聖女、戦場へ ― 港町へ繋がる希望の光 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、メルキオラからの救援要請を受けたエリス達が、転移魔法陣を使って帝国の港町モニカへ向かいます。そして、重傷を負ったリディアとの思いがけない再会も描かれます。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
場面は変わり、ミネアヴィレッジ。
今日もエリスは教会で村人達の治療を続けていた。
今、目の前に座っているのは十歳ほどの少年だった。
魔物に襲われた際、左手首から先を失ってしまったという。
少年は不安そうな表情でエリスを見つめる。
エリスは優しく微笑むと、失われた左腕へそっと手をかざした。
「……戻って。」
淡い聖なる光が少年の左腕を包み込む。
すると、何もなかった手首の先から少しずつ腕が形作られ、やがて指先まで完全に再生した。
「……!」
その場にいた人々から驚きの声が上がる。
少年は恐る恐る左手を動かした。
思いどおりに動く。
握ったり開いたりを何度も繰り返し、やがて涙を流し始めた。
「ありがとう……ございます……!」
泣きながら何度も頭を下げる。
声にならないほど感極まっていたが、その感謝の気持ちは十分に伝わってきた。
その時だった。
ピピッ――。
エリスの持つ通信機が鳴り響く。
「メルキオラ?」
応答すると、通信の向こうから切羽詰まった声が聞こえてきた。
『エルシア様!』
あまりにも焦った様子に、エリスは話の内容より先に声を掛ける。
「落ち着いて。何があったの?」
メルキオラは一度深呼吸すると、事情を説明し始めた。
一緒に行動している冒険者が重傷を負い、命が危険な状態であること。
さらに港町モニカではスタンピードが発生し、多くの人々が襲われていること。
『どうか……治療をお願いいたします。』
「分かった。」
エリスは迷うことなく頷く。
「でも、どうやってそちらへ向かえばいいの?」
『馬車に設置してある転移魔法陣のところまで来てください。こちらで転移魔法陣を起動し、エルシア様達をお呼びします。』
「分かったわ。すぐ向かう。」
通信を終えると、エリスはポーラへ向き直った。
「申し訳ありません。緊急事態が発生しました。
今日の治療はここまでにさせてください。また必ず伺います。」
ポーラは真剣な表情で頷く。
「承知いたしました。余程のことなのでしょう。こちらのことはお任せください。」
「ありがとうございます。」
エリスはすぐに通信機を取り出し、クラリスへ連絡を入れた。
「お母さん、緊急事態なの。全員ですぐ馬車の転移魔法陣まで来て!」
『分かった。すぐ向かう。』
短く返事が返ってくる。
「ミリアさん、行きましょう!」
「ええ!」
二人は教会を飛び出し、全力で馬車を停めてある場所へ駆け出した。
エリス達が馬車へ到着すると、すでにクラリス達五人は揃って待っていた。
「エリス!」
クラリスが声を掛ける。
エリスは息を整えると、すぐに状況を説明した。
「帝国の港町モニカでスタンピードが発生したの。
レオネリアとメルキオラは、今その街で戦っているみたい。
それと、一緒に行動していた冒険者の人が重傷で、命が危ない状態なんだって。」
全員の表情が一変する。
「メルキオラが転移魔法陣を起動してくれるから、これから向かうよ。」
エリスの言葉に、全員が静かに頷いた。
するとルシアンが前へ出る。
「現地へ着いたら、エリスとミリアは負傷者の治療を最優先。
残りは街を襲っている魔物の迎撃に当たる。
異論はあるか?」
誰一人として口を開かなかった。
「よし。それで行こう。」
エリスは通信機を取り出し、メルキオラへ連絡を入れる。
「メルキオラ、全員揃ったよ。」
『ありがとうございます。』
『それでは、転移魔法陣へ全員乗ってください。』
「みんな、乗って!」
七人は馬車に設置された転移魔法陣の上へ並んで立った。
「乗ったよ。」
エリスが伝えると、通信機の向こうからメルキオラの声が返ってくる。
『それでは、転移を開始します。』
次の瞬間。
転移魔法陣が眩い光を放ち始めた。
光は七人を包み込み、その姿はゆっくりと掻き消えていく。
そして一瞬後――。
七人はモニカ近郊に停められた、レオネリア達の馬車の転移魔法陣の上へ姿を現した。
エリス達は馬車から降りると、すぐ目の前に一人の女性が血を流して横たわっている姿が目に入った。
その傍らでは、メルキオラが必死に治療を続けている。
その女性の顔を見た瞬間だった。
「……リディア?」
クラリスは思わず声を漏らした。
信じられないという表情のまま駆け寄る。
「リディア! どうしてあなたがこんなことに……!」
その様子を見たメルキオラは目を見開く。
「クラリス様、お知り合いだったのですね。」
「ええ。」
クラリスは小さく頷く。
「騎士団時代の部下よ。」
その言葉を聞き、メルキオラも納得したように頷いた。
エリスはすぐにリディアの傍へ膝をつく。
「治って。」
背中へそっと手を添える。
次の瞬間。
淡い聖なる光がリディアの身体を優しく包み込んだ。
深く裂けていた背中の傷は、みるみる塞がっていく。
やがて光が消えると、リディアはゆっくりと瞳を開いた。
「……ここは。」
ぼやけた視界の先に、一人の女性が映る。
「クラリス……さん?」
「リディア!」
クラリスは安堵したように微笑み、そのまま強く抱き締めた。
「無事で、本当によかった……。」
リディアはまだ状況を理解できずにいたが、憧れ続けた騎士の温もりを感じ、自然と涙が溢れてきた。
一方その頃。
ルシアン達はレオネリアから現在の状況を聞いていた。
「街では今もスタンピードが続いています。」
「分かった。」
ルシアンは静かに頷く。
すると立ち上がったリディアが口を開く。
「私も一緒に行きます。」
「待て。」
ルシアンが制止した。
「君は重傷だったんだ。治ったばかりだろう。」
しかし、リディアは首を横に振る。
「エリスさんのおかげでもう痛みもありません。」
そう言って身体を軽く動かして見せる。
「それに、街のみんなが戦っているのに、私だけ休んでいるわけにはいきません。」
ルシアンはリディアを見つめる。
その表情には迷いはなかった。
今度はエリスを見る。
「エリス、どうだ?」
「うん。傷は完全に治ってるよ。」
エリスが頷く。
「無理をしなければ問題ないと思う。」
その言葉を聞き、ルシアンも頷いた。
「分かった。
なら、リディアも来てくれ。」
そして隣にいた子供へ優しく声を掛ける。
「ここは安全だ。
防護結界からは出ないようにね。
もう大丈夫だから。」
子供は小さく頷いた。
「うん……。」
「それじゃあ、行こう。」
ルシアンがそう言って駆け出そうとした、その時だった。
「お待ちください。」
メルキオラが全員を呼び止める。
「どうした?」
ルシアンが振り返る。
「急いで街へ向かうのであれば、転移した方が早いです。」
そう言うと、メルキオラはリディア達の腕に視線を向けた。
「先ほどお渡ししたブレスレットですが、所有者の位置を把握する機能も備えています。
現在、ソフィア様とスピカ様は街で戦闘中です。
その近くまで皆様を転移させることができます。」
「そんなことまで……。」
リディアは思わず苦笑する。
メルキオラは少し照れくさそうに微笑んだ。
「ですので、私の近くへ集まってください。」
全員がメルキオラの周りへ集まる。
メルキオラは静かに魔力を練り上げた。
「転移。」
足元に魔法陣が展開される。
眩い光が一行を包み込んだ。
次の瞬間――。
十人は一瞬でモニカの街中へ姿を現した。
そこでは、ソフィアとスピカが必死に魔物と戦っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、ミネアヴィレッジからモニカへの緊急救援と、リディアを救う場面を描きました。クラリスとリディアの意外な繋がりも明らかになり、これからの二人の関係にも少し注目していただければ嬉しいです。
そして、いよいよ次回から港町モニカでのスタンピードとの本格的な戦いが始まります。エリス達がどのように街を守り、この危機を乗り越えていくのか、ぜひご期待ください。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、8月10日18時を予定してます




