共に歩む決意 ― 明かされる境界の子の真実 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
サントス王国へ戻ることを伝えたクラリス達。
その理由と、境界の子としてエリスが目指している未来を知ったリディア達は、自分達も共に行くことを決意します。
そして同行することになった三人に、クラリスはこれまで以上に大きな秘密を明かすことに。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
「一度、サントス王国へ戻る予定だ」
ルシアンの言葉を聞き、リディアは小さく呟いた。
「サントス王国へ……」
「ええ」
クラリスが頷く。
「領主からどんな話があるかはまだ分からないけれど、それが終わったらモニカを発つつもりよ」
リディアはクラリスを見た後、エリス達へ視線を移した。
そして静かに頷いた。
「そうなんですね……」
クラリスはそんなリディアの様子を見つめる。
先ほど、自分達が魔族の動きを抑えるために旅をしていることは話した。
エリスが境界の子であることも明かした。
けれど、まだ説明していないことがある。
なぜ自分達がサントス王国へ戻ろうとしているのか。
そして――。
エリスが何を目指して旅をしているのか。
「せっかくだから、もう少し話しておくわね」
「はい」
「私達がどうしてサントス王国へ戻ろうとしているのか。その理由を」
クラリスの表情が少し真剣なものへ変わった。
リディアだけではない。
ソフィアとスピカもクラリスを見る。
「今回のモニカだけじゃないの。私達はこれまでの旅でも、普通では考えられない魔物と何度も戦ってきたわ」
クラリスはこれまでに起きたことを話し始めた。
異常な再生能力を持つ魔物。
身体の中に核を持ち、それを破壊しなければ何度でも再生するキメラ。
戦うたびに変化していった核の仕組み。
そして、そのキメラを作り出している存在。
魔族が各地で動き始めていること。
今回モニカで起きたスタンピードも、偶然起きたものではない。
海上には魔物を送り出すゲートが存在し、その周囲にはキメラが配置され、最後にはゲートを守るかのように邪龍まで現れた。
話が進むにつれ、リディア達三人の表情から少しずつ余裕が消えていった。
「そんなことが……」
ソフィアが呟く。
今日だけでも信じられないものをいくつも目にした。
それが今回突然始まったのではなく、以前から続いていたというのだ。
クラリスの話はさらに続く。
「そして、エリスが境界の子として生まれたことにも意味があるの」
三人の視線がエリスへ向く。
エリスは黙ってクラリスの話を聞いていた。
「境界の子は、人と魔族。その二つの間に立つ存在」
クラリスはゆっくりと言葉を続ける。
「エリスには、その力を使って果たさなければならない役目がある」
「役目……ですか?」
リディアが尋ねる。
「ええ」
クラリスは頷く。
単純に魔族を倒せばいいという話ではない。
人間と魔族、二つの種族の間にある争い。
その間に立ち、これから先の未来を切り開くこと。
それこそが、境界の子に託されたものだった。
そして、エリス自身も、ただ魔族を倒すために旅をしているわけではない。
クラリスはエリスが目指しているものについても話した。
人間と魔族のどちらか一方が滅びる未来ではない。
どちらかが相手を支配する未来でもない。
人と魔族が共に生きられる道。
簡単に実現できることではない。
今まで長い間争い続けてきた二つの種族が、突然手を取り合えるはずもない。
それでもエリスは、その可能性を諦めていなかった。
リディア達の顔色が、話を聞くほどに悪くなっていく。
先ほどエリスが境界の子だと聞いた時も驚いた。
自分の命を救った力が、普通の治癒魔法ではなかったことにも驚かされた。
それでも、今聞かされている話は、それ以上だった。
「……そんな大きなことになっていたんですね」
リディアが呟く。
「ええ」
クラリスは静かに頷いた。
「だから私達は旅を続けているの」
クラリスはそこで話を終えた。
しばらく誰も口を開かなかった。
リディア。
ソフィア。
スピカ。
三人とも、今聞いた話を頭の中で整理しているようだった。
やがてクラリスが尋ねる。
「それで、リディア達はこの後どうするの?」
「私達……ですか?」
「ええ」
クラリスは三人を見る。
「私達はサントス王国へ戻る。でも、あなた達にはあなた達の目的があるでしょう?」
リディアは答えようとして、口を閉じた。
クラリスを見る。
リディアにとって、クラリスは昔から憧れていた人だった。
新人騎士だった頃。
遠くからその背中を追い続けていた。
白銀の剣姫。
騎士団長として、多くの騎士達を率いていた存在。
今こうして再び出会えた。
しかもクラリス達が、自分の想像を遥かに超えるほど大きな問題を抱えて旅をしていることまで知ってしまった。
できることなら力になりたい。
クラリスを助けたい。
リディアはそう思う。
けれど、今の自分は一人ではない。
リディアは隣にいる二人を見る。
「ソフィア、スピカ……」
二人は顔を見合わせた。
そして、どちらからともなく笑う。
「リディア」
ソフィアが先に口を開いた。
「好きにしていいよ」
「え?」
「どうせ、もう決めてるんでしょ?」
リディアは言葉に詰まった。
スピカも笑う。
「顔を見れば分かるよ」
「スピカまで……」
「リディアがクラリスさんに憧れてるのは、ずっと聞いてたからね」
ソフィアが続ける。
「リディアが行きたいなら行けばいいよ」
「でも、二人は……」
「もちろん私達も最後まで付き合うけど」
「うん」
スピカも大きく頷いた。
「ここまで一緒に来たんだから、今さらリディアだけ行かせるわけないでしょ?」
「二人とも……」
リディアは二人を見つめた。
少しだけ目を伏せる。
そして、決心したように顔を上げた。
「クラリスさん」
「何?」
「お願いがあります」
リディアは真っ直ぐクラリスを見る。
「私達も、一緒に行動させてもらえませんか?」
クラリスはすぐには答えなかった。
驚いたようにリディアを見る。
「私達と?」
「はい」
「でも、さっき話した通りよ。これから何が起きるか分からないわ」
「分かっています」
リディアは迷わず答える。
「今日だけでも、十分すぎるほど分かりました」
邪龍。
キメラ。
スタンピード。
命を落としかけるほどの戦い。
これ以上ないほど危険なものを、すでに経験している。
「それでも……」
リディアはクラリスを見る。
「私にできることがあるなら、クラリスさん達の力になりたいんです」
クラリスは何も言わず、リディアを見つめた。
やがてルシアンへ視線を向ける。
ルシアンは少し考えた後、頷いた。
続いてクラリスはエリスを見る。
「エリスはどう?」
突然聞かれ、エリスは少し驚いた。
「私?」
「ええ」
エリスはリディア達を見る。
今日出会ったばかり。
それでも、三人が自分達と一緒に戦ってくれたことは知っている。
そして、リディアがクラリスを心から慕っていることも、ここまでのやり取りで十分に伝わっていた。
エリスは笑顔で頷いた。
「私はいいと思う」
クラリスも頷く。
「分かったわ」
「それじゃあ……」
「ええ。一緒に行きましょう」
リディアの表情が明るくなる。
「ありがとうございます!」
ソフィアとスピカも笑顔を見せた。
これで話は決まった。
そう思ったリディアだったが。
クラリスの表情はまだ真剣なままだった。
「ただし」
「はい?」
「一緒に来るなら、もう少し知っておいてもらわないといけないことがあるわ」
リディアの表情が固まる。
「まだ……あるんですか?」
「あるわ」
先ほど聞いた話だけでも、十分すぎるほどだった。
境界の子。
魔族の暗躍。
人間と魔族の未来。
これ以上何があるというのだろう。
クラリスは念を押す。
「これから話すことは、絶対に他では言わないで」
リディアは思わずエリスを見る。
――境界の子であること以上に秘密にしなければならないこと?
想像がつかない。
「分かりました」
リディアはクラリスを見る。
「絶対に他では話しません」
ソフィアとスピカも頷いた。
「私達も約束します」
「誰にも言いません」
三人の返事を確認してから、クラリスは静かに口を開いた。
「まず、エリスのことから話すわ」
エリスも少し緊張した表情になる。
「エリスは境界の子。それはさっき話した通り」
「はい」
「でも、それだけじゃないの」
クラリスは一度エリスを見る。
そして
「エリスは――転生者なの」
「……え?」
リディアの思考が止まった。
ソフィアとスピカも同じだった。
「転生者……?」
「前世の記憶を持って生まれてきたの」
クラリスはさらに続ける。
「そしてエリスの前世は、魔族の女王――エルシアよ」
「…………」
誰も声を出さなかった。
リディアはエリスを見る。
エリスも困ったような表情を浮かべながら三人を見ている。
「え……?」
ようやくリディアの口から声が漏れる。
「魔族の……女王?」
「ええ」
クラリスが頷いた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
ソフィアが混乱したように口を挟む。
「エリスさんは境界の子で……前世が魔族の女王で……?」
「そういうことになるわね」
あまりにもあっさり答えられ、ソフィアはそれ以上何も言えなくなった。
スピカも目を丸くしたままエリスを見る。
「それじゃあ、エリスさんが人と魔族の共存を目指しているのって……」
「前世が魔族だったことも関係してます」
エリスが答えた。
「私は人間として生まれて、人間として育ってきました。でも、前世では魔族として生きていた記憶があります」
エリスは自分の胸元へ手を置く。
「だから、どちらかだけを選ぶことはできないんです」
リディア達は言葉を失った。
先ほどクラリスから聞いた話が、ようやく別の意味を持って繋がり始める。
なぜ境界の子であるエリスが、人間と魔族の共存を目指しているのか。
その理由が少しだけ理解できた。
クラリスの話はまだ終わっていなかった。
「それと、もう一つ」
クラリスが視線を移す。
その先にいるのは、レオネリアとメルキオラだった。
「レオネリアとメルキオラは、魔族よ」
「……え?」
再び、リディア達三人の動きが止まった。
今度は揃ってレオネリアとメルキオラを見る。
「……本当なんですか?」
リディアが尋ねる。
「ええ」
レオネリアは隠すことなく頷いた。
「私は魔族よ」
「私も同じでございます」
メルキオラも続いた。
リディアは二人を見つめる。
これまで一緒に行動してきた。
会話もした。
戦いも見た。
メルキオラの作った魔道具にも何度も助けられた。
二人が自分達を騙して危害を加えようとしたことなど一度もない。
「……そうだったんですね」
自分でも驚くほど、それだけだった。
魔族だと聞いた。
それなのに、怖いとは思わなかった。
警戒しなければとも思わない。
すでに二人の性格を知っているからだ。
「驚かないの?」
レオネリアが尋ねる。
「驚いてますよ」
リディアは苦笑する。
「ものすごく」
「そう」
「でも、レオネリアさんとメルキオラさんがどういう人なのかは、一緒に行動して少しは知っていますから」
ソフィアも頷く。
「今さら魔族だって言われても、急に怖い人には見えません」
「私も」
スピカも続いた。
メルキオラは僅かに笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
リディアはそこで、ふと思った。
そう考えると、メルキオラの使う魔法。
見たことも聞いたこともない魔道具。
そして、あまりにも高度な技術。
魔族だと言われれば、妙に納得できてしまう部分もある。
「それから、セラのことも話しておくわ」
「セラ……?」
リディア達は今日の戦いで見た、あの白いフェンリルを思い浮かべる。
「セラは普通の聖獣じゃないの」
「普通じゃないというのは……?」
リディアが尋ねる。
「女神セレネ様から、エリスが直接授かった聖獣よ」
「…………」
三度目。
今度こそ、リディア達は完全に言葉を失った。
転生者。
前世は魔族の女王。
仲間の二人は魔族。
そして聖獣は女神から直接授かった存在。
「ちょっと待って……」
スピカが額へ手を当てる。
「一気に聞きすぎて、頭が追いつかない……」
「私も……」
ソフィアも同じような顔をしている。
リディアは何も言えず、エリスを見る。
エリスは申し訳なさそうに苦笑した。
「驚きますよね……」
「驚くなんてものじゃないですよ……」
リディアも苦笑するしかなかった。
境界の子だと聞いた時点で、十分に大きな秘密だと思っていた。
まさか、その先にこれだけの話が隠されているとは思わなかった。
それでも、不思議と、一緒に行くという決意が揺らぐことはなかった。
むしろ、ここまで聞いたからこそ、クラリス達がどれほど大きなものを背負って旅をしているのかが、少しだけ分かった気がした。
しばらくして、メルキオラが何かを思いついたように口を開いた。
「そういうことでしたら、三人のお部屋も用意しないといけませんね」
「……部屋?」
リディアが首を傾げる。
ソフィアとスピカも顔を見合わせた。
「私達の部屋なら、さっき宿で用意してもらいましたけど?」
「そちらではございません」
メルキオラは笑みを浮かべる。
「え?」
何のことを言っているのか。
三人にはまったく分からなかった。
エリスとマリンは顔を見合わせる。
ルシアンは小さく笑い。
クラリスとミリアも、メルキオラが何を言っているのか理解したようだった。
「どういう意味ですか?」
リディアが尋ねる。
メルキオラはすぐには答えなかった。
「それについては、実際にご覧いただいた方が早いかと」
「実際に……?」
リディア達はますます分からなくなる。
その言葉の意味を、三人はすぐに知ることになるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
クラリス達が背負っているものを知り、それでも共に行くことを選んだリディア、ソフィア、スピカ。
そんな三人だからこそ、クラリスはさらに深い秘密を明かしました。
エリスが転生者であり、前世が魔族の女王エルシアであること。
レオネリアとメルキオラが魔族であること。
そしてセラが、女神セレネからエリスへ直接授けられた聖獣であること。
驚きの連続となったリディア達でしたが、最後にはメルキオラから「三人のお部屋も用意しないとですね」という謎の言葉が。
その意味を知るのは、もう少し先になりそうです。
次回は、モニカを救った功績に対し、領主からエリス達へ褒賞が贈られることになります。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
感想や評価、ブックマークなども大変励みになります!
次回の更新は、8月24日18時を予定してます




