【第420話】双頭撃破!
「うっ」
有希は蒼ざめた顔で口元を押さえた。
「見るな、有希っ」
直人が傍に寄って、有希の視線を遮る。
二度、三度と振り下ろされる、巨大な尾を止める術はない。
直人たちの位置から、その瞬間に起こった事がはっきりと見えたわけではない。
地鳴りと共に叩きつけられた尾の痕には、赤黒い血の海と、圧し潰されて散らばった夥しい数の肉片。
尾の攻撃が終わった時、そこに動くものはなかった。
「くっ」
シリューは唇を噛み、自分の犯したミスを悔やんだ。
この日まで数日間、偵察を続けてきたにもかかわらず、尾による攻撃を予測していなかった。
犠牲はおそらく、まだまだ増えるだろう。
味方が全滅する前に倒し切らなければならない。
「でも、どうやって……」
直人たちも繰り返し攻撃を加えているが、どんなにダメージを与えても、直ぐに再生されてしまう。
従魔竜の補充も始まった。
魔力が尽きる気配もない。
「くそっ、何か方法を……」
右の首が再び魔導砲機部隊に向けられた。
「ヤバいっ。ミリアム! パティ! 一瞬でもいい、ヤツを止めてくれ!!」
ミリアムは空中で、パティーユは地上で、同時に頷き詠唱を開始。
「「闇を打ち払い大地を照らす静かなる月の華、禁忌へと戯れし悪意をその荘厳なる光を以て縫い留めよ、月華掣肘!!」」
銀に輝く二つの月が、口を開いた右の頭を捕える。
数秒、いやほんの一瞬動きを止めただけだったが、それでいい。
「皆、離れろ!」
ヴリトラはエネルギーを収束させつつも、拘束から逃れるために首を振り上げた。
「アンチマテリエルキャノン!」
頭の真下に回り込み、上昇しながら顎の付け根を狙って高硬度の砲弾十発を撃ち込む。
銀月を振り払ったヴリトラが、再び地上に口を向ける。
「うおぉぉぉぉ!!」
エネルギーの収束が完了し、発射される直前。
「撃たせるかぁぁぁ!!」
シリューは白の装備を、パワー特化の紫に変化させ、全力で翔駆の足場を踏み込む。
ドオォォォン!
一瞬で音速を超え、同時にヴリトラの下顎を蹴り上げる。
発射と同じタイミングで下顎を塞いだ。
刹那。
エネルギー波はヴリトラの口の中で暴発。
目を刺す閃光の直後に起こった激しい爆発が頭を吹き飛ばし、首を内部から破裂させた。
「へっ、ざまあみろ……」
爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされながらもシリューは口元を緩める。
息切れと疲労感が酷く、暫くは身体を動かせそうにない。
それはいつもの事だが、今居るのは地上から300mの上空。
このまま落ちれば、いくら白の装備でも無傷では済まないだろう。
シリューは装備を特化タイプの紫から通常の白へ戻し、墜落の衝撃に備える。
頭からの激突だけは避けようと、何とか体勢を変えようともがいた時。
誰かの手が背後からまわされ、ふわりと落下が止まった。
風魔法『飛翔』の範囲内に入ったらしく身体が軽い。
「無事ですか、シリューさん」
ミリアムは器用に体勢を入れ替え、シリューの腕を自分の肩にまわして支える。
「助かった、ありがとう」
「助けられるのはお互い様、でしょ?」
「あ、ああ、そうだな」
さっきとは真逆の立場になった事が少し可笑しく、シリューもミリアムも目を細める。
だが、まだ終わってはいない。
「見て」
ミリアムが指差す。
「このまま左も叩く!」
直人に続き、有希とクリスティーナが左の頭に向かい翔け抜ける。
「レイ!」
数十のレーザーが、ヴリトラの口から湧き出る従魔竜を貫く。
「光牙翔曳斬!」
「鳳凰隆爪!」
クリスティーナと有希の奥義が、上下の顎から伸びる太く長い牙を粉砕する。
「今よ、直人!!」
「行くぞぉぉぉ!!」
直人は迷いなくヴリトラの口の中へ飛び込んだ。
数秒後。
一筋の蒼い光が左の首の中央付近の皮膚と鱗を突き破る。
直人の奥義、雷神龍翔。
軌跡を描きながら一周した雷光は、ヴリトラの巨体からその首を斬り落とした。
「どうだぁ!!」
切り口から飛び出した直人が叫ぶ。
直人らしくはない、泥臭い戦い方だ。
「誰かさんに影響されたんでしょうか?」
ミリアムが悪戯っぽい目でシリューを見つめる。
「さあ。どうだろ」
拳を振り上げる直人に、シリューは思わず口元を緩めた。




