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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

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街道に上がる黒煙 ― 炎の中の王家の紋章 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


交易都市アルフェリアまで、あと数時間。

順調な旅を続けていたエリス達でしたが、街道の先でセラが戦闘の気配を察知します。

立ち上る黒煙、炎に包まれた馬車。そしてクラリスがその馬車に見つけたものとは――。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

アルフェリアへ向かう旅は、それまで驚くほど順調だった。

ミネアヴィレッジを出発してから何度か野営を挟み、途中で魔物と遭遇することはあったものの、エリス達にとって脅威になるような相手ではなかった。

街道を進むにつれて、すれ違う馬車や商人の姿も少しずつ増えている。


交易都市アルフェリア。


王都グランヴェイルへ向かう主要な街道の途中に位置し、各地から多くの商人が集まる大都市だ。

目的地までは、あと数時間ほど、今日中には十分到着できる距離まで来ていた。

現在、御者台に座っているのはエリスとマリンだった。

エリスが手綱を握り、その隣にマリンが座っている。

馬車の中にはソフィアとカイル。

それ以外の仲間達は、メルキオラの異空間で休んでいた。

空はよく晴れている。

街道の周囲には緩やかな丘陵と草原が広がり、遠くには小さな森も見えていた。

エリスは前方を眺めながら、隣に座るマリンへ声を掛ける。


「もうすぐアルフェリアだね」


「うん。あと数時間くらいだっけ?」


「それくらいってルシアンさんが言ってたよ」


ここ数日はずっと馬車での移動が続いている。

異空間のおかげで普通の旅より遥かに快適とはいえ、久しぶりに大きな街へ入れるとなれば楽しみだった。

マリンが少し身を乗り出す。


「アルフェリアって、かなり大きな街なんだよね?」


「交易都市だから、色々なお店があるみたい」


「じゃあさ」


マリンがエリスを見る。

その表情を見ただけで、エリスには何を言い出すのか何となく分かった。


「美味しいスイーツもあるかな?」


「やっぱりそれ?」


「だって大事でしょ」


「大事なの?」


「大事だよ!」


マリンは即答した。


「色んな場所から商人が来るなら、色んな食べ物も集まるってことでしょ? だったら、その土地じゃ食べられないようなお菓子だってあるかもしれないじゃない」


「それは……確かに」


エリスも少し興味を引かれた。

王都へ向かう旅を再開してから、まともに大きな街へ立ち寄るのは久しぶりだ。

ましてアルフェリアは交易都市。

各地から珍しい品物が集まっているのなら、当然食べ物も期待できる。


「宿に着いたら聞いてみようか」


「うん!」


マリンの顔が明るくなる。


「絶対だよ」


「分かってるって」


「エリス、忘れる時あるから」


「そんなに忘れないよ」


「食べ物の約束は大事なんだから」


「マリンが食べたいだけじゃない」


「エリスだって食べたいでしょ?」


「……まあ、食べたいけど」


「ほら」


マリンが得意そうに笑った。

エリスもつられて笑う。

穏やかな旅路。

このまま何事もなくアルフェリアまで到着する。

その時の二人は、そう思っていた。


しかし――。


『エリス』


突然、頭の中にセラの声が響いた。

先ほどまでとは違う、真剣な声だった。

エリスの表情から笑みが消える。


「……セラ?」


隣にいたマリンもすぐに気づいた。


「どうしたの?」


エリスは答えず、セラの声へ意識を集中する。


『少し先で誰かが戦ってる』


「戦ってる?」


マリンの表情も変わった。

エリスは手綱を握ったまま、街道の先へ目を凝らす。


「どの辺?」


『このまま進んだ先。そんなに遠くないよ』


セラが答えた、その直後だった。

街道の遥か先。

突然、黒い煙が空へ立ち昇った。


「えっ?」


エリスが目を見開く。

それは焚き火などから出るような小さな煙ではない。

一気に吹き上がり、空へ広がっていく黒煙だった。


「何、あれ……」


マリンも前方を凝視する。

御者台からでは、まだ詳しい状況までは分からない。

ただ、何かが燃えていることだけは間違いなかった。


「エリス!」


馬車の中にいたカイルが顔を出した。


「今の煙は何だ?」


「分からない。でもセラが、あの辺りで戦闘が起きてるって」


その言葉を聞いた瞬間、カイルの表情が険しくなる。


「マリン、手綱お願い!」


「分かった!」


エリスは手綱をマリンへ渡すと、御者台で立ち上がった。

目を細め、煙の上がっている方向を凝視する。

少し距離はある。

それでも、先ほどより近づいたことで状況が見えてきた。


「……馬車?」


一台の馬車が見える。

いや、一台だけではない。

その周囲には複数の人影があった。

激しく動いている。

剣らしきものが光を反射し、何人もの人間が入り乱れて戦っていた。

そして黒煙は、その中心にある馬車から上がっている。


「襲われてる……」


エリスの声が低くなる。


「何が見える?」


マリンが尋ねる。


「馬車が襲撃されてる。それに……燃えてる!」


「えっ!?」


エリスはすぐに馬車の中へ声を掛けた。


「ソフィアさん! 異空間のみんなを呼んでください!」


「分かりました!」


ソフィアがすぐに動く。

エリスは再び前方へ視線を向けた。

馬車の周囲では、今も戦闘が続いている。

馬車を守っている者達がいる。

しかし、人数は明らかに少ない。

街道の脇には倒れている人影も見えた。

一方、襲っている側はまだかなりの人数がいる。


「急ごう!」


「うん!」


マリンが手綱を操り、馬車の速度を上げる。

エリスは御者台から降りると、馬車の中へ入った。

ちょうど異空間へ繋がる扉が開いたところだった。

最初にルシアンが姿を現す。

その後ろからクラリス、ミリア、ガルド、リディア達も次々と出てきた。


「エリス、何があった?」


クラリスが尋ねる。


「少し先で馬車が襲撃されてるの。セラが戦闘に気づいて、私も確認したんだけど……」


エリスは一度言葉を切った。


「その馬車、燃やされてる」


「燃やされている?」


ルシアンの表情が険しくなる。


「中に人は?」


「ここからじゃ分からない。でも周りでまだ戦ってる人達がいる」


「護衛かもしれないな」


カイルが言った。


その間にも馬車は襲撃現場へ近づいていく。


「一度状況を確認しましょう」


クラリスはそう言うと、荷物の中から双眼鏡を取り出した。

馬車の前方へ移動し、煙の上がっている場所を見る。


「……」


クラリスの表情が一気に険しくなった。


「どうした?」


ルシアンが尋ねる。

クラリスは答えず、双眼鏡を僅かに動かす。

燃え上がる馬車。

その周囲で戦っている者達。


そして――馬車の側面。

炎と煙で見えづらい。

それでも、僅かに残っている装飾が見えた。


「……嘘でしょう」


クラリスが呟いた。


「お母さん?」


「ちょっと待って」


もう一度確認する。見間違いではない。

炎の向こうに見える紋章。

クラリスにとって、それは見覚えがあるどころではなかった。

かつて王国騎士団長として仕えていた時代、何度も目にしてきたものだ。


「ルシアン」


クラリスが双眼鏡を差し出す。


「馬車の側面を見て」


ルシアンが受け取り、同じ場所を見る。

数秒後。


「……これは」


ルシアンの表情も変わった。


「何が見えたの?」


エリスが尋ねる。

クラリスは燃える馬車を見つめたまま答えた。


「あれは――王家の紋章よ」


「王家?」


エリスが目を見開く。

マリンも御者台から振り返った。


「王家って……サントス王国の?」


「ええ」


クラリスははっきりと頷いた。


「間違いないわ」


馬車の中に緊張が走る。

ただの旅人や商人が襲われているのではない。

王家の紋章を掲げた馬車が襲撃されている。

それが意味することは大きい。


「王族が乗っている可能性があるな」


ルシアンが言った。


「可能性じゃないと思うわ」


クラリスは前方を見つめる。


「王家の紋章を付けた馬車を、普通の貴族が使うことはできないもの」


「だったら早く助けないと!」


エリスが言う。


「ええ」


クラリスはすぐにメルキオラへ振り返った。


「メルキオラ」


「はい」


「あの燃えている馬車の中へ転移できる?」


メルキオラは前方へ目を向けた。


「可能でございます」


即答だった。


「内部の正確な位置が分からなくても?」


クラリスが確認する。


「馬車そのものを目標として捉えることができれば問題ございません。ただし、内部の状況までは把握できませんので、転移直後に多少の危険が伴う可能性はございます」


「構わないわ」


クラリスは迷わなかった。


「中に人が残っているかもしれない。すぐに救助しましょう」


「承知いたしました」


メルキオラが頷く。


「私も行くわ」


クラリスが続けた。


「お母さんも?」


エリスが驚く。


「中に誰がいるか分からないもの。メルキオラ一人で行かせるより二人の方がいいわ」


そしてクラリスは他の仲間達を見る。


「エリス達は外をお願い」


ルシアンがすぐに意図を理解した。


「襲撃者の相手だな」


「ええ。まだ護衛らしい人達が戦ってる。これ以上被害を出さないようにして」


「分かった」


エリスも頷く。


「気をつけてね、お母さん」


「エリスもね」


クラリスは剣を確認する。

メルキオラも杖を手にした。


「では、クラリス」


「ええ」


二人は向かい合う。

メルキオラが燃えている馬車へ意識を集中した。

外では今も黒煙が上がり続けている。

炎は勢いを増していた。

時間はない。


「参ります」


メルキオラが短く告げた。


次の瞬間。

クラリスとメルキオラの姿が馬車の中から消えた。


          ◇◇◇


熱気。


それがクラリスの最初に感じたものだった。

転移が終わった瞬間、周囲の空気が一変する。


「っ……!」


馬車の内部にはすでに煙が入り込み、壁の一部が燃え始めていた。

外からは剣がぶつかり合う音と怒号が響いている。


「かなり火が回ってるわね」


クラリスは素早く周囲を確認する。

座席の一部が壊れている。

床には血の跡もあった。


そして――

人がいる。


「誰だ!」


鋭い声が響いた。

転移によって突然現れた二人に、中にいた者達が一斉に反応した。


「待って! 私達は――」


クラリスが声を掛けようとする。

しかし、その前に一人の騎士が動いた。


「殿下から離れろ!」


剣が抜かれる。

負傷しているらしく、その動きは万全ではない。

それでも騎士は迷うことなくクラリスとメルキオラの前へ立った。

背後にいる者を守るように。

突然、炎の中から現れた正体不明の二人。

敵の増援だと判断しても無理はなかった。


「待ちなさい! 私達は敵じゃ――」


クラリスが言い終えるより早く、騎士が踏み込む。

剣がクラリスへ向かう。

クラリスは咄嗟に自分の剣を抜き、その一撃を受け止めた。

甲高い金属音が、燃える馬車の中に響く。


「待って!」


クラリスは相手を傷つけないよう、その剣を押し返した。

騎士がもう一度剣を構える。

その時だった。

炎の明かりが、クラリスの顔を照らした。

騎士の動きが止まる。


「……え?」


先ほどまで敵意に満ちていた目が、大きく見開かれた。

クラリスも、目の前の騎士の顔を見る。

年齢を重ねている。

髪にも僅かに白いものが混じっていた。

それでも、その顔にはどこか見覚えがあった。

騎士は信じられないものを見るようにクラリスを凝視する。

握っていた剣が、僅かに下がった。


そして――。


「……団長?」


その呼び方に、今度はクラリスが目を見開いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


アルフェリアを目前にして、またしても事件に遭遇したエリス達。

襲撃を受け、炎に包まれていたのは、王家の紋章が刻まれた馬車でした。

燃え盛る馬車の中へ転移したクラリスとメルキオラ。そして、突然現れた二人を敵だと思い剣を向けた近衛兵は、クラリスの顔を見た瞬間――「団長」と呟きました。


次回は、馬車を襲撃している者達との戦闘です。

王家の馬車を襲った者達を相手に、エリス達が動き出します。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、9月3日18時を予定してます

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