魔道具師の真価 ― 信頼が生んだ最高の一品 ―
いつも『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、リディア達との夕食と、メルキオラが魔道具師として本領を発揮するお話です。帝国での新たな情報にもご注目ください。
場面は変わって、サンテスの街。
レオネリアとメルキオラは、酒場である程度の情報を収集すると、宿へと戻った。
部屋に入ると、二人は今日集めた情報を整理する。
「やはり気になるのは、兵士崩れの盗賊が増えていることね。」
レオネリアが腕を組みながら呟く。
「ええ。それに、魔物も以前より明らかに強くなっています。」
メルキオラも頷いた。
どちらも偶然とは思えない。
二人は、魔族が水面下で動き始めている可能性が高いと考えていた。
そんな話をしているうちに、待ち合わせの時間が近付いてくる。
「そろそろ行きましょうか。」
「ええ。」
二人は身支度を整えると、一階の受付前へ向かった。
受付前には、すでにリディア達が待っていた。
「待たせてしまったわね。」
レオネリアが声を掛けると、リディアは笑顔で首を横に振る。
「まだ待ち合わせの時間前だから、大丈夫だよ。」
「それなら良かったわ。」
「それじゃあ、行きましょうか。宿の受付で夕食なら『月兎』がお薦めだって教えてもらったの。」
リディアを先頭に、一行は『月兎』へ向かった。
店に着いて中へ入ると、評判の店だけあって多くの客で賑わっている。
「いらっしゃいませ。」
店員に案内され、五人は空いている席へ腰を下ろした。
「おすすめ料理を教えていただけますか?」
リディアが尋ねると、店員は笑顔で頷いた。
「当店一番のおすすめは、『月見白兎シチュー』です。
柔らかく煮込んだ鶏肉と根菜をクリームシチューで仕上げ、丸い白パンで満月を、半熟卵で月を表現しております。寒い夜には特に人気の一品です。」
店員は続けて説明する。
「こちらは『月兎ハンバーグ』です。ジューシーなハンバーグに濃厚なデミグラスソースをかけ、半熟の目玉焼きで月を、マッシュポテトで雲を表現した、見た目も華やかな料理となっております。」
さらに店員は説明を続ける。
「『月影煮込みプレート』は、帝国ならではのボリューム満点の料理です。牛肉の赤ワイン煮込みにロースト野菜、香草パンを添えておりますので、冒険者の方々にも人気があります。」
最後にもう一品。
「そして『月光シーフードリゾット』は、たっぷりのチーズと貝や海老を使ったリゾットです。仕上げに半熟卵を乗せており、女性のお客様から特にご好評をいただいております。」
店員の説明を聞き終えると、リディアがレオネリア達へ視線を向けた。
「せっかくだし、好きなものを頼んで。」
「ありがとう。」
レオネリアは『月影煮込みプレート』を選び、メルキオラは『月見白兎シチュー』を注文する。
リディアもレオネリアと同じ『月影煮込みプレート』を選び、ソフィアは『月光シーフードリゾット』、スピカは『月兎ハンバーグ』を注文した。
店員は注文を復唱すると、一礼して厨房へと向かって行った。
注文を終えると、リディアは腰のポーチから小さな革袋を取り出した。
「これが約束していた魔石よ。」
そう言って、必要な魔石だけをテーブルの上へ静かに並べる。
ワイバーンの魔石が五個。
ロックゴーレムの魔石が七個。
シルバーウォーウルフの魔石が三個。
そして、トレントの魔石が十五個。
「トレントの魔石は水の魔道具用に使ってほしいの。それ以外の魔石は、防護結界の魔道具に使ってもらえるかしら。」
「承知しました。」
メルキオラは一つ一つ手に取り、透明度や魔力の流れを慎重に確認していく。
「……素晴らしいですね。」
思わず感嘆の声が漏れた。
「どれも不純物が少なく、魔力も十分に蓄えられています。これほど質の良い魔石なら、かなり性能の高い魔道具がお作りできます。」
その言葉に、リディア達は安堵したように笑みを浮かべる。
「それを聞いて安心したわ。」
リディアが微笑むと、メルキオラは魔石を丁寧に収納した。
すると、リディアが「あっ」と声を上げた。
「そうそう、飲み物を頼み忘れてたわ。
もちろん、これも私達に奢らせてね。」
レオネリアが首を横に振る。
「そんな、そこまでしていただかなくても……。」
「何を言ってるの。」
リディアは笑顔で言った。
「夕食に飲み物は付きものでしょう?」
「あったり前じゃない!」
ソフィアが元気よく答え、スピカも笑いながら頷く。
「すみません、店員さん。」
リディアが手を挙げると、店員がすぐにやって来た。
「エールを五杯お願いします。」
「かしこまりました。」
店員は一礼すると、厨房へ向かっていく。
「「ありがとうございます。」」
レオネリアとメルキオラが礼を言うと、スピカは少し困ったように笑った。
「お礼を言うのは私達の方です。
これから作っていただく魔道具の価値を考えたら、このくらいでは安すぎます。」
ソフィアも何度も頷く。
「そうそう! だから遠慮しないで、飲み物もデザートも好きなだけ頼んでください!」
「本当にありがとうございます。」
メルキオラは微笑みながら頭を下げた。
(ここまで期待していただいているのですもの……。
私も魔道具師として、最高の品をお作りしなければ。)
心の中で静かに決意を新たにする。
やがて店員がエールを運び、その後を追うように、湯気を立てた料理が次々とテーブルへ並べられていった。
先に運ばれてきたエールが全員の前に並ぶ。
「それじゃあ、乾杯!」
リディアの掛け声に合わせ、五人は木製のジョッキを軽く合わせた。
「乾杯!」
心地よい音が店内に響き、それぞれがエールを一口飲む。
「ぷはぁ……。」
ソフィアが満足そうに息をつくと、周囲から笑みがこぼれた。
やがて、湯気を立てた料理が次々と運ばれてくる。
レオネリアとリディアの前に置かれた『月影煮込みプレート』は、店員の説明どおり、見るからに食べ応えのありそうな一皿だった。
赤ワインでじっくりと煮込まれた牛肉は、ナイフを入れるだけでほろりと崩れるほど柔らかい。
一口頬張ると、肉の旨味と赤ワインの深いコクが口いっぱいに広がった。
「これは美味しいわね。」
レオネリアは自然と笑みを浮かべる。
「ええ。人気なのも納得だわ。」
リディアも満足そうに頷いた。
一方、メルキオラの『月見白兎シチュー』は、濃厚なクリームソースが鶏肉と根菜によく絡み、優しい味わいに仕上がっていた。
柔らかく煮込まれた鶏肉は口の中でほぐれ、添えられた白パンをシチューに浸して食べると、その美味しさはさらに引き立つ。
「さすが看板メニューですね。」
メルキオラは上品に微笑みながら味わっていた。
ソフィアが注文した『月光シーフードリゾット』は、大ぶりの海老や貝が惜しみなく使われ、チーズの濃厚な風味と魚介の旨味が見事に調和している。
「これ、すっごく美味しい!」
ソフィアは思わず笑顔になった。
そしてスピカの『月兎ハンバーグ』。
ナイフを入れた瞬間、肉汁がじゅわっと溢れ出す。
濃厚なデミグラスソースと半熟の目玉焼きを絡めて口へ運ぶと、思わず頬が緩んだ。
「これは人気があるのも分かるね!」
スピカは嬉しそうに笑いながら頬張る。
それぞれが自慢の料理を味わいながら、和やかな夕食の時間を楽しむのだった。
⸻
食事を終えると、一行は宿へ戻り、それぞれの部屋へと引き上げた。
レオネリアとメルキオラは部屋へ入ると、いつものようにベッドへ二人が眠っているように見せる偽装用の人形を置く。
外から誰かが覗いても、不自然さはない。
「それじゃあ、行きましょう。」
「ええ。」
メルキオラが異空間への扉を開き、二人はその中へ入った。
広々とした異空間へ移動すると、メルキオラは収納棚から通信機を取り出し、静かに魔力を流し込む。
しばらくすると、通信機から聞き慣れた声が響いた。
『はい、エリスです。』
「エルシア様、お時間よろしいでしょうか。」
『もちろん。何かあったの?』
レオネリアは今日一日の出来事を順を追って報告した。
リディア達と合流し、無事に帝国へ入国できたこと。
現在は最初の街、サンテスに滞在していること。
そして、酒場で集めた情報についても伝える。
「帝国でも魔物が強くなっているという話が目立ちました。それに、兵士崩れと思われる盗賊が増えているようです。」
『……やっぱり。』
エリスの声が少しだけ真剣になる。
「まだ確証はありませんが、魔族が関わっている可能性は高いと思われます。」
『分かったわ。でも、二人とも無理はしないでね。危ないと思ったらすぐに連絡して。』
「はい、承知しました。」
すると今度はエリスが近況を話し始める。
『こっちは少し予定が変わってね。しばらくミネアヴィレッジに滞在することになりそうなの。』
「そうなのですね。
何かありましたら、すぐにご連絡ください。」
『ありがとう。それじゃあ、お互い気を付けて。』
通信が切れると、異空間には静けさが戻った。
「さて……。」
メルキオラはリディア達から預かった魔石を取り出し、作業台へ丁寧に並べていく。
「もう始めるの?」
レオネリアが興味深そうに覗き込んだ。
「ええ。魔石の質も申し分ありませんから。」
「魔道具を作るのって難しいの?」
その問いに、メルキオラは小さく微笑む。
「今回のものは、それほど難しいものではありません。」
そう答えながら、魔石へ魔力を流し込んでいく。
淡い光が工房を照らし、魔法陣が静かに浮かび上がる。
「それに……。」
メルキオラは手を止めることなく続けた。
「リディア様達は、とても誠実な方々です。ここまで信頼してくださった以上、その期待に応えられる品を作りたいと思っています。」
レオネリアはそんなメルキオラの横顔を見て、優しく微笑んだ。
それからしばらくして――。
「できました。」
メルキオラの目の前には、完成した魔道具が静かに並んでいた。
「もう完成したの?」
「はい。予定どおり、明日お渡しできます。」
レオネリアは完成した魔道具を眺めながら首を傾げる。
「でも、その顔……何か企んでいるでしょう?」
「ふふっ。」
メルキオラは悪戯っぽく微笑んだ。
「実は、約束した機能以外にも、いくつか便利な機能を追加しておきました。」
「なるほど。それで黙って渡して驚かせようってことね。」
「ええ。どれもリディア様達のお役に立つ機能ですから。」
もっとも、その中には説明するとかえって警戒されてしまいそうな機能も含まれている。
(こちらは、実際に使う時まで秘密にしておきましょう。)
メルキオラはそう心の中で呟きながら、完成した魔道具を大切そうに収納した。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、リディア達との交流を深めながら、メルキオラが魔道具を完成させるまでを描きました。信頼して預けられた魔石だからこそ、彼女も期待以上の品を作ろうと密かに工夫を凝らしています。
次回はいよいよ完成した魔道具をリディア達へ渡し、サンテスを出発します。そして、旅の途中で魔道具の性能が早速発揮されることに――。メルキオラが密かに追加した機能にもぜひご注目ください。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、8月4日18時を予定してます




