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第206話 利用価値

 司祭が俺に掴みかかってきた。


 俺は無意識に手を払った。


「ペキッ!?」


 何か変な音が??


「痛い!イタタタタタ!!」


 ロターリ司祭が手首を押さえ、うずくまった。


 大げさだな、そんな事くらいで。


「大丈夫ですか?ロターリ司祭様」

「そ、その男を捕らえろ!は、早くするのだ」

 ロターリ司祭は控えている騎士に叫ぶ。

「なりません。先に手を出したのは司祭様ですから」

 王女が騎士を止めてくれた。

 

 司祭の手を見ると変な方向に曲がっていた。

 わかった特技だ!!

 そうに違いない。


「ロターリ司祭様、少し痛いですが我慢してください」

 ビッチェ王女が司祭の紫に腫れあがった手首を伸ばした。

「イタタタタタ!」

「我慢してください、ヒール」


 王女の翳した手から暖かい光があふれる。

 その光が司祭の手首を包む。


 しばらくすると徐々にだが、腫れも引き始めた。


「私にできることは、ここまでです」

「ありがとうございます。ビッチェ王女様」


「あの~、今のは?」

「治癒魔法です」

「ビッチェ王女様はこの国でも数人しかいない、回復魔法の使い手なのだ」

 司祭が自分のことのように得意げに自慢する。



 ほう回復魔法はこうやるのか。

 魔法はイメージだ、手本を見たら自分もできそうな気がした。

「いえ、私の魔法では大したことは出来ません。骨折した手を少し直すくらいです」

「骨折していたのですか?」

「えぇ、そうです」

「よほど、間の悪いとことに当たったのですね」

「この小僧が!!」

 司祭が手首を押さえながら、顔を赤くしている。

 自業自得なのでは?


「エリアス様。おっしゃる通り今の段階では、元の世界に戻れる手段がありません」

「でしょうね、召喚は出来ても、元の世界には戻れないと思います」

「どうしてでしょうか?」


「似たような世界がたくさんあるとします。そこから呼び出すとしたら、その逆はどうでしょうか?どこに戻していいのか分からないのに、戻せる訳がありません」

「そうですね、どこから呼び出したのか分からないのに。エリアス様も召喚した私を恨んでいるでしょう。それでも私達は、いいえ、私はこの国を救いたいのです」


 そうか、そう言われると『帰してくれ!!』とも言えない。

 しかしここはどこだ?


「わかりました。出来るだけのことは致します。それとここはどこでしょうか?」

「ジリヤ国の王都になります」

 なんだ、ジリヤ国の王都ならセトラー国から近い。

 しかし木製の板戸を開けた窓枠の向こうは森林が見え、どう見ても俺の知っている王都には思えなかった。

 まさか?!


「今は何年でしょうか?」

「はい、西暦896年3月28日になります」

 やはりそうか!!

 俺が生活していたのは『ジリヤ国西暦1194年』だからだ。

 では俺の居た時代より、300年前の過去と言うことになる。


 召喚自体は異世界から誰かを呼ぶのだから、時代は過去だろうが未来だろうが時系列は関係ないということか。


「いかがされましたか?」

「いえ、なんでもありません」

「でもエリアス様に、そう言って頂けると肩の荷が下りた気がします。生活も保障いたします。どうかお力をお貸しください」

「わかりました、私で良ければ。そして生活は保障して頂けるのですね」

「ええ、召喚した私達の責任ですから」



 それからこの国の話を聞いた。

 召喚された場所は王都の中にある神殿だった。

 シャルエル教の信徒が大半で女神ゼクシーを信仰している。

 女神がスレンダーなメガネ女子だと知ったら驚くだろうな。

 


「エリアス様どうか、世界をお救い下さい。そして私達にお力をお貸しください」


 救うと言うのは具体的はどうしたらいいのか?

 それに本当にこの人達を、信用していいのか分からない。


「私にはそんな力はないと思います。王女様の話し相手位しか出来ませんよ」

 まさか王女相手に『俺』はないから、ここは私と言うことにしよう。

「そんなことは無いと思います。召喚されたばかりでお疲れでしょうから、お部屋へ案内させますわ」


 そして王女が手を2回叩くとドアが開き18歳くらいのメイドさんが入って来た。

「エリアス様はお疲れですから、お部屋に案内して差し上げて」

「わかりました、ビッチェ王女様。さあ、こちらへどうぞ」



 貴族の様な服を着た男の人は誰だったんだろう?

 俺の事をずっと見ていたけど。

 そんなことを思いながら、俺はメイドさんに案内され部屋を出た。



「いかがでしたでしようか?オバダリア様」

 貴族の服を着た男性にビッチェ王女が問いかける。

「残念ですがビッチェ王女様、彼は凡人です。私の鑑定では何も見えませんでした」

「本当ですか?!エリアス様が凡人だなんて!そ、そんな、せっかく3年間も待って召喚したのに…、」




 な、なんだと。あの小僧が凡人だと。偶然とはいえ、私の手の骨を折る無礼を働いておいて。異世界人なら利用価値があると思ったが、凡人なら容赦はしない。


 シャルエル教司祭ロターリは、その悪い顔を歪めた。

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