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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

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交易都市を前に ― 王女を守るための準備 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


エリス達は、いよいよ交易都市アルフェリアを目前にしていました。

しかし、第二王女を匿ったまま街へ入る以上、これまでと同じようにはいきません。

アルフェリアの領主を信用してもよいのか?

そして、アイリーナ達をどのように街で過ごさせるのか…

王女の生存を秘密にしたまま、クラリス達はアルフェリアへ入るための準備を始めます。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

アイリーナ王女を保護してから、しばらくが経っていた。


あれから大きな問題が起こることもなく、エリス達を乗せた馬車は再び街道を進んでいる。

アイリーナ達を保護したことで予定より少し遅れてしまったものの、目的地である交易都市アルフェリアまでは、もうそれほど遠くない。

天候にも恵まれ、馬車の旅そのものは穏やかなものだった。

そして、アイリーナ達が加わったことで人数は増えたものの、意外なことに異空間での生活は以前よりも楽になっていた。

その理由は、アイリーナに付き従っていた侍女達だった。


「こちらのお皿は洗っておきますね」


「ありがとう。助かるわ」


キッチンでは、マリンが侍女の一人に皿を渡していた。

食事を作る時には食材を切り、食器を並べ、食後には片付けまで手伝ってくれる。

最初は、エリス達は遠慮していた。

助けたばかりの人達に働いてもらうのは申し訳ないと思ったからだ。

しかし侍女達の方から、


「何もせずにお世話になっている方が落ち着きません」


と言われ、それならばと手伝ってもらうことになった。

元々、王女付きの侍女である。

身の回りの世話だけでなく、料理や掃除にも慣れており、その手際はかなり良かった。


「人数は増えたのに、前より楽になった気がするね」


エリスが笑う。


「私もそう思う」


マリンも笑いながら頷いた。


「食事の準備も片付けも手伝ってもらえるから、本当に助かるわ」


「私達だけでやってた時より、ずっと早く終わるもんね」


そんな二人の会話を聞いていた侍女が微笑んだ。


「私達も、何もせずお世話になっているより、この方が落ち着きます」


「それなら、お互い助かってるってことね」


マリンが笑う。

アイリーナ達が加わったことで人数そのものは増えた。

それでも侍女達が家事を手伝ってくれるようになったことで、以前より余裕が生まれていた。


一方、アラン達近衛兵は少し違った。


この異空間が非常に安全な場所であることは、十分に理解している。

登録された者でなければ出入口を自由に使うことはできず、外から簡単に侵入できる場所でもない。

それでも、彼らは近衛兵だった。

安全だからといって、護衛対象であるアイリーナのそばを離れることはなかった。

常に誰かがアイリーナの近くに残り、交代で休息を取っている。

その徹底ぶりには、同じく騎士として王国に仕えていたクラリスやガルド、リディアも感心していた。


そんな穏やかな旅が続く中――

アルフェリアが近づいたことで、新たな問題について考える必要が出てきた。

異空間のリビングには、クラリスやルシアンをはじめ、アイリーナ、アラン達が集まっていた。

エリスやマリン達も、それぞれソファに座って話を聞いている。


「アルフェリアへ入ること自体は、これまで通りで問題ないと思います」


クラリスがアイリーナへ向けて話す。


「殿下達にはここでお待ちいただき、私達だけで通常通り街へ入るのが安全かと」


「私もそれがよいと思います」


アイリーナが答える。アランも頷いた。


「私も異存ありません。殿下の生存を知られないことを最優先にすべきでしょう」


外から見れば、エリス達の馬車は普通の大型幌馬車でしかない。

その内部に広大な異空間があり、第二王女と近衛兵、侍女達がいるなど誰にも分からない。


「問題は、街へ入った後です」


クラリスが続けた。


「アルフェリアの領主を頼ってもよいのか、それを確認しておいた方がよろしいかと思います」


アイリーナの表情も少し真剣になる。


「ユリウス・マルケッティ卿ですね」


「はい」


アルフェリアほどの大都市ともなれば、領主の協力を得られることは大きい。

ましてや保護しているのは第二王女だ。

本来なら、領主へ事情を説明して保護を求めるのが自然だろう。

しかし今回は事情が違う。アイリーナの生存そのものが秘密なのだ。

ルシアンが腕を組んだ。


「領主本人が信用できるかどうかが分からないまま、殿下のことを話すのは危険だな」


「そうね」


クラリスも頷く。そしてアランを見る。


「アランは、マルケッティ卿について何か知ってる?」


「もちろん名前や立場は存じています。王家に対して反抗的な人物だという話も聞いたことはありません。ただ……」


アランは少し言葉を選んだ。


「今回のような状況で、殿下の生存を知らせても絶対に問題ない人物かと問われれば、私からは断言できません」


「そうよね」


クラリスもそれ以上は求めなかった。

領主としての評判を知っていることと、第二王女の命を預けられるほど信用できることは別だ。

ましてや王都では、反王政派が水面下で動いている可能性がある。

その時、エリスが口を開いた。


「それなら、セレフィーナ様に聞いてみたらどうかな?」


クラリスがエリスを見る。


「私もそれが一番だと思うわ」


アイリーナも頷いた。


「姉さまでしたら、マルケッティ卿についてもご存じだと思います」


何よりセレフィーナは、すでにアイリーナの生存を知っている。

新たな人物へ秘密を明かすことなく確認できる相手としては、これ以上ない存在だった。


「では、確認してみます」


クラリスはアイリーナへそう告げると、通信機を取り出した。

通信機を操作し、セントポルへ繋ぐ。


少しして――


『クラリス?』


聞き慣れたセレフィーナの声が返ってきた。


「ええ、私よ。セレフィー」


先ほどの通信で昔のように話してほしいと言われたこともあり、今度は最初から普段の呼び方だった。


『どうしたの? 何かあった?』


「問題が起きたわけじゃないの。たびたびで悪いんだけどアルフェリアに着く前に、少し聞きたいことがあって」


『アルフェリアについて?』


「ええ。領主のユリウス・マルケッティについて、知っていることを教えてほしいの」


『ユリウスね』


少しだけ間が空いた。


『それなら、信用して大丈夫だと思うわ』


「王家との関係は?」


『王族派よ。少なくとも私が知る限り、反王政派と繋がっているような人物ではないわ』


「人柄は?」


『真面目な人よ。それに、とても慎重な人でもあるわね。アルフェリアは王都へ向かう人だけじゃなく、外国から来る商人も多いでしょう? あれだけ大きな交易都市を任されているだけあって、物事を軽々しく判断するような人ではないわ』


「そう……」


クラリスはルシアンと視線を交わした。


『もしかして、アイルのことで頼るつもり?』


「ええ。その可能性を考えているの。でも、殿下が生きていることを知る人は、できるだけ増やしたくないでしょう?」


『それなら、ユリウス本人にだけに伝えた方がいいわね』


「私達もそう考えてる」


『分かったわ。でも、気を付けてね。ユリウス本人が信用できても、周りにいる全員まで同じとは限らないから』


「ええ。そのつもりよ」


『何かあったら、また連絡して』


「ありがとう、セレフィー」


『ええ』


そこで通信を終えた。

クラリスは通信機を置くと、改めてアイリーナへ向き直る。


「セレフィーナ様があそこまで信用されている方でしたら、ユリウス・マルケッティ卿を頼っても問題ないかと思います」


「私もそう思います」


アイリーナが頷いた。


「姉さまがそこまで仰るのであれば、私もマルケッティ卿を信用したいと思います」


領主本人については、ひとまず問題なさそうだ。

しかし、もう一つ問題が残っている。

どうやってユリウス本人だけに事情を伝えるか。


「普通に領主邸へ行って謁見を申し込むだけでは、理由を聞かれる可能性があるな」


ルシアンが言った。


「そうね。そこで殿下のことを話すわけにはいかないもの」


クラリスが答える。

その時、アランが口を開いた。


「一つ、方法があります」


「どんな方法?」


「殿下に、マルケッティ卿宛てのお手紙を書いていただくのです」


アイリーナもアランを見る。


「私が?」


「はい。殿下直筆のお手紙であれば、マルケッティ卿も事態の重大さを理解するはずです」


ルシアンが頷く。


「なるほど。その手紙をあんたが届けるのか」


「はい。私には近衛兵であることを証明する物もあります。殿下のお手紙と共に提示すれば、マルケッティ卿本人への取り次ぎを求める理由としても十分でしょう」


「確かに、それが一番自然ね」


クラリスはアイリーナへ向き直った。


「殿下。お手数をお掛けいたしますが、マルケッティ卿へのお手紙をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


アイリーナは迷わず答えた。


「私から直接、マルケッティ卿本人にだけ読んでいただきたい旨も書いておきます」


「お願いいたします」


これで、アルフェリアへ入った後の方針も決まった。


まずエリス達だけで街へ入る。


その後、アイリーナがユリウス・マルケッティ宛ての手紙を書き、それを近衛兵であるアランが届ける。

そしてユリウス本人と極秘に接触する。

話が一段落したところで、クラリスはアイリーナの姿を見た。

そして、もう一つ気になっていたことを口にする。


「それと、殿下。もう一つご提案があるのですが」


「何でしょう?」


「アルフェリアに着きましたら、殿下や皆様のお召し物をご用意してはいかがでしょうか」


「私達の服を?」


「はい。今のお召し物では、外へ出られた際に身分を悟られる可能性があります。できれば、一般の旅人に見えるものをご用意した方がよろしいかと」


アイリーナは自分の服へ視線を落とした。


襲撃時に着ていた服はところどころ傷み、煤や泥の汚れも残っている。


あの時は突然の襲撃を受け、命からがら逃げ出すだけで精一杯だった。

馬車に積んでいた荷物は何一つ持ち出せていない。

当然、着替えなど一着もなかった。


それ以前に、今身につけている服そのものが、王女として仕立てられた上等なものだ。

汚れているとはいえ、一般の旅人が着るような服には到底見えない。


「確かに……この格好では目立ってしまいますね」


「それに……」


クラリスは少し言葉を選んだ。


「いくらこの場所が安全とはいえ、王都までずっとこちらでお過ごしいただくのも、お疲れになるかと思います」


アイリーナが静かに周囲を見る。


異空間は快適だった。

食事にも困らず、風呂もあり、個室まで用意されている。

安全という意味では、これ以上の場所はないだろう。


それでも、これから王都へ到着するまで一歩も外へ出ずに過ごすとなれば話は別だ。

襲撃を受けてからずっと身を隠しているアイリーナにとって、それは少なからず精神的な負担になるかもしれない。


「アルフェリアで安全が確認できましたら、一般の旅人に見える服をご用意します。その上で、少し街を歩かれてはいかがでしょうか」


「街を……ですか?」


アイリーナの表情が少し明るくなった。


「はい。もちろん、アラン達近衛兵にも同行していただきます。それに、私達からも護衛を付けます」


その言葉を聞いたアランが、僅かに表情を険しくする。


「殿下を街へお連れするのですか?」


「安全が確認できてからよ」


クラリスはアランにはいつもの口調で答えた。


「それに、殿下だけで外へ出ていただくつもりはないわ。あなた達も一緒。それに私も同行する」


アランは考え込んだ。


近衛兵としては、アイリーナを安全な異空間から出したくないのが本音なのだろう。


しかし、アイリーナが静かに口を開いた。


「私は……少し歩いてみたいです」


「殿下」


「もちろん、安全が確認されてからで構いません」


アイリーナはアランへ穏やかに微笑む。


「それに、あなた達も一緒なのでしょう?」


「もちろんです。我々は殿下のおそばを離れるつもりはありません」


「でしたら、私は皆さんを信じます」


アランはしばらくアイリーナを見つめていたが、やがて小さく息を吐き、頭を下げた。


「……承知いたしました。ただし、少しでも危険があると判断した場合は、すぐにお戻りいただきます」


「分かりました」


クラリスも頷いた。


「その時は私達も従うわ」


そこでクラリスは、ふとアラン達の姿へ目を向けた。


そして、少し困ったように笑う。


「……そうなると、あなた達の服も用意しないといけないわね」


「我々の服もですか?」


アランが自分の格好を見下ろす。


彼らもまた、襲撃から逃れる際に荷物を持ち出す余裕などなかった。

今身につけているのは、襲撃時から着ていた近衛兵としての装いだけである。


クラリスはそれを指しながら答えた。


「殿下だけ一般の旅人に見える格好をしても、その周りを近衛兵が固めていたら意味がないでしょう?」


「ああ……確かに」


アランもようやく納得したようだった。


「アルフェリアに着いたら、まずは街の様子を確認する。その後で殿下とあなた達が着られる服を用意しましょう」


「分かりました。よろしくお願いします」


アランが頭を下げると、クラリスは小さく頷いた。


アイリーナ、侍女達、そしてアラン達近衛兵。

全員が一般の旅人に見える服装へ変える。


「だったら、服を選ぶのは私達も手伝います!」


マリンが楽しそうに声を上げた。


「マリン、遊びじゃないんだからね」


エリスが苦笑する。


「分かってるわよ。でも、せっかくなら似合う服の方がいいでしょう?」


「それはそうだけど……」


そう言いながら、エリスもアイリーナを見る。


「私もお手伝いします」


アイリーナは二人を見て、少し嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます。その時は、ぜひお願いいたします」


「任せてください!」


マリンが嬉しそうに答える。

クラリスはそんな様子を見ながら、僅かに表情を緩めた。

アイリーナを守る。

それは、安全な場所に閉じ込めておくだけではない。

可能な限り普段に近い時間を過ごしてもらうことも必要なのだろう。

もちろん、警戒を緩めるつもりはない。


ユリウス・マルケッティへの接触。

アイリーナ達の服の用意。

街中を歩く場合の護衛。


そして何より、第二王女アイリーナ・サントスが生きているという事実を外へ漏らさないこと。

アルフェリアに入れば、考えなければならないことは増える。

それでも、一つずつ方針は決まり始めていた。

その時だった。

l外の御者台から声が聞こえてきた。


「クラリス! 見えてきたぞ!」


その声に、皆が顔を上げる。

エリスとマリンは真っ先に外へ向かった。

異空間から馬車へ戻り、御者台の方を見る。

街道の先。

遠くに巨大な城壁が見えていた。

城門へと続く道には、多くの馬車が列を作っている。

荷物を満載した商人の馬車。

遠方からやって来た旅人。

護衛を務める冒険者達。

王都へ向かう者もいれば、王都から各地へ向かう者もいるのだろう。

lこれまで通ってきた街とは比べものにならないほど、人と物の流れが多い。


「わぁ……」


エリスが思わず声を漏らした。


「大きい……」


マリンも目を見開く。

交易都市――アルフェリア。

王都グランヴェイルへ向かう重要な中継地点であり、様々な地域から人と物が集まる大都市。

数日にわたる旅の末。

エリス達はついに、その目前まで辿り着いていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、アルフェリアを目前にして、クラリス達がアイリーナを守るための今後の方針を話し合いました。

セレフィーナへの確認によって、アルフェリア領主ユリウス・マルケッティが王族派であり、信用できる人物だと分かりました。

アイリーナから領主本人宛ての手紙を書き、近衛兵のアランが直接届けることで、できる限り秘密を守ったまま接触することになります。

また、アイリーナ達が王都まで異空間だけで過ごすことにならないよう、身分を隠せる服を用意することにもなりました。


そして街道の先には、ついに巨大な城壁が――。

次回、エリス達はいよいよ交易都市アルフェリアへ到着します。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月11日18時を予定してます

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