束の間の安らぎ ― 湯けむりと異国の味 ―
いつもご覧いただきありがとうございます。
教会での治療を終えたエリス達は、束の間の休息を楽しみます。仲間との何気ない会話や、初めて味わう異国の料理。戦いの合間だからこそ感じられる、穏やかな時間をお楽しみください。
それでは、第六章の続きをお楽しみください。
一仕事を終えたエリスとミリアは、宿へ戻って来た。
受付の前を通り、そのまま部屋へ戻ろうとした時だった。
「あ、聖女様!」
受付の女性が慌てて二人を呼び止める。
「どうかされましたか?」
エリスが首を傾げると、女性は申し訳なさそうに頭を下げた。
「聖女様とは知らず、お部屋代を頂いてしまいました。
聖女様でしたら、お代は――」
そこまで言われると、エリスは慌てて両手を振った。
「いえいえ、気にしないでください!
ちゃんとお金はお支払いしたいので、大丈夫です。」
しかし、受付の女性は困ったような表情を浮かべる。
「ですが、聖女様からお代を頂くわけには……。」
なかなか引き下がろうとしない様子を見て、ミリアが優しく口を開いた。
「お気持ちは嬉しいです。
でも、エリスも皆さんに特別扱いされたいわけではありません。
これからも他のお客様と同じように接していただけると、私達も安心できます。」
その言葉に受付の女性は少し考えた後、ようやく微笑んだ。
「……分かりました。
それでは、今まで通りお泊まりいただければと思います。」
「ありがとうございます。」
エリスはほっとしたように笑顔を見せると、ミリアと共に部屋へ戻った。
部屋で少し寛いでいると、扉が開いた。
「ただいまー!」
元気な声と共にマリンが戻って来る。
「おかえり。」
「ルシアンさん達と話してきたんだけど、みんなお風呂に入ってから夕食に行こうってことになったよ。
一時間後に宿を出発するんだって。」
「それなら急いでお風呂に入らないと。」
エリスが立ち上がると、マリンも笑って頷いた。
「うん、行こっ!」
二人が部屋を出ると、ちょうど廊下でクラリスとミリアに出会う。
「あら、二人もお風呂?」
クラリスが微笑む。
「はい。」
「それなら、一緒に行きましょう。」
「はい!」
四人は楽しそうに話しながら、宿の浴場へ向かうのだった。
浴場に着くと脱衣所で服を脱ぎ、それぞれ桶と椅子を手に洗い場へ向かう。
「今日はいっぱい汗をかいたね。」
マリンがそう言いながら髪を洗い始める。
「うん。」
エリスも頷きながら身体を洗っていく。
クラリスとミリアもそれぞれ身体を洗い終えると、四人は揃って大きな湯船へ足を入れた。
「ふぅ……。」
湯に肩まで浸かったエリスは、気持ち良さそうに息を吐いた。
それぞれ身体を洗い終えると、ゆっくりと湯船に浸かる。
「ふぅ……。」
エリスは気持ち良さそうに息を吐いた。
「今日は色々あったね。」
マリンが笑いながら言う。
「うん。」
エリスも頷いた。
「教会へ行ったら、聖女が来たって噂が広まっていて、すごい人だったの。
最初はどうなることかと思ったけど、ポーラさんが治療する人をある程度絞ってくれていたから、実際に治療した人はそんなに多くなかったよ。」
「それは良かったね。」
マリンは安心したように微笑んだ。
「私達の方も色々あったよ。
盗賊の事情聴取を手伝っていたんだけど――。」
そこでマリンは、にやりと笑う。
「クラリスさん、凄かったんだから。
ひと睨みしただけで、盗賊達がみんな震え上がっちゃって。」
「えっ!?」
エリスが驚いてクラリスを見る。
「ち、違うわよ。」
クラリスは慌てて両手を振った。
「私一人じゃなくて、騎士の皆さんも一緒だったからよ。
多勢で詰め寄られたら、誰だって怖いでしょう?」
「本当かなぁ。」
エリスは首を傾げる。
「どっちが本当なの?」
その問いに、ミリアがくすりと笑った。
「マリンの言う方が本当じゃないかしら。」
「ええ!?」
クラリスは思わず声を上げる。
「ミリアまでそんなこと言うの?
もう、みんなして……。」
少しだけ頬を膨らませ、不貞腐れたような表情を見せるクラリス。
そんな母親の姿を見たエリスは思わず笑みを浮かべた。
(お母さん、可愛い……。)
四人はしばらく笑い合いながら湯船で疲れを癒した。
やがて風呂から上がると、急いで身支度を整え、一階の受付へ向かう。
そこにはすでにルシアン達が待っていた。
「お待たせ。」
クラリスが声を掛けると、ルシアンは笑って頷く。
「宿の人に、一番亭以外でおすすめの店がないか聞いてみたんだ。
『山茶花』って店が評判らしい。
今日はそこへ行こう。」
全員が賛成し、宿を出発した。
五分ほど歩くと、目的の店が見えてきた。
『山茶花』
木をふんだんに使った山荘風の建物で、落ち着いた雰囲気が漂っている。
店内へ入ると、多くの客で賑わっていた。
店員に案内された席へ腰を下ろし、店内を見回す。
木目を基調とした内装はどこか異国情緒があり、初めて訪れる者でも不思議と落ち着ける空間だった。
メニューを開いたエリスは首を傾げる。
「知らない料理がいっぱい……。」
クラリス達も同じようにメニューを眺めていたが、聞き慣れない名前が多い。
「店員さん、おすすめを教えていただけますか?」
エリスが尋ねると、店員は笑顔で答えた。
「でしたら、まずはこちらの『天ぷらそば』がおすすめです。」
「エビや野菜に衣を付けて揚げた天ぷらと、そばという麺を温かいお汁と一緒に召し上がっていただく料理です。」
「こちらも大変人気があります。」
続いて別の料理を指差す。
「こちらは『オークカツ丼』です。
オーク肉にパン粉の衣を付けて揚げたカツを、卵と特製のタレで煮込み、ご飯の上に乗せた料理になります。
天ぷらとは衣の種類が異なり、食感もまた違った美味しさがあります。
当店では、この二品が特に人気ですね。」
「じゃあ、私は天ぷらそばにします。」
エリスがそう言うと、クラリスとミリアも頷いた。
「私達も同じものを。」
一方、ルシアン達四人は顔を見合わせる。
「俺達はオークカツ丼にしよう。」
「そうだな。」
全員の注文が決まり、店員は笑顔で厨房へ向かっていった。
しばらく待っていると、注文した料理が運ばれて来た。
エリス達が注文した天ぷらそばは、綺麗に盛り付けられたざるの上に細長い麺が並び、その隣には海老や芋、山菜の天ぷらが美しい衣に包まれて添えられていた。
「美味しそう……。」
思わずエリスが声を漏らす。
ただ、料理と一緒に運ばれてきた食器は、普段使い慣れているフォークではなく、「箸」と呼ばれる二本の細い棒だった。
「これを使うんですね。」
慣れない箸に少し戸惑いながらも、何とか天ぷらを掴む。
「いただきます。」
一口食べると、衣はサクッと軽い音を立て、中の海老はぷりぷりとしていた。
「美味しい!」
続いて蕎麦を箸で持ち上げ、つゆにくぐらせて口へ運ぶ。
つるりとした喉越しと、つゆの優しい風味が口いっぱいに広がった。
「こっちも美味しいね。」
エリスは思わず笑顔になる。
一方、ルシアン達が注文したオークカツ丼も負けてはいなかった。
揚げたてのオークカツには甘辛いタレが染み込み、その上には半熟の卵がふんわりと乗っている。
「これは美味いな。」
ルシアンが頷く。
「衣にタレがよく染みてる。」
ガルドも満足そうに笑った。
どちらの料理も評判どおりの美味しさで、全員が満足そうに食事を楽しんでいた。
食事をしながら、ルシアンが明日の予定を確認する。
「明日も基本は今日と同じだ。
エリスとミリアは教会、残りは騎士団庁舎で盗賊達の事情聴取を手伝う。」
全員が頷く。
「盗賊達の調書も、まだ半分にも達していないそうだ。
全部終わるまで、もうしばらく掛かりそうだな。」
食事を終えると、一行は店を後にし、夜風に当たりながら宿へと戻って行くのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は教会での治療を終えたエリス達の、束の間の休息を描きました。お風呂で仲間と語り合い、異国ならではの料理に舌鼓を打つ――戦いが続く中だからこそ、こうした穏やかな時間も大切にしていきたいと思っています。
次回は舞台をレオネリア達へ移します。リディア達から必要な魔石を受け取り、いよいよメルキオラが魔道具師として本領を発揮する時がやってきます。果たしてどのような魔道具が完成するのか、ぜひ楽しみにお待ちください。
次回も『魔族の女王が転生したら聖女になっていた』をよろしくお願いいたします。
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次回の更新は、8月3日18時を予定してます




