魔道具が繋ぐ信頼 ― 驚きの力と新たな旅路 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、メルキオラが完成させた魔道具をリディア達へ渡すお話です。その性能に驚く彼女達の反応にもご注目ください。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
翌朝。
目を覚ましたレオネリアとメルキオラは、異空間から宿『明星亭』の部屋へ戻った。
ベッドには昨夜置いておいた偽装用の人形がそのまま残っている。
二人はそれを片付けると、身支度を整え、一階の食堂へ向かった。
まだリディア達は来ていない。
「こちらに座りましょう。」
「ええ。」
後から五人で座れるよう少し広めの席を選び、二人は腰を下ろした。
明星亭の朝食は、好きな料理を自由に取るビュッフェ形式になっている。
レオネリアとメルキオラも、人族の食事にはすっかり慣れてきていた。
そのため、それぞれ好みもはっきりしてきている。
レオネリアのお気に入りは、香ばしく焼かれたベーコン。
メルキオラは、肉汁たっぷりのソーセージがお気に入りだった。
二人はパンやサラダ、スープと一緒にそれぞれ好みの料理を皿へ盛り付け、席へ戻る。
「このベーコン、本当に美味しいわね。」
「ええ。このソーセージも香辛料の使い方が絶妙です。」
そんな話をしながら朝食を楽しんでいると、食堂へリディア達が姿を現した。
「おはよう。」
「おはようございます。」
互いに朝の挨拶を交わすと、リディア達も料理を取りに向かう。
しばらくして全員が席に揃うと、今日の予定を確認し始めた。
「朝食を食べたら身支度を整えて、すぐに出発しましょう。」
リディアの言葉に全員が頷く。
すると、メルキオラが口を開いた。
「そういえば、ご依頼いただいていた魔道具ですが」
三人の視線が一斉に集まる。
「すでに完成しております。後ほどお渡ししますね。」
「えっ、もう!?」
リディア達は揃って目を丸くした。
「一晩で完成したの?」
ソフィアが驚いた声を上げる。
「はい。魔石の質が非常に良かったので、予定より早く仕上がりました。」
その言葉に、リディアは思わず笑みを浮かべる。
「それは楽しみね。」
「どんな魔道具になったのか、早く見てみたい!」
スピカも期待に胸を膨らませていた。
朝食を食べ終えると、それぞれ部屋へ戻って旅支度を整えることにした。
「それじゃあ、三十分後に受付前で集合ね。」
「「「「了解。」」」」
こうして五人は、一旦それぞれの部屋へ戻っていった。
部屋へ戻ると、それぞれ旅支度を始めた。
リディア達は荷物をまとめると、そのまま受付へ向かう。
一方、レオネリアとメルキオラは必要な荷物はすべて異空間に収納しているため、特に持ち出す物はなかった。
メルキオラは異空間から旅人用に偽装した鞄を二つ取り出す。
二人はそれを肩に掛けると、受付へ向かった。
受付前には、すでにリディア達が待っていた。
「それじゃあ、行きましょう。」
五人は宿を後にし、馬車を預けていた場所へ向かう。
昨日と同じように、レオネリアとメルキオラは御者台へ座り、リディア達三人は馬車の中へ乗り込んだ。
「出発します。」
馬車はゆっくりと動き出し、アルカンダダンジョンへ向けて街を後にする。
しばらく進むと、道は深い森の中へ続いていた。
レオネリアとメルキオラは周囲を警戒しながら馬車を走らせる。
その時だった。
「……来ます。」
メルキオラが小さく呟く。
「数は十体ほどです。魔力の気配からすると……トレントでしょう。」
その言葉を聞いたリディアが立ち上がった。
「今度は私達に任せてもらえませんか?
お二人ほどの実力はありません。でも、何もせず守られているだけでは申し訳ないです。せめて魔物の討伐くらいは手伝わせてください。」
レオネリアはメルキオラへ視線を向ける。
メルキオラは静かに頷いた。
「では、お願いします。」
「ありがとうございます!」
リディアは笑顔になると、ソフィア、スピカと視線を交わした。
次の瞬間、三人は脱兎の如く馬車から飛び出した。
森の奥から姿を現した十体のトレントが、一斉に枝を振り上げる。
しかし、その攻撃が届くことはなかった。
「はあっ!」
リディアの剣が閃く。
鋭い斬撃は迷いなくトレントを切り裂き、一刀のもとに両断した。
「ファイヤーボール!」
続いてスピカが放った炎の球がトレントへ命中する。
乾いた樹木の身体は瞬く間に燃え上がり、そのまま灰となって崩れ落ちた。
一方、ソフィアは派手な戦い方ではない。
しかし、一撃一撃が正確だった。
枝の付け根や節を的確に断ち、確実にトレントの動きを封じながら討ち倒していく。
三人の連携は見事だった。
その様子を見守っていたレオネリアは、ふとリディアの剣筋に目を奪われる。
(……どこかで見たことがある。)
無駄のない踏み込み。
迷いのない太刀筋。
どこか懐かしさを覚える剣技だった。
(騎士団にいたと言っていたわね。同じ流派なのかしら……。)
そう思う一方で、それ以上深く考えることはなかった。
王国騎士団で同じ剣術を学んでいたのなら、不思議ではないからだ。
やがて最後の一体も倒れ、リディア達は馬車へ戻ってきた。
「お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
レオネリアとメルキオラは笑顔で三人を迎える。
「ちょうどお昼ですし、この辺りで休憩にしましょう。」
リディアの提案に全員が頷いた。
馬車を道端へ止め、それぞれ昼食の準備を始める。
リディア達が食事の準備をしていると、メルキオラは肩から提げていた鞄を膝の上へ置いた。
鞄の中へ手を入れる。
外から見れば荷物を探しているようにしか見えない。
しかし、その手は鞄の中で異空間へと繋がっていた。
メルキオラは小箱を取り出すと、リディア達の前へ静かに置いた。
「こちらが、ご依頼いただいていた魔道具です。」
「本当に完成したのね。」
リディアは嬉しそうに小箱へ視線を向けた。
「明るいうちに一度お渡ししておこうと思いまして。実際に使いながら説明いたします。」
そう言って、メルキオラは小箱の蓋をゆっくりと開いた。
中には、青や緑の小さなボタンが埋め込まれた魔道具が収められていた。
「まずは展開してみます。」
メルキオラはリディアへ視線を向ける。
「リディア様、この青いボタンを押していただけますか。」
「分かったわ。」
リディアは迷うことなく青いボタンを押した。
次の瞬間、小箱から淡い光が溢れ、一枚の魔法陣が地面へ広がる。
魔法陣は瞬く間に透明な防護壁を展開した。
しかし、それだけでは終わらない。
透き通っていた防護壁の表面がゆっくりと色を変え、周囲の景色へ溶け込むように変化していく。
やがて巨大な岩がそこにあるかのような姿へ擬態した。
「これで展開は完了です。」
リディア達は驚いたように擬態した防護壁を見つめていた。
「すごい……。」
ソフィアが思わず声を漏らす。
メルキオラは微笑みながら説明を続ける。
「続いて、この防護壁へ入れる方の登録を行います。」
そう言うと、今度は緑色のボタンを指差した。
「リディア様、こちらの緑のボタンを押してください。」
リディアが押すと、岩へ擬態した防護壁の一部が淡く光り始める。
「光っている部分へ手を触れてください。光が消えれば登録完了です。」
「こうかしら?」
リディアが手を当てると、数秒後には光が消えた。
「はい。これで登録完了です。」
続いてソフィア、スピカも同じ手順で登録を済ませる。
全員の登録が終わると、リディアは振り返った。
「メルキオラさんとレオネリアさんも、どうぞ登録してください。」
「私達も登録してしまってよろしいのですか?」
メルキオラが確認すると、リディアは笑顔で頷く。
「もちろんです。しばらくは一緒に行動するんですもの。それに、お二人ならいつでも大歓迎です。」
その言葉に、メルキオラとレオネリアは顔を見合わせる。
「ふふっ。」
「そこまで信頼していただけるなんて。」
二人は小さく苦笑すると、防護壁へ近付き、それぞれ手を当てて登録を済ませた。
「これで五名全員の登録が完了しました。」
すると、メルキオラは不敵な笑みを浮かべた。
(さて……ここからが本番ですね。)
人を驚かせることが大好きな彼女にとって、この瞬間は密かな楽しみでもあった。
メルキオラは肩から提げていた鞄へ手を入れる。
外から見れば荷物を探しているようにしか見えない。
しかし、その手は異空間へと繋がっていた。
取り出したのは、銀色に輝くブレスレットが三つ。
「こちらも今回ご用意した魔道具です。」
そう言って、リディア達へ手渡した。
三人は不思議そうにブレスレットを見つめる。
「これは少々特別な魔道具です。
緊急時以外は、なるべく人前では使用しないでください。」
その一言に、リディア達は顔を見合わせる。
「どうして?」
ソフィアが首を傾げる。
「まずは身に着けてください。」
三人がブレスレットを腕へ着けると、淡い光が一瞬だけ走った。
「これで所有者登録は完了です。以後、このブレスレットは登録した本人以外は使用できません。」
「それで、この魔道具の効果は?」
リディアが尋ねる。
メルキオラは満面の笑みを浮かべた。
「このブレスレットは――転移の魔道具です。」
「えっ!?」
真っ先に声を上げたのはスピカだった。
「転移……ですって?」
三人は言葉を失う。
転移魔法。
それは伝説として語られることはあっても、実際に存在すると証明されたことはほとんどない。
ましてや、それを魔道具として誰でも使えるようにしたなど、聞いたこともない。
もし世に知れ渡れば、国宝どころか国家が奪い合うほどの価値を持つ代物だった。
それをメルキオラは、まるで日用品でも渡すかのように平然と差し出している。
「ブレスレットへ魔力を流し、このシェルターを思い浮かべてください。
そうすると、先ほど展開した防護壁の中へ瞬時に転移できます。
さらに、所有者が重傷を負って意識を失った場合でも、自動的にこのシェルターへ転移するよう設定してあります。」
「「「…………。」」」
三人は驚きのあまり言葉が出なかった。
その反応を見たメルキオラは、満足そうに微笑む。
「ふふっ。」
やはり驚いてもらえた。
それだけで彼女は十分満足だった。
「試してみてもいいですか?」
スピカが待ちきれない様子で尋ねる。
「もちろんです。」
三人はシェルターの外へ出る。
そしてブレスレットへ魔力を流し込んだ。
次の瞬間。
三人の姿は一瞬で消え、シェルターの中へ現れた。
「すごい……。」
リディアは思わず周囲を見回す。
「本当に一瞬だった。」
ソフィアも驚きを隠せない。
一方、スピカはすぐにその価値を理解した。
「これ……ダンジョン攻略の帰りがものすごく楽になる。」
それだけではない。
危険な状況でも瞬時に安全な場所へ退避できる。
まさに命を守るための魔道具だった。
そして同時に、メルキオラが「人前ではなるべく使わないでください」と念を押した理由も理解した。
これほどの魔道具が世に知られれば、間違いなく争いの火種になる。
三人は改めて、その価値の重さを実感するのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、メルキオラが完成させた魔道具をリディア達へ渡し、その性能を実際に体験してもらう場面を描きました。便利さだけでなく、仲間の命を守ることも考えて作られた魔道具は、彼女らにとって大きな力になったのではないかと思います。
次回はアルカンダダンジョンを目指して再び旅が始まります。そして、その道中で早速この魔道具が活躍することになります。どのような場面で使われるのか、ぜひ楽しみにお待ちください。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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