第231話 聖女
「召喚はね、とても危険なことなの。今回は頼まれたから召喚に応じたけど…」
「頼まれたって誰に?」
「う、ううん。何でもないわ、気にしないで」
「それに勇者エリアス様も召喚と同時に、どこかに消えてしまった…。いったいどうしたと言うの?」
「それはね。召喚者は一つの時代に二人は存在できないのよ」
「えっ?!そんな…。ではもうエリアス様とはお会いすることが出来ないなんて…」
「彼は元居た世界に戻って行ったはずよ」
「でもエリアス様が魔物を討伐して、聖女が次元の綻びを塞ぐのでは…」
「そんなことはないわよ。私一人いれば両方できるもの」
「それは凄いわ。綻びは、勇者と聖女で当たるものだと思っていたから」
危ない、危ない。
まさか女神ゼクシー様に頼まれて召喚に応じたなんて話せない。
私は妖精のミリア。
ある日、妖精の国に女神ゼクシー様の通達がでた。
未来の世界から別次元の女神ゼクシー様の『愛し子』が、魔物討伐に召喚され帰るに帰れず困っていると。
『愛し子』は別の次元の流れに生きている人族で、彼を元の世界に戻すことで正常な流れに世界も戻ることになる。
しかし戻ってしまうと魔物を討伐する者が居なくなってしまう。
心優しい彼は代わりの者が呼び出されるまでこの世界にとどまると言う。
彼はSTRANGERで、このままこの世界に滞在すると時間の波に吞まれ戻れなくなる。
そこで白羽の矢が立ったのがこの私。
妖精の国を卒業間近である私は、魔物討伐もでき上位の消滅魔法も使える。
召喚者は一つの時代に二人は存在できないと言う嘘をつき、召喚と同時に私がこの世界に現れ、代わりに勇者エリアスが元の世界に戻されると言う流れね。
そして知らない振りをして、私が対応をする。
『知っているのに知らんぷり』と、いうことね。
「先ほどの召喚は危険なことだと言う話だけど」
「だって、そうでしょう?3年間も掛かって貯めた魔力という餌に、食いついてくるんだもの弱い者が召喚される訳が無いわ」
「だから召喚するのでは?」
「いいえ、分かってないわね」
「どうして?」
「そんな強い奴を召喚して、魔人や魔王クラスだったらどうするのよ」
「あれは聖女召喚の儀式だったはずよ」
「違うわ!!あれは貯めた魔力を餌にして、強い魔力を持つ者を吊り上げる儀式よ」
「えっ?!」
「この世界は背中合わせに、たくさんの世界があるの。そのどこかの世界に穴をあけて、釣り糸を垂らしているのと同じなの。だから釣り上げた魚が、手に負えるとは限らないのよ」
「それじゃあ…」
「ええ、そうよ。場合によると召喚された奴に、この世界は蹂躙されてたかもね」
「そんな~」
「いったい何を、してもらいたかったのかしら?」
「実は数年前から魔物の数が増えてきて、国を挙げて討伐をしても倒しきれなくて。そのおかげで国土間の流通が途絶え、食料も乏しくなってしまったのです」
「具合的にはどんな感じなの」
「瘴気が発生して、辺りが暗くなりそこから魔物が大量発生しています」
「やはり次元の綻びを塞がないと行けないわね。この世界は比較的、魔素に満ちているわ。あなたにも魔素がある。魔法が使える人もいるんじゃないの?」
「確かに私も僅かですが、簡単な魔法なら使えます」
「そうね。例えるならこの世界が丸なら、周りを魔素が包んでいるような感じね」
「魔素が包む?」
「少しずつ魔素がこの世界に浸透してきて、それをこの世界の人達が吸っている。だから魔法が使える人が居る。そしてそれが貯まると形を作り、魔石という核になり魔物になるのよ」
「エリアス様のおっしゃっていたとおりだわ」
「ではその綻びは塞げるの?」
「う~ん。見てみないと分からないけど、多分できるわ」
「えっ、できるのミリアちゃん!!」
「ええ、でも時間が掛かるわ。この世界が、どれくらい広いのかも分からないし」
「全部でなくても良いわ。せめて私の国だけでも、お願い」
「それは出来ないわ。私はこれでも神様なのよ。特定の人だけに加担できないのよ。やるならこの世界全域ね」
「そ、そんな~」
「でも、その割にはビッチェはあの時、必死だったわね」
「あの時?」
「そう、召喚の時よ。『お願い成功して!もう無理、誰でもいいから助けて。同じ思いはもう嫌。その為だったら私は…』て、言ってたでしょ」
「や、やめてよ。口を尖らせて、私のマネして言わないで」
「ギャ( ̄∇ ̄;)ハッハッハ。似てるでしょう」
「実はね、ミリアちゃん。私の父はこの国の王子なの。そして腹違いの王子が2人いて、次の王の座を狙っているのよ」
「政権争い、てやつね」
「そう、そして父以外の2人の王子には才能があり、父は凡人だったの。そんな父の後ろ盾になってくれる人は居なかったわ。だから次の王になるために、実績が欲しかったの」
「王になれないなら、政権争いから抜けてどこかの田舎に暮らせば」
「それができないのよ。今の王が生きている内は良いわ。でも亡くなったら愁いを断つために、残された王家の血を引く者は殺されるのが今までなのよ」
「そう、それなら私と一緒に世界を回るしかないわね。この国から浄化して次元の綻びを塞げば良いわ。実績を作れば、良いのでしょう?」
「でも、それをやっても政権を取れなかったら」
「それは仕方ないでしょう、聖女召喚してたとしても、駄目だったら同じでしょう」
「わかったわ。ミリアちゃん、私に力を貸してくれる?」
「もちろんよ、ビッチェ。それから私は姿を消したままにするから。魔法を使う時は、あなたがやっているように見せてね」
「それじゃあ、練習しないと」
「そうね、練習しようか?あははは!!」
「あぁ、それからビッチェ。私と約束してくれる」
「約束?」
「そう、世界の綻びを塞ぐ旅に出る、と言うことよ」
「それもいいかも。政権が安定して、お父様達の無事を確認できれば。狭いこの国の外を見てみたいわ」
「なら、約束よ。誓約を交わしましょう」
「誓約?」
「えぇ、けして破られることのない約束よ。覚悟はある?」
「良いわよ。でもどうするの」
「まず、胸を見せて」
「胸?どうするの」
「そこに誓約印を押すから」
私は言われたままに、胸の紐をはだけ見せた。
「行くわよ~」
ミリアちゃんは、私の胸の間に手を置いた。
するとまばゆい光が辺りを照らし、収まるとミリアちゃんは手を放した。
そこには3cmくらいの円があり、中には何かの紋章が掛かれた刻印があった。
「こ、これは、」
「私の加護の刻印よ。これであなたは簡単な聖魔法が使え、全体的に能力も上がったはずよ」
「ほんとに?!」
「えぇ、世界を回るのに時間が掛かるから、不老不死にして私の使徒にしてあげるわ」
「不老不死?使徒?」
「私の眷属と言うこと。あなたは今から、私の使徒だから聖女みたいなものね」
「聖女?でも聖女はミリアちゃんなのでは?」
「何を言っているの?聖女は弱者に対して大きく貢献したり、慈愛に満ちた女性のことを言うのよ。だから誰でも努力次第で『聖女』になれるのよ」
そう言うとミリアちゃんは笑った。




