第208話、斉木「逃げろ山本!葉月に殺されるぞ!」山本「会いたかったぞ広樹」
大変お待たせしました!
書き上がりましたので投稿します!
それと誤字脱字の報告をたくさん頂き、数十箇所を一括修正しました!間違いを教えて頂き本当にありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
──それは広樹が戦闘学に転校してくる少し前。
俺『斉木』が、彼に山本の転校話をした日の、放課後の出来事になる。
「私は……いや、俺は一体何をやらされているんだ」
黒縁サングラスに灰色コート。
購買部で買ったパンを片手に、斉木はとある人物を尾行していた。
サングラスに写すのは一人の男子高校生。下校途中の荻野広樹がそこにいた。
「どうして今日なんだ?葉月」
斉木は自身の脳内に潜む主人に尋ねる。
身体は戦闘学に残し、特別な機械を用いて彼女は斉木の感覚を共有していた。
理由も聞かされず、『今日は』という強い厳命。
本来、学外での広樹への接近は戦闘学に怪しまれぬよう控えていた。
そう徹し続けていたにも関わらず、リスクを負ってまで広樹を尾行する理由が未だ分からないのだ。
『……』
「返答無しか…………分かった。とりあえず尾行を継続するぞ」
機嫌が悪いのか、はたまた従者に伝える必要がないのか。ただ彼女が返答を返さないのは今回に限った話ではなかった。
そして今は尾行中。理由の追求を後回しにして、距離を離されぬよう追い掛ける。
そして時間が経つにつれて、広樹の行く先に疑問が浮かび始めた。
「かなりの遠回り……寄り道か?」
『……』
自宅への道から外れ、行き着いたのは人々で賑わう商店街。
夕方のセールを狙った主婦達や、早く学校を終えた子供達が遊んでいる光景がそこにあった。
その隙間を縫うよう進んでいく広樹を、気づかれぬよう着いていく斉木。
そして広樹が足を止めたのは、真新しい小綺麗なビル。窓ガラスには投資信託や外貨通貨取引など、お金関係のポスターがビッシリ貼られた、日本有数のとある銀行だった。
「親からの仕送り?……いや、だったらコンビニで引き出すだろうし」
わざわざ銀行まで訪れた理由に検討がつかない。
そう思っている最中にも、広樹はゆっくりと銀行に近づいていき、
『……』
──スチャと、斉木の右手に銃が握られた。
ご丁寧に防音装置を取り付けたのは一瞬の出来事である。
「え?」
意識をよそに勝手に動いた自身の身体に瞠目する斉木。
その原因を考えるよりも先に、右手を操っている本人が声にした。
『来た…』
研ぎ澄まされた照準が少し離れた別のビル、その屋上に絞られる。
曇りのない青空を背景に、ソレは熱の籠った瞳孔で広樹を見つめていた。
「あぁ会いたかったぞ広樹。さぁ俺の愛を受け取ってくれ」
その正体は、斉木が今しがた広樹に語っていた人物に他ならない。
「や、山本ぉおお!?」
何故!?どうして山本がここにいる!?
彼は既に転校し、住居を戦闘学の敷地に移したはず。
にも関わらず彼はここにいたのだ。
「ま、まさか!?」
自分がここにいる理由をようやく察した人工知能は、全てを知っていたであろう主人に声を張り上げた。
「知っていたんだな!?その上で広樹を見張っていたのか!?」
山本が戦闘学の外に出れば、必ず広樹に会いに来る。彼にとって広樹は愛してやまない存在。それは斉木が頭を痛めるほど理解していた。
だが方法だ。どうやって彼は戦闘学を抜け出してここまでやって来れたのか。
まさか愛が成せる奇跡を起こしたとでも言うのか「ぁああ広樹ぃい〜〜!」──は!?
いや、考察している場合じゃなかった!?
「ストップ!確かに撃ちたい気持ちは分かるが本当に待て!銃は駄目だ!山本が死ぬ!」
マズイ。これはガチだ。冗談抜きで引き金に引こうとしている。
「に、逃げろっ…山本っ…!」
苦し紛れに漏らした声。
だが彼との距離は五十メートル以上。
広樹よりは近くにいるが、
「俺の熱いパトスをお前にぃいい〜〜!!」
反応なし。離れ離れになった愛する人がいるんだ。夢中で届くはずがなかった。
『これで…』
そして躊躇もなく、我が身を振り返る素振りもない葉月である。
その真っ直ぐ過ぎる意思は、撃鉄に火花を咲かせ、無音の弾丸を撃ち放った。
が──。
「はぁはぁ……広樹ぃ……受け取ってくれぇ……俺の全てをっ……んゔぉぉおお〜〜」
「あれぇええ!?」
変態は無事だった。
今もビンビンに吐息を漏らしている姿に驚愕する。
「もっと濃くぅ〜濃厚にぃ〜〜」
そして彼から溢れ出すのは歪んだ謎のオーラ。
明らかにアレは、常人が分泌して出せる類いのものではなかった。
『……』
山本に向かって連続で発砲する葉月。
だが弾丸は山本に当たらず、その答えを知ったのはすぐだった。
「っ!?…激しく悶えた動きで弾丸を避けているだと!?」
それは激しさを見せる腰振りダンス。
その動きはまるで、ステンレスボールの中で飛び踊るイキの良いエビである。
当然、そんな変態的不規則な動きに照準を合わせる技量を、銃をあまり使わない葉月は持ち合わせていなかった。
そしてムワォアアア〜と、山本の股間の前にオーラが濃密に収縮を見せ始めると、
「ゔぅぉおお〜〜発射まで三秒前ぇ〜〜」
ビルの屋上で腰をピクピクさせる変態に、葉月の発砲は激しさを増す。
空になった弾倉を捨てて即座にリロード。親殺しを見るような眼光で、彼に接近しながら撃ち続ける少女。
「あぁあああん〜〜発射まで二秒前ぇ〜〜」
当たらない。当たらない。当たらない。
依然と彼は広樹に夢中である。
何十発も放たれた弾丸は掠りもせず、空の彼方へと消えていく。
別に葉月がノーコンという訳ではない。彼が異常過ぎるのだ。
「発射まで一秒前ぇ〜〜!ああああ!イッッグゥううよおおお広樹ぃいい!!」
山本の熱い視線が広樹の背中にロックオン。
「俺が出した濃密なプレゼント!その身体で受け取ってくれぇええええ!!」
股間から謎のビームが発射され、真っ直ぐに広樹の背中に命中した。
だが広樹に反応はない。
何も気づかず、ただ銀行の入口から隣。そこにある小さな窓口で何かを買っているようだ。
壁に貼られたカラフルなデザインと【キャリーオーバー】と記載された旗。
あの特徴は──『当たった…』
「え!?葉月!?」
急に動き出した自身の脚。
その先にはビルから落下中の変態がいた。
「う、撃ったのか!?本当に!?なんて事をしたんだお前は!?」
起こった事実を目の当たりにする中で、葉月の行動は沈着だった。
意識のない山本を地面スレスレで受け止め、その場から即座に移動し、数秒足らずで人気のない場所までやってきた。
「すぐに治療を!」
『大丈夫』
「え?」
葉月に言われ、斉木は山本の身体を調べる。
出血している箇所はお尻で、すぐにズボンを脱がして確認した。
「ち、血が止まってる?」
『開発されたばかりの麻酔弾……撃ちどころを選べば、三分くらいで傷口が塞がる。弾も溶けて無くなる』
そして葉月は新しい弾倉をリロードし、銃口を柔らかいお尻にプニッと突き付けると、
『こういう風に』
プシュプシュプシュプシュプシュプシュッッッ!と容赦のない連射を繰り出した。
「アッ!ンッ!ヴォッ!アンッ!イッ!ォオンッ!ィクッ〜〜ッッ!」
そして感じるように声を漏らす山本である。
「やめろぉおお!!本当に何やってんのぉおお!?」
斉木は慌てて銃を投げ捨てる。
そして撃たれた山本のお尻には、見事な北斗七星が描かれていた。
『すぐに塞がる。弾も溶ける』
「そういう問題じゃない!山本に怨みでもあるのか!?」
……………………。
……………………。
『……無いと思ってるの?』
「……す、すまん」
殺さなかっただけマシ。そう自分に言い聞かせる斉木だった。
「……そ、それで、なぜ山本が戦闘学の外にいるんだ?」
『忘れ物を取りに一時帰宅……そう聞いた』
「くっ、だから広樹を見張ったのか」
眠った山本にズボンを履かせながら、彼の行動力に頭を抱える斉木。
「それに追跡装置も見当たらないが、これは…」
戦闘学の生徒には、外出時に必ず持たされる追跡装置が存在する。それを山本が持っていない事に疑問を浮かべる斉木だったが、すぐに葉月が理由を答えた。
『支給が間に合わなくて……今回だけ見逃された』
「仕事してくれよ戦闘学っっ!」
すぐさま端末に報告書を入力し、最高責任者である校長に送りつける斉木であった。
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「き、君、大丈夫かい?」
「え?何がですか?」
「い、いやね。君の背後のビルから何かが飛んできて、背中に当たったように見えたんだよ」
そう言われ、背中を手探りで確認する。
だが何も違和感を感じられず、
「大丈夫みたいです」
「そ、そうかい……あ、これ宝くじね」
「ありがとうございます」
受け取った宝くじを財布に入れ、ワクワク感を胸にしながら帰路に向かう広樹だった。
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次話ですが近日中に投稿する予定です!
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