明かされた素性 ― 伝説の仲間達と境界の子 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
モニカの騎士に案内され、宿へ向かったエリス達。
ようやく落ち着ける場所を確保した一行は、改めて互いに自己紹介をすることになります。
そこでリディア達が知ることになるのは、エリスと共に旅をする仲間達の意外な過去。
そして、自分の命を救ってくれた人物の正体でした。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
エリス達は騎士の案内のもと、モニカの街にある宿屋を訪れた。
港から少し離れた大通り沿いに建つ、三階建ての大きな宿だった。
スタンピードの影響もあって街の中はまだ慌ただしく、通りでは騎士や冒険者達が行き交っている。幸い、この辺りの建物には大きな被害は出ていないようだった。
一行が宿へ入ると、騎士がクラリスへ尋ねた。
「部屋はいくつ必要だ?」
「そうですね……」
クラリスは人数を確認するように仲間達を見回した。
今回宿泊するのは十二人。
少し考えてから答える。
「可能でしたら、三人部屋を二部屋と、二人部屋を三部屋お願いできますか?」
「分かった。聞いてみよう」
騎士は受付へ向かうと、宿の主人らしき男性と話を始めた。
時折こちらを見ながら何かを説明している。
おそらく、エリス達がスタンピードの討伐に協力したことも伝えているのだろう。
しばらくすると、騎士が戻ってきた。
「希望通り用意できるそうだ」
「ありがとうございます」
「ただ、三人部屋が一部屋しか空いていないらしい。もう一部屋は広めの二人部屋にベッドを一つ追加して対応するそうだ」
「それで構いません」
クラリスが答えると、騎士は頷いた。
「それと、その部屋にはリビングも付いているそうだ。これだけの人数なら、全員で集まって話をすることもあるだろう?」
「それは助かります」
部屋が決まると、自然といつもの組み合わせに分かれていった。
エリスとマリン。
クラリスとミリア。
レオネリアとメルキオラ。
この三組が二人部屋を使う。
男性陣のルシアン、カイル、ガルドが三人部屋。
残るもう一つの三人部屋には、リディア、ソフィア、スピカが入ることになった。
部屋割りが決まったところで、ルシアンが全員を見回す。
「せっかくだ。少しみんなで話しておかないか?」
「ここで?」
クラリスが尋ねる。
「いや、俺達の部屋にリビングがあるんだろ? そこを使おう」
誰からも反対意見は出なかった。
エリス達はモニカへ来る予定などなかったため、当然ながら旅の荷物を持ってきていない。
リディア達も今は手ぶらだったため、部屋へ荷物を置きに行く必要もなく、そのまま全員でルシアン達の部屋へ向かった。
部屋へ入ると、宿の主人が言っていた通り、寝室とは別に広めのリビングが設けられていた。
ソファや椅子も置かれており、全員が集まって話をするには十分な広さがある。
「さて」
全員が落ち着いたところで、ルシアンが口を開いた。
「まずは改めて自己紹介からにするか」
レオネリアとメルキオラについては、すでにリディア達と行動を共にしていたため、改めて自己紹介をする必要はなかった。
「じゃあ、俺からだな」
ルシアンがリディア達を見る。
「ルシアンだ。魔導士をやってる。昔は白銀の聖剣団にいた」
その名前が出た瞬間、ソフィアとスピカの表情が変わった。
「白銀の聖剣団!?」
「えっ、あの伝説のパーティですか?」
二人が揃って声を上げる。
ルシアンは少し困ったように笑った。
「伝説ってほどでもないと思うんだがな」
「十分伝説ですよ!」
スピカが思わず身を乗り出す。
リディアは二人ほど驚いてはいなかったものの、どこか納得したような表情を浮かべていた。
続いてカイルが口を開く。
「カイルだ。弓を使う。俺も白銀の聖剣団にいた」
「じゃあ、カイルさんも……」
「ああ」
カイルは短く答えると、ガルドへ視線を送った。
「次は俺か」
ガルドが口を開く。
「ガルドだ。見ての通り前衛だな。昔は騎士をやってた」
そこでリディアと目が合った。
「リディアとは騎士団にいた頃、顔を合わせたことがある」
「そうですね。直接お話ししたことはほとんどありませんでしたけど」
「俺も顔を覚えてるくらいだからな」
ガルドはそう言って笑った。
次はクラリスだった。
「クラリスです。私も昔、騎士団にいたことがあります。今は――」
「ちょっと待ってください、クラリスさん」
リディアが口を挟んだ。
「何?」
「それだけで済ませるんですか?」
クラリスは不思議そうな顔をする。
リディアはソフィアとスピカへ向き直った。
「クラリスさんは、ただ騎士団にいただけじゃないの。元騎士団長で、『白銀の剣姫』と呼ばれていた人よ」
「えっ!?」
「白銀の剣姫!?」
ソフィアとスピカが再び驚きの声を上げた。
二人の視線が一斉にクラリスへ集まる。
クラリスは少し困ったようにリディアを見た。
「リディア」
「はい?」
「それは昔の話よ」
「でも、クラリスさんは――」
「今はエリスの母親。それで十分」
そう言って、クラリスは隣にいるエリスの肩へ手を置いた。
「お母さん……」
エリスは少し恥ずかしそうな顔をする。
そのやり取りを横で見ていたミリアが、半分笑いながら口を開いた。
「相変わらずね、クラリス」
「何がよ?」
「何でもないわ」
ミリアは笑みを浮かべたまま、リディア達を見る。
「私はミリア。神官よ。私も昔は白銀の聖剣団にいたわ」
「ミリアさんも!?」
ソフィア達は、もう何度目か分からない驚きの声を上げた。
ルシアン。
カイル。
クラリス。
ミリア。
伝説として知られている白銀の聖剣団の四人が、この部屋に揃っている。
「なんだか、とんでもない人達と一緒にいる気がしてきました……」
スピカが呟く。
「今頃気づいたの?」
リディアが苦笑した。
続いてマリンが自己紹介する。
「私はマリン。魔法使いで、ミリアの娘です。エリスとは幼馴染です」
「よろしくお願いします」
ソフィア達が頭を下げる。
最後にエリスの番になった。
「エリスです。剣を使っています。マリンとは小さい頃からずっと一緒で、今はみんなと旅をしています」
エリスは軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
一通りエリス達の自己紹介が終わると、今度はリディア達の番になった。
「改めて、リディアです。剣士をしています」
リディアが頭を下げる。
「以前は騎士団に所属していました。今は冒険者として、この二人とパーティを組んでいます」
続いてソフィア。
「ソフィアです。私も剣士です。よろしくお願いします」
最後にスピカが笑顔を見せる。
「スピカです。魔法を担当しています。よろしくお願いします!」
これで全員の自己紹介が終わった。
そこでリディアが何かに気づいたように、ミリアへ視線を向ける。
「そういえば……」
「何?」
「自己紹介を聞く限り、私を助けてくださったのはミリアさんですか?」
リディアはモニカで重傷を負っている。
意識を取り戻した時には傷が完全に治っていた。
ミリアが神官だと知れば、そう考えるのも無理はない。
ミリアは首を横に振った。
「違うわよ」
「え?」
「あなたを治したのは私じゃないわ」
ミリアが視線を向ける。
その先にいたのはエリスだった。
「そこにいるエリスよ」
「……え?」
リディアがエリスを見る。
ソフィアとスピカも同時に振り返った。
「エリスさんが?」
「はい……」
エリスは少し困ったように頷いた。
リディアは明らかに驚いていた。
「でも、エリスさんは剣士ですよね?」
「一応、そうです」
「魔法も使えるんですか?」
今日の戦いでリディア達が見たエリスは、剣を手に邪龍へ突撃していく剣士だった。
そんな少女が、自分の重傷を完全に治したと言われても、すぐには結びつかなかったのだろう。
「それについてなんだけど」
クラリスが口を開いた。
先ほどまでとは少し違う真剣な表情で、リディア達三人を見る。
「リディア達だから信用して話すけれど、これから話すことは他では言わないでほしいの」
三人の表情も自然と引き締まった。
「分かりました」
リディアが答える。
ソフィアとスピカも頷いた。
三人の返事を確認してから、クラリスはエリスを見る。
「実は、エリスは境界の子なの」
「……境界の子?」
リディアが目を見開いた。
ソフィアとスピカも驚いた様子でエリスを見る。
「それって……」
「人と魔族、その境界に立つ存在よ」
クラリスは静かに説明する。
「リディアの傷を治したのも、普通の治癒魔法じゃない。エリスが持っている境界の子としての力を使ったの」
リディアは自分の身体へ目を落とした。
あれほどの重傷だった。
自分でも助からないかもしれないと思うほどの傷だったのに、今では痛みすら残っていない。
「だから……」
リディアはようやく納得したように呟く。
「ミリアさんの治癒魔法ではなかったんですね」
「ええ」
ミリアが頷いた。
リディアはしばらくエリスを見つめた後、深く頭を下げた。
「エリスさん」
「はい?」
「あの時は、本当にありがとうございました」
「そ、そんな……頭を上げてください」
エリスは慌てる。
相手は自分より年上だ。
そんなリディアから深々と頭を下げられ、どうしていいのか分からなくなってしまう。
「私にできることをしただけですから」
「それでも、命を救っていただいたことに変わりありません」
リディアは頭を上げ、改めてエリスを見る。
「本当にありがとうございます」
「……はい」
エリスは少し照れたように笑った。
クラリスは三人へもう一度念を押す。
「エリスが境界の子だということは、まだ広く知られたくないの」
「分かりました。誰にも話しません」
リディアは真剣な表情で答えた。
「私もです」
ソフィアも頷く。
「絶対に言いません」
スピカも続いた。
「ありがとう」
クラリスは三人へ笑みを向ける。
そして、少し間を置いてから話を続けた。
「私達が旅をしているのも、魔族の動きを抑えるためなの」
「魔族を……?」
「ええ。今回のスタンピードを見ても分かると思うけれど、魔族の動きが活発になっているわ」
リディア達の表情が険しくなる。
モニカを襲った大量の魔物。
通常の魔物とは明らかに異なるキメラ。
魔物を送り出していた謎のゲート。
そして、それを守るように現れた邪龍。
今日一日だけでも、普通では考えられないことがいくつも起きている。
「私達は、それを止めるために旅をしているの」
クラリスはそこで一度言葉を切った。
「エリスが境界の子であることを隠しているのも、そのためよ。必要以上に知られれば、魔族側にどう利用されるか分からないから」
「そうだったんですね……」
リディアがエリスを見る。
先ほどまでとは少し違う眼差しだった。
命を救ってくれた少女。
それだけではない。
自分達が知らないところで、魔族を止めるための旅を続けている。
「だから、さっきのことは本当に秘密にしておいてね」
クラリスが念を押す。
「もちろんです」
リディアは迷うことなく答えた。
ソフィアとスピカも頷いた。
話が一段落したところで、ルシアンが口を開いた。
「それと、俺達のこれからについてなんだが」
リディア達がルシアンを見る。
「明日、領主からの連絡を受けたら、俺達はモニカを出る予定だ」
「明日ですか?」
リディアが少し驚いた。
「ああ」
ルシアンが頷く。
「今回、俺達がここへ来た目的は果たしたからな」
リディアは一瞬、何のことか分からないような顔をした。
すぐに自分のことだと気づく。
エリス達がモニカへやって来たのは、重傷を負った自分を助けるためだった。
そのためにサントス王国から駆けつけ、結果としてモニカのスタンピードにも巻き込まれた。
「俺達は一度、サントス王国へ戻る」
「サントス王国へ……」
リディアが小さく呟く。
「ええ」
クラリスも頷いた。
「領主からどんな話があるかはまだ分からないけれど、それが終わったらモニカを発つつもりよ」
リディアはクラリスを見た後、エリス達へ視線を移した。
そして静かに頷いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ルシアン、カイル、クラリス、ミリア。
リディア達が改めて知ることになったのは、かつて名を馳せた『白銀の聖剣団』のメンバー達でした。
特にクラリスは簡単な自己紹介で済ませようとしましたが、かつて彼女に憧れていたリディアによって『白銀の剣姫』であり、元騎士団長だったことまで明かされることに。
そしてリディアは、自分の命を救ったのが神官のミリアではなく、剣士だと思っていたエリスだったことを知ります。
クラリスは三人を信用し、エリスが『境界の子』であること、そして自分達が魔族の動きを抑えるために旅をしていることを打ち明けました。
明日、領主からの連絡を受けた後、サントス王国へ戻る予定のエリス達。
次回は、ここから今後どうするのかについて話し合うことになります。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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