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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第二章:運命の導き ― 新たな歩みの始まり ―

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昔の仲間との再会

ゴブリンが消え去ったあと。

森には、不自然な静けさが残った。

まるで、何かが“削ぎ落とされた”かのような感覚。

魔法使いの男は、しばらくその場に立ち尽くしていた。


だが——


「……っ!」


はっとしたように我に返る。

すぐに振り返り、倒れている弓使いのもとへ駆け寄った。


「カイル!!」


その声は、張り裂けるようだった。

エリスとマリンも後を追う。

地面に横たわる男。


腹部からは大量の血が流れ、

衣服は赤く染まっていた。

呼吸は浅く、ほとんど動かない。


誰が見ても——


助からない状態だった。


「くそ……なんでだ……」


魔法使いの男は歯を食いしばる。

何もできない。

その現実が、目の前にあった。


そのとき。


エリスが一歩、前に出た。


「……大丈夫」


挿絵(By みてみん)

誰に向けた言葉でもない。

ただ、そう呟いた。

弓使いのそばに膝をつく。

その顔を見つめる。


(……助かってほしい)


その願いだけが、心を満たす。


「治って」


小さく、しかし確かにそう念じた。

次の瞬間。

変化が起きた。


滴っていた血が、逆流するように消えていく。

傷口が、存在しなかったかのように閉じていく。


いや——


“戻っている”。


血に染まっていた服さえも、

何事もなかったかのように元の状態へと還っていく。

時間を巻き戻すように。

あるいは、存在そのものを“正しい状態”へ戻すように。


「……な……」


魔法使いの男は言葉を失った。

理解が追いつかない。

魔法ではない。

奇跡でもない。


それは——


理そのものへの干渉。

やがて。


「……っ」


弓使いの男が、微かに息を吸った。

ゆっくりと目を開く。


「……ここ、は……」


ぼんやりとした声。

だが確かに、生きている。

男は自分の腹に手を当てた。

傷があったはずの場所。


だがそこには——


何もない。


「……なんで……」


信じられないという表情で、呟く。

森の中で。

ただ一人、すべてを変えた少女が立っていた。

その力が、何を意味するのか。

まだ誰も、理解していなかった。


エリスは、弓使いの人が助かったのを見届けると

ふらりと、視界が揺れた。


立っているはずなのに、足に力が入らない。


「……あれ……」


エリスは小さく呟いた。

そのまま、ゆっくりと膝から崩れ落ちる。


「エリス!」


マリンが慌てて駆け寄る。


「大丈夫!?しっかりして!」


だがエリスの意識はすでに遠のいていた。

呼吸は安定している。


ただ、深い眠りに落ちたように動かない。


「……力の使いすぎか」


魔法使いの男が静かに言った。

その声には、驚きと理解しきれない感情が混じっている。


「……あれだけのことをやって、無事な方がおかしい」


弓使いの男——カイルがゆっくりと立ち上がる。


先ほどまで瀕死だったとは思えないほど、しっかりとした動きだった。


「俺が運ぶ」


そう言うと、迷いなくエリスを背負う。


「町まで案内してくれるか」


マリンはすぐに頷いた。


「うん……こっち」


三人は森を抜け、町へと戻っていく。


日常の風景の中に、

どこか現実感のない出来事を抱えたまま。

やがて。

一軒の家の前に辿り着いた。


「ここ……」


マリンが小さく言う。


扉を開けると——


「おかえりなさい……って」


クラリスの声が止まった。

目の前の光景を見て、言葉を失う。

背負われた少女。


そして——


その背後に立つ二人の男。

時が止まったようだった。


「……まさか」


クラリスの瞳が大きく見開かれる。

信じられないものを見るように。

だが、その名は自然と口からこぼれた。


「ルシアン……

 カイル……」


呼ばれた二人も、同じように固まっていた。


「「……クラリス?」」


信じられないという表情。

長い年月を越えた再会だった。


静かな家の中で。

過去と現在が、ひとつに重なった。


「どういうこと……?」


クラリスの声は、震えていた。

目の前には、気を失ったエリス。


そして——


かつての仲間たち。

理解が追いつかない。


「なんで一緒にいるの?

 なんでエリスを背負ってるの!?」


一歩、二歩と詰め寄る。

その目は、かつての仲間を見るものではなかった。

ただの——母の目だった。


「落ち着け、クラリス」


ルシアンが静かに言う。

だがその声すら、今は届かない。


「落ち着いてなんていられないわよ!

 この子がどうなってるか分かってるの!?」


声が強くなる。

それは怒りではない。

恐れだった。


「……聞いてくれ」


カイルが低く言った。

その声には、普段以上の重みがあった。


「俺たちは森で襲われていた

 ゴブリンの群れに囲まれてな

 腹を刀で抉られて

 意識も朦朧として

 俺はもう助からないと思った」


クラリスの動きが止まる。


「そこで、この子が現れた

 ……そして」


ルシアンが続ける。


「信じられないことが起きた」


そこで、マリンが一歩前に出た。


「私も見てた

 エリスが……ゴブリンを一瞬で消して

 それから……エリスを背負ってる男の人を治したの」


静寂が落ちる。

クラリスはゆっくりとエリスを見る。

眠っているだけの、穏やかな顔。


「……そう」


小さく呟く。

その声は、先ほどとは違っていた。

感情が、少しずつ整理されていく。


「……中に入って」


落ち着いた声で言った。


「ここで話すことじゃないわ」


クラリスは一度、深く息を吸う。

そして、ゆっくりと吐き出した。

もう母だけではいられない。


かつての冒険者として、

向き合わなければならない時が来ている。

クラリスには、その覚悟が、静かに戻っていた。


マリンはと言うと、三人の会話を黙って聞いていた。

だが、頭の中にひとつの疑問が浮かぶ。


(……あれ?)


クラリスは、この二人と知り合いなのか。

それだけではない。


さっきの反応——


まるで、昔から知っているかのような。


「……ねえ」


少し遠慮がちに口を開く。

三人の視線が、マリンに向いた。


「エリスのおばさんって……この人たちと知り合いなの?」


一瞬の沈黙。

そして、もう一つ。


「それと……

 もしかして、母さんのことも知ってるの?」


その言葉に、空気がわずかに変わった。

クラリスは小さく息をつく。

そして、ゆっくりと口を開いた。


「ええ

 知っているわ」


マリンの目が大きく開く。

クラリスは二人の男へと視線を向けた。


「紹介するわ

 この子はマリン

 ミリアの娘よ」


その言葉に、ルシアンとカイルが同時に息を呑む。


「……ミリアの?」


ルシアンが静かに呟く。

カイルはじっとマリンを見つめた。

その視線は、どこか懐かしさを含んでいる。


「……言われてみれば

 面影があるな」


低く、確信するように言った。

マリンは戸惑っていた。

自分の知らないところで、

自分の過去が語られているような感覚。


だが。


ルシアンの表情が、ふっと引き締まる。

視線が、ゆっくりとエリスへ向けられる。


「……クラリス」


その声は、先ほどまでとは違っていた。

学者としての冷静さ。

そして——確信を求める響き。


「あの子は……何者だ」


部屋の空気が、張り詰める。

カイルもまた、静かに視線を向ける。


「あれは、普通じゃない

 魔法でも、神術でもない」


逃げ場のない問いだった。

クラリスはしばらく黙っていた。

そして、ゆっくりと目を閉じる。


——隠し続けるべきか。


——それとも、話すべきか。


その選択が、

すべてを変えることを知ってるからこそ

クラリスは、しばらく何も言わなかった。

いえ、言えなかった。


ルシアンとカイルの視線。


そして——


マリンの存在。


(ここで、すべてを話すべきか)


一瞬、迷いがよぎる。

だが。


(……この子の前では)


エリスの友達。

その関係を壊す可能性がある話は、できない。

クラリスは、ゆっくりと目を開いた。


「……あの子は」


静かに言葉を選ぶ。


「少しだけ、特別な力を持っているの」


ルシアンの眉がわずかに動く。

それだけでは足りない。

だが、続きが語られる。


「昔、マリンと森に行った時も……

 魔物を、一瞬で消してしまった」


マリンが小さく息を呑む。

そして頷く、エリスに助けられたあの日をマリンは思い出した。


「家では……割れた食器を元に戻したこともある

 枯れた花を、元の姿に戻したことも」


それは、どれも日常の延長のようでいて——

明らかに異常な現象だった。


「でも」


クラリスは続ける。


「あの子自身も、まだよく分かっていないの

 どういう力なのかも、どう使うべきかも」


それは事実だった。

そして同時に——


最も重要な部分は、語られていない。

エリスがこの世界に現れた理由。

その本質。


クラリスは、それを口にしなかった。

ルシアンは黙って聞いていた。

だがその目は、明らかに何かを確信している。


「……なるほど」


小さく呟く。


「少し、どころではないな」


カイルも腕を組み、低く言った。


「あれは“力”じゃない

 もっと別の何かだ」


空気が重くなる。

だがマリンは、エリスの顔を見つめていた。


不安ではなく——


ただ、静かに。







——その頃。


遥か遠く。

光に満ちた領域。

二つの影が、下界を見下ろしていた。


「……目覚め始めましたね」


セレネの声は、静かだった。


「ええ」


アテナが頷く。

その瞳には、かつて見た未来の影が揺れている。


「まだ幼いのに

 早すぎるわ……」


セレネは何も答えない。

ただ、見つめ続ける。


「運命は、待ってはくれません」


その言葉は、優しくも残酷だった。

アテナは目を伏せる。


「……同じ道を歩ませたくはない」


だが——


止めることはできない。


下界では。

一人の少女が、静かに眠っている。

まだ何も知らないまま。


——その運命の歯車は。


本人の意思とは関係なく、


確実に、そして激しく回り始めていた。



最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は週明けの4月6日18時を予定してます

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