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魔族の女王が転生したら聖女になっていた  作者: 白神 エル
第二章:運命の導き ― 新たな歩みの始まり ―

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朝の親子の会話

目を覚ますと、いつもと変わらない朝だった。

窓から差し込む光。

遠くで聞こえる鳥の声。


昨夜の出来事が夢だったようにも思える。

けれど、違うと分かっていた。

ひとつだけ、確かに変わったことがある。


——母の過去を知ったこと。


それは、今まで見ていた世界の色を少しだけ変えていた。


朝食の時間は、いつも通り穏やかだった。


エノクは変わらぬ調子で教会の予定を話し、

クラリスは静かにそれを聞いている。


エリスも普通に振る舞った。

だが胸の奥には、言葉にならない感情が残っていた。

何かを聞きたい。


でも、今ではない気がした。


やがて朝食が終わり、

エノクは教会へ向かった。


扉が閉まる音がして、家の中に静けさが戻る。

エリスは皿を手に取り、洗い場へ運んだ。

水の音が、静かに流れる。

挿絵(By みてみん)


「……ねえ」


思い切って声をかける。

クラリスは振り返り、柔らかく微笑んだ。


「なに?」


エリスは少しだけ言葉を探した。


「昨日の話……本当なの?」


冒険者だったこと。

剣を持っていたこと。

今の母からは想像できない過去。


クラリスは、少しだけ驚いたように目を細めた。

そして、ゆっくりと頷く。


「ええ、本当よ」


その答えは、あまりにも自然だった。


「どうして……話してくれなかったの?」


水の音が止まる。


クラリスはしばらく黙っていた。


「……必要がなかったから」


そう言った。


「あの頃の私は、今の私とは違うもの

 でも、どちらも私なの」


その言葉に、エリスは小さく息を呑む。

人は変わる。

道も変わる。


それでも、自分であり続ける。


「怖くなかったの?」


エリスの問いに、クラリスは少し笑った。


「怖かったわ

 でもね、怖くても進むしかない時があるの」


その言葉は、静かに心に残った。


エリスは再び皿を洗い始める。

水の流れを見つめながら、ぼんやりと思う。


(……私も、いつか)


同じように進む日が来るのだろうか。

エリスは再び皿を洗い始める。


水の流れを見つめながら、ぼんやりと思う。


(……私も、いつか)


同じように進む日が来るのだろうか。


皿を拭きながら、エリスはふと思った。

冒険者。


その言葉から連想されるのは、

いつも一人ではない姿だった。


「……ねえ」


再び声をかける。

クラリスは振り返り、微笑んだ。


「なに?」


「冒険者って……一人でやってたの?」


少しだけ考えたあと、クラリスは首を振る。


「いいえ

 四人でパーティを組んでいたわ」


エリスの目が少しだけ輝く。


「仲間がいたの?」


クラリスは遠くを見るような表情になった。


「ええ

 とても……大切な仲間たちだった」


少しの沈黙。


そして、静かに名前を口にする。


「魔導士のルシアン

 理屈っぽくて、いつも本ばかり読んでいた男の人

 でも、誰よりも冷静で頼りになった

 ……時々、彼は人より“世界”を見ていた

 私にとっては兄の様な存在だった」


「神官のミリア

 優しくて、でも芯が強かった

 何度も命を救われたわ

 それに、同じ女性だったので

 相談にもよくのってもらった

 思い返してみると命だけじゃなく

 私は心も彼女に救われたのかも」


「弓使いのカイル

 口数は少なかったけれど……

 一番仲間思いだった

 私にとっては弟みたいな存在だった

 ……あの頃の私が笑えていたのは

 きっと彼がいたから」


クラリスは、少しだけ笑った。


「そして、剣士が私」


エリスはしばらく言葉を失っていた。


今目の前にいる母が、

かつてそんな世界に生きていたことが信じられない。


「……今は、どうしてるの?」


エリスの問いに、クラリスはすぐには答えなかった。

ほんの少しだけ、目を伏せる。


「……それぞれの道を歩いているわ」


その言葉には、語られない何かが含まれていた。

別れ。

時の流れ。


もしかすると——


もう二度と会えない者もいるのかもしれない。


「でもね」


クラリスは顔を上げる。


「あの時間があったから、今の私があるの」


その声は穏やかだった。

エリスは静かに頷いた。

仲間。

共に戦い、共に生きる存在。

それはまだ、想像の中の世界だった。


だが。


胸の奥で、何かが微かに動いた気がした。


「神官のミリア……?」


エリスはその名前を口の中で繰り返した。

どこかで聞いたことがある。

つい最近ではない。


もっと昔から、日常の中にあった名前。


(……あれ)


ふと、ひとつの記憶が浮かぶ。


「ねえ」


少しだけ戸惑いながら、クラリスを見る。


「それって……」


「マリンのお母さんと同じ名前だよね?」


その瞬間。

クラリスの動きが、わずかに止まった。

ほんの一瞬。

だが、確かに止まった。

エリスはそれを見逃さなかった。


「……そうなの?」


静かに問いかける。

クラリスはすぐには答えなかった。

視線を落とし、少しだけ息を整える。


「……ええ」


やがて、小さく頷いた。


「同じ人よ」


エリスの胸が大きく鳴る。

日常だと思っていた世界が、

突然、別の意味を持ち始める。


「じゃあ……マリンは」


言葉が続かない。

クラリスは静かに微笑んだ。


「そう

 あの子は、私の仲間の娘」


その事実は、驚くほど静かに告げられた。

まるで、ずっとそこにあった真実のように。


「……どうして今まで」


エリスの問いは、途中で止まる。

理由は分かる気がした。


過去は過去。

日常は日常。

混ぜるべきではないと考えていたのだろう。


「必要がなかったから」


クラリスは、昨日と同じ言葉を口にした。


「でも、今は違う」


その声は、どこか覚悟を含んでいた。

エリスは静かに頷く。


マリン。


ただの友達だと思っていた存在が、

突然、物語の中の人物のように感じられた。

世界は思っていたより、深くつながっているのかもしれない。


マリンは、エリスにとって、ただの幼なじみだった。


小さな頃から一緒に遊び、

同じ景色を見て育ってきた。


それだけの関係だと思っていた。

だが今は違う。


母たちは、かつて共に戦っていた。

命を預け合うほどの仲間だった。


(……マリンは知ってるのかな)


ふと、そんな疑問が浮かぶ。

すぐに胸の奥がざわめいた。

知らないのではないか。

自分と同じように。


「……会いたい」


気づけば、そう呟いていた。

理由ははっきりしない。


ただ、今すぐ顔を見たくなった。

それは衝動だった。

エリスは手早く家事を片付ける。


皿を拭き、掃除を終え、

いつもより少しだけ慌ただしく動いた。


「お母さん」


クラリスに声をかける。


「ちょっと用事があって出かけてくるね」


クラリスはすぐに事情を聞こうとはしなかった。

ただ、優しく頷く。


「気をつけてね」


その言葉が、背中を押した。

家を出ると、朝の空気がまだ柔らかかった。

町はいつもと変わらない。


人々の声。

子どもたちの笑い声。

すべてが日常のまま。


だがエリスの心だけが、少し違っていた。

足は自然と早くなる。

理由は分からない。

けれど、この先に何かがある気がした。


——運命に導かれるように。


エリスはマリンの家へと向かった。


マリンの家に着くと、エリスはドアをノックした。

家の中から、聞き慣れた声が返って来た。


マリンだった

すぐにドアが開き、マリンが顔を出した。


「おはよう」


と笑顔のマリンから声をかけられると

少し間をおいて挨拶を返して、続けてエリスはマリンを誘った。


「おはよう。

 ちょっと話があるんだけど

 ここだと話しづらいから

 いつもの場所に行かない?」


いつもの調子だった。

だが、どこか違う。

マリンはそれを感じ取っていた。


「……うん」


特に理由を聞くこともなく、家を出る。

二人は並んで歩き始めた。

向かう先は自然と決まっていた。


町の中心にある、噴水の広場。

何度も来た場所。

子どもの頃から、数えきれないほど座ったベンチ。


だが今日の空気は、どこか重かった。

エリスはほとんど話さなかった。

足音だけが、静かに石畳に響く。


マリンは何度か口を開きかけたが、やめた。

聞いてはいけない気がした。


それよりも。


胸の奥に、嫌な予感が広がっていく。


(何かが変わる)


理由は分からない。

だが、そう感じた。

やがて広場に着く。


水音が、いつも通り響いていた。

人々の声も、子どもたちの笑い声もある。

世界は何も変わっていない。

変わっているのは、自分たちだけのようだった。


空いているベンチを見つけ、二人は並んで腰を下ろす。

噴水の水が、陽の光を受けてきらめいている。

エリスはしばらくその光を見つめていた。


言葉を探している。

どう伝えればいいのか分からない。


「……ねえ」


やがて、静かに口を開いた。

マリンは何も言わずに待つ。

その横顔には、不安と覚悟が混じっていた。


「マリンのお母さんって……」


そこで一度、言葉が止まる。

この先を言えば、

もう元には戻れない気がした。


それでも。

エリスは続ける。


「昔、冒険者だったって知ってる?」


最後まで読んで頂きありがとうございます

次回の更新は4月2日18時を予定してます

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