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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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旅立ち前の最後の夜 ― 十二人の仲間と、王都への新たな旅路 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


ミネアヴィレッジでの治療と盗賊達への尋問も、ようやくひと段落。

エリス達は翌朝、王都グランヴェイルへ向けて旅立つことを決めました。

お世話になった人達へ出発の挨拶を済ませ、夜には新たに仲間となったリディア、ソフィア、スピカの歓迎会を開くことに。

そして今回をもって、第六章もいよいよ閉幕となります。


それでは、第六章最後のお話をお楽しみください。

三日後の夕方。


ミネアヴィレッジに滞在していたエリス達の仕事も、ようやく終わりを迎えようとしていた。

クラリス達が手伝っていた盗賊達への尋問は、今日でひと段落した。

全員が素直に口を割ったわけではないものの、必要な情報はほとんど聞き出すことができた。これ以上はエリス達が残って手伝わなくても、村の者達だけで対応できるところまで進んでいる。


一方、教会で続けていた治療も同じだった。

エリスにしか治せないような重症者は、もう残っていない。

失った手足や通常の治癒魔法では治せない病気など、村ではどうすることもできなかった人達の治療は、この三日間でほぼ終えることができた。

もちろん、軽い怪我や日常的な病気で教会を訪れる人はいなくならない。

それでも、それは本来の教会で対応できる範囲だった。


これなら、もう大丈夫。

そう判断したエリス達は、翌朝ミネアヴィレッジを出発することに決めた。

目指す先は――サントス王国の王都、グランヴェイル。


その日の夕方、クラリスとルシアンは、出発することを伝えるため、村長のアルガスの家へ向かっていた。

村の中を歩いていると、二人に気づいた住民達が次々と声を掛けてくる。


「クラリスさん、お疲れ様です」


「ええ。ありがとう」


「ルシアンさんも、盗賊の件ではありがとうございました」


「俺達は少し手伝っただけだよ」


二人はその度に足を止め、簡単に言葉を返していく。

最初にミネアヴィレッジを訪れた時と比べると、村人達との距離も随分近くなっていた。

やがて村長の家へ到着する。

クラリスが扉を叩くと、しばらくしてアルガスが姿を現した。


「おお、クラリスさん。それにルシアンさんも」


「少しお時間よろしいですか?」


「もちろんです。どうぞ中へ」


二人は家の中へ案内された。

アルガスに勧められた椅子へ腰を下ろす。


「それで、今日はどうされました?」


クラリスとルシアンが一度顔を見合わせる。

そしてクラリスが口を開いた。


「実は、明日の朝にこの村を出発することにしました」


「明日の朝……ですか」


アルガスの表情が少し寂しそうなものに変わった。


「はい。盗賊達への尋問も今日でひと段落しましたし、教会の方も、エリスにしか治せないような重症者はもういないそうです」


「そうでしたか……」


アルガスはゆっくりと頷いた。


「随分とお世話になりました」


「いえ。私達もできることをしただけですから」


クラリスが答える。

アルガスはしばらく何かを考えていたが、やがて顔を上げた。


「それでしたら……もう一日だけ、出発を延ばしていただくことはできませんか?」


「もう一日?」


「はい」


アルガスは二人を見る。


「皆さんには本当にお世話になりました。盗賊の件だけではありません。教会では、この村ではどうすることもできなかった人達を何人も救っていただいたと聞いています」


クラリスは黙って話を聞く。


「ですから、せめて最後にお礼をさせていただきたいのです。ささやかなものにはなりますが、村で食事会でも開ければと」


アルガスの言葉に、クラリスとルシアンは再び顔を見合わせた。

その気持ちはありがたい。

本当に感謝してくれているからこそ、こうして申し出てくれているのだろう。

それでも、これ以上出発を延ばすつもりはなかった。


「ありがとうございます」


クラリスは笑顔を浮かべる。


「そう言っていただけるだけで十分です」


「しかし……」


「私達も王都へ向かわなければなりませんから」


アルガスは残念そうな顔をする。

そこでルシアンも口を開いた。


「それに、村も盗賊の件でいろいろ大変だったでしょう。俺達のために無理をする必要はありませんよ」


「無理などでは……」


「お気持ちだけ、ありがたく受け取らせてください」


クラリスが続ける。


「村の皆さんには十分よくしていただきましたから」


アルガスは二人の顔を交互に見た。

もう決めている。

そう分かったのだろう。


最後には諦めたように小さく笑った。


「分かりました。それでしたら、無理に引き留めるわけにもいきませんな」


「申し訳ありません」


「いえいえ。こちらこそ、最後までわがままを言ってしまいました」


アルガスは立ち上がる。


「では、明日の朝ですな」


「はい」


「村の皆にも伝えておきます」


クラリスも立ち上がった。


「ありがとうございます」


「お礼を言うのはこちらの方です」


アルガスは深々と頭を下げた。


「本当に、ありがとうございました」


クラリスとルシアンも頭を下げる。

こうして、村長への挨拶は終わった。


◇ ◇ ◇


同じ頃。


エリスとミリアも、教会を訪れていた。

ミネアヴィレッジに滞在している間、治療のために何度も訪れた場所だ。

教会の前には、以前のような長い列はもうなかった。

治療を求めて遠方から来た人の姿も多少は見えるものの、エリスでなければ治せない患者の治療はほとんど終わっている。

教会へ入ると、ポーラが二人に気づいた。


「エリスさん、ミリアさん」


「ポーラさん」


エリスが近づいていく。


「今日は治療ではないんです」


「そうなんですか?」


「はい」


エリスは少しだけ間を置いてから伝えた。


「私達、明日の朝にミネアヴィレッジを出ることになりました」


「明日の朝……」


ポーラは少し驚いたものの、すぐに穏やかな表情になった。


「そうですか」


「急ですみません」


「いいえ」


ポーラは首を横に振る。


「むしろ、こんなに長くこの村のために時間を使っていただいて……こちらがお礼を言わなければいけません」


「そんな……」


エリスが少し困ったような顔をする。


「私達はできることをしただけです」


「その『できること』で、どれだけの人が救われたと思っているんですか?」


ポーラは微笑んだ。


「失った腕が戻った子も、足を失って歩けなくなっていた方も、ずっと病気で苦しんでいた方も……」


エリスは黙って聞いていた。

この数日だけでも、本当に多くの人を治療した。

普通のヒールで治せる人はミリアやスピカにも手伝ってもらい、自分は普通の治癒魔法では治すことのできない人達を中心に診てきた。


「この村では治せなかった人達を、エリスさんはみんな治してくださいました」


「……はい」


「本当にありがとうございました」


ポーラが深く頭を下げる。


「ポーラさん、頭を上げてください」


エリスが慌てる。

ポーラはゆっくりと顔を上げた。


「エリスさんが来てくださったことを、この村の人達はきっと忘れません」


エリスは少し照れたように笑った。


「そう言ってもらえると嬉しいです」


その横では、ミリアが微笑みながら二人を見ている。


「王都へ向かわれるんですよね?」


「はい」


「お気をつけて」


「ありがとうございます」


ポーラは胸の前で手を組んだ。

神に祈りを捧げる時の仕草だった。


「皆様に、女神セレネ様のご加護がありますように」


「…………」


その言葉を聞いた瞬間。

エリスは少しだけ目を瞬いた。


――女神セレネ様。


そういえば、最近、お会いしていない。

以前なら突然夢の中に現れたり、こちらが予想もしていない時に話しかけてきたりすることもあった。

それなのに、最近は随分と静かだ。

何かあったのだろうか。

それとも、単にこちらへ来る必要がないだけなのだろうか。


「エリス?」


隣にいたミリアが声を掛ける。


「どうしたの?」


「いえ、何でもないです」


エリスは首を横に振った。

今ここで考えても仕方がない。


女神セレネなら、必要になればまた姿を現すだろう。


「ポーラさん、本当にお世話になりました」


エリスが改めて頭を下げる。


「こちらこそです」


「それでは、明日の朝に出発します」


「はい。お気をつけて」


エリスとミリアはポーラに見送られながら、教会を後にした。


外へ出たエリスは、一度だけ教会を振り返る。


この村でも、いろいろなことがあった。


明日には、ここを離れる。


そして、いよいよ王都へ向かうのだ。


◇ ◇ ◇


その日の夜。

エリス達十二人は『一番亭』に集まっていた。


「それじゃあ――」


ルシアンが飲み物の入った杯を持ち上げる。

全員がそれぞれの杯を手にした。


「明日の出発と、新しく仲間になった三人を歓迎して」


「乾杯!」


杯が一斉に掲げられた。


「乾杯!」


エリスも笑顔で杯を上げる。

テーブルの上には、料理が所狭しと並んでいた。

焼きたてのパン、香ばしく焼かれた肉料理。

野菜をたっぷり使ったスープ。

魚料理に、色鮮やかなサラダ。

この数日間、それぞれ別の仕事をしていることが多かっただけに、十二人全員が揃ってゆっくり食事をするのは久しぶりだった。

そして今夜は、ただの夕食ではない。

リディア、ソフィア、スピカの歓迎会でもあった。


「なんだか、改めて歓迎会って言われると照れますね」


リディアが少し恥ずかしそうに笑う。


「昨日までも普通に一緒にいたからね」


ソフィアも笑う。


「でも、正式に仲間になったのはモニカだから、いいんじゃない?」


スピカが料理へ手を伸ばしながら答える。


「それもそうね」


クラリスが笑った。

リディアはそんなクラリスを見て、嬉しそうな表情を浮かべる。

騎士だった頃から憧れていた人物。

そのクラリスと、今は同じ旅の仲間として一つのテーブルを囲んでいる。

少し前までなら、想像すらしていなかったことだった。


「リディア」


「はい?」


クラリスに呼ばれ、リディアがすぐに反応する。


「そんなに固くならなくてもいいのよ」


「え?」


「これから一緒に旅をするんだから」


「あ……はい」


リディアは少し照れながら答える。

それを見たソフィアが笑った。


「リディア、クラリスさんの前だと今でも騎士みたいになるよね」


「仕方ないでしょ!」


「憧れの人だもんね」


今度はスピカまで加わる。


「ちょ、ちょっと!」


リディアの顔が赤くなる。

クラリスは困ったように笑っていた。


「別に悪いことじゃないわよ」


「クラリスさんまで……」


その様子を見ていたミリアが楽しそうに笑う。


「クラリスも大変ね」


「何がよ」


「憧れられる人は大変だなって」


「もう……」


今度はクラリスが少し困った顔をした。

その隣では、マリンとエリスが料理を取り分けている。


「エリス、これ美味しいよ」


「本当?」


「うん。食べてみて」


マリンに勧められ、エリスも料理を口へ運ぶ。


「美味しい!」


「でしょ?」


二人は顔を見合わせて笑う。


それを見ていたスピカが、ふと呟いた。


「こうしてると、本当に普通の女の子なんだけどなぁ……」


「え?」


エリスがスピカを見る。


「い、いえ! 何でもありません!」


スピカは慌てて首を横に振った。

昼間、失われた腕や足を何事もなかったかのように元へ戻した少女。

境界の子、人々から聖女と呼ばれる存在。

その本人が今は、マリンと一緒に料理を食べて楽しそうに笑っている。

あまりにも印象が違う。


「スピカさん?」


エリスが不思議そうに首を傾げる。


「本当に何でもないです」


スピカは苦笑した。

そんな会話の向こうでは、ガルドとカイルが料理を取り合っていた。


「それ、俺が取ろうとしてたんだが」


「早い者勝ちだ」


「まだあるだろ」


「ならそっちを取れ」


「お前が取った方が大きい」


「細かいな」


「二人とも子供じゃないんだから」


ミリアが呆れた声を上げる。


「まったくだな」


ルシアンが頷く。


「お前には言われたくない」


カイルが即座に返した。


「何でだよ」


今度はルシアンが不満そうな顔をする。

そのやり取りを見て、ソフィアが吹き出した。

レオネリアも静かに笑っている。

メルキオラはそんな全員の様子を見ながら、穏やかな笑みを浮かべていた。

エリスも周囲を見回す。


クラリス。

ミリア。

マリン。

ルシアン。

カイル。

ガルド。

レオネリア。

メルキオラ。

そして新しく加わった、リディア、ソフィア、スピカ。


十二人。


旅を始めた頃とは、随分と賑やかになった。

明日の朝、この十二人で、ミネアヴィレッジを出発する。

目指すのは王都グランヴェイル。

セントポルを出発してから、ここへ至るまでにも多くの出来事があった。

盗賊に襲われ。

ベルハイムへ立ち寄り。

ミネアヴィレッジでは盗賊達の尋問や治療を手伝い。

その途中で帝国へ渡り、モニカを襲ったスタンピードと戦った。

そして、その戦いを通して三人の新しい仲間も増えた。

予定通りとは到底言えない旅だった。

それでも、ようやく王都へ向けて再び進むことができる。


「エリス?」


マリンの声で、エリスは我に返った。


「どうしたの?」


「ううん」


エリスは笑顔で首を横に振る。


「ちょっと、明日からのことを考えてただけ」


「王都?」


「うん」


「やっとだね」


「本当にね」


二人は顔を見合わせる。

王都グランヴェイル。

そこに何が待っているのかは、まだ分からない。

楽しいことだけではないだろう。

魔族の動きも続いている。

帝国で起きたスタンピードを考えれば、これから先も何が起きるか分からない。

それでも、一人ではない。

共に歩いてくれる仲間達がいる。

エリスは賑やかなテーブルを見渡した。

笑い声が響く。

料理を食べながら話す者。

飲み物を片手に笑う者。

新しく加わった三人も、すでにその輪の中にいる。

今夜は、旅立ち前の最後の夜。

そして同時に、十二人となった『新たなる星座』が、新しい旅へ踏み出す前の夜でもあった。


翌朝、エリス達は、王都グランヴェイルへ向けてミネアヴィレッジを旅立つ。

長かった第六章の旅路は、こうして一つの区切りを迎えようとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


村長アルガスと教会のポーラへ翌朝の出発を伝え、ミネアヴィレッジでやるべきことを終えたエリス達。

最後の夜は『一番亭』に集まり、リディア、ソフィア、スピカの歓迎会となりました。

セントポルを出発してから、盗賊との遭遇、ベルハイムへの立ち寄り、ミネアヴィレッジでの出来事、そして帝国の港町モニカを襲ったスタンピード。

王都へ向かう旅の途中とは思えないほど様々な出来事があり、新たな三人の仲間も加わりました。


これにて、

第六章 王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

閉幕となります。


そして次回からは、

第七章 王都グランヴェイル ― 聖女を待つ光と影 ―

が始まります。


十二人となったエリス達が、いよいよ王都グランヴェイルへ向けて交易都市アルフェリアを目指します。

アルフェリアでは何が待ち受けているのか?

エリスとマリンは密かな楽しみを…


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!


次回の更新は、8月28日18時を予定してます

また、第六章のまとめをこの後、19時から公開を予定しています

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