第207話、葉月「退学?……絶対させない」山本「俺は広樹をずっと見ていた」
大変お待たせしました!
書き上がりましたので投稿します。
これからもよろしくお願いします。
たすけてください。
ほんと、ね。
もうムリ。
死ぬ。
殺される。
「広樹……」
白い悪魔が近づいてくる。
透き通った白髪に、水色石のような綺麗な瞳。
シミひとつない童顔は、まるで精密に造られた英国人形を彷彿させている。
だが、
しかしだ。
「もう……逃げられないよ」
そんな少女に屋上で追い詰められ、殺されそうになってるってどこのB級ホラー映画?
────。
────。
それは数十分前。
お茶を淹れるため、お湯を熱していた時の事である。
「あの〜……葉月さん」
胸元から突き出た黒い光線を見ながら、背後にいる少女に言う。
「遊び心でス○ーウォーズしたのは分かるけど、沸騰したお湯の前では……ね」
もし驚いて熱湯をひっくり返しでもしたら、軽い火傷では済まなかっただろう。
そうならなかったのは、驚くほどの余裕さえなかった恐怖の連鎖があったからだ。
「ちなみにこの玩具が斬れないのを知った上で刺してきたんだよね?」
念の為に恐る恐る聞いてみる。
「……玩具って聞いたから」
その気がなくて安心した。
「だったら良かった。うん……本当に……。じゃあお茶淹れてくるから、リビングに」
「ん」
持っていたライトエールを棚に置いて、キッチンから出ていく葉月。
……。
……ふぅ。
いなくなった……よね?
……はは……バレてたら泣いてた……絶対泣いてたっ……
下半身から伝わる湿った肌触り。
やんわりと感じ始める小さな痒みと、ツンとくる香ばしいアンモニア臭。
これは、もう……
…………。
さっきまでの恐怖が嘘みたいに晴れたな……下は小雨が降ったのに……。
…………。
…………いや、現実を見ろ俺。
もう事実なんだ。起こった事なんだ。
逃げられない。だから早く認めて楽になれ。
俺の相棒は……くっ!
俺の唯一無二の相棒は、
小さな女の子に敗北したんだよ!!
(うぁああああああああああああああああああああ〜〜ッッ!!)
【※親友を目の前で殺された風】の悲鳴を心の中で叫ぶ広樹だった。
────。
────。
ズズズ。
「……」
「……」
泣きながらシャワーを浴び終え、葉月と共に茶をすする。
ちなみに風呂場で泣いたのは、これが人生初だった。
忘れよう……俺が忘れれば、誰にも知られず無かった事になるんだ。
忘れろ。悪い夢だったんだ。俺……
──よし!忘れた!心機一転、これからの事に目を向けよう!
榛名に電話しようとしたが、端末はまた圏外。
今日はもう諦めた。
とにかく今は目の前の現状を打開しよう。
このまま小さな女の子を部屋に入れているのは社会的によろしくない。
早く要件を終えて、お帰り願わなければ…
「それで葉月、どうして俺の家に──」
「なんで戦闘学を辞めるの?」
答えたら、素直に帰ってくれる?
「……辛くなったから……かな」
「どうして?」
「どうしてって……っ。いやっ、不幸が度重なったと言うか、酷い目にたくさんあったから……になる……戦闘学に入ってから……色々……本当にあって」
「っ……これ」
「ん?」
ハンカチを差し出された。
あ、やばい。気づけば涙が。
「いや、大丈夫っ」
「ん」
あれ?なんで涙を拭かれてるの?
あ…もう無理。
恥ずかしくて死にそう。
誰か俺を殺してくれ。
「殺してくれ」
「それは駄目」
「?」
え、俺なにか言った?
「死ぬのは駄目。絶対に」
あ、俺は声に出して……
きっと限界なんだ。
テロに巻き込まれた挙句、最近ではマンション倒壊の片棒も担いでしまった。
思えば、戦闘学に関わってから悪夢のような日々だ。
もう駄目だ。死ぬ。
早くここから逃げないと俺は……
「葉月、俺は──」
「教えて」
真剣な眼差しで問いかけてくる葉月。
「不幸の原因を教えて……全部消すから」
全部消すって言われた瞬間、赤い血が脳裏によぎったのは気の所為?
一瞬、戦闘モードに入った鈴子の気配が葉月から……
「い、いや……いい。もう決めたんだ。戦闘学を出るって」
「っ」
青い瞳が小さく揺れる。
しばらく考え、その瞳は真っ直ぐにこちらを向いた。
「…………勝負」
「しょ、勝負?」
「勝負して……私が勝ったら、辞めるのは引き延ばす……」
と、いきなり言われましても……。
いきなり過ぎる。どうしてそうなった?
だが、
「いや」
なぜ葉月が辞めてほしくないのかは気になる。
だが!俺は早く逃げたい!
ここにいたら明日は死体安置所だってありえるんだ。
「ごめん。俺は早く辞めたくて──」
「私が負けたら、広樹の秘密を一生喋らない」
ひ、秘密?
なにか教えたっけ?
「ひ、秘密って、なんの秘密だ?」
まさかとは思うが、宝くじの事を言っている?
いや、ありえない。間違っても教える筈がない。
「…………」
黙り込む葉月。
よ、良かった。少し怖かったが、どうやら咄嗟に出た嘘のようだ。
「……私の能力は、相手の記憶を見ることが出来る」
「…………」
なん…だとぅ?
いや、きっと嘘だ。そうに決まってるっ!
「な、なら、俺の今日の朝ごはんでも当ててもらおうかな?」
そう聞くと、葉月の声音に動揺が浮かんだ。
「っ……全部は見れない……でも、秘密の一つくらいは見つけられる。広樹が隠している、人には言えない恥ずかしい秘密を」
「ほう。そ、そうか。だ、だだだだったら過去の一つでも適当に挙げてみなさいっ」
なんで挙動不審になってるんだ俺は。しかもぐちゃぐちゃな敬語で。
きっと嘘なんだ。恐れる必要はない。信じろ俺。
「初めて覚えたクラシック曲は……歓喜の歌」
「っ!?」
「子供の頃に怖かったものは……映画に出てた宇宙人……繁殖シーンでトラウマになった」
「なっ!?」
あ、当たってるっ。
まさか、このまま宝くじまで──!?
「かなり昔……白髪の女の子と仲良くなった」
「何故それをッ!?……………ん?いや待て、それは本当に知らないぞ」
「うっ!?」
ハズレて落ち込んでる?
いや最初の二つは的確に合っていた。だが白髪の女の子については全く身に覚えがない。出会った事すらもない。
「…………これが私の能力。【記憶閲覧】」
立ち直って堂々と宣言する葉月。
やはり彼女も戦闘学の生徒。
嘘とくくっていた自分が甘かった。
「そ、そうか……で、でもな」
そう。まだだ。
まだ肝心な事を言っていない。
「俺の秘密は見つかったのか?」
「っ!?」
全部は見れない。それを彼女の口から聞いて安心した。
つまり知られたくない記憶をピンポイントで見られないという事だ。
「ごめん、ただ本気なんだ。だから──」
「詩織」
葉月は表情を落としながら呟き始めた。
「【黒棘出現】……鈴子……【誘導改変】……」
「俺に関係する名前に能力か……。だが秘密じゃない」
「っ!……斉木とゲームセンターに言った。ぬいぐるみを取ったり、遊園地にも行った」
「っ!?」
「転校前に教室で聞いた。山本が体育で連勝。幸運の能力の持ち主で、戦闘学にスカウトされたって」
「ほ、ほう。俺の元学校での記憶を見たのか。だがそれは秘密にはならないぞ」
でもその日の記憶は危ない。
そこは商店街で宝くじを買った日だ。
「……ん?幸運?」
何かに気づいたのか、葉月は考え込むように声を伏せ始めた。
「確かその日……山本は広樹を探して……」
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