【第419話】帰るために
丘の上から爆炎が昇る。
今の一撃だけで、少なくとも50基以上の魔導砲機と1000名を超える兵士の命が消えた。
簡易結界と聖域も、強力なエネルギー波の前ではガラス細工に等しかった。
「なんて威力だ……」
ドクは魔導榴砲二式を搭載した戦車の上で、吹き上がる爆炎を見つめて呟く。
シリューからの報告は聞いていた通り、いやそれ以上の破壊力だ。
エネルギー波の直撃を受けた部隊は跡形もなく消失し、丘の一部は大きく抉れ、文字通り地形が変わってしまっていた。
「何処の部隊だ……」
呆然とした状態でドクは副官に尋ねる。
「あの位置ですと、オルレーンとビクトリアスの部隊かと」
副官はビクトリアス軍の司令官だったが、彼は努めて冷静に答えた。
「ウォーレン将軍……」
「いけませんぞ、ジョシュア殿下。ここは戦場で今はまだ戦闘中です。感傷に浸るのは、この戦に勝ってからでも遅くはない」
ウォーレンはドクの弱気を、それとなく諫める。
「この戦車部隊を含めて、未だ3分の2の魔導砲機が残存しています。それに、奴がアレを撃ってきたという事は、我々の攻撃が徐々に効いてきている証拠。戦いは、まだこれからです!」
出陣の時に血を流す覚悟は決めた。
これは、この世界に生きる全ての者たちの戦い。
「ああ、そうだな。絶対に勝とう。勝利の美酒を、彼らに捧げよう!」
ドクを乗せた戦車は、次の獲物を求めて戦場を駆ける。
「どうしよう、防げなかった……ご、ごめんなさい……」
あくまでも冷静さを失わなかったドクと違い、絶対防御のはずだったバリアを破られたほのかは激しく狼狽していた。
「ほのか、しっかりして! あんたのせいじゃないよ!」
「だって、だって、あんなに、人が……」
有希の掛けた慰めの声も、ほのかの耳には届いていない。
「ほのか!」
「ごめん、お願いね僚君」
シリューは動揺の収まらないほのかを、空中で有希から受け取りゆっくりと地上に降りてゆく。
エネルギー波で魔力を大量に消費したためだろう、幸いにも従魔竜が補充される事もなく、周りの安全は直人たちが確保してくれていた。
「気にしちゃダメだ。できる事もあれば、できない事もあるよ。元々、そんなに期待してたわけじゃないでしょ」
防げる可能性は低くても、とにかく試してみよう。
二人でそう考えての行動だったが、やはりそう甘くはなかったというだけの事だ。
「でも……でも……」
兵士たちを救いたかった、その気持ちはわかる。
一瞬で1000人以上が犠牲になったのだ、動揺するのは当たり前だろう。
シリューは、ほのかを強く、そして優しく抱きしめた。
「皆を守ろうとか、世界のためとか、もう考えなくていい。俺たちの目的は元の世界に帰る事。そのためにヴリトラを倒す。それだけだよ」
「僚、くん?」
シリューは地上に降りて、ほのかをそっと離す。
「英雄になんてならなくていい、俺たちはただの高校生だろ。ほのかが守るのは、日向さんと有希と穂積さん、それとほのか自身だけだ」
「僚くんも、だよ」
そこにシリューの名が入っていない事に、ほのかは鋭い眼差しを向け、ぴんっと指を立てた。
シリューは涼しげに目を細めて頷く。
「仲間と一緒に、家に帰ろう」
「うん!」
すっかり元気を取り戻したほのかをパティーユたちに任せ、シリューは空へ舞い上がった。
ヴリトラの胴体部分では、幾つもの爆発が起こる。
生き残った魔導砲機が、砲撃を再開したのだ。
戦車部隊も、戦場を無尽に駆けながら奮戦している。
時折、後方に下がる機体が見えるが損傷した様子はなく、魔力補充の魔導士を入れ替えるのだろう。
こちらはまだ8割が戦闘可能の状態だ。
騎士・魔導士団はほぼ二つに分かれる形でヴリトラに接近し、右の前足と後足に攻撃を集中していた。
ここまで接近すれば、エネルギー波を撃つ事はできないはず。
だがその事が油断を呼んだ。
ヴリトラの長大な尾が、地響きと土煙を上げ振り下ろされたのだ。
「いかん、離れろ!」
指揮官の叫びは間に合わなかった。
後足の攻撃に加わっていた騎士と魔導士たちの約半数が、大質量の尾に圧し潰された。




