偽りの核 ― 隠された本核を射抜け ―
いつもご覧いただきありがとうございます。
今回は、クラリス達とは別の場所でキメラと戦うルシアン達。
高速で鋭い突きを繰り出すキメラを相手に、レオネリア達はその攻略法を探っていきます。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
場面は変わって、ルシアン達もキメラと相対していた。
「……こいつも随分と妙な姿をしているな」
ルシアンが目の前にいるキメラを見ながら呟いた。
その姿は、巨大なタツノオトシゴを思わせるものだった。
だが、当然ながら普通のタツノオトシゴではない。
頭部からはカジキを思わせる長く鋭い鼻のようなものが突き出している。
先端は槍の穂先のように鋭く尖り、僅かに光を反射していた。
その鋭さを見ただけでも、まともに受ければただでは済まないことが分かる。
「来るわ!」
レオネリアが剣を構えた。
その直後だった。
キメラの身体が一気に加速した。
「速い!」
ミリアが声を上げる。
キメラは長く鋭い鼻先をレオネリアへ向け、一直線に突っ込んできた。
レオネリアはギリギリまでその動きを見極める。
そして、鼻先が身体を貫こうとした瞬間。
「っ!」
地面を蹴り、横へ飛んだ。
キメラの鋭い鼻先がレオネリアのすぐ横を通り過ぎる。
しかし、レオネリアは避けるだけでは終わらなかった。
すれ違いざまに身体を捻り、剣を振り抜く。
刃がキメラの身体を斬り裂いた。
黒ずんだ体液が飛び散る。
「浅い……!」
レオネリアはすぐに距離を取った。
そこへ――。
「レオネリア、そのまま離れろ!」
カイルの声。
レオネリアが飛び退く。
直後、二本の矢がキメラへ飛んだ。
一本は頭部。
もう一本は胴体。
矢は正確に突き刺さった。
キメラの身体が僅かに揺れる。
だが、それだけだった。
「やっぱり普通の攻撃じゃ止まらないか」
カイルがすぐに次の矢を番える。
レオネリアが斬り裂いた傷も、カイルの矢が突き刺さった傷も、すでに塞がり始めていた。
「再生が速いわね」
ミリアが杖を構えながら表情を険しくする。
「これまでのキメラと同じだな」
ルシアンも杖を向ける。
「核を壊さない限り、いくら攻撃しても意味がない」
「だったら、私が見つけるわ」
レオネリアが再び前へ出た。
キメラの頭部が動く。
狙いは再びレオネリア。
鋭い鼻先が真っ直ぐ向けられた。
「来なさい!」
まるでその言葉に反応したかのように、キメラが突進する。
レオネリアは正面から向かっていった。
「レオネリア!」
ミリアが思わず叫ぶ。
だが、レオネリアは止まらない。
キメラとの距離が急速に縮まっていく。
あと数歩。
鋭い鼻先が迫る。
その瞬間。
レオネリアは身体を沈め、横へ滑り込むようにかわした。
すぐ横を鋭い鼻先が通過する。
そのままキメラの側面へ回り込む。
剣を構えながら、レオネリアはキメラの身体へ意識を集中させた。
(どこ……?)
この身体を動かしている魔力の中心。
再生の源。
これまで何度もキメラと戦ってきた。
だからこそ分かる。
必ずどこかにある。
キメラが身体を大きく捻った。
再びレオネリアへ鼻先を向けようとする。
その時だった。
「――見つけた!」
レオネリアが叫んだ。
「どこだ!」
ルシアンが聞き返す。
「首の付け根! 右側よ!」
「カイル!」
「ああ!」
カイルがすぐに狙いを定める。
弓が引き絞られる。
放たれた矢は一直線に飛び、レオネリアが示した場所へ正確に突き刺さった。
だが――。
「くそっ!」
カイルが表情を険しくした。
矢は確かに核まで届いている。
しかし、壊れない。
「やっぱり俺の矢じゃ火力が足りない!」
これまでの戦いでも同じだった。
核の位置が分かったとしても、それだけで倒せるわけではない。
キメラの核は強固だ。
カイルの矢では正確に射抜くことはできても、完全に破壊するまでには至らない。
「なら、俺がやる!」
ルシアンが杖を向ける。
「ライトバースト!」
光が走った。
カイルの矢が突き刺さっている場所へ魔法が直撃する。
爆発が起こり、キメラの身体が大きく揺れた。
しかし――。
「駄目だな」
ルシアンが舌打ちする。
核はまだ残っている。
「二人とも下がって!」
ミリアの声が響いた。
レオネリアがすぐにキメラから距離を取る。
ルシアンとカイルも射線から外れた。
ミリアの前に魔法陣が展開される。
「ホーリーランス!」
眩い光を放つ槍が出現した。
そして。
「行きなさい!」
光の槍が放たれる。
狙いは、カイルの矢が示している場所。
ホーリーランスがキメラの身体を貫いた。
次の瞬間。
――パキン!
何かが砕ける音がした。
「壊れた!」
レオネリアが声を上げる。
キメラの動きが止まった。
鋭い鼻先が力なく下がる。
「やったか?」
カイルが弓を僅かに下ろした。
だが。
「待って」
レオネリアの表情が変わった。
何かがおかしい。
これまでなら、核を破壊されたキメラは身体が崩れ始める。
しかし目の前のキメラは動きを止めただけ。
身体が消える様子がない。
その時。
「――何?」
レオネリアが目を見開いた。
今まで何の反応もなかった場所。
キメラの腹部。
そこから突然、強い魔力を感じた。
だが――。
「消えた……?」
ほんの一瞬。
魔力の反応はすぐに消えた。
次の瞬間。
ドクン――。
キメラの身体が大きく脈打つ。
「嘘でしょう……?」
ミリアが驚いたように目を見開いた。
傷ついた身体が再生していく。
そして――。
キメラが再び動き始めた。
「核は確かに壊したわ!」
レオネリアが叫ぶ。
「ああ。俺も見ていた」
カイルも頷く。
「ミリアの魔法が直撃してた。間違いなく壊れてる」
「なら、まだ別の核があるってことか?」
ルシアンがキメラを睨む。
「その可能性はあるわ」
ミリアが杖を構え直す。
「今までにも核が複数あるキメラはいたもの」
「そうだな」
ルシアンも頷いた。
その時。
再びキメラが動いた。
狙いはレオネリア。
「来る!」
鋭い鼻先が迫る。
レオネリアは身体を横へ投げ出してかわす。
すぐに起き上がり、キメラへ肉薄した。
そして再び魔力の流れを探る。
「……あった!」
「どこだ!」
「背中! 中央より少し下!」
カイルがすぐに矢を放った。
矢が背中へ突き刺さる。
「位置はそこだ!」
カイルの矢が目印となる。
「ミリア!」
「分かったわ!」
再びミリアの前に魔法陣が現れる。
「ホーリーランス!」
光の槍が放たれた。
カイルの矢が突き刺さった場所へ直撃する。
――パキン!
再び核が砕けた。
キメラの動きが止まる。
だがレオネリアは今度こそ目を逸らさなかった。
全神経をキメラの身体へ集中させる。
(さっきは腹部だった)
核を壊した直後。
ほんの一瞬だけ現れた強い魔力。
もし、あれが――。
「――いた!」
レオネリアが叫んだ。
今度は胸の奥。
強い魔力反応。またすぐに消えた。
そして少し離れた場所に、新たな核の反応が現れる。
「……そういうこと」
レオネリアが呟いた。
「何か分かったの?」
ミリアが尋ねる。
「今、また別の反応があったわ」
「別の核か?」
ルシアンが聞く。
「ええ。でも、ほんの一瞬だけ」
レオネリアは再び動き始めたキメラを見つめる。
「私達が核を壊した直後にだけ現れるの。そして、それが消れた後、別の場所に新しい核が現れた」
ルシアンが眉を寄せた。
「……待て」
何かに気づいたようにキメラを見る。
「核が移動してるんじゃない」
「どういうこと?」
ミリアが尋ねる。
「新しい核を作ってるんだ」
「作っている?」
「ああ」
ルシアンが頷く。
「俺達が壊した二つの核は、本物じゃない」
カイルもキメラを見る。
「偽物ってことか?」
「おそらくな」
ルシアンは考えながら続ける。
「本物の核は普段は動きを止めてる。だからレオネリアにも見つけられない」
レオネリアが頷く。
「確かに、戦っている最中にはあの強い反応は感じなかったわ」
「でも偽物を壊されたら、本物が動かなきゃならない」
ミリアも気づく。
「新しい偽物を作るために……」
「そういうことだ」
ルシアンが頷いた。
「そして偽の核を作ったら、また動きを止めて隠れる」
カイルが小さく息を吐く。
「面倒な仕掛けを考えやがったな」
再びキメラがレオネリアへ向かって突進する。
レオネリアはその攻撃をかわしながら叫んだ。
「でも、本物の核がある場所は分かるわ!」
「一瞬だけだろ!」
カイルが矢を放ちながら返す。
「ええ!」
矢がキメラの頭部へ突き刺さる。
僅かに軌道が逸れた。
その隙にレオネリアが距離を取る。
「それでも場所さえ分かれば壊せる!」
「問題はそこじゃない」
ルシアンが言う。
「本物の核を壊せるだけの火力が必要だ」
その言葉に全員の視線がミリアへ向いた。
「……私ね」
ミリアが苦笑する。
「ああ」
ルシアンが頷く。
「俺とカイルじゃ核を壊せない」
カイルも肩をすくめる。
「残念ながらな」
「でも、私がレオネリアの声を聞いてから魔法を放っても間に合わないわ」
「そこなんだよな」
ルシアンが考える。
本物の核が活動する時間はあまりにも短い。
レオネリアが発見する。
位置を伝える。
ミリアが狙いを定める。
魔法を放つ。
それでは確実に間に合わない。
「……もう一度やってみよう」
ルシアンが言った。
「カイル」
「なんだ?」
「次に本物の核が現れたら、お前が射て」
「俺じゃ壊せないぞ」
「壊さなくていい」
ルシアンがカイルを見る。
「本物の核が、偽装核を作っている間に動くかどうかを確認したい」
カイルが意味を理解した。
「なるほどな」
レオネリアも頷く。
「分かったわ。もう一度、偽装核を探す」
再びレオネリアが前へ出た。
キメラの突きをかわす。
鋭い鼻先が何度もレオネリアを狙う。
それでもレオネリアは冷静だった。
そして。
「見つけた! 腹部!」
ミリアが杖を向ける。
「行くわよ!」
「待って」
レオネリアが制止する。
カイルが弓を構えた。
「準備できた」
「今よ!」
「ホーリーランス!」
光の槍が偽装核を貫く。
――パキン!
核が砕けた。
キメラが止まる。
レオネリアが集中する。
そして。
「本物は右肩!」
カイルの矢が放たれた。
矢はレオネリアが示した場所へ正確に突き刺さった。
本物の核は壊れない。
しかし。
カイルは見逃さなかった。
「……ルシアン!」
「ああ!」
ルシアンも気づいた。
「動いてない!」
本物の核は、新しい偽装核を生成している間、その場所から動いていなかった。
だが次の瞬間。
新しい偽装核が生まれる。
本物の核の反応が消えた。
キメラが再生を始める。
「これならいける」
ルシアンが呟く。
「どうするの?」
ミリアが尋ねる。
「ミリア。次は俺の合図で最大火力の魔法を準備してくれ」
「でも場所が分からないわよ?」
「場所はレオネリアが見つける」
「それから狙ったら間に合わないでしょう?」
「ああ」
ルシアンは頷いた。
「だから狙ってから撃つんじゃない」
ミリアが首を傾げる。
「俺が魔法を誘導する」
「誘導?」
「お前は威力だけに集中しろ。発動した魔法の軌道は俺が変える」
ミリアが一瞬驚いたようにルシアンを見る。
そして笑った。
「そんなことできるの?」
「誰に言ってる」
ルシアンも笑う。
「元とはいえ、白銀の聖剣団の魔法使いだぞ」
カイルが苦笑した。
「失敗するなよ」
「お前に言われたくない」
「二人とも」
レオネリアが呆れたように言う。
「来るわよ!」
キメラが突進してきた。
レオネリアは再び前へ出た。
一度。
二度。
鋭い鼻先をかわす。
そして。
「偽装核を見つけたわ!」
「位置は!」
「首の下!」
「ミリア!」
「分かった!」
ミリアの周囲に巨大な魔法陣が広がる。
先ほどまでとは比べものにならないほど強い光が集まり始める。
「カイル!」
「任せろ!」
矢が放たれ、偽装核のある場所へ突き刺さる。
目印だ。
「まず偽装核を壊す!」
ルシアンが魔法を放った。
同時にミリアも通常のホーリーランスを撃ち込む。
二つの魔法が重なり、偽装核を直撃した。
――パキン!
偽装核が砕ける。
キメラの動きが止まった。
「レオネリア!」
「探してる!」
レオネリアが全神経を集中させる。
一瞬。
ほんの一瞬だけ目覚める本物の核。
「――いた!」
レオネリアが叫んだ。
「左脇腹! 少し後ろ!」
「ルシアン!」
ミリアの前で巨大な光の槍が完成する。
「撃て!」
「ホーリーランス!」
巨大な光の槍が放たれた。
そのままでは本物の核から外れている。
だが。
「こっちだ!」
ルシアンが杖を振るう。
魔法の軌道が曲がった。
光の槍が大きく弧を描く。
本物の核はまだ動いている。
新たな偽装核を作ろうとしている。
「間に合え!」
カイルも矢を放った。
矢が本物の核のある場所へ突き刺さる。
破壊するためではない。
最後まで位置を示すために。
ルシアンがその矢を見る。
「そこか!」
光の槍の軌道をさらに修正する。
そして――。
ミリアのホーリーランスが、カイルの矢が突き刺さった場所へ直撃した。
一瞬の静寂。
直後。
――パキィン!
これまでとは違い、再生も始まらない。
レオネリアがキメラを見つめる。
そして。
「……消えたわ」
剣を下ろした。
「本物の核の反応が完全に消えた」
次の瞬間。
キメラの巨体が崩れ始めた。
黒い霧のようなものが身体から立ち上る。
頭部。
鋭い鼻。
胴体。
その全てが少しずつ崩れ、霧となって消えていく。
やがて、その場には黒く濁った魔石だけが残った。
「終わったか……」
カイルがゆっくり弓を下ろす。
ミリアも小さく息を吐いた。
「本物の核を隠して、偽物の核だけで身体を動かすなんて……」
「しかも偽物を壊した時だけ本物が動く」
レオネリアが剣を収める。
「私達が核を探すことを分かっているみたいね」
「分かってるんだろうな」
ルシアンが地面に残った黒い魔石を見つめる。
「核を増やすだけじゃない。核を移動させるだけでもない」
少しだけ表情を険しくした。
「俺達が核を見つけて壊すことを前提にして、その対策をしてやがる」
カイルも黒い魔石へ視線を落とした。
「つまり、作ってる奴は俺達の戦い方を知ってるってことか」
「ああ」
ルシアンは静かに頷く。
「そして、こっちが攻略するたびに向こうも次の手を考えてくる」
ミリアが僅かに表情を曇らせる。
「厄介ね……」
「そうだな」
ルシアンは黒い魔石から視線を上げた。
今回も倒すことはできた。
だが、以前より確実に仕掛けは複雑になっている。
核を見つければいいわけではない。
核を壊せばいいわけでもない。
その裏に、本物の核を隠すところまで進化していた。
「次はもっと面倒な仕掛けを用意してくるかもしれないな」
ルシアンの言葉に、誰も否定する者はいなかった。
目の前のキメラは倒した。
だが――。
キメラを作り続けている者との戦いは、まだ終わっていなかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ルシアン達の前に現れたキメラには、これまでとは異なる核の仕掛けが施されていました。
それぞれの役割を生かした連携によって、その仕掛けを見破り、無事にキメラを撃破することができました。
そして次回は、いよいよエリス達の戦いへ。
エリス達の前に現れたキメラとの戦いを描いていきます。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、8月13日18時を予定してます




