」


「……なるほど」


ユリウスはしばらくクラリスを見つめていた。

先ほどまでの迷いが、少しずつ消えていく。

やがて――


「分かった」


ユリウスがはっきりと言った。


「その条件を受けよう」


「よろしいのですか?」


アランが確認する。


「ああ」


ユリウスはクラリスを見る。


「白銀の剣姫が殿下を守っているというのであれば、信用するに足る」


クラリスは少し困ったように笑った。


「私の名前だけで、そこまで信用していただくのも困りますが」


「あなたが王国騎士団にいた頃の話は、私も聞いている」


ユリウスはそう答えると、改めてアランへ向き直った。


「護衛は連れない。行き先も誰にも話さない。そして、そこで見聞きしたことも他言しない。それでいいのだな?」


「はい」


「ならば行こう」


ユリウスはそう言うと、最低限の指示だけを使用人へ伝えることにした。

行き先については話さない。

少しの間、城を空ける。

急ぎの用件がなければ戻るまで待つように。

それだけだった。

そして人目を避けるため、表門ではなく城の裏口を使うことになった。


◇◇◇


アラン、クラリス、リディア。

そしてユリウス。


四人は領主城の裏口から外へ出た。

ユリウスは外套を羽織り、できるだけ領主だと分からない格好をしている。

アルフェリアの大通りは相変わらず多くの人々で賑わっていた。


商人達の声。

馬車の車輪が石畳を転がる音。

露店から客を呼び込む声。

その中を四人は歩いていく。

ユリウスは時折、周囲を確認していた。

護衛なしで街を歩く機会など、普段はほとんどないのだろう。


「殿下は、この街のどこかに匿われているのか?」


歩きながらユリウスが尋ねる。

アランは詳しく答えなかった。


「もう少しです」


「……分かった」


ユリウスもそれ以上は聞かなかった。

しばらく歩き――

やがて、エリス達が馬車を停めている場所へ辿り着いた。


「着きました」


アランが足を止める。

ユリウスも立ち止まった。


そして周囲を見る。


「……ここか?」


「はい」


ユリウスはもう一度辺りを見回した。

目の前にあるのは、一台の大型幌馬車。

その周囲に、第二王女を匿っていると思われるような屋敷はない。

隠れ家らしき建物も見当たらなかった。


「殿下はどこに?」


ユリウスが遠くへ視線を向ける。


「この近くに隠れ家でもあるのか?」


「いいえ」


アランが答えた。

そして、目の前の馬車へ視線を向ける。


「殿下はこちらにおられます」


「……こちら?」


ユリウスも馬車を見る。


「この馬車に?」


「はい」


「しかし……」


どう見ても普通の大型幌馬車だ。

アイリーナだけならまだしも、近衛兵や侍女達まで一緒に何日も生活できるような広さがあるとは思えない。

ユリウスが不思議そうに馬車を見ていると、クラリスが先に乗り込んだ。

リディアもそれに続く。


「どうぞ」


アランに促され、ユリウスも馬車へ乗り込んだ。

中を見ても、やはり普通の馬車にしか見えない。


「本当にここなのか?」


「はい」


アランは頷く。


そして、ユリウスへ向き直った。


「マルケッティ卿」


「なんだ?」


「先ほどもお願いいたしましたが、これからご覧になるものについても、決して他言なさらないようお願いいたします」


ユリウスの表情が真剣になる。


「分かっている。約束しよう」


「ありがとうございます」


アランがクラリスを見る。

クラリスが頷いた。


そして――

異空間へと続く扉が開かれた。


「……?」


ユリウスが扉の向こうを見る。

その瞬間。

目を大きく見開いた。


「これは……?」


そこにあるはずの馬車の荷台ではなかった。

扉の向こうには、馬車の大きさからは到底想像できない空間が広がっている。


明るい照明。

広々としたリビング。

奥へ続く廊下。


どう考えても、目の前の馬車の内部に収まる広さではない。

ユリウスは扉とその向こうを交互に見る。


「どうなっている……?」


アランは詳しい説明をしなかった。


ただ一言。


「どうぞ、お入りください」


ユリウスは戸惑いながらも、ゆっくりと扉をくぐる。


その瞬間――。


先ほどまでいた馬車とはまるで別の空間が、目の前に広がった。


ユリウスは思わず振り返る。


しかし、確かに自分は今、あの馬車からここへ入ってきたはずだった。


「こんなものが……」


驚きを隠せないユリウスへ、アランが静かに告げる。


「こちらで殿下をお守りしております」


ユリウスが前を向く。


この異空間のどこかに――

自分がその目で無事を確認したいと願った、第二王女アイリーナ・サントスがいる。

ユリウスは驚きを残したまま、アラン達に案内されて奥へと進んでいった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、ユリウスからの面会希望を受けたアイリーナ達が、その方法について話し合いました。

王女を領主城へ向かわせるのではなく、ユリウス本人に一人で来てもらう――。

領主という立場から条件を受け入れることに迷っていたユリウスでしたが、同行していた女性がかつて王国で名を馳せた「白銀の剣姫」クラリスだと知り、ついに決断します。

そしてアラン達に案内されて辿り着いたのは、一台の幌馬車。

そこでユリウスは、想像すらしていなかった異空間を目の当たりにすることになりました。


次回、ユリウスはいよいよ第二王女アイリーナと対面します。

王女の無事をその目で確かめたユリウスは、何を語るのでしょうか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月15日18時を予定してます

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