第220話 侍女のつぶやき
私の名はリンリン、そして妹の名はランランだ。
2人でビッチェ王女のメイドをしている。
私達は極秘裏に国が運営する『Hole of a tiger』という秘密組織に属している。
その組織は孤児達を集め幼少の頃から戦闘メイドとして猛特訓を受けて育つ。
訓練を受けた者達は、王族メイドとなり側で警護の仕事も兼ねて働く。
最初にこの話が来た時は、なぜ私達に?!と不運を恨んだわ。
メイドはどの主人に仕えるかで栄華が決まるから。
なぜ、落ち目の王女のメイドなんかに…。
王女はいつも辛そうな、寂しそうな顔をしていた。
そして昨日、勇者召喚があったらしい。
今日の午前は王様と謁見もあったとか。
城内の女性は噂好きだ。
すぐに情報は入ってくる。
その情報を1つに集めて、組織に報告するのも私達の務めだから。
すると何かビッチェ王女は吹っ切れた顔をしている。
それにシルクの高そうなスカーフを私とランランにくださった。
使えている主人から何かを頂けるなんて、他のメイドから聞いたことが無い。
私達にも優しく接してくださる。
孤児の戦闘メイドの私達なんて、眼中にない主人が多いのに。
そして遂に勇者召喚が成功し勇者エリアス様を連れて城下を見に行くと言う。
この食べ物も無く人々が貧困に喘ぐ街をその目で視察されると言うのか?
庶民を見下す貴族の多い中でビッチェ王女は違った。
お忍びで街に行くのに服が無いからと、私の朱色のドレスをお貸しした。
そのドレスを大層喜ばれ、着やすそうね、と褒めてくださった。
ビッチェ王女の服もそうされるとおっしゃったけど、私達侍女の仕事が無くなります、と笑った。
そして城下に出ると王女は驚いた顔をされた。
余りにも街が荒れ寂れていたからだろう。
街を歩いていると貴族の馬車が、路地を物凄い勢いで走ってきた。
私達は慌てて避けたけど、道を渡ろうとした5歳くらいの男の子がはねられた。
貴族の馬車は止り慰謝料代わりに、窓から500円硬貨を2枚投げ捨て走り去った。
男の子の母親は必死に周りに助けを呼ぶ。
でも誰も助けることは出来ない。
怪我は教会の神官しか治せないからだ。
でも彼らが使う治癒魔法でも、助かるとは思えないくらい子供の怪我は酷かった。
その時、王女が道に落ちた500円硬貨を2枚拾い私に聞いた。
1,000円で何が買えるかと。
私は答えた、食事一食分かと。
そして呟かれた、これは駄目ね、と。
それから王女は呆然と立ち尽くす母親の側に行かれた。
そして母親に子供を見せてほしいと言った。
確か王女はHealingが使えると聞いたことがある。
でも教会の神官なら、高額な金額を要求されると聞くわ。
それを庶民相手に使うと言うの?
考えられない。
王女は男の子に近付きHealingの詠唱をはじめた。
でも治しきれないみたい。
それはそうよ。
あれだけの怪我だもの。
普通は治癒魔法でも治せない。
でも王女は諦めなかった。
一生懸命、男の子を助ける手立てを考えているんだわ。
すると勇者エリアス様がビッチェ王女の背中に手を当てたの。
未婚の女性の背中を触るなんて。
驚く王女は突然、何かを思いついたように詠唱を始めた!!
<<< Regenerate!! >>>
突然ビッチェ王女の体が眩く輝き始め、少年の体を包み始めた!!
そして私達は奇跡の瞬間を見たの。
王女は聞いたことがない魔法を唱え、見る見る内に男の子の顔色が良くなっていくのを。
凄いわ!Healingを上回る、回復魔法を使うことができるなんて。
男の子の怪我は無事に治り立ち上がった。
そして母親がお礼を言いながら、治療費を出せるお金が無いと言う。
すると王女は『これを頂くから』そう言って、貴族が投げ捨てた500円硬貨2枚を見せたの。
私はキュンとしたわ!
それを見ていたランランもそう感じたみたい。
やっぱり双子は以心伝心ね。
そして誰かがビッチェ王女ことを『聖女様』と言い始めた。
私達2人は危険を感じ、太腿に隠しているナイフをフォルダーから外し構えた。
彼らは聖女を求めた。
いいえ、この苦しみから誰でも良いから救ってほしかったんだ。
そして食料も求め始めた。
そんなの無理に決まっているのに。
いくら王女でも国の食糧庫を開けられるほどの権力はない。
すると突然、勇者エリアス様が出店に向かって歩いて行く。
私達もその後を追う。
そこで私達が見たのは突然どこからか現れた肉の塊だった!!
出店の台がきしむくらい重そうな、大量の切り分けたばかりの肉の山だった。
場所を借りるためだろう、エリアス様はナイフを使い四角く肉を切り出店のおばさんに渡していた。
そして私に解体用ナイフを差し出し、肉を切り分けてほしいと言われた。
人々を2列に並べ私とランランのは肉を切り渡していく。
途中で肉が無くなっても勇者エリアス様が空間から肉の塊を取り出す。
これがマジック・バッグ。
初めて見たわ。
それから人々は口々に『聖女の肉』と言いながら、血が滴る肉を王女に掲げ帰って行く。
まるで崇高な儀式の一端を垣間見たようだった。
私達は王女の噂を信じ見誤っていたのかもしれない。
私達だけでも、これからも付き従って行こう。
これだけ庶民のことを考えてくださる聖女のような王女様に。




