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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

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炎の中に隠した真実 ― 襲撃成功を装うために ―

いつもお読みいただき、ありがとうございます。


アルフェリアを目前にして、王家の紋章が描かれた馬車への襲撃に遭遇したエリス達。

燃え上がる馬車から中にいた者達を救い出し、襲撃者達も一人残らず拘束することに成功しました。

しかし、これだけ大掛かりな襲撃ならば、遠くから結果を監視している者がいる可能性もあります。

救出した者達が生きていることを知られないため、クラリスは一つの決断を下します。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

襲撃者達を全員拘束し終えると、街道にはようやく静けさが戻った。

つい先ほどまで響いていた剣戟の音も、怒号もない。

聞こえてくるのは、炎が木材を焼く音だけだった。

少し離れた場所では、王家の紋章が描かれた馬車が今も激しく燃えている。

その周囲には、護衛をしていた騎士達が倒れていた。

エリス達はまず、襲撃者達が本当に全員無力化されていることを確認した。

メルキオラの《アビスバインド》によって動きを封じられた者達は、武器を取り上げられ、縄で拘束されている。

意識を失っている者も多かったが、息はある。

クラリス達は最初から、可能な限り殺さずに捕らえるつもりで戦っていた。

今回の襲撃は明らかに普通ではない。

王家の紋章を掲げた馬車を、これだけの人数で襲っているのだ。

単なる盗賊とは考えにくかった。

誰に命じられたのか。

何のために王族を狙ったのか。

それを知るためにも、生かして捕らえる必要がある。


「これで全員?」


クラリスが周囲を見ながら尋ねる。

カイルが街道の先へ目を凝らした。


「俺が確認した限りでは、逃げた奴はいない」


『僕も近くには感じないよ』


セラの声がエリスの頭の中に響く。

エリスはクラリスへ頷いた。


「セラも近くに怪しい人はいないって」


「そう」


クラリスは一度、拘束されている襲撃者達を見渡した。


「メルキオラ、この人達をお願いできる?」


「承知いたしました、クラリス様」


メルキオラが手をかざす。

次の瞬間、拘束されていた襲撃者達の姿が次々とその場から消えていった。

向かった先は馬車に繋がる異空間。

もちろん、先ほど救出した者達とは接触しないようにしてある。

これで、少なくとも襲撃者達が突然目を覚まして暴れ出す心配はなくなった。


しかし――

問題はそれだけではなかった。


「エリス」


ミリアの声がした。

その声を聞いた瞬間、エリスは表情を曇らせる。

ミリアとスピカは、先ほどから街道に倒れている騎士達を一人ずつ確認していた。

エリスもそちらへ向かう。


「どうだった?」


ミリアは静かに首を横に振った。


「駄目ね……」


スピカも悲しそうな表情を浮かべている。


「全員確認しました。でも……もう……」


その先を聞く必要はなかった。

エリスは倒れている騎士達を見る。

鎧には無数の傷が刻まれている。

折れた剣を握ったまま倒れている者もいた。

最後まで馬車を守ろうとしたのだろう。

そのことは、周囲に残された戦いの跡を見れば分かった。


「……治せない?」


マリンが小さく尋ねる。

ミリアはもう一度、静かに首を横に振った。


「もう亡くなってから時間が経っているわ」


「そう……」


マリンが俯く。

エリスも唇を噛んだ。


もし、もう少し早くセラが気づいていたら。

もし、もう少し早くここへ到着していたら。


そんな考えが頭をよぎる。


「……もう少し早く気づいていれば」


思わず言葉が漏れた。


「エリス」


クラリスが静かに呼びかける。

エリスが振り返ると、クラリスも倒れている騎士達を見ていた。

その表情はいつになく険しい。

クラリス自身もかつて王国騎士団に所属し、騎士団長として多くの騎士を率いていた。

倒れている者達が誰なのかは知らなくても、思うところがあるのだろう。


「私達が気づいた時には、もう馬車は燃えていたわ」


「……うん」


「それでも、中にいた人達は助けられた」


「分かってる」


エリスは小さく頷いた。

それでも、目の前に助けられなかった人がいれば悔しい。

自分には傷や病を消す力がある。

だからこそ、間に合わなかったという事実が余計に重く感じられた。

そんなエリスの隣にマリンが立つ。

何も言わなかった。

ただ、そばにいてくれた。

クラリスもそれ以上は何も言わず、亡くなった騎士達へ静かに頭を下げた。

ガルドとリディアも、それに続いた。

二人も元騎士だ。

リディアは胸元で手を握り、しばらく騎士達を見つめていた。


「最後まで……守ったんですね」


「そうだな」


ガルドが低い声で答える。


「少なくとも、こいつらが時間を稼いだから馬車の中に生存者がいたんだろう」


クラリスも頷く。


「そうね」


燃える馬車の中に残されていたのは、クラリスの元部下であるアランと、数名の近衛兵、侍女、そして王家に連なると思われる女性。


彼らが生き残ることができたのは、ここで命を落とした騎士達が最後まで襲撃者を食い止めていたからなのだろう。


「戻ったら、アランにも伝えないとね」


クラリスが静かに言った。


「……そうですね」


リディアが答える。

エリスはもう一度、騎士達を見た。

助けることはできなかった。

だからこそ、彼らが守った人達だけは絶対に無事に送り届けなければならない。

そんな思いが胸の中に残った。

しばらくして、ルシアンがクラリスへ声を掛ける。


「クラリス」


「何?」


「ここに長居しない方がいい」


クラリスの表情が変わる。


「何か見つけた?」


「いや、今のところは何もない」


ルシアンは街道の先へ目を向ける。


「だからこそだ」


クラリスはすぐに意味を理解したようだった。


「監視している人間がいる可能性?」


「ああ」


ルシアンが頷く。


「これだけ大掛かりな襲撃だ。実行役だけで全部とは考えない方がいい」


カイルも同意する。


「遠くから結果だけ確認している奴がいてもおかしくないな」


「でも、セラは何も感じてないよ?」


エリスが尋ねる。


『うん。近くにはいないと思う』


セラが答える。

エリスがその言葉を伝えると、ルシアンは頷いた。


「セラがそう言うなら、少なくとも近くにはいないんだろう。ただ、もっと遠くから望遠鏡でも使われていたら分からない」


「なるほどね」


クラリスは周囲を見渡す。

平原と街道。

遠くには小さな林も見える。

どこかに人間が潜んでいたとしても、ここから発見するのは難しい。


「襲撃者達の目的が、馬車に乗っていた人を殺すことだったとしたら……」


クラリスは燃えている馬車を見る。


「救出されたと知られるのはまずいわね」


「俺もそう思う」


ルシアンが答える。


「生きていると分かれば、次の襲撃を仕掛けてくるかもしれない」


マリンが不安そうな表情を浮かべる。


「じゃあ、どうするの?」


クラリスは答えず、しばらく燃える馬車を見つめていた。

すでに幌の大部分は焼け落ち、炎は車体全体へ回っている。

王家の紋章も炎に包まれていた。


そして――

クラリスの視線がメルキオラへ向いた。


「メルキオラ」


「はい、クラリス様」


「あの馬車、完全に破壊できる?」


メルキオラは燃える馬車を見る。


「可能でございます」


エリスが驚いて母を見る。


「お母さん、壊しちゃうの?」


「ええ」


クラリスは迷うことなく答えた。


「このままでもいずれ燃え尽きるでしょうけど、それじゃ駄目なの」


「どうして?」


「もし誰かが遠くから見ていたとして、途中で中にいた人達が逃げ出した可能性を考えられたら困るでしょう?」


エリスは燃える馬車を見る。


「完全に壊して……中にいた人達も助からなかったと思わせるってこと?」


「そういうこと」


クラリスが頷く。


「襲撃した側には、目的を達成したと思ってもらうの」


ルシアンが腕を組む。


「馬車が完全に吹き飛べば、少なくとも遠くから見ているだけの人間には中の人間が助かったとは思えないだろうな」


「それに」


クラリスが続ける。


「私達が救助したことも、できる限り知られない方がいいわ」


その言葉にレオネリアが反応した。


「相手にこちらの存在を知られないためね」


「ええ」


クラリスは頷く。


「誰があの人達を襲ったのかはまだ分からない。でも、王家の馬車だと知った上で襲った可能性は高いでしょう?」


「でしょうね」


レオネリアの表情も真剣になる。


「なら、相手の正体が分かるまでは情報を与えない方がいいわ」


「私も賛成です、クラリス様」


メルキオラが答える。

エリスもようやくクラリスの意図を完全に理解した。

最初は、せっかく燃えている馬車をわざわざ爆発させる必要があるのかと思った。

しかし、これは破壊することそのものが目的ではない。

襲撃者達に――あるいは、その背後にいる者に。

襲撃は成功した。

そう思わせるためだ。


「でも……」


ソフィアが少し心配そうに尋ねる。


「中に誰もいなかったと分かることはないのでしょうか?」


「近づいて調べられれば分かるかもしれないわ」


クラリスは答える。


「でも、その前に私達はここを離れる。それに完全に破壊しておけば、少なくともすぐには判断できないでしょう」


「時間を稼ぐことが目的か」


ガルドが言った。


「ええ」


クラリスが頷く。


「完璧に騙せなくてもいいの。少しでも判断を遅らせることができれば十分よ」


ルシアンも納得したように頷いた。


「その間にアルフェリアへ入れる」


「そういうこと」


アルフェリアまでは、あと数時間。

まずはそこまで安全に移動する必要がある。

そして、助けた者達から事情を聞かなければならない。


「決まりね」


クラリスはメルキオラを見る。


「お願い」


「承知いたしました、クラリス様」


メルキオラが一歩前へ出る。


「念のため、皆様は少しお下がりください」


エリス達は馬車から距離を取った。

メルキオラが杖を掲げる。

杖の先に魔力が集まり始めた。

周囲の空気が僅かに震える。


「この程度でよろしいでしょう」


メルキオラが小さく呟く。

そして――

杖を燃える馬車へ向けた。

次の瞬間、轟音が街道に響き渡った。


「きゃっ!」


マリンが思わず耳を塞ぐ。

爆発と共に炎が一気に空へ吹き上がった。

燃えていた馬車の車体が大きく砕け、木片が周囲へ飛び散る。

黒煙が空高く立ち昇った。

エリス達が見守る中、馬車は原形がほとんど分からないほど崩れ落ちていく。

王家の紋章が描かれていた部分も炎の中へ消えた。

やがて爆発音の余韻が消える。

残ったのは、激しく燃える馬車の残骸だけだった。

エリスはその光景をじっと見つめる。

もし自分が遠くから見ていたなら――

あの馬車に乗っていた人間が無事だとは思わないだろう。


「……すごい」


スピカが小さく呟いた。


「ここまでやれば、遠くから見ている人がいたとしても、助かったとは思わないでしょうね」


ソフィアも頷く。

クラリスはしばらく燃え上がる残骸を見つめていた。


「これでいいわ」


その声に迷いはなかった。


「少なくとも、すぐに生存を知られる可能性は下げられたはずよ」


ルシアンが頷く。


「後は、捕らえた連中から何が聞き出せるかだな」


「ええ。でも、それより先に――」


クラリスは自分達の馬車へ振り返った。

その先、異空間では、アラン達が自分達の帰りを待っている。


「中にいる人達へ、外がどうなったのか伝えましょう」


エリス達は頷いた。

助けた女性はいったい何者なのか。

なぜ王家の馬車が襲われたのか。

そして、襲撃者達は誰の命令で動いていたのか。

まだ分からないことばかりだった。

エリスはもう一度だけ、炎に包まれた馬車の残骸を振り返った。

アルフェリアまで、あと僅か。

しかし――

どうやら何事もなく交易都市へ辿り着くことはできそうになかった。

エリス達は燃え続ける馬車を背に、自分達の馬車へと戻っていった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


襲撃者達を一人も逃がすことなく拘束したエリス達。

しかし、護衛していた騎士達を救うことはできませんでした。

さらにクラリスは、襲撃を遠くから監視している者がいる可能性を考え、救出した者達の生存を隠すため、燃えていた王家の馬車を完全に破壊します。

果たして、エリス達が助け出した女性は何者なのか。


次回は、助け出した女性の正体が明らかになります。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月7日18時を予定してます

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