第195話 年末行事
俺とエリザちゃんがセトラー国に戻って来てから数日が過ぎた。
今は12月でこの国では、雪が降らないから過ごしやすい。
雪が降ると毎朝、雪かきが大変だからね。
そう言えばこの世界は、季節ごとの行事が少ない。
1ヵ月という概念はあっても、特に何もないので曜日や日にちを気にしない人が多い。何か行事がないものか?
12月の行事と言えば、思い付くのはクリスマスだ。
神仏や聖人などが生まれたことを祝う行事。
正確には『誕生日』ではなく、『誕生をお祝いする日』だと言うことだ。
セトラー国で採れる鉱物により、関連する人々を含め生活が良くなってきている。
人々の生活にも余裕が出てきている。
だが住居や食事が支給されているため、お金の使い場所が無い。
何か物を買う、お金を使うことはストレス発散になるからだ。
「エリアス様、なにを考えていらっしゃるのですか?」
エリザちゃんが俺に話しかけてくる。
最近はよく話し相手になってもらっている。
まあ体は11歳でも女神ゼクシーの時の狭間で、20年間過ごしているから精神年齢は31歳。
体は11歳、心は31歳なら十分、話し相手にはなるんだよね。
そんなドラマなかったかな?
ただ周りからすればそんなことはわからないからね。
陰で俺は『幼女趣味』とか、言われているかもしれない。
『鬼畜』と言われないだけマシだけど…。
「う~ん。何か行事を作ろうと思って考えていたのさ」
「行事ですか?それはどう言う?」
「季節ごとに行事があればそれが楽しみになるだろう?それに人々にも生活の余裕が出てきているから、こちらで行事を作りお金を使う機会を増やす、と言うことさ」
「それは良い考えですわ。でもどんな内容でしょうか?」
「この大陸では女神ゼクシーが唯一神だよね?」
「えぇ、ほとんどの人族は女神ゼクシーを信仰しています」
「女神ゼクシーへの信仰心が失せるとゼクシーかあさんの力は弱くなり、この世界を維持できなくなるんだ。するとそこに付け込んでくる悪魔や魔族にこの世界を乗っ取られてしまうかもしれない」
「まあ、怖い。そんなことが…」
「そこで女神ゼクシーが、生まれたことを祝う日を1年に1日作るんだよ」
「良い考えですわ。きっとゼクシーお母さまもお喜びになるでしょう」
「そこでケーキを販売しようと思うんだ」
「ケ、ケーキですか?それはどの様な…」
あぁ、そうだった。
この世界では今まで酪農もなく、果物栽培も無かった。
だが今ではセトラー国では酪農や果物栽培を始めている。
しかしそんなことがあるとは思わず、イチゴ栽培はこれからだった。
まあ他にも果物があるから、イチゴに拘る必要はない。
以前いた国でもイチゴのショートケーキをクリスマスに食べるようになったのは、大手お菓子メーカーの企業戦略だからね。
イチゴの赤と生クリームの白は『紅白』で、おめでたい色だから。
イメージが定番して広まれば、それが当たり前となり行事になると言うことだ。
まあ来年から強化ガラスで温室を作りイチゴ栽培も始めようかな。
「じゃあ、作るから台所に行こうか」
「食べ物なのですね、嬉しい!!エリアス様に何か作って頂くのは久しぶりです」
そう言えばそうかもしれないな。
そんなことを思いながら俺達は部屋を出て、ぞろぞろと台所に向かう。
ぞろぞろ?
後ろを振り向くとエリザちゃんの他にアリッサさん、オルガさん、ノエルさん。
メイドのアーネさんがついてくる。
どれだけ暇なんだ?みなさん。
俺達は屋敷の台所に入った。
以前、カステラを作った要領でスポンジケーキもどきを作る。
ボウルに生クリーム、グラニュー糖が無いから砂糖を入れ、ツノが立つまで泡だて器で泡立てホイップクリームを作る。
ヘラを使いスポンジの周りに塗れば完成。
今使える果物はミカン、ぶどう、リンゴだ。
カットすると汁が出るので、中には挟まず上に乗せるだけにした。
イチゴはビニールが無く、その代わりになる物も無いから栽培が出来ない。
だから今の時期には採れない。
「さあ、どうぞ。出来ましたよ」
「わあ、凄い」
「これがケーキか?!」
「美味しい!!」
「あま~い!」
キャッ!!キャッ!!キャッ!!キャッ!!
キャッ!!キャッ!!キャッ!!キャッ!!
キャッ!!キャッ!!キャッ!!キャッ!!
女子達がケーキを食べながら騒いでいる。
これなら絶対に売れる。
そう確信した瞬間だった。
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12月25日は特別な日だ。
セトラー国当主エリアスが、住民に楽しんでもらえればと発案した行事だ。
セトラー国の住民は、住むところや食事は支給されておりお金を使う場所が無い。
娯楽が無いと思ったエリアスはその日を、女神ゼクシーが降誕したことを祝う日にした。
セトラー国内にエリアス商会の支店を出し、毎年ケーキを予約販売した。
その日は特別で養鶏場で飼っている鳥を油で揚げた『鶏もも』が販売される。
店の前では飾りつけをされた、寒さに強い『もみの木』の鉢植えが置かれとても華やかだったと言う。
セトラー国の600人以上居る住民は、普段使うところが無いお金をその日はふんだんに使う。
そして近隣の国からたくさんの屋台や商店を呼び、出展させ一晩中みんなでお祭り騒ぎをする。
訪れる商人には税を課さず、住民が落とす金額は莫大になったと言う。
当日はエリアス国主自ら、赤い服、赤いナイトキャップ姿で白ヒゲを生やした太りぎみの老人を演じて店先に立っていた。
白い大きな袋にプレゼントを入れて肩に担ぎ、訪れる人々や子供達に手造りクッキーを渡していく。
子供達の笑顔を見るのが、エリアス国主は好きだったと言う。
そして人々も『あぁ今年も1年が終わるんだ』そう実感した。
何年かすると女神ゼクシーの降誕を喜び、各国のシャルエル教に広まって行く。
当日は各教団の司祭クラスの人が赤い服、赤いナイトキャップ姿で白ヒゲを生やした太りぎみの老人を演じた。
赤い服は『生命力や力強さ』を象徴、祝賀や魔除けの色として用いられるからだ。
またそのひときわ目を引く鮮やかな色彩から、『権威』や『華やかさ』を演出する色としても使われるようになったと言う。
そして各家の玄関に『リース』を飾る習慣ができたのもこの頃だ。
リースに込められた意味は4種類。
1.豊作を願う
常緑の植物が用いられ年間を通して葉を茂らせている。
このことから農作物の繁栄を意味している。
自宅に飾るリースは小さなリンゴを飾る。
リンゴは冬の寒い時期にも収穫ができて栄養のある作物のため、神への供物として用いられていた。
2.魔除け
リースに用いられるモミの木は尖った葉の形状が特徴的で、魔除けの意味がある。
3.永遠
リースの形はドーナツのような輪になっている。
輪になっていて途切れることがないから、永遠を意味している。
聖書の中でも『私はαでありΩである。最初であり最後である』との記載がある。
これは神とその愛が、永遠の存在であることを表現していると言われている。
4.新年の幸福祈願
新年の幸福を願って年明けも飾られるもの。
「エリアス様、開国記にはこう書いておけばいいですか?」
「あぁ、それでいいよ。エリザちゃん」
「もっともらしいことを書くのも大変ですね」
「後年になにか言われるのもね。俺達は年老いて居なくなっても国は残るから」
「体裁を繕うのも大変ですね」
数年後、この大陸でもっとも裕福な国はセトラー国になった。
争いや貧富の差もない。
難民として逃げて来た人達。
亜種族と蔑まれていた日々。
そんな人達がこの世界を牽引していく。




