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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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異空間に隠された秘密 ― 新たな仲間に用意された三つの部屋 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


モニカでの用事を終え、ミネアヴィレッジへ戻ることになったエリス達。

その途中、リディアが設置していた魔道具を回収するため、一行はメルキオラの転移魔法で馬車を残していた場所へ向かいます。

そこでリディア、ソフィア、スピカが目にするのは、これまで知らなかったメルキオラの魔法と、モニカで告げられた「三人のお部屋」の正体でした。


それでは、第六章の続きをお楽しみください。

一瞬だけ視界が光に包まれ、次に景色が見えた時には、先ほどまでとはまったく違う場所に立っていた。

そして目の前には、レオネリアとメルキオラが置いていった馬車があった。


「着きました」


メルキオラの言葉に、リディアは周囲を見回した。


「あっ、ありました」


少し離れた場所へ歩いていく。

そこには、モニカへ向かう前に設置した魔道具がそのまま残されていた。

リディアはそれを一つずつ確認しながら回収していく。


「これで全部です」


「では、こちらも片付けてしまいましょう」


メルキオラが馬車へ向き直った。


「馬は連れて帰るんでしたよね?」


ソフィアが尋ねる。


「はい。馬はこの後も使いますので」


メルキオラはそう答えると、馬車から馬を外した。

そして馬車へ手を向ける。


次の瞬間――。

馬車が消えた。


「えっ!?」


リディアが目を見開く。


「馬車が……!」


ソフィアも驚き、先ほどまで馬車があった場所を見る。

スピカに至っては何度も瞬きをしていた。

そこにはもう何もない。

つい先ほどまで確かに存在していた馬車が、跡形もなく消えている。


「メルキオラさん、今、何をしたんですか?」


リディアが尋ねる。

メルキオラは何でもないことのように答えた。


「異空間へ格納しただけでございます」


「……異空間?」


「はい」


「馬車を?」


「はい」


あまりにも普通に答えるメルキオラに、リディアは言葉を失った。

ソフィアとスピカも同じだった。


「馬車が入る異空間って……」


スピカが呟く。


「そんなことまでできるんですか?」


「できますよ」


メルキオラは平然と答える。

三人は顔を見合わせた。

昨日、メルキオラが魔族だと聞いた。

その時、今まで見たこともない魔法や魔道具を使えることに妙に納得した部分はあった。

それでも、目の前で馬車そのものを消されれば、驚くなという方が無理だった。


「これから一緒にいたら、こういうことが普通になっていくのかな……」


ソフィアが小さく呟く。


「それはそれで怖いんだけど……」


スピカが答える。

その会話を聞いていたマリンが苦笑する。


「たぶん、すぐ慣れるよ」


「マリンさんは慣れたんですか?」


「……たぶん?」


自信なさそうに答えるマリンを見て、ソフィアとスピカはさらに不安そうな顔をした。

目的だった魔道具の回収も終わった。

馬車も片付けた。

残るのは、馬を連れてミネアヴィレッジへ戻るだけだった。


「それでは、参りましょう」


メルキオラが声を掛ける。

全員がその周囲へ集まった。

連れて帰る馬も一緒だ。

メルキオラが魔力を展開すると、足元に転移魔法陣が広がっていく。


「転移いたします」


光が全員を包み込む。

次の瞬間、周囲の景色が一変した。


「……着きました」


メルキオラの声とともに、光が消えていく。

リディアは周囲を見回した。

先ほどまでとはまったく違う景色。

そして、すぐ近くには一台の馬車が置かれている。

エリス達がこれまで旅に使ってきた馬車だった。


「ここが……?」


リディアが尋ねる。

クラリスが答える。


「ミネアヴィレッジよ」


「ここがミネアヴィレッジなんですね」


リディア達三人が周囲を見回す。


アルカンダダンジョンを目指して帝国内を移動していた三人にとって、ここへ来ることになるとは少し前まで想像すらしていなかった。


「さて」


メルキオラが馬車へ近づいていく。

そして――。

その姿が突然消えた。


「えっ!?」


またしてもリディア達三人の声が重なった。


「メルキオラさん!?」


リディアが慌てて馬車へ近づく。


「消えた!?」


ソフィアも目を丸くしている。

スピカは馬車の周囲を確認する。


「どこに行ったんですか!?」


三人の反応とは対照的に、エリス達は落ち着いていた。


「あの……」


リディアがクラリスを見る。


「クラリスさん、メルキオラさんはどこへ?」


「すぐ戻ってくるわよ」


「戻ってくるって……」


何が起きているのか分からない。

そのまま少し待っていると――。

何もなかった場所から、メルキオラが姿を現した。


「お待たせいたしました」


「…………」


リディア達三人は絶句する。

先ほど消えたと思った人物が、何事もなかったかのように戻ってきたのだから当然だった。


「どこに行ってたんですか?」


リディアが尋ねる。


「少し準備をしておりました」


「準備?」


「はい」


メルキオラは三人を見る。


「早速ですが、リディアさん、ソフィアさん、スピカさんの登録をいたしましょう」


「登録ですか?」


「はい」


その言葉を聞き、リディアはすぐに思い当たった。


「結界壁の魔道具への登録ですね?」


「登録自体は似たようなものでございます」


メルキオラの答えに、リディアは特に疑問を持たなかった。

以前、メルキオラが作った結界壁の魔道具を使用する際にも登録を行っている。

今回も同じようなものなのだろう。

三人は言われるまま登録を済ませた。


「これで完了です」


「でも……」


スピカが周囲を見る。


「まだ結界壁を張ってませんよね?」


「はい」


「今、登録する必要があるんですか?」


「ございますよ」


メルキオラは笑みを浮かべる。


「では、こちらへ」


三人を馬車の近くへ案内する。


「ここに触れていただけますか?」


メルキオラが示したのは、馬車の一部だった。

リディア達は顔を見合わせる。

結界壁を展開するわけでもないのに、なぜ馬車に触れる必要があるのだろう。

それでも、言われた通りリディアが手を伸ばした。


ソフィア。

スピカ。


二人も続く。

その瞬間――。

何もなかった場所に扉が現れた。


「えっ?」


リディアが手を止める。


「扉……?」


ソフィアが目を見開く。


「今までこんなのなかったよね?」


スピカが馬車と扉を交互に見る。

確かに、少し前までそこには何もなかった。

それなのに、今は明らかに扉が存在している。


「どういうことですか?」


リディアが尋ねる。

メルキオラは扉を開いた。


「中へ入ってみてください」


「中って……」


リディアが扉の奥を覗き込む。

そして動きを止めた。


「……え?」


馬車の中であるはずだった。

当然、扉を開けば狭い車内が見えると思っていた。

しかし、その先に広がっていたのは、馬車の内部とは到底思えない空間だった。


「どうなってるの……?」


ソフィアも覗き込む。

スピカもその横から顔を出す。

三人とも、揃って言葉を失った。


「どうぞ」


メルキオラに促され、リディアが恐る恐る扉をくぐる。

ソフィアとスピカもその後に続いた。

扉を抜けた先には、広々とした居間があった。


「…………」


リディアは立ち尽くす。

外から見た馬車の大きさと、明らかに合っていない。

居間だけでも馬車そのものより広い。

家具が置かれ、照明もあり、とても旅の馬車の中とは思えなかった。


「ここ……馬車の中ですよね?」


リディアが確認する。


「正確には、馬車から繋がっている異空間でございます」


メルキオラが答えた。


「異空間……」


またその言葉だった。

先ほど馬車を丸ごと格納したのも異空間。

そして今度は、馬車そのものが異空間へ繋がっている。

スピカが頭を抱える。


「メルキオラさんの異空間って、どうなってるんですか……?」


「便利ですよ」


「便利っていう範囲なんでしょうか……」


ソフィアが思わず呟いた。

メルキオラは気にすることなく奥へ進む。


「こちらへどうぞ」


三人が後を追う。

居間だけではない。

生活するために必要な設備が揃っている。

三人からすれば、もはや馬車の付属設備などという規模ではなかった。

一軒の家が丸ごと異空間に存在しているようなものだ。

やがてメルキオラが三つの部屋を示す。


「こちらが、皆様のお部屋でございます」


「私達の?」


リディアが聞き返す。


「はい」


そこでメルキオラは微笑んだ。


「モニカで申し上げたでしょう? 三人のお部屋も用意しないといけませんね、と」


「あっ……」


リディアが声を上げる。

ようやく意味が分かった。

あの時は宿の部屋ならすでに用意されているのに、何を言っているのだろうと思っていた。

メルキオラが言っていたのは、この異空間にある部屋のことだったのだ。


「これのことだったんですか……」


「はい」


「まさか馬車の中に家があるなんて思いませんよ……」


リディアは苦笑するしかない。


ソフィアとスピカも、それぞれ自分達に用意された部屋を覗いている。


「本当に部屋だ……」


「ベッドまである……」


二人の声が聞こえてくる。

リディアも改めて周囲を見回した。

今日だけで、メルキオラには何度驚かされたのだろう。

馬車を異空間へ格納した。

本人まで突然消えた。

今度は馬車から、家と呼んでもおかしくないほどの異空間へ案内された。


「そういえば」


メルキオラがふと思い出したように言う。


「一つ、謝っておかなければならないことがございます」


「謝ること?」


リディアが振り返る。


「以前、皆様のためにお作りした結界壁の魔道具についてです」


「あの魔道具がどうかしたんですか?」


「あちらにも、異空間へ接続する機能を付けてございました」


「…………え?」


三人の動きが止まった。

メルキオラは申し訳なさそうに頭を下げる。


「当時は、まだ私達のことをすべてお話しすることができませんでしたので、さすがに異空間の機能まであるとはお伝えできませんでした。申し訳ございません」


「ちょっと待ってください」


リディアは慌てて尋ねる。


「じゃあ、私達が使っていたあの結界壁の魔道具にも、こんな空間があったんですか?」


「はい」


「全然知りませんでした……」


「意図的に使えないようにしておりましたので」


「そうだったんですね……」


リディアは驚きながらも納得した。


あの時の自分達とメルキオラ達は、まだ今ほど互いのことを知っていたわけではない。


転移魔法。

異空間。

そして二人が魔族であること。


どれも簡単に他人へ知られていいものではなかった。


「それなら仕方ないですよ」


リディアが言う。


「むしろ、あの時は何も知らなかった私達のために魔道具を作ってくれたんですから」


ソフィアも頷く。


「私も気にしてません」


「私もです」


スピカも続いた。


「ありがとうございます」


メルキオラは三人へ頭を下げた。

リディアはもう一度、自分達の周囲を見回した。

外にあるのは、一台の馬車。

それなのに、その扉の先には一軒の家のような異空間が広がっている。

そして、これからは自分達にもここで過ごすための部屋がある。

モニカでメルキオラが口にした、

――三人のお部屋も用意しないといけませんね。

あの言葉の意味を、リディア達は、ようやく理解したのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


目の前にあった馬車を異空間へ格納し、今度は自分自身まで突然姿を消すメルキオラ。


驚き続けるリディア達でしたが、本当の驚きはその後に待っていました。


エリス達の馬車から繋がっていたのは、居間や個室まで備えた広大な異空間。


そして、モニカでメルキオラが言っていた「三人のお部屋も用意しないといけませんね」という言葉の意味も、ようやく明らかになりました。

さらに、以前リディア達のために作った結界壁の魔道具にも、実は異空間の機能が隠されていたことが判明。

これでリディア達も、エリス達の旅の秘密をまた一つ知ることになりました。

次回はミネアヴィレッジでの作業を終え、いよいよエリス達は王都グランヴェイルへ向けて旅立ちます。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、8月26日18時を予定してます

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