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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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旅立ち前のひと仕事 ― 聖女の奇跡と白銀の剣姫の威圧 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


モニカからミネアヴィレッジへ戻ってきたエリス達。

王都へ向かう前に、途中になっていた教会での治療と盗賊達への尋問を終わらせることになります。

新たに仲間となったスピカとリディアも、それぞれエリスとクラリスの手伝いへ。

そこで二人は、これまで知らなかった二人の一面を目の当たりにすることになります。


それでは、第六章の続きをお楽しみください。

ミネアヴィレッジへ戻ったエリス達は、まず宿屋へ向かった。

昨日までは九人だった一行も、今はリディア、ソフィア、スピカが加わって十二人になっている。

当然、これまで借りていた部屋だけでは足りない。

受付へ向かったクラリスが事情を説明する。


「今日から三人増えたので、できればもう一部屋お借りしたいのですが」


「一部屋でしたら空いていますよ」


「それなら、お願いします」


幸いにも空室があり、追加で一部屋を確保することができた。

これで宿については問題ない。

部屋が決まったところで、一行は今日の予定を確認することになった。

エリス達には、モニカへ向かう前に途中で切り上げてしまったことが残っている。

教会での治療と、捕らえた盗賊達への対応だった。


「そういえば、スピカは治癒魔法って使えるの?」


ミリアが尋ねる。


「はい。ヒールでしたら使えます」


「それなら、私達と一緒に教会へ来てもらえる?」


「もちろんです」


スピカはすぐに頷いた。

教会には、エリスの治療を求めて多くの人が集まっている。

その全員をエリス一人で診る必要はない。

軽い怪我であれば、通常のヒールでも十分に治療できる。

エリスにしか治せない患者を優先するためにも、ミリアとスピカに軽傷者を任せた方が効率がいい。

一方、


「クラリスさん」


リディアが声を掛けた。


「何?」


「私はクラリスさんの方を手伝ってもいいですか?」


「私の方?」


「はい。元騎士ですし、何かお手伝いできることがあると思います」


リディアにとってクラリスは、騎士だった頃から憧れ続けてきた人物だ。

せっかく一緒に行動することになったのだから、できることならクラリスの役に立ちたい。


「そうね。騎士だったリディアなら手伝ってもらえることもあると思うわ」


「ありがとうございます!」


こうして、それぞれが今日の仕事へ向かうことになった。


◇ ◇ ◇


エリス、ミリア、スピカの三人は教会へ向かった。

教会へ入ると、すぐに見覚えのある女性の姿を見つける。

ポーラだった。


「ポーラさん」


エリスが声を掛ける。


「エリスさん!」


ポーラもすぐに気づき、こちらへ歩いてきた。

エリスは申し訳なさそうに頭を下げる。


「昨日は急にいなくなってしまって、すみませんでした」


本来なら、昨日も治療を続ける予定だった。

それがリディアが重傷を負ったという知らせを受け、急遽モニカへ向かうことになってしまった。

しかし、ポーラは気にした様子もなく首を横に振った。


「謝らないでください。そもそも治療をお願いしているのはこちらなんですから」


「でも……」


「こうして今日も来てくださっただけで十分です」


そう言って微笑むポーラに、エリスも少し安心する。


「ありがとうございます。それでは、早速治療を再開したいんですが」


「分かりました。昨日来ていただく予定だった方々に、もう一度声を掛けてきます」


「お願いします」


ポーラは教会を出ていった。

エリスはその姿を見送った後、教会の外へ目を向ける。

そこには今日も多くの人が集まっていた。

エリスがこの村で治療を行っているという噂を聞きつけ、やって来た人達なのだろう。


「ポーラさんが戻ってくるまで、外にいる人達を診てきます」


「分かったわ」


ミリアが頷く。

エリスはスピカを見る。


「スピカさん、軽い怪我の方をミリアと一緒にお願いできますか?」


「はい、分かりました」


「私は病気の方を診ます。普通のヒールでは治せない方がいたら、こちらへお願いします」


「分かりました」


三人は教会の外へ出ると、治療を始めた。


「次の方、どうぞ」


ミリアが呼び掛ける。

転んで腕を切った人。

仕事中に足を怪我した人。

魔物との戦いで傷を負った冒険者。

そういった患者はミリアとスピカが担当する。


「ヒール」


スピカの手から淡い光が広がる。

傷口がゆっくりと塞がっていった。


「ありがとうございます」


「無理しないでくださいね」


「はい」


一方、エリスの前には別の人達が並んでいた。

長い間病気に苦しんでいる者。

治療魔法では治すことのできない症状を抱えている者。

エリスは一人ずつ状態を確認しながら、その力を使っていった。

しばらくすると


「エリスさん!」


ポーラの声が聞こえた。

エリスが振り返る。

ポーラが戻ってきていた。

その後ろには、何人かの患者がいる。


「昨日お話ししていた方々をお連れしました」


「ありがとうございます」


エリスは立ち上がる。


「それでは、こちらの方を先に診ますね」


最初に案内されたのは、一人の少女だった。

まだ幼い。

少女は緊張した表情で、母親らしき女性に付き添われている。

そして、右腕がなかった。

エリスの表情が少し曇る。


「この子は……?」


ポーラが静かに説明する。


「以前、魔物に襲われたそうです。その時に右腕を噛み千切られてしまって……」


少女は左手で自分の服を強く握っていた。

エリスは少女の前へしゃがむ。


「少しだけ、ここに手を翳してもいいですか?」


少女は緊張しながらも頷いた。


「……はい」


「大丈夫です。怖くないですよ」


エリスは微笑む。

そして、本来なら右腕があるはずの場所へ手を翳した。

失われたもの、本来そこに存在していたもの、エリスは静かに力を使う。


「――戻って」


淡い光が少女の右肩を包み込んだ。


「え……?」


少女が小さく声を漏らす。

光の中、何もなかった場所に、少しずつ変化が現れる。

失われていた右腕が形を取り戻していく。


肩から上腕へ、肘、前腕、そして手首から、その先へ

五本の指まで完全に形作られると、光がゆっくりと消えていった。

少女は呆然としていた。


「動かしてみてください」


エリスが優しく言う。

少女は恐る恐る右腕を動かす。

肘を曲げる、指を一本ずつ動かす。

そして、右手を握る、開く、もう一度握る。


「……動く」


少女の瞳から涙が零れた。


「動く……!」


何度も右腕を確認する。


「お母さん! 手が……手が戻ったよ!」


付き添っていた母親も涙を流しながら娘を抱き締めた。


「よかった……本当によかった……!」


少女は母親から離れると、今度はエリスを見る。


「聖女様……!」


「え?」


「ありがとうございます!」


少女は何度も頭を下げた。


「ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます……!」


「そんなに何度も頭を下げなくても大丈夫ですよ」


エリスは少し困ったように笑う。


「もう大丈夫ですから」


少女は再び自分の右手を見つめた。

その顔には涙と、それ以上の笑顔が浮かんでいた。

少し離れたところで軽傷者を治療していたスピカは、その光景を呆然と見つめていた。


「……腕が」


思わず治療の手を止めそうになる。


「戻った……?」


昨夜、聞いた。

エリスは境界の子だと。

リディアの重傷を治したのもエリスだと。

それでも、実際に目の前で見るのと、話として聞くのとではまるで違う。

失われた腕が、元通りになった。

普通の治癒魔法では絶対にできない。

ヒールは傷を治す魔法だ。

失われたものそのものを取り戻す魔法ではない。


「スピカ」


ミリアの声で我に返る。


「あっ、はい!」


「驚くのは分かるけど、こっちの患者さんもお願いね」


「す、すみません!」


スピカは慌てて自分の治療へ戻った。

それでも、視線は時折エリスへ向いてしまう。


続いてエリスの前へやって来たのは、成人男性だった。

男性は杖を使いながら歩いている。

左足が途中から失われていた。


「どうされたんですか?」


エリスが尋ねる。

男性は少し苦笑した。


「山で狩猟用の罠に掛かってしまいまして」


「罠に?」


「ええ。足が挟まれてしまって、なかなか外すことができなかったんです」


助けられた時には、すでに左足の状態は酷かったという。

長時間にわたって血流が途絶えたことで壊死が進み、最終的には切断するしかなかった。

エリスは男性の左足を見る。


「分かりました」


本来、左足があった場所へ手を翳す。

先ほどの少女と同じように。

そこにあったはずのものを思い描く。


「――戻って」


光が男性の左足を包み込む。

やがて、失われていた足が、少しずつ再生していった。


「お、おお……!」


男性が声を上げる。

光が消える。

そこには完全に元へ戻った左足があった。


「立ってみてもらえますか?」


男性は恐る恐る立ち上がった。

最初は慎重に

右足、左足、一歩、また一歩。


「歩ける……」


杖から手を離す。

さらに数歩進む。


「歩けるぞ……!」


男性は自分の足で歩き回った。

やがてエリスのところへ戻ってくる。


「ありがとうございます!」


深々と頭を下げた。


「本当に……ありがとうございます!」


「もう山では気をつけてくださいね」


エリスが微笑む。


「ああ! もちろんです!」


その様子も、スピカは遠くから見ていた。

失われた腕。

失われた足。

それが当たり前のように元へ戻っていく。

昨日聞いた「境界の子」という言葉。

そして、街や村の人々がエリスを見て口にする、もう一つの呼び名。


――聖女。


なぜエリスがそう呼ばれるのか、

スピカにも、ようやく分かった気がした。


◇ ◇ ◇


その頃、クラリス達は、捕らえた盗賊達への尋問を手伝っていた。

リディアもクラリスの隣で、その様子を見ている。

元騎士であるリディアにとって、こうした場に立ち会うこと自体は珍しいものではない。

問題は、クラリスだった。


「まだ話さないの?」


「知らねえって言ってるだろ!」


盗賊の男が声を荒らげる。

何度聞いても同じ答えだった。

明らかに何かを隠している。

それでも口を割ろうとしない。

リディアはどうするのだろうと思い、クラリスを見る。


「そう」


クラリスは笑った。


「それなら仕方ないわね」


その笑顔を見た瞬間。

なぜか盗賊の顔色が変わった。

クラリスは笑顔のまま、ゆっくりと男へ近づいていく。

そして、腰に下げた剣へ手を掛けた。


「もう一度だけ聞くわね?」


「…………」


盗賊の額から汗が流れる。


「本当に、何も知らないの?」


クラリスは笑っている。

それなのに、リディアには、なぜか妙な迫力を感じた。

剣はまだ抜いていない。

ただ柄に手を掛けているだけ。

それだけなのに、盗賊の顔からみるみる血の気が引いていく。


「ま、待て!」


「何?」


「話す! 話すから!」


先ほどまでの強気な態度はどこへ行ったのか。

盗賊は慌てて話し始めた。

クラリスは剣から手を離す。


「最初から素直に話してくれればいいのよ」


「…………」


盗賊は何度も頷いている。

リディアはその光景を横から見つめていた。

そして、一つだけ疑問が浮かんだ。


――クラリスさん、この人達に一体何をしたんだろう……?


ただ笑って剣に手を掛けただけ。

それなのに、あれほど頑なだった盗賊が一瞬で素直になった。

憧れの白銀の剣姫。

元騎士団長。

自分が新人騎士だった頃から追い続けてきた人物。

リディアはそんなクラリスの横顔を見ながら。

自分の知らない騎士団長時代の一面が、まだまだあるのかもしれないと思うのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ミネアヴィレッジへ戻り、再び治療を始めたエリス達。

ヒールを使えるスピカも治療に加わる中、エリスは失われた少女の右腕、そして男性の左足までも元の状態へ戻しました。

話には聞いていたものの、実際に境界の子の力を目の当たりにしたスピカ。

なぜエリスが人々から「聖女」と呼ばれているのか、その理由を実感することになりました。

一方、リディアが目にしたのは、憧れのクラリスの少し意外な姿。

笑顔で剣に手を掛けただけで、頑なに口を閉ざしていた盗賊が途端に素直になる光景に、リディアも「一体何をしたのだろう」と疑問を抱くことに。

こうしてミネアヴィレッジで残っていた仕事も、少しずつ片付いていきます。


次回、いよいよエリス達はミネアヴィレッジを旅立ちます。

目指すは王都グランヴェイル。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、8月27日18時を予定してます

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