11 精霊の先触れ
あまり間を空けたくないと思いつつも、前回の更新からかなり経ってしまいました……
目を瞑る。人間ではなく、精霊へ――ルーナは意識を向ける先を切り替え、語りかける。
『風の精霊たち……私のもとへ来てちょうだい』
ほどなくして、淡い緑の輝きが近くにいくつも現れて周囲を飛び回り始めた。
『めずらしいね』
『よんでもらえてうれしー』
精霊たちの喜びの感情が、ルーナの中に流れ込んでくる。
こうして直に呼んだのは何ヶ月ぶりだろうか。不意に、精霊と遊びたい思いに駆られたが、ルーナはそれをぐっと堪える。
『呼び出して早々に悪いのだけれど、お願いを聞いてもらいたくて。先触れの風を……私の両親がいる場所に、あなたたちの風を運んでほしいの』
『いいよー』
『ぶわーってしてくる』
『いってくるねー』
即答だった。ルーナの言葉を聞いた淡い緑の輝きは、その場で楽しそうにゆらゆらと揺れる。
そして、一斉にベルニエ家のタウンハウスの方角へ向かって飛んでいった。
『みんな、ありがとう!』
夜闇の中に消えていく精霊たちを見届けた後、ルーナは意識の先を戻した。
「先触れの代わりに、精霊の風を両親の元へ運んでもらいました。これで、多少は使者の話が通りやすくなったかと」
そう言いながらマリウスの方に向き直ると、ルーナの目には信じられない光景が飛び込んできた。
「精霊術とひとことで言っても、普通の人間と君のものは全くの別物なんだね! まさか召喚の言葉も自身の魔力も使わず、ただ意思を通わすだけであれほどの精霊が来るとは! こんな素晴らしい光景が見れて、感無量だ……!」
マリウスが、無邪気な幼子のように目を輝かせて熱く語っている。まさに興奮冷めやらぬ、といった様子だ。
(喜んでいただけるだろうとは思ったけれど……まさか、ここまでとは)
ルーナは予想外の好反応に驚き、言葉が出なかった。
そんなルーナをよそに、マリウスはしばらく感慨に浸っている様子だったが、急にすっと表情が抜け落ちた。ルーナが固まっていることに気づいたようだった。
そして、顔をそむけてぼそりと言葉を紡いだ。
「……すまない。つい我を忘れてしまった。見苦しいところを見せてしまったね」
「いえ。見苦しいなど、そのような事は決して。喜んでいただけたようで何よりです」
ルーナは微笑みながら告げた。本心からの言葉だ。
自分の技量に強い興味を持ってもらえるということは、利用価値を示せていることと同義。自分と家族の身を守ることに直結する、喜ばしいことだ。
一方で、少しの違和感も覚える。ルーナは、自分の推測とマリウスの行動がどうも噛み合わない――前提が間違っているように思い始めていた。
(単純に精霊術士を囲い込みたかったのか。あるいは、私利私欲を満たすための手駒として使おうとしているのか……そう推測していたのけれど)
「精霊と語らう君の姿を見て、これからはこの素晴らしい精霊術士に師事できるのだと考えたら……つい、感極まってしまって」
そう語るマリウスの表情は、とても柔らかい。心の底から喜んでいるように見える。
(慕っているという言葉の真偽はさておき。精霊に対する感情は――精霊術を自分で扱えるようになりたい、精霊と仲良くなりたいという思いは、本心だと思うわ)
根拠のない、ただの勘のようなものだ。
だが、これまでに見てきた、精霊を悪用しようとする人間とは明らかに違う。むしろ、自分に近しいものを感じる。
(判断するのは尚早だと思う。でも、自分に似ているなんて感情を人に抱いたのは初めてのことで。あまり良くないことだとは思うけれど……ここは、自分の直感を信じてみましょう)
この方は、決して精霊を悪用することはない――自分の中に芽生えた、家族以外への信頼の感情。
その思いを信じてマリウスに向き合っていくことを、ルーナは胸中で密かに決意したのだった。
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