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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第六章:王都への道 ― 新たなる星座の旅路 ―

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海魔を断つ刃 ― 魔導士の支援と白銀の一閃 ―

いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、港町モニカでのスタンピードの中、クラリス達が海洋型のキメラとの戦いに挑みます。物理攻撃が効きにくく、状態異常まで操る厄介な相手に対し、メルキオラの魔法による支援を受けながら攻略の糸口を探していきます。


それでは、第六章の続きをお楽しみください。

クラリス、リディア、ガルドの三人は、再びキメラへ向かって駆け出した。

三人の武器には、メルキオラが施したアビスソードの魔力が宿っている。

先ほどまでは、まるで水を斬っているかのように手応えがなかった。

だが、今度は違った。

キメラが無数の赤い脚を持ち上げる。

その間から、透明な触手が一斉に伸びてきた。


「来るわよ!」


クラリスが叫ぶ。

透明な触手がクラリスへ迫る。

クラリスは迷うことなく剣を振り抜いた。


ザシュッ!


今度は確かな手応えがあった。

透明な触手が途中から切断され、地面へ落ちる。


「斬れた!」


リディアも迫ってきた触手を斬り払う。

先ほどのように切断された触手が腕へ絡み付くこともない。

さらに別の触手が襲いかかってきたが、今度は身体に触れても先ほどのような強い痺れは感じなかった。

メルキオラのアビスシェルが、キメラの状態異常を防いでいる。


「これなら戦えます!」


「ええ!」


クラリスとリディアが左右へ分かれた。

正面からはガルドが大剣を構えて突っ込んでいく。


「うおおおおっ!」


巨大な赤い脚がガルドへ振り下ろされた。

ガルドは大剣を横に構え、それを正面から受け止める。

激しい衝撃が走った。


「ぐっ……!」


足元の石畳に亀裂が走る。

それでもガルドは退かなかった。


「今だ!」


その声に合わせ、クラリスとリディアが同時に踏み込む。

二人の剣がキメラの身体を切り裂いた。

今度は水を斬ったような感覚ではない。

魔力を帯びた刃が、柔らかな身体を確実に切り裂いていく。


「いける!」


クラリスはさらに剣を振るった。


一撃。

二撃。

三撃。


リディアも反対側から次々と斬り込んでいく。

キメラの巨大な身体が徐々に削られていった。

後方から戦況を見ていたメルキオラは、キメラの中心部へ意識を集中させる。

核は動いていない。

位置も変わっていない。


「もう少しです!」


メルキオラが叫ぶ。


「そのまま中心部を狙ってください!」


「分かったわ!」


クラリスが大きく踏み込んだ。

目の前の肉を大きく切り裂く。


すると――。

その奥に、黒く濁った核が見えた。


「見えた!」


クラリスは迷わなかった。

剣を両手で握り、そのまま核へ向かって突き出す。

これで終わる。

そう思った瞬間だった。

ガキィィン!


「なっ!?」


クラリスの剣が弾かれた。

核の周囲に、半透明の膜のようなものが現れていた。


「何よ、これ……!」


クラリスはもう一度斬りつける。

しかし剣は膜に阻まれ、核まで届かない。

リディアも反対側から剣を振り下ろした。

結果は同じだった。


「核を守っている……?」


後方から見ていたメルキオラの表情が険しくなる。


「お二人とも、一度離れてください!」


クラリスとリディアがすぐに後退する。

メルキオラは核を覆っている膜へ意識を集中させた。

間違いない。

ただの外殻ではない。


「魔法障壁です」


「魔法障壁?」


クラリスが聞き返す。


「はい。核そのものを魔法障壁で覆っています」


メルキオラは杖を握り締めた。


「核を増やすのでも、移動させるのでもなく……核そのものを守る方法を選んだようです」


クラリスは顔をしかめた。


「随分と面倒なことを考えるわね」


「グリムヴァルらしいやり方です」


その時だった。

キメラの身体が大きく脈打った。

ドクン――。


「……?」


ドクン――。

再び身体が脈打つ。

メルキオラが目を見開いた。


「皆さん、離れてください!」


その直後。

キメラの身体が大きく膨れ上がった。

そして――。


ブシュッ!


外側を覆っていた赤い身体が、内側から裂けた。

大量の液体が周囲へ飛び散る。

クラリス達は咄嗟に距離を取った。


「何……?」


裂けた身体の中から、何かがゆっくりと姿を現す。

それまで赤かった身体はほとんど失われていた。

代わりに現れたのは、半透明の巨大な身体。

その周囲には、先ほどまでとは比べものにならないほど多くの透明な触手が揺れている。


クラゲ。


先ほどまではタコの特徴が強かったキメラが、今度は巨大なクラゲのような姿へ変貌していた。

そして、その身体の中心。

黒い核が透けて見える。

だが、その周囲には先ほどの魔法障壁が残っていた。


「第二形態……」


メルキオラが呟く。

クラリスが剣を構え直す。


「まだ隠していたってことね」


「そのようです」


無数の触手が一斉に広がった。

次の瞬間。

クラリス達へ襲いかかる。


「散って!」


三人がそれぞれ別方向へ飛ぶ。

クラリスは迫る触手を斬り払う。

リディアも次々と触手を切断していく。

ガルドは大剣を盾代わりにして、正面から触手を受け止めた。

だが数が多すぎる。


「きりがない!」


一本斬っている間に、別の触手が迫る。

アビスシェルのおかげで麻痺こそ防げているものの、攻撃そのものがなくなったわけではない。

クラリスの身体に触手が叩き付けられた。


「くっ!」


吹き飛ばされながらも、クラリスは着地する。

リディアも徐々に押され始めていた。

メルキオラは戦場全体を見渡した。


(このままでは……)


核は見えている。

だが魔法障壁が邪魔をしている。

いくらクラリス達の剣に魔力を付与しても、障壁を破壊するまでには至らない。


ならば――。


メルキオラは核を覆う障壁だけに意識を集中させた。

魔力の流れ。

障壁を維持している術式。

その構造を一つずつ読み取っていく。

そして気付いた。


「そういうことですか……」


メルキオラが杖を構える。


「クラリスさん!」


「何!?」


「私が障壁を破壊します!」


クラリスは迫る触手を斬りながら振り返った。


「できるの!?」


「やります!」


メルキオラの周囲へ黒紫色の魔力が集まり始める。


「ただし、障壁を破壊できるのは一瞬だけです!」


それを聞いたクラリスはすぐに理解した。


「リディア!」


「はい!」


「ガルド!」


「任せろ!」


三人が動き出す。


ガルドが真正面からキメラへ突っ込んだ。


「こっちだ!」


無数の触手がガルドへ集中する。

ガルドは大剣を振り回し、迫る触手を次々と弾き飛ばしていく。

その隙にクラリスとリディアが左右へ回り込んだ。

メルキオラは杖を核へ向ける。

黒紫色の魔法陣が何重にも展開されていく。


「――アビスブレイク!」


放たれた黒紫色の光が、核を覆う魔法障壁へ直撃した。


バキッ。


小さな亀裂が走る。

さらに魔力を注ぎ込む。


バキバキバキッ!


半透明の障壁全体へ亀裂が広がった。


「今です!」


メルキオラの声と同時に、障壁が砕け散った。


「行くわよ!」


クラリスとリディアが同時に飛び込む。

二人の剣が左右からキメラの身体を切り裂いた。

交差する二本の斬撃。

巨大な身体が大きく裂ける。

核が完全に露出した。


しかし――。

あと一歩。

まだ剣が届かない。


その時。


「うおおおおおっ!」


ガルドが真正面からキメラへ体当たりした。

巨大な身体が大きく仰け反る。

核がクラリスの目の前へ現れた。


「クラリスさん、今です!」


メルキオラが叫ぶ。


「クラリス隊長!」


リディアの声も重なる。

クラリスは剣を握り直した。

迷いはない。


一歩。


強く踏み込む。

白銀の光と、アビスソードの黒紫色の魔力が刃の上で重なる。


「これで――終わりよ!」


クラリスの剣が一直線に振り抜かれた。

刃はキメラの身体を切り裂き――。

その中心にあった核を、一刀両断した。


パキィィン!


黒い核が砕け散る。

次の瞬間。

キメラの巨大な身体が崩れ始めた。

透明な触手が力を失い、地面へ落ちていく。

やがて身体全体が黒い霧へと変わり、少しずつ消えていった。


「……終わった?」


リディアが息を切らしながら呟く。

クラリスも剣を下ろした。


「みたいね」


ガルドは大きく息を吐いた。


「厄介な奴だったな……」


クラリスはメルキオラの方を見る。


「助かったわ、メルキオラ」


リディアも笑顔を向ける。


「本当にありがとうございました。メルキオラさんがいなかったら、私達だけでは……」


「いえ」


メルキオラは静かに首を横へ振った。


「私一人でも倒せませんでした」


消えていくキメラを見つめる。


「皆さんがいてくださったからです」


その時だった。

キメラの残骸の中から、ほんの僅かな黒い霧が浮かび上がった。


他の霧とは違う。


まるで意思を持っているかのように細く伸びると、そのまま空へ昇っていく。


「……?」


メルキオラだけが、それに気付いた。

杖を向ける。


しかし。

黒い霧は一瞬で消えた。


「今のは……」


クラリスが振り返る。


「どうしたの?」


「……今、キメラから妙な魔力が離れていきました」


「妙な魔力?」


「はい。キメラの残滓とは違います」


メルキオラは霧が消えた空を見つめた。

嫌な予感がする。

あれはキメラの一部ではない。

何か別のものだった。


(まさか……)


メルキオラの脳裏に、一人の魔族の姿が浮かぶ。

グリムヴァル。

もし彼が、この戦いそのものを実験として利用していたとしたら。

自分達がどう戦い。

どんな魔法を使い。

どうやってキメラを倒したのか。

その情報すら――。


「もしかすると……」


メルキオラが小さく呟く。


「私達がどのようにこのキメラを倒したのか、その情報をグリムヴァルへ送ったのかもしれません」


「戦い方を?」


クラリスの表情が険しくなる。


「確証はありません。ですが、あの魔力がただの残滓だったとは思えません」


メルキオラは杖を握り締めた。

もし推測が正しければ。


アビスシェルも。

アビスソードも。

そして、アビスブレイクで障壁を破ったことも。


すべてグリムヴァルに知られた可能性がある。


「だったら、次はこの戦い方も対策してくるかもしれないってこと?」


クラリスが尋ねる。


「……はい」


メルキオラは静かに頷いた。

キメラには勝った。

だが、これで終わったわけではない。

グリムヴァルは失敗するたびに、その結果を次へ活かしてくる。


そして次に現れるキメラは――。

今回以上に厄介な存在になっているかもしれなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は、クラリス達と海洋型キメラとの戦いを描きました。メルキオラのアビスシェルやアビスソードによる支援、そしてクラリス、リディア、ガルドの連携によって、グリムヴァルが仕掛けた新たな能力を持つキメラを撃破することができました。


しかし、最後にキメラから離れていった謎の魔力。もしメルキオラの推測通り、今回の戦闘の情報がグリムヴァルへ送られていたとすれば、今後現れるキメラはさらに厄介な存在となるかもしれません。


そして次回は、同じくモニカでスタンピードに立ち向かっているルシアン達の戦いへと移ります。彼らの前にはどのような魔物が待ち受けているのでしょうか。


次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。

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次回の更新は、8月12日18時を予定してます

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