↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
130/134

王家の名を持つ者 ― 救い出した女性の正体 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


襲撃者を退け、燃え上がる王家の馬車を破壊したエリス達。

救出した者達の待つ異空間へ戻り、改めて互いの素性を確かめていく中で、助け出した女性の正体が明らかになります。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

燃え上がる王家の馬車から、黒煙が空高く立ち昇っていた。

すでに車体の大半は炎に包まれ、先ほどまで見えていた王家の紋章も判別できないほど焼け焦げている。

メルキオラが最後に放った魔法によって馬車は大きく破壊され、遠くから見れば、中にいた者達が無事に逃げ出したとは到底思えない状態になっていた。

クラリスはその様子を確認すると、周囲へ視線を巡らせる。

襲撃者達はすでに全員無力化され、拘束を終えていた。


「これでいいわ。私達も戻りましょう」


全員が頷く。

メルキオラが魔法を発動すると、エリス達の姿は街道から一斉に消えた。


次の瞬間――。

エリス達は馬車に繋がる異空間のリビングへと転移していた。

そこには先ほど救出した者達が待っていた。


クラリスの元部下だというアラン。

生き残った近衛兵達。

侍女。

そして、彼らが「殿下」と呼び、守るように囲んでいる女性。


クラリス達が現れると、アランがすぐに立ち上がった。


「団長!」


「待たせたわね、アラン」


クラリス達が無事に戻ってきたことで、アランは僅かに安堵したようだった。

しかし、すぐに表情を引き締める。


「団長。まず、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


「何?」


「ここは……一体どこなのですか?」


クラリスは一瞬きょとんとした。

そこで、ようやく気づく。

燃え盛る馬車から救出した時は、一刻を争う状況だった。

とにかくアラン達を安全な場所へ避難させ、外で戦っている仲間達の援護へ戻ることしか考えていなかった。

そのため、この場所について何も説明していない。


「そういえば、何も説明していなかったわね。ごめんなさい」


「いえ。あの状況でしたから、それは理解しています。ただ……」


アランが周囲を見回した。


「安全な場所だとは伺いましたが、念のため外へ出る方法を探しました。しかし、どこにも出口らしいものが見当たりませんでした」


「出口を探したのね」


「はい。殿下をお守りする以上、万が一の際に脱出する方法を把握しておく必要がありますので」


クラリスは納得したように頷いた。

アランは昔から真面目な騎士だった。

今は近衛兵として王族を護衛しているのなら、なおさら当然の行動だろう。


「ここは、私達が旅に使っている馬車に繋がっている特殊な空間よ」


「馬車に……?」


アランが眉を寄せた。

そして改めて周囲を見回す。

広々としたリビングには、ソファやテーブルが置かれている。

さらに奥にはキッチンやいくつもの部屋がある。

どう考えても馬車の中とは思えない。


「詳しい仕組みまで説明すると長くなるから、今はそういう場所だと思ってもらえればいいわ」


「なるほど……」


アランの表情を見る限り、理解できているとは思えない。

それでも今は、この場所の仕組みを完全に理解する必要はない。


「では、我々が出口を見つけられなかったのは?」


「出入口には仕掛けがあって、あらかじめ登録された人しか使えないようになっているの。だから、あなた達だけでは外へ出られないわ」


「登録された者だけ……」


アランが考え込む。自分達だけでは外へ出られない。

それだけ聞けば、護衛する側として不安を感じるのも当然だ。

案の定、アランはすぐに確認した。


「では逆に、外から襲撃者がここへ入ってくる可能性は?」


「それは心配しなくていいわ。登録されていない人には入口を開けられないから、ここにいる限りは安全よ」


その言葉を聞いて、アランはようやく僅かに表情を緩めた。


「分かりました。それなら安心しました」


そして女性の方を確認する。女性も小さく頷いた。


「説明もしないで置いていってしまって、ごめんなさい。外ではまだみんなが戦っていたから、すぐに戻らないといけなかったの」


「いえ。事情は理解しております」


アランはそう答えると、今度は表情を引き締めた。


「それで、団長。外はどうなりましたか?」


「襲撃者は全員無力化したわ」


「全員……ですか?」


「ええ。一人も逃がしていない。生きている者は全員拘束してあるわ」


アランが驚いたようにエリス達を見渡した。

自分達がここへ避難してから、それほど長い時間が経ったわけではない。

それなのに、あれだけの人数がいた襲撃者を一人も逃がさず制圧したという。


「……さすがですね、団長」


「私一人でやったわけじゃないわよ。みんながいたからよ」


クラリスは苦笑する。

しかし、その表情はすぐに曇った。

まだ伝えなければならないことがある。


「それと、アラン」


声色が変わったことに気づいたのだろう。アランの表情も険しくなる。


「はい」


「外にいた護衛の騎士達だけど……全員確認したわ」


その言葉だけで、アランはある程度察したようだった。

生き残った近衛兵達も表情を曇らせる。


「私達が到着した時には、もう全員亡くなっていたわ」


室内が静まり返った。アランはゆっくりと目を閉じた。

他の近衛兵達も俯き、侍女は悲しそうに目を伏せる。

中央にいた女性も静かに目を閉じていた。


「……そうですか」


しばらくして、アランが小さく答えた。


「間に合わなくて、ごめんなさい」


「いいえ」


アランは首を横に振った。


「団長達が謝ることではありません。皆、最後まで殿下をお守りするために戦ったのでしょう」


「ええ」


クラリスが頷く。


「私達が到着した時にも、馬車を守ろうとしていた跡が残っていたわ。あなた達が助かったのも、彼らが最後まで戦ってくれたからだと思う」


すると、女性が静かに口を開いた。


「彼らの働きは、決して忘れません」


その声には悲しみが滲んでいた。


「王都へ戻ることができましたら、ご家族にも必ずお伝えします」


「殿下……」


アラン達が深く頭を下げる。

エリス達も何も言わず、その様子を見守った。

少しの沈黙の後、クラリスが再び口を開く。


「それと、もう一つ伝えておくことがあるわ」


「まだ何か?」


「あなた達が乗っていた馬車だけど……爆破したわ」


「…………はい?」


アランが目を瞬かせる。


「爆破……したのですか?」


「ええ」


「王家の馬車を?」


「そうよ」


あまりにも普通に答えるクラリスに、アランは一瞬言葉を失った。


「もちろん理由があるわ」


クラリスは続ける。


「今回の襲撃者が、あそこにいた者達だけとは限らないでしょう?」


アランの表情が変わる。その意味に気づいたらしい。

ルシアンも口を開いた。


「離れた場所から襲撃の結果を監視している者がいる可能性もある」


「ええ。だから、あなた達が逃げ出したと思われないようにしたの」


クラリスは女性へ向き直った。

相手が王族であることはすでに分かっている。

そのため、先ほどまでアランと話していた時とは違い、丁寧な口調になる。


「勝手な判断で王家の馬車を破壊してしまい、申し訳ございません。ただ、遠くから監視している者がいた場合、あの状態であれば中にいた方々が助かったとは考えにくいと思いました」


「私達が生きていることを隠すためだったのですね」


「はい。完全に欺ける保証はありませんが、少しでも時間を稼げればと思いまして」


女性は静かに頷いた。


「分かりました。そのような理由であれば、責めることなどできません。ありがとうございます」


「いえ」


クラリスが軽く頭を下げる。

そのやり取りを聞いていたアランが、少しだけ笑った。


「団長は相変わらずですね」


「あら?」


「我々が目の前の状況を考えている間に、いつもその先まで考えている」


「そんなに大袈裟なことじゃないわよ」


「昔からそうでした」


クラリスは困ったように笑った。

そして、ふと思い出したようにアランを見る。


「それよりアラン」


「はい?」


「いつまで団長って呼ぶの?」


「……え?」


「私はもう騎士団長じゃないのよ」


「それは存じていますが……」


「だったら、もう団長じゃなくていいでしょう?」


アランは明らかに困った表情を浮かべた。


「しかし……元上官を呼び捨てにするわけにもいきません」


「それなら、さん付けでいいわよ」


「……分かりました」


そう答えたものの、アランはどこか居心地が悪そうだった。

長年染みついた呼び方を急に変えるのは難しいらしい。

クラリスは小さく笑うと、改めて女性へ向き直った。

考えてみれば、燃える馬車の中では救出を優先していたため、まともに挨拶すらしていない。

相手が王族であることは間違いない。

クラリスは姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。


「改めまして。ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません」


女性もクラリスへ視線を向ける。


「クラリスと申します。現在は冒険者として、仲間達と旅をしております」


その瞬間――。

女性の表情が僅かに変わった。


「……クラリス?」


小さく名前を繰り返す。

クラリスは不思議そうに女性を見る。


「はい」


「失礼ですが……以前、王国騎士団で騎士団長を務めていらっしゃいましたか?」


「ええ。もう随分昔になりますが」


女性が目を見開いた。

これまで断片的だった情報が、一つに繋がったようだった。

アランが「団長」と呼んでいた。

かつて王国騎士団長を務めていた。

そして――クラリスという名前。


「では……もしかして、『白銀の剣姫』と呼ばれていたクラリス様でしょうか?」


今度はクラリスが驚いた。


「ええ。確かにそう呼ばれていたことはありますが……どうしてご存じなのですか?」


女性の表情が僅かに明るくなる。


「セレフィーナ姉さまから、何度もお話を聞いております」


「セレフィーナ様からですか?」


クラリスは驚いたものの、すぐに納得した。

セレフィーナは幼い頃からクラリスを慕っていた。

クラリスが王城を訪れると、その姿を見つけては嬉しそうに駆け寄ってきたものだ。

騎士の仕事について尋ねられたり、剣の話を聞きたがったり。

クラリスの後をついて歩いていたことさえある。


「そうでしたか。セレフィーナ様が私のことを……」


クラリスの表情に懐かしさが浮かぶ。


「はい。姉さまは、クラリス様のことを憧れの騎士だったと、よく話しております」


「幼い頃は、よく私のところへいらっしゃっていました。私が王城へ行くと、見つけては声を掛けてくださって」


「そのお話も聞いております」


女性が微笑む。


「姉さまは、クラリス様を見つけるたびに後を追いかけていたと話していました」


「ええ。よく覚えております。騎士の仕事について、色々と聞かれたものです」


クラリスも懐かしそうに微笑んだ。


「ですから、アランが『団長』と呼んでいるのを聞いた時から、もしかしたらとは思っていたのです」


「それで、私の名前を聞いて?」


「はい。元王国騎士団長で、お名前がクラリス様。そこで、姉さまから何度も聞いていた『白銀の剣姫』だと分かりました」


「なるほど。そういうことでしたか」


クラリスは納得したように頷いた。

それ以上、女性の身分について尋ねることはしなかった。

近衛兵達から「殿下」と呼ばれている時点で、王族なのは明らかだ。

セレフィーナを「姉さま」と呼んでいることからも、王家と非常に近しい人物であることは間違いない。

それでも、本人から身分を明かされていない以上、こちらから詮索するべきではない。


「では、仲間達も紹介させていただきます」


クラリスはまずエリスを示した。


「こちらは娘のエリスです」


「エリスと申します。よろしくお願いいたします」


エリスは女性へ丁寧に頭を下げた。


「クラリス様の娘さんなのですね」


「はい」


クラリスが答える。


続いて、ミリア。

その娘であるマリン。

ルシアン。

カイル。


順番に紹介していく。

そして――


「こちらがガルドです」


「ガルドと申します」


ガルドが頭を下げた。

その顔を見たアランが眉を寄せる。


「……ガルド?」


ガルドもアランへ視線を向けた。


「ああ。俺も顔には見覚えがある。アランだったな」


「やはりそうか。騎士団にいたガルドだな?」


「ああ」


「直接話したことは、ほとんどなかったと思うが」


「所属していた部隊も違ったからな」


ガルドが答える。


「それでも同じ騎士団にいたんだ。顔くらいは覚えている」


アランが懐かしそうに笑った。

女性が少し興味深そうに尋ねる。


「ガルド様も騎士だったのですか?」


クラリスが答えた。


「はい。ガルドも以前、王国騎士団に所属しておりました」


「そうなのですね」


続いてクラリスはレオネリアを紹介する。


「こちらがレオネリアです」


「レオネリアと申します」


レオネリアが丁寧に一礼した。


「そして、こちらがメルキオラです」


「メルキオラと申します。よろしくお願いいたします」


メルキオラも女性へ頭を下げる。

その後、クラリスは次の人物を示した。


「こちらがリディアです」


リディアが一歩前へ出る。


「リディアと申します。よろしくお願いいたします」


その名前を聞いたアランが、改めてリディアを見る。


「……リディア?」


そこで初めてリディアもアランへ視線を向けた。


「あ……お久しぶりです、アランさん」


「やっぱりリディアか!」


アランが驚いた。


「まさか君まで一緒にいるとは思わなかった」


「私もです。アランさんが近衛兵になっているとは思いませんでした」


「色々あってな」


アランは少し懐かしそうに笑った。


「その話はまた落ち着いてからにしよう」


「はい」


最後にソフィアとスピカを紹介し、エリス達全員の紹介が終わった。

クラリスは改めて女性へ向き直る。


「私達の紹介ばかりになってしまいましたね」


そして、アランを見る。


「もし差し支えなければ、そちらの方をご紹介いただいてもよろしいでしょうか?」


アランはすぐには答えず、女性へ視線を向けた。


「殿下。よろしいでしょうか?」


「ええ」


女性は静かに頷いた。


「この方々は私達の命を救ってくださった方々です。身分を伏せておく理由はありません」


「承知いたしました」


アランは女性へ一礼した。

そして、クラリス達へ向き直る。

先ほどまでとは違う、近衛兵としての改まった表情になる。

その変化を見て、ガルドとリディアが反射的に姿勢を正した。


「それでは、改めてご紹介いたします」


アランが女性の傍らへ移動する。


「こちらの御方は――サントス王国国王陛下の御息女」


エリス達も自然と姿勢を正す。


「第二王女、アイリーナ・サントス殿下であらせられます」


「第二王女……」


エリスが驚いたように目を見開いた。

王族であることは分かっていた。

近衛兵達から「殿下」と呼ばれていた以上、それ自体は予想できていた。

しかし――まさか国王の娘本人だったとは思っていなかった。

マリンも驚いたようにアイリーナを見る。

ソフィアとスピカも同じだった。


そしてクラリスも、ようやくセレフィーナを「姉さま」と呼んでいた理由を理解した。

サントス王国第二王女――アイリーナ・サントス。


アルフェリアを目前にして、エリス達が偶然救い出した女性。

その正体が、ようやく明らかになった。

ありがとうございました。


エリス達が救い出した女性の正体は、サントス王国第二王女――アイリーナ・サントスでした。

襲撃からは救い出すことができたものの、多くの護衛を失ったアイリーナを、このまま王都へ向かわせるわけにはいきません。


次回は、アイリーナをどのように安全に王都まで送り届けるのか、クラリス達が今後の対応を考えます。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、9月8日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[[魔族の女王が転生したら聖女になっていた>https://ncode.syosetu.com/n5658ly/]] [[作者のX>https://x.com/shirokamieru?s=11]]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。