驚きは終わらない ― メルキオラの秘密の魔道具 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、メルキオラが完成させた魔道具の隠された機能が次々と明らかになります。リディア達の驚きにもぜひご注目ください。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
リディア達は、メルキオラから受け取ったブレスレットを見つめた。
しばらく沈黙が続いた後、リディアがゆっくりと口を開く。
「……これは、さすがにこのまま頂くわけにはいきません。」
「どうかなさいましたか?」
メルキオラが首を傾げる。
「このブレスレット、転移の魔道具なんでしょう?
こんなもの、国宝級と言ってもいい代物よ。
そんな物を、ただで受け取るなんて私達にはできないわ。」
ソフィアとスピカも何度も頷いた。
しかし、メルキオラは穏やかに微笑む。
「こちらは、防護結界の魔道具に追加した機能です。
私とレオネリアも同じものを使っていますし、製作する手間もそれほど変わりません。
ですから、追加で代金を頂くつもりはありません。」
だが、リディアは首を横に振った。
「そういう問題じゃないの。
私達は、防護結界の魔道具をお願いしただけ。
こんな機能まで付いているなんて聞いていないわ。
少なくとも、今までお支払いした対価では全然足りていない。」
リディアは真っ直ぐメルキオラを見つめる。
「私もこれでもAランク冒険者よ。
受けた恩を、そのままにしておくことはできないわ。」
お互いに譲ろうとしない。
その様子を見ていたレオネリアは、小さく苦笑した。
「それでは、こういうのはいかがでしょう。」
全員の視線がレオネリアへ集まる。
「アルカンダダンジョンへ向かうまでの間、私達二人の宿代だけ負担していただくということで。
もちろん、食事代は結構です。
宿代だけで十分ですよ。」
三人は顔を見合わせる。
「……それでも、この魔道具の価値を考えたら安すぎる気もするけど。」
リディアは苦笑しながら言った。
「でも、それくらいなら私達も納得できます。」
「ええ。」
「私も賛成です。」
ソフィアとスピカも頷いた。
「では、その条件でお願いします。」
メルキオラもようやく微笑む。
「ありがとうございます。」
こうして、ブレスレットの対価についても無事に話がまとまった。
魔道具の性能確認も終えた一行は、昼食を済ませると再び馬車へ乗り込む。
レオネリアが手綱を握り、メルキオラが周囲を警戒する。
やがて日が傾き始め、一行は野営の準備をすることになった。
「それじゃあ、この辺りにしましょう。」
リディアはメルキオラから受け取った魔道具を取り出す。
青いボタンを押すと、魔法陣が展開され、透明な防護壁が周囲を包み込んだ。
やがて防護壁は巨大な岩へと擬態し、外からは野営地があることなど全く分からない。
「これで展開完了です。」
五人は防護壁の中へ入ると、それぞれテントを張り始めた。
ほどなくして野営の準備は整う。
「じゃあ、夕飯の準備を始めようか。」
リディア達三人が薪を並べ、火を起こそうとした、その時だった。
「少々お待ちいただけますか。」
メルキオラが悪戯っぽく笑う。
「えっ?」
三人が振り返る。
「先ほどお渡しした魔道具を、もう一度出してください。」
リディアは言われるまま小箱を取り出した。
「今度は、この赤いボタンを押してみてください。」
「こう?」
カチッ。
ボタンを押した瞬間だった。
防護壁の内側へ新たな魔法陣が浮かび上がる。
次の瞬間。
シンク。
コンロ。
そして周囲を優しく照らす照明まで現れた。
「「「えぇっ!?」」」
リディア達は思わず声を揃える。
「まだ仕掛けがあったの!?」
スピカは目を丸くした。
メルキオラは満足そうに頷く。
「こちらへ水の魔道具を設置していただければ、このシンクで食器や食材を洗えます。
さらに、このコンロを使えば薪や焚き火を用意しなくても調理ができます。
煙も出ませんので、夜でも安心ですよ。」
説明を聞き終えた三人は、顔を見合わせた。
「もう……驚くのも疲れてきたわ。」
リディアが苦笑すると、ソフィアとスピカも大きく頷く。
その反応を見たメルキオラは、どこか満足そうだった。
「こちらは私からのプレゼントです。
これからしばらく一緒に旅をする皆様に、少しでも快適に過ごしていただければと思いまして。」
リディア達は顔を見合わせると、改めて深く頭を下げた。
「本当にありがとう。
大切に使わせてもらうわ。」
三人は早速シンクとコンロを使い始め、その便利さに感心しながら夕食の準備を進めるのだった。
食事が出来上がると、五人は揃って夕食を食べ始めた。
料理を味わいながらも、スピカの興味は魔道具へ向いている。
「ねえ、メルキオラさん。
さっき出てきたシンクやコンロって、どういう仕組みなんですか?
本当に魔道具の中に入っていたんですか?」
次から次へと質問が飛んでくる。
さすがに異空間の存在を話すわけにはいかない。
メルキオラは少し考えると、穏やかに微笑んだ。
「特殊な魔法で小さく格納していた物を、元の大きさへ戻しているだけですよ。」
「なるほど……。」
スピカは完全には理解できていない様子だったが、とりあえず納得したように頷いた。
食事を終え、五人がお茶を飲みながら一息ついていると、日もすっかり暮れ始めた。
山間から吹き込む風は少しずつ冷たさを増していく。
「少し冷えてきたわね。」
リディアが肩をさする。
「やっぱり焚き火を――」
そう言い掛けた時だった。
「あっ。」
メルキオラが何かを思い出したように声を上げる。
「申し訳ありません。もう一つ説明を忘れていました。」
そう言うと、小箱を指差した。
「黄色いボタンを押していただけますか。」
「まだあるの?」
リディアは苦笑しながら黄色いボタンを押す。
すると、新たな魔法陣が浮かび上がり、白い箱のような物が姿を現した。
箱の前面には細長い吹き出し口が付いている。
「これは……?」
三人は首を傾げた。
メルキオラは満足そうに頷く。
「空調機です。
こちらのスイッチを押してください。」
リディアが言われた通りに押すと、吹き出し口から暖かな風が流れ始めた。
「暖かい……!」
スピカが思わず声を上げる。
「この空調機は、防護壁の内部を設定した温度に保ってくれます。
寒い時は暖め、暑い時は冷やしてくれますので、一年中快適に過ごせます。
もちろん、こちらも私からのプレゼントです。」
その説明を聞いたリディア達は、しばらく無言だった。
やがてリディアが苦笑する。
「もう……驚くのはやめたわ。
ここまで来ると、呆れるしかないもの。」
ソフィアも苦笑しながら肩をすくめる。
「本当に、どこまで便利になるのよ。」
「私も同じ気持ちです。」
スピカは何度も頷いた。
三人の反応を見て、メルキオラは満足そうに微笑む。
人を驚かせることが好きな彼女にとって、これ以上ない褒め言葉だった。
暖かな風が防護壁の中を優しく包み込み、五人は心地よい夜のひとときを過ごすのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、防護結界の魔道具に隠された機能を次々とお披露目するお話でした。シンクやコンロ、空調機能まで備えたシェルターに、リディア達も驚きを隠せませんでした。仲間のことを考え、より快適で安全な旅ができるよう工夫を凝らすメルキオラらしさが伝わる回になったのではないかと思います。
次回は舞台を帝国の海沿いへ移します。アルカンダダンジョンを目指す旅の途中、新たな景色と出来事が五人を待ち受けています。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、8月6日18時を予定してます




