↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第七章 王都へ続く道 ― 交易都市アルフェリア ―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
125/134

12人の旅路 ― メルキオラ特製の馬車 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


ミネアヴィレッジを旅立ち、再び王都へ向けて進み始めたエリス達。

今回は、新たに加わったリディア達が、メルキオラの作った馬車の快適さに驚きながら、エリス達がこれまで続けてきた旅の仕方を知っていきます。

十二人となった一行は、新たに四人ずつ三組に分かれ、交代しながらアルフェリアを目指すことになりました。


それでは、第七章の続きをお楽しみください。

ミネアヴィレッジを出発してから、しばらくの時間が経った。

先ほどまで後方に見えていた村の姿は、もうどこにも見えない。

空は青く晴れ渡り、街道の両側には穏やかな草原が広がっていた。

時折吹き抜ける風が草を揺らし、その向こうには小さな森や遠くの山々が見える。

エリスは馬車の窓から外を眺めながら、静かに息を吐いた。

ミネアヴィレッジでの出来事も、これでひと段落した。

村人達から渡された大量の野菜も、馬車の荷台にしっかりと積まれている。

この先に待っているのは、王都グランヴェイルへ向けての旅。

そして、その途中で立ち寄ることになる交易都市アルフェリアだ。


「……それにしても」


不意にスピカが声を上げた。

エリスが振り返る。


「どうしたの?」


「さっきから気になっていたんですけど……」


スピカはそう言いながら、馬車の床へ視線を落とした。

そして窓の外を確認してから、もう一度足元を見る。


「この馬車、ほとんど揺れませんよね?」


「ああ……」


エリスは言われて初めて気づいたように頷いた。

もうこの馬車での移動に慣れてしまっていたため、ほとんど意識していなかった。

しかし、初めて長い時間乗る者からすれば、不思議に感じるのも当然だ。

街道は比較的整備されている。

それでも、完全に平坦というわけではない。

小さな石もあれば、馬車の車輪によってできた窪みもある。

普通の馬車なら、それらを乗り越えるたびに車体が上下に揺れるはずだ。

ところが今乗っている馬車では、ほとんど振動を感じない。


「確かに……」


ソフィアも窓の外を見た。

ちょうど車輪が小さな窪みを通過したところだった。

それでも、僅かに車体が動いただけだった。


「道が特別に整備されているわけではありませんよね?」


「普通の街道よ」


クラリスが答える。


「じゃあ、どうして……?」


ソフィアが首を傾げる。

その視線が自然とメルキオラへ向かった。

メルキオラはいつもと変わらない表情で答えた。


「車輪に魔道具を組み込んでいるためでございます」


「車輪に?」


スピカが聞き返す。


「はい。走行時に発生する振動を軽減するよう調整しております」


「そんなことまでできるんですか?」


「それほど難しいものではございません」


さらりと言われ、スピカは言葉を失った。

その横でマリンが小さく笑う。


「メルキオラの『それほど難しくない』は信用しない方がいいよ」


「マリン様?」


メルキオラがマリンを見る。


「だって普通の人には作れないでしょ?」


「必要な知識と技術があれば可能でございます」


「ほら」


マリンがスピカを見る。


「こう言うんだよ」


スピカが苦笑した。


「なるほど……」


メルキオラは少し不思議そうな顔をしていたが、それ以上は何も言わなかった。


「それだけじゃないのよ」


レオネリアが口を開く。


「僅かだけど、車体を浮かせる仕組みも入っているわ」


「浮かせる?」


今度はリディアが反応した。


「はい」


メルキオラが説明を引き継ぐ。


「完全に浮遊させているわけではございません。車輪に掛かる負荷を軽減する程度のものです。それによって悪路でも車体が大きく跳ねにくくなっております」


「それでこんなに乗り心地がいいんですね……」


ソフィアが感心したように座席へ背を預けた。


「帝国で乗っていた馬車とは全然違います」


「長時間乗ってると、もっと分かるよ」


マリンが言う。


「普通の馬車だと、ずっと揺られてるだけで結構疲れるでしょ?」


「はい。腰も痛くなりますし」


「これはほとんどならないから」


「それは助かりますね」


ソフィアが嬉しそうに答えた。


「エリスさん達は、ずっとこの馬車で旅をしてきたんですか?」


「途中からだけどね」


エリスが答える。


「私も最初はすごいと思ってたんだけど……いつの間にか慣れちゃった」


「慣れって怖いよね」


マリンが頷く。


「今じゃ普通の馬車に戻ったら、すごく揺れるって思いそう」


「贅沢になったものね」


クラリスが苦笑する。

そんな会話をしながら、馬車は街道を進んでいった。

しばらくすると、ミネアヴィレッジから十分に距離が離れた。

周囲には他の旅人の姿もなく、街道の前後にも馬車は見えない。

その時、御者台に座っていたルシアンが手綱を引いた。

馬車がゆっくりと速度を落とす。

やがて街道脇の安全な場所で停止した。


「どうしたの?」


マリンが御者台の方を見る。

ルシアンとカイルが馬車から降りてきた。


「この辺りならもう大丈夫だろう」


ルシアンは周囲を確認する。

村からも十分に離れている。

人目もない。


「ここからは、また交代制で進もう」


その言葉にクラリス達は当然のように頷いた。


「そうね」


「人数も増えたしな」


ガルドも同意する。


しかし――。


「あの……」


リディアが控えめに手を上げた。


「どうしたの?」


クラリスが尋ねる。


「交代制というのは、どういうことでしょう?」


「ん?」


ルシアンがリディアを見る。


「御者を順番に交代するという意味ですか?」


その質問を聞いて、エリス達は一瞬顔を見合わせた。


「あ……」


エリスが声を漏らす。


「そういえば、説明してなかった」


「何をですか?」


ソフィアが尋ねる。

エリス達にとっては、すでに当たり前になっている旅の方法だった。

しかし、リディア達三人が同行するようになったのは帝国へ入ってからだ。

異空間の存在については三人ともすでに知っている。

けれど、それを普段の旅でどのように利用しているのかまでは説明していなかった。

ルシアンが三人へ向き直る。


「俺達は長距離を移動するとき、全員でずっと馬車に乗っているわけじゃない」


「といいますと?」


「何人かが馬車に残って、残りはメルキオラの異空間で休む。それを一定時間ごとに交代するんだ」


「なるほど……」


リディアが納得したように頷いた。


「そういう交代制なんですね」


「そういうこと」


エリスが笑った。


「前からこうやって旅をしてたの」


ソフィアが馬車の中を見回した。


「確かに、十二人全員でずっとここにいる必要はありませんね」


「いくらこの馬車が大きくても、十二人だとさすがに狭いからね」


マリンが言う。


「異空間ならゆっくり休めるし」


「食事の準備もできるわ」


ミリアも続ける。


「それに、休める時にしっかり休んでおけば、何かあった時にも動きやすいもの」


「なるほど」


スピカも頷いた。


「ずっと馬車に乗っているより効率的ですね」


「今まで何度も長距離を移動してきたからな」


カイルが答える。


「その結果、今の形に落ち着いた」


ルシアンは全員を見回した。


「問題は人数が増えたことだ」


以前とは違い、今は十二人いる。

リディア、ソフィア、スピカが加わったことで、これまでと同じ組み分けでは都合が悪い。


「四人ずつ三組に分けるのが一番分かりやすいだろう」


ルシアンが全員を見回しながら言った。


「十二人なら、ちょうど三組に分けられる」


「あとは、今までと同じように各組に男が一人ずつ入るようにした方がいいわね」


クラリスの言葉に、ルシアンが頷く。


「ああ。それと、リディア、ソフィア、スピカの三人は別々の組にしよう」


突然名前を呼ばれ、リディアがルシアンを見る。


「私達をですか?」


「ああ」


ルシアンは頷いた。


「三人はまだ、俺達の旅のやり方に慣れていないからな。三人だけを同じ組にするより、それぞれ今まで旅をしてきた者と一緒にした方がいい」


「なるほど……」


リディアが納得したように頷く。

馬車と異空間を利用した交代制。

御者を含めた役割分担。

何か異変が起きた場合の対応。

エリス達にとっては何度も繰り返してきた旅のやり方でも、リディア達三人にとっては今回が初めてだった。


「何度か交代していれば、すぐに慣れるでしょう」


クラリスが三人へ言った。


「それまでは私達と別々の組になった方が動きやすいと思うわ」


「分かりました」


リディアが答える。


「私もそれで構いません」


ソフィアも頷いた。


「私も大丈夫です」


スピカも続いた。


「なら決まりだな」


それから全員で組み分けを考えた。

しばらくして、三つの組が決まる。


第一組

エリス、マリン、ソフィア、カイル


第二組

クラリス、ミリア、リディア、ガルド


第三組

レオネリア、メルキオラ、スピカ、ルシアン


「私はクラリスさんと一緒なんですね」


組み分けを聞いたリディアの表情が、少しだけ明るくなった。


「ええ。よろしくね、リディア」


クラリスが笑顔を向ける。


「はい!」


リディアは嬉しそうに頷いた。

その様子を見て、ミリアが微笑む。


「リディアにとっては当たりの組み合わせかしら?」


「そ、そういうわけでは……」


否定しようとするものの、その声には説得力がない。


「無理に隠さなくてもいいのよ」


クラリスが笑う。


「クラリスさん……」


リディアが少し恥ずかしそうにする。

その隣では、ソフィアがエリスとマリンへ向き直っていた。


「エリスさん、マリンさん、よろしくお願いします」


「こちらこそ」


エリスが答える。


「よろしくね、ソフィアさん」


マリンも笑顔を向ける。


「カイルさんも、よろしくお願いします」


「ああ」


カイルは短く頷いた。

最後にスピカが自分の組を見る。


レオネリア

メルキオラ

そしてルシアン


「よろしくお願いします」


「ええ、よろしくね」


レオネリアが答えた。


「よろしくお願いいたします」


メルキオラも丁寧に頭を下げる。


「そんなに堅くならなくていい」


ルシアンが苦笑した。


「これから長い旅になるんだからな」


「はい」


スピカも少し笑った。

三組が決まったところで、ルシアンが話を進める。


「じゃあ、最初は第一組からだ」


「私達だね」


マリンがエリスを見る。


「うん」


「カイルはそのまま御者を頼む」


「ああ」


カイルが御者台へ戻っていく。

第一組のエリス、マリン、ソフィア、カイルが馬車側に残り、それ以外の八人は異空間で休むことになった。

メルキオラが異空間へ続く扉を開く。


「では、参りましょう」


「ええ」


レオネリアが先に入っていく。

クラリス達もそれに続いた。


「エリス、何かあったらすぐ呼ぶのよ」


異空間へ入る直前、クラリスが振り返った。


「分かってるよ、お母さん」


「マリンもね」


「分かってるって」


マリンが笑う。

リディアもクラリスに続いて中へ入り、ガルドとミリアも異空間へ移動した。

スピカもその後に続く。

最後にルシアンが入ろうとしたところで、ふと足を止めた。


「交代の時間になったら呼んでくれ」


「分かった」


カイルが御者台から答える。

ルシアンが異空間へ入る。

メルキオラも中へ入り、扉が閉じられた。

つい先ほどまで十二人いた馬車の中が、一気に静かになった。

残ったのはエリス、マリン、ソフィアの三人。

御者台にはカイルがいる。

ソフィアは周囲を見回した。


「急に広く感じますね」


「でしょ?」


マリンが笑った。


「いつもこんな感じなんだよ」


「なるほど……」


ソフィアは座席へゆったりと腰掛ける。


「確かにこれなら、長い旅でも疲れにくそうです」


「異空間に入ったらもっと驚くと思うよ」


マリンが楽しそうに言う。


「中で普通にくつろげるから」


「それはもう知ってるでしょ」


エリスがすぐに突っ込む。


「あ、そうだった」


「もう、マリンったら」


二人のやり取りに、ソフィアが笑った。

御者台からカイルの声がする。


「そろそろ出すぞ」


「はーい!」


マリンが返事をした。

カイルが手綱を動かす。

止まっていた馬車が、再びゆっくりと走り始めた。

車輪は小さな石を踏み越えていく。

それでも車内には、ほとんど揺れが伝わってこない。

ソフィアは改めてその乗り心地を確かめるように座席へ背を預けた。


「やっぱり、すごい馬車ですね」


「でしょ?」


なぜかマリンが得意そうに答える。


「作ったのはメルキオラだけどね」


エリスが笑う。


「細かいことはいいの」


「細かくないと思うけど」


三人の笑い声が馬車の中に響いた。

エリスは窓の外へ目を向ける。

ミネアヴィレッジはもう遠く離れた。

目の前には、王都へ続く街道が伸びている。

その途中にある交易都市――アルフェリア。

十二人になったエリス達を乗せた馬車は、穏やかな街道をゆっくりと進んでいった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


揺れを抑える魔道具など、メルキオラの工夫が詰まった馬車に感心するリディア達。

そして人数が十二人になったことで、新たに四人ずつ三組に分かれ、交代しながらアルフェリアを目指すことになりました。


次回は、交代で異空間へ入ったリディア達の様子を描きます。

馬車の中とは思えないほど快適な異空間で、それぞれ思い思いに寛ぐ一行。

エリス達にとってはすっかり日常となった旅の時間を、リディア達はどのように過ごすのでしょうか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、9月1日18時を予定してます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[[魔族の女王が転生したら聖女になっていた>https://ncode.syosetu.com/n5658ly/]] [[作者のX>https://x.com/shirokamieru?s=11]]
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。